冴と恋人
※ブルロvsU-20の少し前の話。
初めてU-20代表として招集された際、監督が何故か我が事のように(そして自慢げに)俺を「あの糸師冴の元チームメイトだ」と紹介したせいで、補欠の立場でありながら妙に注目を浴びたことをよく覚えている。
その後しばらくは周囲から、俺自身は何もしていないのに「調子乗んなよ」と絡まれたり、冴とはポジションも違うのに「天才と比べられたりしたんだろ?大変だったなぁ…」と同情されたりと色々あったものだ。
だけど練習を重ね、交流を重ねていく内にそのネタで揶揄われることも少なくなっていき、最近では周囲も俺もすっかりそれを忘れてしまっていた。
「白兎って確か、あの天才ちゃんの元チームメイトだったよな?」
なので突然、主将からそう声を掛けられて一瞬ドキッとしてしまった。
「はぁ…そうです、けど…?」
「まぁまぁ、そう身構えなさんなって。ちなみにまだ少しは交流ある感じ?」
「えっと、まぁ…はい。」
少しどころか、不定期的にではあるがメールや電話のやり取りはしているし、冴が帰国する時はいつも連絡をもらって会いに行っている、というかぶっちゃけ付き合っている。
とは流石に言えなかったものの、その曖昧な返事でも十分だったらしく、「そうかそうか」と繰り返し頷きながら笑う主将に何となく嫌な予感がした。
ブルーロックとの試合が決まり、冴達がU-20代表に合流してしばらく経った。
あまり良い印象ではない初対面から始まり、その後も何度となく(主に士道が)揉めるせいでチーム内の空気は悪くなる一方で、頭を抱える監督と困ったように笑う主将の姿をよく見かけていた。
「なぁ、ちょっと頼みがあるんだが―…」
「…補欠でも一応、俺にだって練習があるんだけどな。」
「諦めろ。」
「いや、どの口が言ってるんだよ?一体誰のせいだと思ってるんだ?」
「士道のせいだろ。」
素っ気なく冴が言い放ったそれは確かに正論だったが、納得いかなかった俺は恨みがましく「なら、その士道を連れてきたのは誰だ?」と続けた。
主将に頼まれ(というより、あれはほぼ命令だった)、緩衝材代わりにチームと冴達の間を行き来するようになってしばらく経つ。
が、我ながらそれほど役に立っているようには思えず、今日も今日とて揉め事を起こす士道に、他メンバーから俺達に向けられる視線は相変わらず厳しい。
いや、そもそも冴はともかくとして、何故士道に対してまで俺が責任を負わなければならないのだろうか。
「士道の参加って、冴が直々に指名したんだろう?士道もお前の言うことなら聞くみたいだし…まぁ、辛うじて、だけど。」
「何だ、妬いてんのか?」
「妬いてる…というか、連れ子の扱いに困ってるって感じだな。」
「…………」
「何だよ、その微妙な顔は?」
「……別に。」
明らかにそれは「別に」という顔ではなかったが、途中冴が監督に呼び出されてしまい、結局理由を聞きそびれたままその後ろ姿を見送ることに。
そして溜め息と共に、ほとんど癖になった士道の姿を探す。
しかし、今この状況に何となく既視感を覚えるのは、もしかして凛くんのことを思い出すからだろうか。
凛くんの場合、元々嫌われていたのを「時間が解決してくれるだろう」と楽観視して放置していたのがまずかった。
二年ほど前に冴が帰国した際、兄弟で揉めたらしく、ついでのように俺と凛くんの間も余計拗れてしまった。
(…そういや、前に凛くんから「冴を潰したら次はお前だ」的なことを言われてたんだっけ?)
あの兄ちゃん大好きっ子だった凛くんがそれを「潰す」と宣言するくらいだ、余程のことがあったに違いないが、あまり詳しい事情は聞いていない。
今度の試合で敵同士とはいえ折角兄弟二人が揃うのだから、機会があれば少し話を―…
「てめぇ、士道…!」
…とりあえず、今はあの悪魔をどうにかしなければ。
そこで俺は前回の失敗を活かすことにした。
「………で?」
「いや、その…全力で構い倒した結果、懐かれたというか何というか…」
「ナニナニ?もしか嫉妬してんのォ?俺ら、チョーラッブラブだもんなぁ?白兎ちゃん!」
「あ゙?」
「ちがっ、煽らないでくれ!士道…!」
フィールドの片隅で繰り広げられるその修羅場のような光景を、全力で見て見ぬ振りをするU-20代表の面々。
その中でただ一人、主将の愛空だけがしばらくそれを眺めた後、「まぁ、いいか」と肩を竦めて小さく笑ったのだった。
試合が待ち遠しいです。
(というか、いつまで続くんだ?この状況…)
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嘘つき、ロンリー。