ナオフミと犬系亜人
ここは大きな街道から少し外れた、小さな村だ。
人の出入りはそこそこあるものの、そのほとんどが顔馴染みの商人ばかりで、あまり代わり映えのない日々が続いている。
そんな良くも悪くも平穏な村に、『盾の勇者』一行がやって来た、というのだから大騒動になるのも無理はない。
話でしか聞いたことのない『勇者』、実在していたことすら驚きだった。
「まさか生きている間に目にすることが出来るなんて…」
「ここはやはり、村を上げて歓迎すべきでは?」
が、まとめ役の村長の所在が掴めない。
この小さな村のどこに姿を隠しているというのか。
ということで、ひとまず代理として青年団筆頭である自分が『勇者』一行の前に押し出されることになったわけだが―…
「何度言えば分かるんだ、お前は。」
ピリッ、とした空気に、出鼻を挫かれてしまった。
遠巻きに様子を窺う村人達の輪がさらに遠退くのを感じる。
「…分かりませんよ。」
これは一体どういう状況なんだろうか。
盾の勇者様に、その従者らしき狸の亜人の娘とフィロリアルの少女。
そして勇者様と対峙するように佇む、犬の亜人の男が一人。
上背のある体格に恐ろしげな三白眼は賊か何かかとも思ったが、よくよく見ると勇者様の方もなかなか鋭い眼光の持ち主だった。
見た目で判断してはならない。
「ナオフミさまだって…おれが言うこと、分かってくれないじゃないですか…」
「おい。」
「…もう、いいです。」
顰めた顔を俯かせ、足早に去っていく男の後ろ姿に勇者様が小さく舌打ちする。
「すみません。」
と、突然掛けられた声に我に返った。
「え?あ、」
「この辺りに宿はありますか?」
「は、はぁ…」
「ラフタリア。」
戸惑っている内に、気付けば勇者様までもがすぐ側に来ていたらしい。
一瞬疼いたミーハー心が瞬時に空気を読む。
「宿は俺の方で何とかしておく。…悪いが、フィーロと一緒にあいつを探してきてくれ。」
「分かりました。」
少し離れた場所で「おねえちゃーん、はやくー!」とぶんぶん手を振る少女。
それに小さく手を振り返した彼女は、だけど何故かその場に留まったままだ。
「でもナオフミ様、先に怪我の手当てをしましょう。」
怪我?
その提案に勇者様が眉を顰める。
「お前まで…これくらい、」
「ナオフミ様にとっては大したことないかもしれませんが、それでも私達は心配なんです。」
「………」
「戻ってきたら、ちゃんと白兎にも謝って下さいね?」
「…………」
「ナオフミ様?」
にっこりと微笑む彼女は、端から見ていても少し怖い感じがした。
喧嘩未満。
(平和が、一番。)
---------------
十周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
戻る
嘘つき、ロンリー。