絢都と昔馴染


喰種なんてテレビの中の生き物で、自分とは遠い存在だった。

だからたまたま近道に使った路地裏が、まさか『喰場』と呼ばれる恐ろしい場所だったなんて、知りもしなかった。


あの瞬間までは。



『大丈夫かい?』







「―…本当、ツイてねぇ野郎だなァ。」


横断歩道を渡る途中、すれ違い様にぶつかった肩。

口を開くよりも先に何故か呆れられてしまい、謝罪するタイミングを逃した。


そして次の瞬間には乱暴に掴まれた手首に、「久し振り」と言うタイミングも逃してしまった。


「ちょっ…あ、アヤトくん!待って!速い速いっ!コケるっ!」

「うるせェ。」

「逃げない!逃げないから…って痛い痛い痛いっ!」


引きずられるようにして渡り終えた後も、その手は離されることなく、それどころか逆に力を込められてミシミシと骨の軋む音が聞こえた。


数年振りの再会だというのに、これは酷い。


(…でも、まぁ、そうか…最後は喧嘩別れみたいなもんだったもんなぁ…)


何が原因だったかよく覚えていないが、数年経ってもコレだ。

幼い俺はよほど彼を怒らせたらしい。


そしてあの時、間に入ってくれた彼女は今、ここにはいない。


(トーカちゃん、一緒じゃないの…って聞ける雰囲気じゃないか…)


そっと溜め息一つ吐き出して、ようやく現実に向き直る。


先程のアヤトくんの言葉を借りるなら、俺は「本当にツイてない野郎」だ。



『これからは気を付けるんだよ?』



喰種が危険な存在だと、今でも上手く認識することが出来ずにいた。





さよならが言えない


『…お腹、空いてるんだろ?』


親父がいなくなって、しばらくした頃。

そう言って、心配そうに俺の顔を覗き込んできた白兎を、俺は突き飛ばした。


その時のトーカの怒鳴り声まで思い出し、舌打ちする。


(あの時、喰っちまえば良かったんだ、なんて)
(……本当に?)


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六周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!




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嘘つき、ロンリー。