仙石と後輩
「あ」
教室に来てからずっと、隅の方に座ってぽちぽちと携帯をいじっていた白兎が不意にポツリと声をこぼした。
それをたまたま耳にした多々良は、何となく気になって近寄ってみる。
「白兎さん、どうかしたんですか?」
「いや、なんか相方が来れなくなったって。」
「え」
「今日、合わせる予定だったんだけどな…」
困った、と後ろ頭を掻く白兎に、だが多々良が驚いたのはそこではなかった。
(というか白兎さん、ちゃんとパートナーいたんだ…)
見る度に違う相手(かなりの頻度で何故か仙石)と組むか、一人黙々とシャドーをする印象が強かった。
後で仁保らに聞いた話では、「白兎の相方はツチノコ」とのことだが。
(そりゃあ僕なんかより断然、ダンス歴の長い白兎さんが独り身の訳ないか…少し空気読めないけど悪い人じゃないし。格好いいし、スレンダーだし。「ダンスは趣味」なんて断言してたけど、真摯に向き合う姿がいいよねって花岡さんも言ってたし…あれ、なんか、ちょっと悲しくなってきた…)
ずーんと落ち込み始めた多々良の様子に気付かず、白兎は携帯から顔を上げると辺りを見渡す。
「あ。すみません、たまきさん。また誰か」
「しょーがねぇーなぁー!」
「!?」
突然背後から聞こえてきた大きな声に思わず多々良の肩が震えた。
バッと振り向くといつからそこにいたのか、「さぁ、来い!」と言わんばかりにポーズを取る仙石の姿。
いつになく爽やかな満面の笑みを浮かべているのが、少し怖い。
そして白兎の方を見ると、同じように仙石を見上げていて、
「……たまきさん。番場さんは今日、お休みですか?」
(無視した!?その上、ご指名は番場さん…!?)
ヒクッと一瞬、口元を引き攣らせた仙石。
だが咳払い一つでそれを掻き消すと、すぐにまた例の笑顔を取り戻した。
その顔は、やはり怖い。
「相方、来ねぇんだろ?なら、また俺が相手してやるよ。」
「…………」
「…………」
「…たまきさん、今日ってグループレッスンとかありましたっけ?また混ぜてもらえるとありがたいんですけど。」
(二度目の無視…!?)
衝撃が、走る。
最早多々良は怖くて仙石の顔を見ることが出来ず、助けを求めようにも、たまきは相変わらずニコニコと笑っているだけだ。
「遠慮すんなって、白兎。俺とお前の仲じゃねぇか。」
「いや、遠慮というか何というか…」
そして、仙石はとうとう実力行使に打って出た。
白兎の傍らにしゃがみこむと、その肩をがっしりと掴んで無理矢理抱き寄せる。
(あ、この人、逃がす気がないな)と多々良は思った。
さて、この後、白兎は一体どうするのかー…
「なんか怖いんだよ、カップル練習ん時のあんた。昔から。」
あえて空気を読まないだけ
結局その日も一人、黙々とシャドー練を繰り返す白兎。
そして教室の隅の方では仙石がたまきから「がっつきすぎ」と腹パン喰らっているのを、多々良はばっちりと目撃してしまうのだった。
---------------
七周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
戻る
嘘つき、ロンリー。