間と先輩


フェミニストという言葉が世界で台頭し始めて、まだ日も浅い頃。

当時の日本ではそれらに類する男性は皆、「軟派」の一言で片付けられるのだった。










「白兎くんって、いつか後ろから刺されそうだよね。」


突然投げ掛けられた物騒な言葉に、きょとんと振り向いた白兎。

だがその視界の端で通り過ぎていく女学生達に気付くと、すぐにそちらに向け、にこやかに手を振り始めた。


返ってくるのは黄色い悲鳴だ。


「で、何だっけ?俺が刺されるって?誰に?」

「…それ、本気で言ってる?」

「心当たりがないなぁ。」


ひらひらと未だ揺れ動いているその手に、舞子の視線は冷たい。

ようやく女学生達の姿が見えなくなった頃、白兎はわざとらしく肩を竦めてみせた。


「俺、結構人には平等に接してるつもりだけど?」

「平等すぎるのよ。」


研修医でこれなのだから、先が思いやられる。

舞子には将来、白衣姿の白兎が周囲に看護婦を侍らせる光景を易々と思い浮かべることが出来てしまった。


「いい加減、特定の恋人を作ったらどうなの?」

「じゃあ舞子ちゃん、俺と付き合ってくれる?」

「ほら、またそういうことを言う…」

「先輩、何を言っても無駄ですぜ。」


そこに不意に割り込む声。

二人が同時に声のした方を見れば、我関せずといった様子で何かの資料を読む後輩医学生が一人。


「それはもう病気ですよ。」

「おいおい。お前、先輩捕まえて『それ』呼ばわりはないだろ。」


というかさっきから何を読んでいるんだ?とその手元を覗き込もうとすれば、それとなく避けられてしまう。

何か察した舞子から注意が入った。


「まぁ、もしもの時にはこの優秀な間くんに執刀を任せようか。」


未だ顔すら上げない間をからかうように白兎が笑う。

間はやはり興味なさげに資料を捲り、


「ついでにその時は、胸か頭を開かせてもらいますがね。」


だがぽつりとそう吐き捨てたのだった。








そこにいるのは誰ですか?


「…お前でも、嫉妬するんだな…」


レポートを提出してくる、と席を立った舞子の後ろ姿を見送り、白兎が間に向き直る。


「俺も血の通った人間ですぜ。」

「…善処するよ。」


そしてばつ悪そうに逸らされた目に、小さく笑い声がこぼれた。


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五周年企画。
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嘘つき、ロンリー。