肌寒さにふるりと体を震わせ、ゆっくりと目を開けると、一番に目に入ったのは、すやすやと眠るなまえ。まどろんだまま、しばらくその顔を眺める。どうやら寒さの原因はここにあったらしい。いつの間に部屋に入ってきたのか、ちゃっかり俺の布団を横取りして寝ているのにはいつもながら呆れてしまう。だけど、安らかな寝顔はいつもより少しだけ幼くて、俺の隣でしあわせそうに眠るその様子に思わず口元が綻ぶ。
しょうがないな。小さくそう呟いて、頬にかかる彼女の髪をそっと梳いてやる。すると、くすぐったかったのか身動ぎして収まりのいい場所を探すなまえ。抱えるように抱き寄せると、柔らかな体とふわりと香る甘い匂い。もう起きるつもりだったけど、せっかく手にした湯たんぽのようなこのぬくもりを手放すのが惜しい気がして、もう少しだけ、と自分に言い訳をして目を閉じた。
――んま、――けんま、研磨
名前を呼ばれて目を開いた。どうやらかなり深く眠っていたらしい。こちらを見下ろすなまえは大きな目をぱちぱちと瞬きさせこちらをのぞき込んでいた。ぼんやりとその揺れる睫毛を見ていたら、不思議そうな声で、研磨?ともう一度名前を呼ばれる。
「起きた?」
首を傾げて、緩く微笑むなまえ。「何時?」とかすれた声で聞けばなまえの視線が斜めを見る。
「うーんと、16時かな。研磨ずっと寝てたね」
「・・・うるさい」
そう反論して、ぼんやりと額に手をあてながら天井を見る。本当に、かなり寝てたらしい。ちょっとした昼寝のつもりがだいぶ寝てしまった。まだ眠気から抜けきらない頭でそういえば、と思い出す。どうしてなまえがここにいるんだろう。まぁ勝手知ったる他人の家とでも言うんだろうけど。
「なんでここにいるの」
「えっとね、駅の前にあるカフェわかる?あそこのケーキ食べたい」
「・・・?」
言われた言葉に首を傾げる。まったく、ここにいる理由になってない。
「別に、行ってこれば・・・?」
「・・・研磨ってたまにすごく意地悪」
「なんで」
食べに行きたいなら行けばいいし、なんでそれが意地悪に繋がるのかまったくわからない。
「研磨と、一緒に行きたいの」
口をへの字に曲げて、不貞腐れたような、だけどこちらを伺うような視線を向けるなまえ。その言葉で言いたいことがようやくわかった。俺とカフェに行きたくて、誘いたくて、部屋に来たということか。初めからそう言ってくれれば無駄なやり取りを省けるのに。なまえの、女の子の、そういうところがやっぱりよくわからない。わからないけど、俺がなまえに甘いのは本人だってわかってるはず。
「・・・あとでね」
ただ、素直に言うことを聞くのは悔しいからそう言えば、なまえはぱっと花が色づくように笑った。あのね、あそこおいしいって評判なんだよ。研磨が好きそうなケーキもあったし、きっと気に入るよ。なんて、嬉しそうに話す。その姿がなんだかとても愛おしいもののような気がして、興奮で薄く色づいた頬に手を伸ばす。少しだけ驚いたように目を見張ったなまえは、だけど次の瞬間には目を伏せて俺の手に頬を寄せた。甘える猫のような仕草がなんだかくすぐったい。かわいい。思わずほろりと零れた本音を隠すように、そっと唇を寄せた。
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