燐と顔馴染の神父
「今日の奥村くん、なんや機嫌がえぇですねぇ…」
そう言って微笑ましそうに子猫丸が見つめるのは、傍から見ていて分かりやすいほど上機嫌な燐…のブンブンと揺れ動くその尻尾。
同じようにそれを見ていた勝呂が呆れたように「犬か、アイツは」と吐き捨てる。
「まぁまぁまぁ。なんや今日、オニイサンが仕事の関係でこっち来はるそうで、それで機嫌がえぇんとちゃいますの?」
「あ?アイツ、兄貴もおったんか?」
「や、昔から世話なっとる神父さんやそうで。奥村くん、その人のことほんまのオニイサンみとうに慕っとるそうですわ。」
「志摩さん、よう知ってはりますね。」
「いやぁ、前々から奥村くんが『にーちゃんにーちゃん』言うて嬉しそうに電話しとるとこをよう見かけとったから、何やてっきり『に』で始まる名前の彼女ちゃんでもおんのか思うて一人ギリィ…ってしとったら、通りすがりの奥村先生が菩薩顔で優しく教えてくれはったんです。」
「……志摩さん…」
「お前……」
「せやけど奥村くん、ほんまご機嫌さんやなぁ…きっとあれなんやろなぁ…ごっっっっっつえぇオニイサンなんやろなぁ!」
「…どっちにしろ嫉妬すんのかい。」
「もしかして、兄弟喧嘩でもされはりました…?」
「へっくしゅん!」
「何だよ、兄ちゃん。風邪か?」
「んん…いや、誰かが噂してるんだろ。馬鹿は風邪引かないって言うからな。」
「は?いやいや兄ちゃん、別に頭悪くねぇだろ?前に雪男に勉強教えてたし。」
「はは、それいつの話だよ?お前らが小学生の頃か?」
「え」
「まぁ、あの時点でちゃんと教えられていたかは怪しいもんだけどなぁ…って、どうした、燐?」
そう言って不思議そうに首を傾げながら顔を覗き込んでくる白兎に対し、燐はその視線から逃れるようにそっぽを向いて「別に」と返すのが精一杯だった。
『兄さん、白兎さんも忙しいからあまり長く引き留めちゃ駄目だよ。』
久々に白兎と会う、ということでここ数日そわそわと落ち着かない様子の燐に釘を刺した雪男の言葉。
それが正論だということは勿論、燐も分かってはいた。
が、雪男の方は仕事でよく白兎と会っているらしい、と知っているだけに素直に納得することが出来ない。
(だから俺にも、ちゃんとした用事さえあればって、そう思ったのによ…)
上手くいけば今夜は寮に泊まっていくかもしれない。
なんて下心もあって白兎に勉強を教えてもらうつもりだったのだが、このままでは頼んだところで「俺より雪男に教えてもらった方がいいぞ」と笑って返されるのがオチだろう。
そして、帰って行ってしまう。
(クソッ…何か、何か他にねぇかっ…?)
「おーい、燐ー?燐くんやーい?久々に会ったっていうのに、黙り込んだら兄ちゃん寂しいぞー?」
その後しばらくして様子を見にやって来た雪男は、うんうんと頭を抱えて何やら考え込む兄と、その隣で笑いを堪えながらそれを見守る顔馴染みの神父の姿に呆れてしまうのだった。
気持ちだけは誰にも負けないのですが
(今日の奥村くん、なんや落ち込んではりますね…しっぽがあんなに垂れ下がってもうて…)
(昨日の今日で一体何があったんや、アイツ…?)
(俺知っとりますよって。聞きたいです?)
(いや、いらん。)
(えぇ?)
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呪術祭(改)より。
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嘘つき、ロンリー。