一心と旧友


玄関に自分のものでも父親のものでもない男物の靴があるのを見た時点で、何となく察しは付いていた。

だからリビングに入ってすぐ、家族以外の相手に出迎えられても、一護が驚くことはなかった。


「あぁ、お帰り。お邪魔してるよ。」

「どうも。」

「お土産あるから、後で妹ちゃん達と一緒に食べてくれ。」

「あざっす。」


そう顔馴染みの客と挨拶を交わしていると、一拍遅れでどこからか聞こえてくる父親の声。

どうやらキッチンの方にいるらしい。


自分も飲み物を持って部屋に上がろうと、一護がもう一度客に頭を下げ、それに背を向ければ、入れ違いに一心がやって来る。


「おう、一護。白兎が持ってきた菓子があるぞ。」

「さっき聞いた。」

「ちゃんとお礼、言ったかー?」

「うるせぇな。ちゃんと言ったっつーの。」


擦れ違い様の応酬。

と、いつもならそこから一心のウザ絡みが始まるのだが、客を待たせているためか、それ以上一護に構うことなくそのまま行ってしまう。


何となく消化不良でつられるようにその後ろ姿を見送っていると、苦笑する白兎と目が合ってしまい、気まずくなった一護は誤魔化すように飲み物の準備を始めた。


「大きくなったな、一護くん。もう高校生か?」

「おう。」

「男前に育ったな。父親に似なくて良かったよ。」

「えぇ?何言ってんだ。どこからどう見ても俺の方が男前だろぉ?」

「男前に育ったな。父親に似なくて本当良かったよ。」

「二度言われた!?」


そんな楽しげな父親達のやり取りをBGM代わりに冷蔵庫を開ける。


(そういや白兎サンがうち来たの、久し振りだな…)


一心の学生時代の友人、白兎。

あまり詳しく聞いたことはないが、医師の類いではなさそうなので、きっと大学以前の話だろう。

余程親しかったのか、定期的に、とまではいかないが、以前はもっと頻繁に黒崎家を訪れていたような気がする。


今日のようにいつも手土産を持参して、妹達が小さい頃はよくその遊び相手も務めてくれていた。

母親の真咲とも親しげで―…



(…………いや…?)



二人並んだ光景はすぐに思い浮かぶが、二人が何か話していたという記憶はない。

そのことを不思議に思い、眉を顰めていた一護だったが、飲み物を持って再びリビングを横切ろうとして納得する。


(あぁ、そうか…白兎サンがうちに来るようになったのは、)


壁に貼られた真咲の遺影と、それを挟んで座る一心と白兎。

その光景を見慣れてしまっていたせいで、どうやら一護の頭は記憶違いを起こしていたらしい。


恐らく、真咲と白兎は一度も会ったことがないはずだ。



「さてと…じゃあそろそろ帰るかな。」


一護がリビングを出た瞬間、背後でそう言って白兎が立ち上がる気配がする。


「お、じゃあそこまで送って」

「いや、ここでいいよ。」


つられるように一心も腰を上げかけたのだろう。

だが、それを制止した白兎がもう一度別れの言葉を口にし、そして一瞬、静寂が生まれた。


「あ、一護くん。お邪魔しました。」

「え、あ、いや…」


何となく部屋に戻り損ねてしまい、白兎と鉢合わせした一護は、そのまま玄関へと向かう背中を見送る。

ほんの一瞬違和感を覚えたものの、その正体が分からず、結局気のせいだと思うことにしたのだった。





沈黙に添う

(その時、背後に佇んだ父親にも気付かないまま)
(どんな表情をしていたかも、知らない)


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呪術祭(改)より。
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嘘つき、ロンリー。