小牧と同僚


「彼女が噂の『笠原郁』さん?」


その「噂」が一体、どういったものを指しているのか。

そう小牧が問い返すより先に一人自己完結したらしく、「あれじゃ夫婦漫才というより、どつき漫才って感じだな」と白兎は笑った。


「これ、回覧だ。別に急ぐものでもなさそうだし、後で堂上に渡しておいてくれ。」

「あぁ、ありがとう。」


白兎自身、特に急ぐ用事もなかったのだろう。

目的を果たした後もその場に留まっている白兎に構わず、小牧は受け取ったばかりの冊子に軽く目を通し始める。


そして再び顔を上げると、片目を閉じて人差し指と親指で何かを測るように見ている姿に首を傾げた。


「何してるの?」

「いや、やっぱり人間というのは自分にないものを相手に求めるものなんだと思ってな。」


視線の先には、件の二人。


「…それ、堂上が聞いたら怒るよ。」

「お前さえ黙っていてくれれば問題ない。」

「白兎って、そういうところが要領いいよね。」

「お互い様だろ?それで、お前はどうなんだ?」

「え?」

「相手に何を求める?」


急な話題の転換に戸惑った、というのも勿論あるが、その瞬間脳裏を過った顔に思わず言葉が詰まってしまった。


「さぁ、何だろうね。」


辛うじて返した返事に白兎が小牧へと向き直る。


「一瞬考えた、ってことはお相手はもういるって訳だ。」

「…本当に要領がいいなぁ。そう言うそっちは?」

「俺?そうだなぁ…」


何だろう…なんて、わざとらしく呟きながら考え込む白兎。

先程の小牧をからかうように、だがその目は柔らかく細められていて、


「なぁ、お前にあって俺にないものって何だと思う?」

「え?」


一瞬何を言われたのか、小牧には分からなかった。

そして、その意味を深く考えるより先に「冗談だよ」と白兎は笑った。





ないものねだり

(最初で最後の、告白)


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嘘つき、ロンリー。