呪いとは、負の感情から生まれる。負の感情と一言で済ませることは中々難しい。負の定義、正の定義、それらは昔誰かが偉そうに宣って生まれた物差しに過ぎない。例えば怒りは負。喜びは正。そうやって誰かが決めた息苦しいルールの中で私たちは生きている。
「よっ」
 椅子の背もたれに寄りかかって一段落ついた報告書を眺めていると、頭上に影が出来た。ついでに人間の顔も見せつけられた。隠された目の奥の色は見えなくても分かる。にやにやと性格の悪そうに歪められた口元が腹立たしくて目の前の男の顔面を手で覆うとすれば、術式を使って阻まれた。呪力の無駄遣いしやがって。
「……五条、用件は簡潔に分かりやすく伝えるように」
「僕明日一年生迎えに行くんだけどさ〜ついでにちょっと学長に頼まれて任務もこなさせなきゃいけないんだよね。だから簡単な任務が回ってきてたら僕にちょうだい。あと一応お前も来てね、伊地知が行けないから代役。連絡したら車出してくれればそれでいいから。あ、来週北海道だろ。土産よろしく」
「長い。顔がうるさい。明日は……」
「オフだろ」
「……何で知ってるの」
「お前の仕事は一通り知ってるから」
「うわ……」
 ぺらぺらと長ったらしく話した五条は悪びれることもなく私のスケジュールを盗み見ていると言い放った。私はこの男の仕事を全て把握していないけれど、それなりに忙しい身なのは分かっている。その上で必要とは思えない私のことまで覚えているなんて、もしかしたらマゾなのだろうか。そうやって無駄なところにまで頭を使っているから甘党になるんだ。
 確かにこいつの言う通り、明日は仕事が入っていなかった。繁忙期に入り休む間もなく任務に明け暮れていた。そんな中で伊地知くんが何とか作ってくれた休みをこいつが遠慮なくかっさらっていった。断りたいけど、断ると伊地知くんが命懸けで仕事を片付けてこいつに顎で使われることになる。ただでさえ最近はいつもよりクマが酷い彼を、これ以上酷使することは出来ない。私が頷くのが一番穏便に済む道だ。全部分かって言ってやがるこいつは大変質が悪い。
 いいよ、と言えば五条は視界から消える。そのまますたすたと歩いて去っていった。出る直前にひらりと右手をあげて。今度文句言おう。北海道土産は酒にしてやる。


 それから半日程経って、休日にも関わらずスーツを着て学内で待機しているれば携帯がピカピカと光る。五条からの連絡。恐らくあいつと一年生たちの現在地と何故か伏黒くんの写真が添付されていた。彼も彼で中々整った顔立ちをしている。伏黒くんが一般人であればきっと大層学校ではおモテになられていたことだろう。高専の車に乗り込んでカーナビに送られてきた住所を入力して、ハンドルを握った。
 目的地まではそう遠くなかった。車で10分程の場所に伏黒くんと知らない男女、あと今日も胡散臭い五条。車を道の端につけて子供たちの容態を伺うべくエンジンを切って車を降りた。伏黒くんはペコリと一礼してくれる。良くできた偉い子だ。後ろにいる二人は何だ何だとこちらを見ている。自己紹介しなきゃな、と口を開こうとした瞬間、五条が先に喋り始めた。
「はーいこいつはただの呪術師の東屋菫でーす。恵よりちょっと強いよ。最近は補助監督の仕事もするようになったから任務で一緒になることもあるだろうし、顔と名前は覚えておくように〜」
「……準一級呪術師の東屋菫です。よろしくね」
 何とも適当で失礼な紹介に視線で少し抗議して、子供たちに改めて挨拶をした。名前を知らない二人は虎杖くんと釘崎さんと言うそうだ。うんうん、今年も素直で賢そうできっと強くなれる子ばかりだ。それに3人もいるのは心強い。
「じゃあ今度こそ飯行こっか! 運転よろしく」
「ビフテキ!!」
「シースー!!」
「待って私このために呼び出されたの」
「万が一怪我人が出たときのために呼んだけど悠仁も野薔薇も優秀だったからね」
「じゃあ私呼ぶ必要なかったよね?」
「歩くよりも楽じゃん。電車も入口が低いから嫌なんだよ」
「アンタが我慢すれば済む話でしょ!?」
 ムカついたから殴ろうとしたけど、今日も無下限で防がれた。今度無防備な時に殴ってやる。

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