愁と他校性


あれはいつの大会のことだったか。

愁が兄弟弟子以外の弓引きに初めて興味を覚えた日。


『…自分はただ、師の教えを忠実に体現しただけです。』


何かのインタビューでも受けていたのか、たまたまその側を通り掛かってすぐにそれが先程射場で見掛けた少年だと気付いた。


すっと美しく真っ直ぐに伸びた姿勢に伏し目がちの視線。

目を合わせないことで敬意を示すこともある、と聞いたことはあるが、彼のそれは恐らく拒絶の表明だったに違いない。

にも関わらず相手が更にその「師」について言及しようとしたところで、誰かが遮るように愁の名前を呼んだ。


少し後ろ髪を引かれる思いでその場を離れることになったものの、だがいずれその話の続きを直接本人の口から聞く機会があることを、この時の愁はまだ知らなかった。


そして、彼に対する認識が一転することも。






「お、××学園だ。」


他県の生徒が入り混じる会場周辺の待機場で、どこからか聞こえてくる誰かの声。


大会中よく耳にするその名は桐先高校に負けず劣らずの強豪校で、桐先高校弓道部の面々もつられるようにそれに目を向けた。

そして、愁の両脇にいた千一と万次が顔を寄せ合い、こそこそと笑い合う。


「見るからに名門!って感じ?ほら、あの前から二番目の人とか、なんかキリッとしてて武士っぽくね?弓より刀が似合いそう。」

「あ、なんかそれ分かる。」

「白兎さんのこと?」

「愁、知ってんの?」

「昔大会で少し話す機会があってね。俺達の一つ上だよ。」

「へぇ、実際どんな人?」

「そうだな、確かに見た目通りストイックな人だけど…佐瀬先輩によく似ているかな。」

「俺?」


三人の話を近くで何とはなしに聞いていた佐瀬が、突然呼ばれた自身の名前に思わず声を上げた。

と、それが聞こえた訳でもないだろうが、急に方向転換をして近付いてくる白兎の姿が見え、「うわ、こっち来る」と後ろに隠れる双子に愁は思わず苦笑する。


「藤原くん、久し振りだな。」

「お久し振りです。」

「…前回ははずしてしまったが、出来れば今回も同じ条件で俺に再挑戦させてもらえないだろうか。」


対面すれば、相変わらず美しく真っ直ぐに伸びた姿勢に伏し目がちの視線。

そして、



「俺が皆中したら、今度こそぜひコスプレをして一緒に写真を撮らせてくれ。」



グッと力強く握られた拳も、相変わらずだった。


「……こすぷれ?」と声を漏らしたのは、千一だったかそれとも万次だったか。

すると白兎はスマホを取り出して何やら操作すると、二人の前にその画面を差し出して見せた。


そこに映し出されていたのは弓を携えた少年のイラスト。


「不朽の名作RPGゲーム『求めよ未知なる破滅への道』略してキュウドウ。残念ながら藤原くんは知らなかったようだが、これに登場する主人公ジンコウの好敵手ライバが本当に藤原くんにそっくりで、初めて会った時は何て完成度が高いんだと感動したものだ。もしや生まれ変わりではないのかとまで思ってしまったぐらいだ。ちなみに主人公に最初に弓矢での狩りの方法を教えた今は亡き村の長老ロー様は俺の心の師で、主人公やヒロインを抑えての絶大なる人気を誇り、かつては主人公のように求道者を目指していたというエピソードがスピンオフとして」

「白兎!お前はまた他校生に迷惑掛けやがって…!」


監督らしき男性が慌てて駆け寄ってきたかと思えば、その首根っこを捕まえると白兎に頭を下げさせながら自身も謝罪を繰り返した。

そして、無事引き取られていく白兎を見送ると佐瀬がぽつりと一言。


「…なぁ、俺ってあそこまでヒドいか?」

「僕らの口からは何とも…自分の胸に聞いてみて下さい。」

「そうか…」


そんな三年生らのやり取りを余所に、ようやく我に返った千一が愁の方を振り向いた。


「色々アレ過ぎてなんだけど、ちなみに愁が皆中した場合ってどうなんの?」

「よく知らないけど、あれと同じゲームのキャラクターらしい女の子の衣装を着た白兎さんの写真が送られてきたよ。」

「…それって、誰に対する罰ゲーム?」


万次の言葉にまた苦笑する愁。

それは意外と似合っていたこと、そして実は未だその写真を保存していることを決して口にすることなく、ただただ微笑むだけだった。





きゅうどうしゃ

(道を求めて弓の道、がキャッチコピーです)


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嘘つき、ロンリー。