孤毒症 [1/2] 漠然とした寂しさに終わりが見えないから、あいつを欲した。 それ以上でも以下でもない。 あいつを求めたきっかけなんてそんなものだ。 終わりの見えない、永久に続くような感覚はまるで水平線。広がる透明の水に黒いインクを一滴垂らして、歪み、広がり、侵食していく。貪食していく。蝕んでいく。 だけど私は、砂漠をただひたすら歩く旅人だった。 食料も水もなく。身体を昼間の日差しから守る、夜間の寒冷から守る布もなく。身体を支える杖もなく。 方角までも狂って、自分がどこに向かっているのか気付かぬうちに迷ってしまう。目印は昼間出る太陽の向きだけ。 だから、独りは嫌い。 嫌いなものを一人で乗り越えていくのか。 誰かと共有して力を合わせて乗り越えていくのか。 方法は人それぞれだが、私はどちらでもない。どれでもない。その蔓延して徐々に侵食範囲を広げる毒から、逃げることを選んだ。 でもそれで何が悪いの?逃げは恥?そんなの誰が決めたの?逃げることが必要な時だってある。逃げるほうが自分自身を守れる時だってある。 人生そんなもの。立ち向かうだけ回り道。だったら逃げて隠れて、通り過ぎて見えなくなるのを待ってから、また歩けばいいじゃない。それが楽じゃない。 人なら、楽が魅力的なのは普通じゃない。 求めたものなんてよくよく見ればこれっぽっち。求めたのはあいつじゃない。結果的にあいつだっただけ。 あいつが私に「ガキが何してんだ」って声をかけたせいで、「ブスのくせに男が釣れるとでも思ってんのか」って罵ってきたせいで、「馬鹿は風邪引かねえだろうけど着とけ、あとで返せよ」って優しくしてきたせいで。 結果の原因を考え出したらキリがない。 結果はあいつ。 原因もあいつ。 全てあいつ。あいつのせい。 あいつのせいで、あいつのことが魅力的だった。 魅力的に見えてしまった。 こんな私に、あいつは言った。 お前は孤独に耐えられない病気なんだと。 私のこの身を掻き回したくなるような衝動。同じ温度のぬるま湯に浸かる抱擁感。私の前で乱れることなく揺蕩う振り子。寂寥を消すための誰かの律動。 全部。全部、全部、全部全部全部全部それは病気の症状だと君は言う。私を蔑むことなくまたあいつは私に逃げ道を用意する。道を用意して私を誘う。 あいつは私にとって、薬で、麻薬で、毒である。 孤独を瞼の裏に隠して蝕まれていくことを選んだ私を作ったのは他でもない、あいつなんだ。共犯者。一緒に堕ちて、息を吐く。 黒く禍々しい煙を吐く私。白く退廃的な煙を吐くあいつ。混ざって灰色。グレーゾーン。グレーライン。グレーは限りなく黒に近い白。あいつを染めた黒。私を薄めた白。歪んで絡んでしがらみが巻き付いて、私達は息を吐く。 孤独という名の、毒を吐く。 [*前へ][次へ#] 1/2ページ |