夜卜と易者
※雪音が神器になる少し前の話。
シューッ、と背後から聞こえてくるスプレーを噴き付ける音。
すっかり聞き慣れてしまったそれに舌打ちすると同時に腰を上げ、簡易テーブルに乗せていた道具類を片付け始める。
そんなこちらの様子に気付いたらしい相手が振り返り、不思議そうに首を傾げた。
「白兎?どうした?」
「場所変える。」
「お、そうか。じゃあオレも…」
「付いてくるなよ。」
同じようにいそいそと撤収しようとする黒ジャージ姿の男を間髪入れず制止。
一瞬キョトンと間抜け面をさらしたかと思えば、黒ジャージはすぐに眉を顰めて見せた。
恐らく今、それ以上に俺の顔は歪んでいるに違いないが。
「それ、俺の後ろに書くなっていつも言ってるだろうが?」
そう言って指し示したのは、頭上高く書かれたばかりの『デリバリーゴッド』の文字。
一見デリ○ルか、もしくは適当すぎる宗教勧誘のようだが、前に話を聞いたところ、どうやら便利屋みたいなものを営んでいるらしい。(時折「オレは神だ!」とヤバいことを言う黒ジャージだが、その働きぶりは意外に真っ当のようなので害はないだろう)
だが何にせよ、毎度背後に書かれるそれはまるで俺自身が掲げた看板のように見え、ここ最近変な輩に絡まれることが増えてうんざりしている。
また「名前」を勘違いされることも多い。
「白兎の客なら百パー何かしら困ってるからな…依頼が一杯!満員御礼!流石オレ!頭イイ!」
「現在進行形で俺が困っているんだが、ドヤ顔する前にまずそれをどうにかしてくれ自称神サマ。」
黒ジャージこと自称神サマもとい夜トは、自身の名が易者のものとして巷に広まっていることを知っているのだろうか?
なんて思いながらそこに堂々と書かれた名前と携帯番号を見上げていると、ふと気付いたことがあった。
いつもなら夜トの後ろで「うちのバカがご迷惑をお掛けして本当にすみません」と申し訳なさそうに頭を下げる和服美人の姿が、今日はどこにも見当たらない。
「そう言えば伴音さんは?一緒じゃないのか?」
「……にした…」
「は?何?」
ぼそり…と何か呟くのを反射的に聞き返せば、ばつ悪げにそっぽを向いた夜トがもう一度、やはりぼそりとその言葉を繰り返す。
曰く、クビにした、と。
「そうか、ついに捨てられたか…」
「クッ…違う!オレが!クビにしたんだ!」
確かに彼女から何度か夜トに対する愚痴を聞かされてはいたが、何だかんだ言いながら上手くいっているのだろうと思っていただけに何とも言えない。
いつも以上に夜トが面倒臭く感じるのも、そう言った裏事情があったせいもあるのだろう。
そっと溜め息を吐き出した。
「とにかく、もう壁に書くのは止めてくれ。何かあればこっちから仕事回してやるから。」
「え…」
正直これ以上あまり関わりたくはないが、背に腹はかえられない。
万が一警察の世話になるようなことになったら、その時は容赦なく切り捨てればいい。
纏め終えた荷物を抱え、さて次の場所は…と思い巡らせていると不意に夜トと目が合った。
その顔は何やらパァッと輝いていて、
「貴方が神か!」
「いや、神サマはお前だろ。」
それでいいのか?
(その後しばらくして、年若い少女と少年を連れて歩く黒ジャージの姿を見かけた)
(即通報しようとした俺は決して間違っていないはずだ)
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呪術祭(改)より。
企画へのご参加ありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。