甚爾と元禪院02


「……来るのが遅ぇよ、バカ。」


そう悪態吐きながらも、ぐったりと甚爾の腕の中に身を委ねるその姿に思わず舌打ちした。


禪院白兎。

一時は次期当主候補にも挙げられた、優秀な呪術師、だった男。

いつかそれを組み伏せ、自分から縋るように求めるようにしてやればさぞや愉快な光景だろうとそう思っていたが(そして実際褥の上のそれは充分愉しめたが)、現状のそれは甚爾にとって不愉快でしかなかった。


まず、その原因が自分ではないというのが気に入らない。


「…数は?」

「三人…いや、四人は確実だろうな。四方を囲んでこっちを逃がすつもりはさらさらねぇらしい。」


禪院家に潜伏先が突き止められた可能性がある。

仕事中に孔から受けたその連絡に甚爾はすぐ隠れ家へ引き返そうとしたが、それより先に追っ手を伴った白兎と鉢合わせし、冒頭に至る訳だが。


ビルとビルの合間、大して害のない低級呪霊が漂う仄暗い空間は上手く二人の気配を隠してくれているらしい。

物陰に身を潜めてしばらく、今のところ相手が攻撃を仕掛けてくる様子はなく、辺りは静かなものだった。


とりあえず今の内に状況確認を、と白兎の許可も取らずにその服を捲る甚爾。

白兎もその意図を察しているのか、不機嫌そうに眉を顰めながらも大人しくされるがまま。


「怪我、はねぇみたいだな…」

「…あんな三下相手にそこまで落ちてねぇよ。あー、クソッ!」


見たところ、そこにあるのは昨夜(というか今朝方まで)に自分が付けた痕だけ。

赤く散りばめられたそれらを見下ろして無意識に手を這わせていると、つい何となくムラッとしてしまった。


「っ…お、い!ふざけてねぇでさっさと蹴散らしてこいよ!」

「ほっとけ。その内、諦めるだろ。」

「は?ちょ、んなところでサカってんじゃ…!」

「いいから黙ってろ。」


無駄と知りつつ抵抗を試みる白兎を適当にあやしながら、甚爾の手は止まらない。

代わりに止まったのは白兎の方だった。


「……分かった。分かったから、ちょっと離せ。」

「あ?」

「このまま付き纏われるのも面倒だろうが?お前がやらないなら俺がやる。」


顔を背けながら「やられっぱなしじゃ俺の気も済まない」と吐き捨てる白兎に、一瞬黙り込んだ甚爾だったが渋々それを解放した。


「だったら最初からそうしろ。」

「うるせ、仕方ねぇだろ。どっかの筋肉バカのせいで術式なんてすっかり忘れかけてたからな。」


言いながら白兎が手を振れば、傍らの呪霊が一匹掻き消える。

それを二回、三回と繰り返す内にざわりと空気が変わっていく。


どうやら相手も気付いたらしい。


「すぐ終わらせる。お前は孔に連絡して次の住処でも手配してもらえ。」

「あー、それもあったな。面倒クセェ…」

「…全部終わったら、お前の気が済むまで付き合ってやるよ。」


その瞬間、携帯を取り出した甚爾の手が止まった。


そして次の瞬間、現れた術師達は一瞬にして蹴散らされたのだった。




これが笑わずにいられるか

(てめっ…甚爾!俺がやるって言っただろうが!)
(あ?だから今からヤるんだろうが?おら、さっさと行くぞ。)
(っ、待てって!その前に孔にっ)
(そんなもん後でいい。オマエ抱き潰してから連絡入れる。)
(っ、あーっ!クソッ!!)


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嘘つき、ロンリー。