シャアとザビ家末弟


宝石箱に納められた物など、所詮欲望と虚栄の象徴に過ぎない。

本当に大切な物は決して誰の目にも触れさせず、そっと静かに隠されているものだ。



そう、彼のように。



「お久し振りです、大佐。」


外界から隔離されるように、長い長い廊下のその先に彼はいた。

部屋の扉が開くその瞬間まで読書に耽っていたのか、柔らかく微笑む顔には眼鏡が掛けられたままだった。


「やぁ、白兎。お邪魔だったかな?」

「いいえ、構いませんよ。」


私に席を勧めながら、外したそれを白兎は読み掛けの本と共にテーブルの上に置く。

そして少し寂しげに、そのどこか見覚えのある表紙を撫でた。


「ここを訪れるのはもう、貴方お一人になってしまわれましたね。」

「……そうか…それはガルマの…」


かの友人の、遺したもの。

しばしの沈黙の後、白兎は視線を本に落としたまま、やはり少し寂しげに笑った。


「私なりの追悼のつもりなんです。葬儀には参列することが出来ませんでしたから…酷い弟ですよね。」

「白兎…」

「あれだけ優しくしてくれた兄を…他の家族が見捨てても、ガルマ兄上だけは…こんな、出来損ないを」

「それは違う。」


思わず言葉を遮れば、白兎が驚いたように顔を上げた。


反射的に掴んだその手は細く、冷たい。

軍属の家系に産まれながら、ただの一度も泥に血に汚れたことのない手。


いや、恐らくこの先もないはずだ。


それが、彼の『家族』の望みなのだから。


「君は、ご家族に愛されている。」


ガルマが口を滑らせなければ、きっと私もこの場所を、彼の存在を知ることはなかっただろう。

馬鹿な兄だとかつての友を嗤い、そしていつかの自分を重ねて自嘲する。


勿論白兎は、そんな仮面の下の機微には気付かない。


「ありがとう、ございます。…お優しい方ですね、大佐も。」


そう言って少し照れたように私の手を外すと、白兎は「すみません、何のお構いもせず…今、お茶の準備をいたしますね」と席を立った。


(……あの忌々しいザビ家の、隠された宝、か…)


彼と私以外誰もいない今、絶好の機会だ。


その背に刃を突き立てれば。

その細い首に手をかけるだけで。


それだけで、一矢報いることが出来る。


簡単な話だ。



(…だが今は、まだ)



そして白兎を待つ間の時間潰しに、テーブルに置かれた本を手に取ってみるのだった。







空白の結末

(焦ることはない)
(そう自分自身に言い聞かせた)


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五周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。