乙骨と先輩
※0巻と原作終了直後辺りの話。
「ん?憂太、お前一人か?真希は?」
「えっと…なんかさっきそこで、知らない人に呼ばれて行っちゃった…?」
「知らない人?」
ここ高専内に関係者以外の人間が出入りすることはないが、入ったばかりの憂太が知る顔は少ない。
担任の五条とクラスメイトの三人、他はほとんど「知らない人」だ。
機会があれば、きっとこれから知り合うことにはなるのだろうが。
(あれは誰だったんだろう…?)
『禪院、組み手に付き合え。』
『チッ…苗字で呼ぶなって何度言えば分かんだよ…』
教室に戻る途中、背後から掛けられた声。
ぶつぶつとぼやきながらも足を止めた真希につられ、何となく憂太も振り返った。
そして真希の肩越しに相手と目が合い、慌てて軽く頭を下げようとして―…
「多分それ、うちの二年だな。」
「先輩?」
「あぁ、その名も白兎パイセンだ。」
真希を苗字で呼ぶのはあの人くらいだ、と推測するパンダの隣で棘が頷く。
言われてみれば確かに高専の制服っぽいものを着ていたなぁ…なんて今更ながら気付いた憂太に、パンダは笑いながら言葉を続けた。
「何だかんだ言って真希のやつ、あの人には頭上がらないからなぁ…気を付けろよ、憂太。怒ると真希よりおっかねぇぞ。」
「え、」
「しゃけしゃけ。」
「えぇ…?」
「棘いるー?ってナニナニ?ボーイズトーク??僕も入れてよ!」
「あ、ちょ、」
果たしてそれは本当なのか、それとも憂太を揶揄うパンダ達の冗談だったのか。
五条の乱入により話はあやふやのまま終わってしまい、憂太はそっと溜め息を吐くと何となく自身の胸に手を当てた。
(白兎、先輩…)
(あれは…何だったんだろう…?)
『お前が例の転入生か?』
「乙骨。」
呼ばれた名前に憂太はハッと我に帰った。
気付けばすぐ側に白兎が立っていて、不思議そうにこちらをじっと見下ろしている。
「あ、えっと、真希さんが白兎先輩達を探してこいって…」
「なら一足遅かったな。秤達ならさっき帰った。一度身辺整理してから高専に戻ってくるそうだ。」
そう言って自分の背後を指し示す白兎に「そうなんですか」と憂太は返したが、実は二人が立ち去るより少し前からそこに居たため、そのやり取りについては知っていた。
呼びに来た、のはいいものの話し掛けるタイミングに迷ってしまったのは、三年が三人とも揃っている光景が珍しかったから。
というより。
「意外だったか?」
「え?」
「これでもそこそこ仲良いんだよ、俺達三年も。」
「あ、いや、別にそういうつもりじゃ、」
「なんか心配させたみたいで悪かったな。」
「心配…?」
「ほら、お前がいつも俺を見ているのは俺が一人でいるからだろう?」
「え、」
一瞬何を言われたのか解らず、きょとんとする憂太。
その戸惑いを察したように目を細めて笑う白兎の表情もかなり珍しいものだったが、憂太にとっては今それどころではなかった。
(いつも、見てた?僕が?白兎先輩を…?)
確かにパンダ達から「怖い先輩だ」と教えられて以来、その姿に気付く度に何となく遠巻きに見ていた、気がする。
それに白兎本人が言う通り、大抵一人でいる白兎に高専に来る前の自分の姿を少し重ねていた、ようにも思う。
(でも別に『いつも』って訳じゃ…それに心配する必要なんて、だって白兎先輩は、)
「ありがとな、乙骨。」
ぽんと背中を叩くその手に再びハッとした憂太は、慌てて白兎の誤解を解こうとした。
別に心配して見ていた訳ではない。
先程つい声を掛けそびれてしまったのも、ただ秤に肩を組まれ、綺羅羅に腕を組まれた白兎の姿に少しモヤッとしただけだ、と……
(……あ、れ?)
これは何だろう?
(そして無意識に押さえていたそこは、)
(初めて会ったあの日と同じ、やや速めの鼓動を打っていた)
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呪術祭(改)より。
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嘘つき、ロンリー。