浦原と夜一の元婚約者
※尸魂界篇の少し前辺り。
四楓院夜一との婚約は生まれる前から決まっていた。
俺自身がそれを理解したのは物心が付き始めた頃のことで、夜一に至っては恐らく未だに理解どころか興味すらないに違いない。
『いやだなぁ…夜一サンとアタシの仲を疑ってるんですか?』
ただの上司とただの部下、それ以上でもそれ以下でもないっスよ。
そう続けて相手はへらりと笑ったが、夜一がわざわざ俺に紹介してきた「部下」は後にも先にもただ一人だけ、それだけで充分「特別」の証だろう。
『…お前がそう言うのなら、そういうことにしておいてやる。』
何も思うところがなかったわけでもなかったが、俺にとって夜一は許嫁である前に妹のようなもの。
だから夜一のことを大切にしてくれるなら、幸せにしてくれるなら、それが俺以外の誰であっても別に構いはしなかった。
たとえそれが、どんなに気に食わない相手でも。
そして結局、夜一はその「部下」だった男と―…浦原喜助と共に俺の前から姿を消した。
「いらっしゃいませー。」
店に一歩足を踏み入れた瞬間、弛みきった声掛けに思わず顔が歪む。
そんなこちらの様子を意に介すことなく、「何かお探しっスか?」と続けられた言葉の何とも言えない白々しさ。
およそ百年振りの再会は呆気なく、気を張り詰めていた自分が途端に馬鹿馬鹿しく思えた。
「……夜一は?」
「夜一サンなら今出掛けてますよ。」
「…そうか、ならここで待たせてもらう。」
「それじゃあ、今お茶でも淹れますねぇ。」
上がり口に腰を下ろした俺と入れ替わりに立ち上がった『店主』の背中を見送り、そっと息を吐き出した。
他に三名ほど従業員がいる、と聞いていたが店内にその気配はない。
たまたま出払っている、というより事前に人払いをされていた、と考える方がいいだろう。
「こちらにはお一人で?」
「あぁ。」
「あちらの様子は?」
「別に、特に変わりはない。」
「……すいません。」
差し出された湯呑みを受け取り、口を付ける寸前、不意にぽつりとこぼれ落ちた謝罪の言葉に一瞬手が止まった。
『すまんの、白兎。』
それは一体、何に対するものなのか。
どいつもこいつも…と吐き捨てたくなるのを堪え、一気に茶を飲み干す。
そして、空になったそれを無言で突き返せば、いつかと同じように浦原はへらりと笑ってみせた。
「何も聞かないんスね、白兎サン。」
「聞いたらお前、答えるのか?」
「おっと、スリーサイズは内緒ですよ。事務所通してくださいね。」
「…誰が聞くんだ、そんなもの。」
「いやぁ、こう見えてアタシ結構モテるんですよ?どうです?妬けます?」
「…………」
この分だと夜一が戻ってくるまで本題に入ることはないだろう。
いや、それでもきっと俺は、俺だけが全てを知ることはない。
それを承知で、夜一からの呼び出しに応じたのだが。
「……妬けるよ、全く…」
相も変わらず仲のよろしいことだ、と思わず苦笑する。
それが聞こえたのか聞こえていなかったのか、少し黙り込んだ後、浦原は「おかわり、いかがっスか?」とだけ言った。
一滴の、執着
(それを飲み干すまでは、まだ)
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呪術祭(改)より。
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嘘つき、ロンリー。