木兎と梟谷バレー部員


確かに木兎さんは普段から気分屋でムラッ気の多い人だが、今日は特に酷かった。


柔軟体操をしていれば突然叫びながら床を転げ回り、ランニング途中には突然コースを外れて一人猛ダッシュ。


かと思えば休憩時間にはぼんやりとしていて、次にニヤニヤと笑い出し、最終的には顔を押さえて蹲っていた。


…改めてみると、気分屋というよりただの挙動不審だ。


いつもなら無視するところだが、果たしてこれは放置していい案件なのだろうか。


そう悩んだ末、とりあえずさりげなく声を掛けることにした。


「あの、木兎さ」

「っ、いや全然っ!全然っ!どこも問題なしっ!むしろ絶好調っ!」

「…………」


ヘイ赤葦!ヘイヘイヘーイ!

と見事に空回っているテンションを見て、流石に心配になってきた。


そう言えば今日、朝一の練習で誰かのボールを顔面に受けていた気がする。


(まさか、それが原因で…?)


自分の手に負えないと判断して周囲に目を向ければ、同じ考えに至ったらしい三年生達が何やらアイコンタクトを交わし、頷き合っている。

そして一番近くにいた白兎さんが「任せろ」と俺の肩を軽く叩いて、木兎さんの方へと近寄っていった。


「なぁ、木兎。ちょっと俺と保健室に」

「っ!?キャーっ!!」

(((“キャー”!?)))


まるで女子のような悲鳴を上げて駆け出した木兎さんを、咄嗟に誰も追い掛けることが出来なかった。


というか、あまりの衝撃に場の空気が固まってしまっていた。


「な、んだ、今の…?」


恐らく一番の被害者だろう白兎さんが呆然と呟くのが聞こえ、ようやく我に返る。


そして反射的にフォローに入ろうとその横顔を見た瞬間、ふと何かに気が付いた。


(休憩の時、木兎さんが見ていたのってもしかして……)


突然の猛ダッシュが始まる寸前、その隣に並びかけていたのは。

準備運動中、目の前で柔軟していたのは。


…あぁ、そうだ。

確か、今朝のスパイカーも―…




そして所在なく立ち尽くす白兎さんの肩を、今度は俺が「気にしないで下さい」と軽く叩く番だった。



顔が見られない


なぁ、木兎。

そう自分の名前を呼ぶ声はいつもと同じで、でもどこか違っていて、



『保健室でイイコトしないか?』



「っ、ぬぁあああああっ!!!」


(そしてまた、ウサギは走る。)


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六周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。