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 一九九六年の、春ごろのことだった。
 就職してから一年ほどが経ったとき、会社の取引先の男性と知りあった。そして意気投合し、惹かれあってから、あっという間に恋人という仲になった。
 彼は四つ年上で、会社でも評判のよいとても頼りになる、優しい人だった。
 約二年の交際期間を経て、みょうじなまえは婚約した。
 美しい指輪を貰った。真ん中に埋め込まれている宝石は、手を傾けるたびにこの世の光を全て集めて散らばせているみたいな、婚約指輪だった。
 この指輪と、もうひとつ指輪を贈るとき、ぼくたちは家族になるんだと言われた。
 この人と、ずっと一緒にいるのだと思った。
 同じ姓を名乗って、同じ家に住んで、同じ食卓を毎日囲んで。生涯を共にしていくのだと思った。
 そしてそれを口にすると、彼は自分も同じ気持ちだと言った。
 なまえの願いと彼の願いはひとつになって、二人の願いになった。
 二人の幸せを、二人で願った。
 しかしなまえは裏切った。彼の願いを叶えることができなかった。
 東京にはいられなかった。
 なまえは自分の意思で、彼の元を去ることにした。