>>2013/02/16 (Sat)
>>16:14

兄妹
『パステル』

こつこつ、こつこつ

新しく買ったと言っていた春のパンプスを軽やかに鳴らし、俺の元へ小走りで駆けてくる。

転ぶなよ、とヒヤヒヤするも、
その笑顔をずっと見ていたくて、
目が、離せない

「お兄ちゃん!」
「びっくりしたか?」

連絡もせず大学まで迎えに行けば、FCの姿に驚きながらも嬉しそうに顔を綻ばせた。

冬の寒さが、一瞬落ち着いた二月のある日。
妹の足元には、小さな春。
可愛らしいレモン色を連れて、さあ、君の行きたいところまで。

「デートしようか、」

愛し君となら、何処へでも。

***************

>>2013/02/19 (Tue)
>>13:31

兄妹弟
『スケール』

「これってリアエンジンじゃないの?」
「……アネキ、頭大丈夫か?」

今日も今日とて仲良しな妹弟は、小さな小さな模型を前に、何やら話をしている。リビングのソファにゆったりと座り、読み掛けの文庫の世界へ旅立っていた涼介は、ダイニングテーブルで話し合う妹弟の声で現実に戻ってきた。

(……邪魔、しないでおくか)

視線を向けてそっと盗み見ると、普段自分たちが扱うそれとは大きさが遥かに異なる、しかも四駆を相手に、これまた小さなパーツをせっせと組み上げているようだ。

「だって真ん中とは到底言えない位置にあるのよ?RRじゃない」
「アネキ、車の知識あんのに相手がコイツだと何でアホになるのか俺は知りたい」
「あっアホとは失礼ね!わかるわよ!フォーミュラマシンと同じだってことくらい!」

だったら何でRRなんだ、コイツはポルシェ911か、と啓介は思った。

「フォーミュラマシンのエンジンはどこにある?」
「……ドライバーのうしろ」
「構造は?」
「……運転席と後輪車軸の間にエンジンを置くことで、駆動輪のリアとの距離が短くなるから、安定性と操作性が上がる…………あれ?」

そこまで言うと、姉はどうやら気付いたようで、目の前の小さな車を手に取った。

「ここがコクピットだよな?エンジン、いや、モーターはどの位置にあると言える?」
「……後輪、シャフトの、前……」
「ってことは?」
「……ミッドシップ、です……」
「よく出来ました」

妹と弟の会話を聞きながら、どっちが年長かわからんな、と楽しそうに微笑む涼介だった。

「ミッドシップだからって、何も『ド真ん中』にモーターがあるとは限らねェだろ」
「ひっ卑怯だ!こんな後輪ギリギリでミッドシップだなんて!」
「(卑怯…)車の勉強、し直しじゃね?アネキ…」

ミニ四駆。

大きさは違えど、立派な車です。

***************

>>2013/03/02 (Sat)
>>00:25

兄妹弟
『手帳』※手帳は高橋ネタ


年末や年度初めになると書店の目の前に平置きでたくさん並ぶ、老舗のメーカー。書店に到着するや、その場所で留まり悩むこと暫し。色を見て、形を見て、手に取っては戻すを繰り返した。

「決まったか?」
「んー…まだ」

長年愛用していたブランドの手帳が、どこを探しても見つからず、年を迎えてとうに二ヶ月が過ぎた。今までは、去年の手帳の末尾にあったカレンダーに何とか予定を書き込んでいたけれど、さすがにこれから先のことまではスペースがなくて書けなくなってしまった。愛用していただけに、それはもう使いやすくて大好きだったのに、県内外、東や西へ出張の際に探しても見つからない。ネット通販にもないところを見て、完全に手に入らなくなったショックは大きいけれど、手帳がないとスケジュールが組めない。仕事人には致命的だ。

「ンだよアネキ、まだ悩んでんの?」
「だってー…今までは迷うことなく即決だったんだもん、何を基準に選べばいいか…」

シンプルなそれを見ながら、愛用していたブランドマークを恋しく思う。

「善し悪しは使ってみなきゃわからないんだから、この際、見た目のインスピレーションで決めたらどうだ」
「お兄ちゃん、そう簡単に「だったら黄色じゃね?」……啓ちゃん」

……なんとなく、この流れは、ほら、アレだ。

「今年カラーブームじゃん、元気出そうじゃねェか黄色って」
「何を言う啓介、飽きのこないベーシックカラーの白が一番だろう」

そう、くると思った。

手帳を買いに来ただけで、どうしてこんなに時間がかかるのか。自分が迷ったせいもあろうが、私に何色を選ばせるか二人が口論していたせいでもある。そろそろ収集がつかなくなってきたので、こうすることにした。

「これ、パールがキラキラして可愛いかも」
「アネキ……っ!?」
「ホラな、啓介」
「大きさも丁度いいかな。その黄色、FDと比べてちょっと濃くない?」
「あ……そう、か」
「だから、啓ちゃん、こっち」

片手に手帳、片手に啓介の腕を掴んで、今度はステーショナリーコーナーへ。

「ね、これポップで可愛くない?」
「…なるほど」
「考えたな、アネキ」

シンプルな白い手帳には、明るい黄色ドット柄の黒インクペン。

「これで喧嘩しなくていいでしょ?お兄ちゃん、啓ちゃん」

僕たちの『色』を持つ愛する君
願わくば、その白と黄色が、僕たちのことでいっぱいになりますように

****************

>>2013/03/03 (Sun)
>>23:09

『セブン to エイト』※7777御礼

「あ、また」

そろそろ春へと向かう三月初旬、気ままに街を流していたら、もうこれで何台目くらいになるだろうか。

「さっきは青で、今度は白か。ふふっ」

今日はやたらと見かけるな、RX-7

最近は街で見かける機会が滅法減って、生産が終わった後継のエイトも少なくなってきたというのに。

「セブンも好きだけど、エイトもいいな、曲線が美しくて」

独り言を呟いて、信号待ちをしていたら、丁度左隣にはグレイ色のエイト。綺麗なボディに視線を奪われていると青信号。そのまま走っていった直進レーンのエイトをもう少し見ていたかったなと思いながら、自分は交差点の右折レーンでしばし対向車を待っていた。

そのとき、

ブォン、

すごく、
ものすごく馴染みのある音がして、左を見たら

「……はっや」

もう既に通り過ぎて行ったけれど、見間違うことなどあろうか。

「お天気が良いから、お出掛けかな?拓海くん」

まるでさっきのエイトを追いかけるように、白と黒のトレノが、お豆腐屋さんの名前を背負って、青空を駆けて行きました。

THNX7777!!!

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>>2013/03/06 (Wed)
>>19:51

拓海×彼女
『ぐんまのやぼう』

「やった!にほん制圧!」
「……何やってんの?」
「拓海もやる?」
「質問を質問で答えるなよ」
「地味だけど楽しいよ、暇潰しになるし」
「なに、『しゅうかく』って」
「資源を収穫してGを貯めて世界中を群馬県にするんだよ」
「(Gってなんだ)あ、渋川がある」
「そうなの、県内の市町村みんな出てるんだよ、何だか嬉しくない?」
「別に嬉しくない」
「わ、言ったそばから渋川のグンコレ出た!」
「(なんか光ってる)」←ちょっと嬉しい

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>>2013/03/19 (Tue)
>>20:32

9000hitありがとうございます!&小話※返品作業中の思いつきネタ
啓介×ショップ店長の姉


今日中に済まさなくてはいけない業務を、開店と同時にスタッフ総出でこなしていた。売り場から少し離れた場所のストックに保管してある前年度のお洋服たち(いわゆるセール品)を本社に返す処理をするため、先程から忙しなくストックと店を往復している私。

「……一体いくつあるのよこの靴たちは…」

セールとして残してあった時季外れの靴たち。ご丁寧に、かさ張る靴箱も一緒に取っておいたので、それも返さなくてはいけないのだ。

「ちくしょ、やるしかないか」

面倒くさがりの性格が如実に出て、これ以上何度も往復したくない私は、持てるだけの靴箱を一度に両手で抱え、ストックの扉を(なんとかして)開けた。お客様が少ない時間帯で良かったと思い、売り場までの通路を靴箱を抱えて歩く。六箱を縦に重ね、これだと正面が見えないので、横から覗くように前を見ていた。ヨロヨロと、自分でも危ないかなと思っていた。でも売り場までは一直線だし、すぐに着くからと横着したのがいけなかった。

「っヤバ……!」

バランスを崩した。

「っぶねー、間一髪」
「……け、いちゃん?」
「おう!お疲れアネキ」

どこの漫画だと思った。何だこの展開は。

倒れそうになった靴たちは、私より遥かに背の高い弟に、怪我をすることなく助けられ、「貸せよ」と言われそのまま弟の手に渡り、私より先にスタスタと歩き、

「どうも、うちのアネキが世話になってます」

売り場のスタッフたちが騒ぎだすのが、もう、当たり前になっている気がしてならない。

(何しに来たのよ啓ちゃん)
(ここん中の本屋、品揃えいいじゃん)
(別に私のトコに来なくたって)
(ンだよ、嬉しいクセに)

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>>2013/04/09 (Tue)
>>21:25

桜と雪マークと雨&小話
兄妹


どんよりと暗くなってきたと思えば、案の定だ。天気予報は雪だったけれど、寒くてもどうやら雨止まりのようで些か安心した。というのも、先週ノーマルタイヤに戻したばかりで、このタイミングで雪はやめてくれと思ったからだ。

ふと道沿いを見遣ると、可愛らしい後ろ姿。

先日、軽井沢で衝動買いしたというブラックレザーのジャケットを着た肩は小さく、春らしい花柄のストールに顔を埋めて、少々急ぎ気味で歩く、妹だった。

「ったく、傘もささずにアイツは」

小雨が降り、肌寒くなった四月。
FCの温度を少し上げて、さあ、迎え入れようか。

「…助かった…お兄ちゃん」
「雫、ついてるぞ」

冷えた外気でちょっと赤くなった鼻頭。黒い艶髪に浮かぶ小さな丸い雨粒に触れたら、安心しきった笑顔を見せた妹が、

愛しくて、
大切で、

「ありがとう」
「どういたしまして」

おうちへ帰ろう、一緒にね

**************

>>2013/04/15 (Mon)
>>22:32

姉弟
『ウェイティング・ウェディング』

大学の同期が婚礼の宴を開くと招待された日から、あっと言う間にその当日になった今日、挙式、披露宴、そして現在二次会と、一日を通してお喜びの席に居た私。そろそろ二次会もお開き、というときに、新婦である友人が、「次はアンタだからね」と、持っていたブーケを手渡した。挙式のときに持っていたブーケは、青空にアーチを描いて彼女の親戚の女の子へ。ちょっと期待していただけに、二次会でのこれは素直に嬉しかった。お開きになり、集まったゲストがぞろぞろと貸し切ったレストランから外へと出る。火照った肌に、春の夜風が優しく触れた。結婚式のチャペルからこのレストランまでは、参加ゲスト揃って貸切バスで移動したけれど、さて、このお開き後は皆どう過ごすのか、どうやって帰路へ着くのかと、あちこちでそのような声がした。三次会へ行ったり、友人同士で集まったり、お祝いムードを崩したくないのか、飲み明かす予定の人が多いようで、私もそれに誘われたのだが、実は翌日(実はもう日を跨いでいる)に大事なテスト走行があるので、お断りをした。

「なんだよ高橋、この後来ねェの?」
「うん、ごめん。迎え頼んだから、このまま帰るね」
「残念、お前の話もゆっくり聞きたかったんだけどなー」
「みんなに会うのも大卒以来だから、私も話したかったけど…ごめん、明日どうしても抜けられないの」
「もー、相変わらず車バカね。いい加減彼氏作りなさいよね、折角ブーケあげたんだから」
「わ、わかってるけど…ブーケくれて嬉しいけど…、でも…」

うーん、うーん、と困っていると、深夜の街中にあまり相応しくない、雄々しい遠吠えが。

「おいおいまさか、『迎え』って、」
「マジかよ高橋」
「だって忙しいお医者様をアシになんて出来ないでしょ」
「だからってプロレーサーを呼ぶ?!」
「『終わったら迎えに行くから連絡しろ』って言ってくれたんだもん」
「なにそれ超うらやましいんだけど!」

公道プロジェクトといい、現在の活躍といい、この結婚式に集まった大半が車繋がりなため、皆が既知である13Bの持ち主が現れたときは、酔っている酔っていない関係なく、祝宴の如く再度盛り上がった。騒がれた本人は物凄く驚いていたけれど。

「啓介くん、あたしのブーケ、この子に託したからね、絶対お姉さんを幸せにしてあげてね!」
「ちょっと!弟になんてこと言うのよ恥ずかしい!」
「ンなの当然ですから。アネキはオレのすべてですよ」
「けっ啓ちゃん…!!」

アルコール、プラス羞恥で更に火照った肌を冷やしたくて、すぐにFDに乗り込み、発車してとせがむ。その場の友人たちが後ろで何か言っているけれど恥ずかしくて耳を塞ぎたかった。

「かわいいな、ブーケ」
「え、あ…うん」

ホワイトと、ピンクと、イエローと、オレンジ、春の色で作られた丸いブーケを膝の上に置き、大事に手を添えていた。

『オレのすべて』と言われたことが、気になって仕方がない。

もうとっくに、酔いが引いていった気分だ。

「なあ、」
「ん?」
「薬指のサイズ、いくつだっけ、アネキ」
「え……」
「ブーケの効果、切らしちゃ友達に悪いだろ?」

FDのリアにロープで空き缶を括り付けて走る日も、そう、遠くないかもしれない。

**********

>>2013/04/25 (Thu)
>>00:07

涼介×奥様
『毎日がスペシャル』


デートしようか


最近の乱れすぎる空模様にうんざりしていたら、主人からこんな提案が下された。

「少し、遠出しよう。岐阜まで」

見ると明日の岐阜の天気は曇り後晴れで、気温は、まあ、この時期にすると低い方だけれど、お日様が出るなら多少は暖かいだろうと思った。

飛騨の小京都、高山市。

主人、涼介はそんなに経験はないそうだけれど、私は両親が好きな土地であることから、幼い頃からの馴染みの観光地だった。赤くて可愛いさるぼぼに、いつしかカラフルな色が増え、お土産選びも楽しみになる。朝市で賑わう宮川を渡り、商店街の通りの角、軒先にあるキラキラと煌めくアメジストの原石に惹かれて入った、天然石のアクセサリーショップ。たくさんのパワーストーンを扱っていて、どれもデザイン性に富んだアクセサリーが、手招いているようだった。いつの間にか涼介と店内ではぐれていて、どこにいるのかぐるりと見渡すと、ひとつのコーナーに居た。店員さんと何やら話しているようだ。

「何かいいものあった?」
「ん?まあ、待ってろよ」

席を外した店員さんは、何かを調べているらしい。その間、私は涼介と目の前のコーナーを見ていた。

「四神?」
「聞いたことあるだろう?」

朱雀、青龍、白虎、玄武。中国が起源の守護神たち。テーブルには四神と天然石を組んだブレスレットを中心にディスプレイされていた。

「お待たせいたしました。どうぞ」
「ありがとう」

小さなメモのようなものを受け取った。

「アクアマリン、クリアクオーツ、サファイア、か。うん、良いんじゃないかな」

「なあに?それ」
「夫婦円満、ってさ」
「え?」
「結婚記念日、だろ。何か作っていかないか?お揃いで」

ぴら、と見せてくれたメモには、今しがた涼介が呟いた石の名前。

忙しくて、忘れてるのかと思ってた。
時間がなくて、一緒に出掛けるなんて、本当に久し振りだった。気持ちの良い青空、少し肌寒いけれど、涼介と手を繋いでゆっくり歩く。それだけでも、嬉しくて、幸せだな、って思っていたのに。

「うんっ」

家内安全を導くとされる、月の女神の化身、白虎のストーンを一番上にして。

涼介はクリアクオーツ。
私はアクアマリン。

ネックレスやブレスレットじゃなくて、さり気なく身に着けていられるように、ストラップにした。

「ありがとう、覚えていてくれて」
「忘れるわけないだろう、こんな大事な日をさ」

デートに誘われて、ついはしゃいじゃって、いつもより甘いスタイルにしたコーディネートも、可愛いって褒めてくれた。手を繋いで歩いているときも、歩幅を合わせて。涼介を見上げると、私の大好きな笑みで見つめてくれた。

大好き。
ずっと、涼介の隣で。
この先もずっと、毎日、笑っていたいな。

「ちなみにな、」
「うん?」
「白虎は、『子宝』と『安産』にも効くんだぜ?」
「……っ、ばかっ!」

月の女神の化身、なんて説明を見たとき、夜空の月の光を浴びて輝く白を纏った美しい虎が、まるで、赤城のあなたのようだと、思っていたのに、この人ときたら。

でも、そうだな。
いつか、そうなったら。

その子にとって、最高のパパとママになれるように。

ずっと『夫婦円満』でいようね、涼介。

***********

>>2013/06/03 (Mon)
>>12:41

姉弟
『寝言』

姉は寝言をよく言う。
言葉にならないようなふにゃふにゃしたものから、はっきりとした文章、笑い声、怒鳴り声、もうなんでも。幼い頃は全然だった寝言が、大人になって頻繁になったのは気のせいじゃない。今日は何を言い出すのだろうとビクビクしている自分だが、反面、何を言うのか楽しみでもある。

「アネキ、また言ってたぜ」
「うそっ!?」

毎朝のやり取りも、楽しみのひとつ。これだけ毎日言われると、次々に名言が上書きされて、昨日は何て言っていたか忘れてしまいそうだったオレは、そうだメモっとこうと閃き、どうやら姉が発した寝言で一瞬意識が戻ってしまうときに、枕元の液晶を光らせた。ちなみに姉の寝言は、ひとつに限らず複数がザラである。かくして保存に成功した言葉を、細くつぶらな瞳をしぱしぱさせた寝起きの姉に、笑いを堪えながら伝えてやった。

「オレさ、アネキの寝言、朝まで覚えよう覚えようって思っても全然ダメだからさ、保存してあんだよ」
「なっ…!なによそれー!」
「言うぞ?昨日のはなー、」
「やだやだやだ恥ずかしい!絶対ヘンなことだもん!」

『え?私頼んでないよ。啓介頼んだ?』
『すごいウネウネしてたの。帰り気を付けてね』

「だとよ」
「……」
「昨日喰いに行った焼肉、夢ん中でも喰ってんだな」
「〜〜っ」
「帰りウネウネ、ってどっかの峠かよ、オレたちにとっちゃウネウネは願ったりだぜ。アネキに心配して貰えんのはめちゃくちゃ嬉しいけど?」
「うー…」
「あーねき」
「……なによ」
「かわいい」
「……かわいくないもん。私バカみたい…」
「寝言言うほどそんだけリラックスしてんだろ、オレのとなりで」
「…もう啓ちゃんと一緒に寝ない。お兄ちゃんと寝る!」

恥ずかしくて真っ赤の顔を枕に埋めた姉が放った言葉をやり過ごせるはずもなく、念願叶ってやっとの思いで自分の腕の中を定位置にさせた愛する姉の黒髪を撫で、ご機嫌取りのためのプランを考えた。

梅雨入りしたはずが、からりと晴れ渡った、六月の日曜日。

**************

>>2013/06/18 (Tue)
>>13:02

中里と真ん中
『夕立、空の青』

妙義山のお膝元、横川SA。
突然の夕立に遭い視界不良で走りに支障が出ると判断した不敗神話を誇らし気に掲げる黒いGTRのオーナーは、少し遠い外回りの帰り、このSAに立ち寄った。夕立は一時的なものが多い。現に、向こうの空は明るく、真上の範囲のみどんよりと暗かった。このまま直帰の予定で且つ急いで帰宅する理由もない中里は、しばらくの雨宿りを決め込んだ。

「珍しいな、初代ランサーか」

併設のカフェで一服していたときに、雨に混じった排気音。重々しい車体を滑り込ませ、一台の青が停まる。あの彗星ほどではないが、音を聞けば大体のチューニングはわかるつもりだ。しかしこの中里、同じ兄弟車を相手にした先のエンペラーとの負け戦が記憶に新しく、顔をややしかめた。エンペラーの侵略が碓氷方面に拡がっていると聞いたばかりだ。もしやこの周辺の下見かと中里は思う。ランエボ乗りにロクなヤツはいないと、その青い車を見ながら勝手に決めつけていた。

どしゃ降りの中、開く運転席のドアと、
青い水玉の傘。

背格好は小さく、どう見ても女のような体格だった。小走りで駆けたそのドライバーがSA入口で傘を閉じ、空を見上げた。免許取りたての、まだ子供のようにも見えるが、少女と言うには大人びているその女から、中里は視線を逸らせなかった。濡れた身体や足元を拭く仕草、手櫛で髪を整える姿。大人と子供の境界にいそうなその彼女は、ひとしきり身なりを確認してからカフェへ入ってきた。

「ホットのソイラテ、トールサイズでお願いします」

重い空とは逆の、小さめだが明るく澄んだ声が中里に届くと、彼女はトレーを持ち、外に面した自分と同じカウンター席へ腰かけた。相変わらずどんよりした空を目の前にして、彼女は憂いを瞳に湛えた。首を横に向けずとも表情が見えるその距離に、中里は居る。その後、電話をし始めた彼女の声を聞いていると、何やら覚えのある単語が気になった。しかも、自分が身を投じている極めて特殊な世界の中で聞く単語だ。とりわけ、この県内で特に聞くような。

電話を終えて顔を上げ、マグカップを両手で持って、ふうふうと冷ましているそんな様子を見ていると、視線に気付かれこちらと目がぶつかった。口元を柔らかく曲げ決して不審を抱いているように感じられず、中里へにこりと笑みを送った。

雨足が弱まり、視界が落ち着いてきた。急ぎの用事だったのか、彼女は席を立ち出口へ足を向ける。雨上がりの蒸し暑い湿気など我関せずな爽やかな青に火が着き、SAに来たとき同様するりと本線へ乗って行く。碓氷ペアの片方に奪われたばかりの中里の心に、微笑みの爆弾が落とされた瞬間だった。

そして彼女が何者であるかは数日後の赤城で知るのだが、何故これほどまで尋常でないほど落ち込んでいるのか、隣に居た庄司慎吾は疑問に思うばかりだった。


***************

>>2013/06/25 (Tue)
>>14:17

兄妹
『夏の空色』

最高気温が25度という、爽やかで清々しい日曜日。玄関前の広いポーチに車をひっぱり出し、今日の空と同じ青いランサーに思いきり水を浴びせた。Tシャツの上からUVカットパーカを羽織り、濡れても構わないようボトムはスイムウェアのホットパンツにビーチサンダル。更にしっかりと日焼け止めを塗って、さあ、洗車の準備は万端だ。

外からの水音と楽しげに歌う可愛らしい声に、自室にいた涼介は耳を傾けた。早朝から長時間タイピングをしていた手を止めバルコニーに出、妹の姿を上から見ながら外の空気を吸い込んだ。

楽しそうに洗う妹に上から声をかけると、彼女は上を見上げ、太陽で逆光になった兄へ眩しく目を細めて手を振った。

「FCも洗っとこうか?お兄ちゃん」
「どうせなら一緒にやろう、オレも今下に降りるから」

既に幾分か体が濡れている妹へ応える。真っ青なボディへ、柔らかいスポンジに乗せたモコモコの白い泡を滑らせる。鏡のようだと涼介は思った。

青い空と、白い雲。夏はすぐそこにある。

(わっ、お兄ちゃん急に水かけないでよ!)
(昔の水遊びみたいでいいじゃないか)
(えいっ仕返しだっ!)
(このおてんばめ)


************

>>2013/06/28 (Fri)
>>21:20

兄妹
『車のお医者さん』

忘れ物をしたと兄から連絡を受け、丁度今から外出するところだったから、兄の荷物を持ち病院へ立ち寄った。父の跡を継ぎ院長になった兄。私は、相変わらずGTチームのメカニック。各々の道を進んで、もう何年も経つ。

「お疲れさま、院長お手隙かしら」

入口の総合受付で尋ねると、幾分か自分より年上の女性が、笑顔で対応してくれた。一声かけてから院長室へ行くつもりでいたが、来たらロビーで待てと院長から言付かっていたらしい。

「おねえちゃん、おようふくすごくきれいないろだね」

院長の言うとおりロビーのソファで待っていたら、三歳くらいだろうか、たどたどしく、しかしはっきりした声の女の子が、ぬいぐるみを抱えてやってきた。よいしょと自分の隣に座る。

「いっぱい、きれいないろがあるね、おはなばたけみたい!」

外出する、というのは今からチームミーティングだからで。現地での着替えが面倒だと横着し、病院へはメカニックスーツで来てしまった。スポンサーやチームカラーがプリントされたスーツは、派手だのカラフルたの賑やかだの言われたことはあれ、きれい、と言われたことはなかったので、チームを誇りとする自分には、この言葉が素直に嬉しかった。パジャマのようなピンクのワンピース姿の少女は、どうやら入院しているらしく、手首に名前と数字が書かれたリストバンドがあった。

「そのおようふくは、どうしてうえとしたがくっついてるの?」
「これはね、お仕事がしやすいようにこうなっているの。くっついてる方が動きやすいのよ」
「おしごと?おねえちゃん、もしかしておはなやさん?」

先ほどのお花畑みたいと言われたことを思い出し、キラキラの目をしたこの素直で純粋な少女に笑みを向ける。スーツ…つなぎ姿のお花屋さんか…どこかに居そうだな。

「ふふっ、違うよ。お姉ちゃんね、車のお医者さんなの」

メカニックまたは整備士という言葉は少女には伝わり難いと判断、分かりやすく言い換えた。

「おいしゃさん?くるまがいたいいたいなの?」
「そうよ、どこか痛いところはないですか?って車に訊くの」
「でも、くるまはおはなししないよ?」
「車が走るとき、ぶおーんってすごい音がするでしょう?車がお話してくれるの。それで痛いところがわかるのよ」

すべてがそうとは限らないが、大体の説明としては間違っていない、はず。

「じゃあ、おねえちゃんのおようふくは、りょうすけせんせいとおんなじだね!」

……ん?

「おいしゃさんは、みんなきれいないろのおようふくなの!だからいっしょね!」
「…ふふっ、そうね」

白衣の白、看護師たちのピンクやブルー、清楚な色がたくさんの病院着と自身のつなぎが一緒にされるとは。今までにない発想に、あたたかい気持ちにさせられる。

「お名前、ひろみちゃんっていうの?」

小さな手首のバンドを指して問うた。こくんと頷き、にこりと笑う。

「ひろみちゃんのお医者さんは、涼介先生なんだね。やさしい?」

「うん!にがぁいおくすりのんだときに、えらいねってほめてくれたの!とってもやさしいから、ひろみ、りょうすけせんせいだいすきなの!」

あらあら。こんな可愛いお嬢さんにまで大好きなんて言われて。

「すまん。待たせたな」
「あ、りょうすけせんせい!」

ひろみちゃんと話していた背中側から、噂の涼介先生の声がした。ご多忙だったのか、白衣に付けたネームタグが傾いている。

「やあ、ここにいたのかい。もうすぐでお昼ごはんだろう?そろそろ部屋に戻らきゃな」

「はぁい!おねえちゃん、またね、ばいばい!」

果たして本当に彼女は入院中なのかと思うくらい、力いっぱいこちらに手を振ってくれる。隣に佇む担当医に訊くと、術後の経過が良くて来週には退院なんだそうだ。

「りょうすけせんせいだいすき、だって」
「なんだ、嫉妬か?嬉しいな」
「はいこれ。頼まれたもの」
「お前からも聞きたいな、だいすきって」
「じゃあ私は行くから」
「おいおい連れないじゃないか。まあ話があるんだ、ちょっと聞いていけよ」
「なに?」
「あの子の名前、見たか?」
「ひろみちゃん、でしょう?手首にあったもの」
「漢字、わかるか?」
「いいえ。平仮名だったからわからないけど…」
「タクミ、と書くんだ。拓く海で、ひろみ」
「……」
「藤原と一緒だよ」
「…ふふ」
「元気にやってるんだろうか。最近連絡がなくてな」
「忙しいもの。連絡なくて当然よ。たしか今は…オーストラリア」
「また会いたいな、あの天然に」
「拓海くんが帰国したら、集まろうよ。みんなに声かけるわ」

あの、白く煌めく羽をはばたかせた少年は、今や世界を走り回るラリースト。彼と同じ字の少女は、そういえばぬいぐるみを抱いていた。彼が片時も離さなかった車と同じ、パンダのぬいぐるみを大事そうに。偶然の一致に、笑みが止まらない。

「さて、私も患者が待ってるから、もう行くね」
「?何のことだ?」
「りょうすけせんせいに負けてられないもの。私、車のお医者さんだから」
「ははっそうだな。ちゃんと完治させてやれよ」
「当然よ、涼介先生」
「気を付けてな。コレ、ありがとう」
「じゃあね、お兄ちゃん」

******************

>>2013/07/05 (Fri)
>>21:36

兄妹
『あめ、のち、ももいろ』

随分気合い入ってるわねと学友に言われつつも、待ち合わせまでの時間に念入りに身だしなみをチェックした。エンブロイダリーと呼ばれる、刺繍されたレースをふんだんに使ったきれいなドレスラインの真っ白いシャツワンピースを翻して。

大好きなあの人の音を、待っています。

​───────

迎えに行こうと向かった途中、フロントガラスへぽつぽつと音が鳴る。きっと待っているだろうから急ぐかと、少しだけアクセルを深くした。降り始めが一番危険なことを、当然意識しながら。

大学前に横付けすると、昇降口の屋根の下、暗い空を見上げる待ち人が居た。

袖の短い、清楚な白いシャツワンピース。肩に水色のカーディガンを引っかけ、足元は同じく白いストラップサンダル。憂いに佇む妹がまるで絵画のようで、彼女には悪いが、しばらく見ていたいと強く思う。しかしそれは長く続かず、耳の良い妹はこちらに気付き、外へ飛び出したいけど飛び出せない、と、体で表現している。助手席に忍ばせておいた自身の傘を差し、ドレスを着た姫を迎える王子気取りで、彼女に手を向けた。

「似合ってるよ」

手を取り、開口一番に告げた。頬を染めた妹の細腰に手を添え、ひとつの傘で濡れないように、ぴたと寄り添う。

「せっかくのデートなのに…」
「仕方ないさ、梅雨なんだから」

FCの元まで、あと少し。傘の下、オレの隣で、夏色の妹の顔に影が差す。笑顔にしたくて、もう一度告げよう。

「ワンピース、似合ってるよ。かわいい」
「……ありがと。お兄ちゃん」

見上げる愛しい瞳が、オレを映す。ほんのりピンクになった目尻が可愛くて、傘に隠れてキスをした。

***************

>>2013/07/11 (Thu)
>>23:20

兄妹
『くちびる』

部屋のドアが閉まる音が、主が帰ってきたと告げる。次の遠征に着いてくるかと、妹を誘おうとしてノックをした。

「帰ったのか?入るぞ」
「むー」

是非とも啓介に見習ってほしい、整然たる小綺麗な部屋。ベッドサイドに据えたドレッサーに座り、鏡に向かって口を尖らせ、困ったように眉を潜め、鏡越しにこちらを見、再度、むー、と唸る。

「どうした、なんかあったのか?」
「くちびる…いたいの」

潜めた眉をそのままに尖らせながら話す仕草が、痛がる妹には悪いがとても可愛らしかった。どうやら荒れているらしく、止めればいいものを、指で、ちょん、と触れては顔をしかめるを何度も繰り返している。

「こら、痛いならそんなに触るなよ」
「だって気になるんだもの」
「見せてみろ」
「ん」

これは据え膳か。忍耐力を試されているのか。

痛くて顔をしかめ、大きな瞳をうるうると光らせ、荒れて充血したせいでふっくらと赤い口唇をアヒルのように突き出し、止めはオレへの上目遣い。

……キスして、と、ねだるようだ。

我慢、ガマンだ、オレ。

「ああ、ぷつぷつと荒れてるな。化粧品かぶれか?」

……なんとか、保った。
しかし…。

しっかり確認するため、右手で妹の顎を支え、左手で口唇に触れた自分の動作が、これからキスをする前戯のようで、良からぬ想像をしてしまう。医学に進む兄に見せれば治るとでも思っているのか、安心しきって身を委ねる妹を裏切り、内心、この熟れた口唇を吸って、食んで、その小さな舌を絡めてしまいたいと思っていることに、純粋な彼女は気付かない。

だが。

「おにぃ、ひゃん?」

もう、だめだ。

そんな不安気に、可愛い瞳で見上げるお前が悪いんだからな。

「荒れに効く薬、塗ってやろうか」
「そんなのあるの?」
「欲しい?」
「ん…ほしい。ちょうだい?」

いつの間にそんなおねだりするようになったんだ妹よ。オレのヒットポイントは一気に黄色だ。だがしかし瀕死のときこそ一撃で堕ちる必殺技を繰り出すとき!

「口唇はそのまま。目を閉じて」

赤い果実に艶が生まれ、潤んだ瞳からとうとうぽろぽろと涙が溢れる。可愛すぎた妹に耐えられずにキスをしたオレの残り1だった瀕死状態が、力一杯のビンタで赤色にされた。

戦闘不能。
しかし、悔いはない…!

「余計ヒリヒリするじゃない!ばか!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」

戦闘不能、プラス、石化 。

***************

>>2013/08/03 (Sat)
>>15:30

涼介と京一と真ん中
『カフェオレ』


夏の昼下がりのリビング。庭からの風がカーテンを揺らし、陽射しを和らげてくれている。

少し深めのタンブラーに、氷をたっぷり入れて

「カフェオレが、のみたいの」

きりりと苦くて、渋みのあるブラックと

「つよいコーヒーもいいけど」

とろりとまどろむ、甘いミルクを

「やさしいミルクもすてきなの」

大事に半分ずつ、ゆっくり注いで

「でも、」

どちらもたまらなく大好きな、愛しのふたりを想い浮かべて

「しろくろつけない、カフェオーレ」

『今晩、迎えにきてください』
愛しのふたりに、同時に送った文は、私の賭け。

黒い彼と、白い彼。

大好きなカフェオレの割合は、果たしてどちらが多くなるのかしら。

***************

>>2013/08/23 (Fri)
>>19:19

高橋家
『あらしのあさに』

確かレースのカーテンを閉めて寝たはずだから朝日が射し込んでいいはずなのに、まるでまだ夜明け前かと思うほど、もしくは寝過ごしすぎてすっかり夕方かと思うほど、どんよりした朝の始まりだった。おかげで寝起きはパッとせず、今はいったい何時だと時計を見れば間違いなく予定通りの針を指している。携帯電話に入っていたメールをチェックし、レースのカーテンを開けて外を見ると、なんとまあ酷い豪雨で暴風だろうか。母が育てている庭の花たちも相当な迷惑だろう。陽射しを浴びないとスイッチが入らないようで、よろよろとベッドを出、ルームシューズを履き、ぱたん、ぱたん、とだらしなく音を鳴らしながらゆっくり階下に降りる。階段から見えたリビングには兄と父がTVを見、キッチンから母の声が聞こえた。

「はよ…」
「あらおはよう。朝ごはん食べる?」
「ん…たべる…」
「おはよう。このすごい雨音の中でよく寝ていられたな」
「おにーちゃん…おはよ…」
「まだ起きてないだろ。目がいつもの半分だぞ」

涼介が座るソファの後ろから腕を伸ばし、上半身を預けるように抱きついた。肩に顔を乗せると、鼻をくすぐるコーヒーの香り。

「TV観てみろ。警報すごいぞ」
「え…、わ、大雨竜巻警報?昨日あんなに良いお天気だったのに」
「反対に関西は猛暑らしい。不安定すぎるなあ」

土砂災害が起こらなければいいが、と父が言う。

「道路のスリップ事故も増えるでしょう?朝の運転気を付けてね、お父さん」
「お前も今日は神奈川じゃないのか?カレンダーの予定がそうだろう」
「予定は中止。向こうも雨がすごいみたいで、メール来てた」

だから今日はフリーなの、とあくびをしながら伸びをすると、一人分の朝食を持ってきてくれた母にお行儀悪いわよと咎められる。

「じゃあ今日は涼介と一緒にお母さんのお手伝いしてもらおうかしら」
「え、お兄ちゃんもお休み?何頼まれたの?」
「雨足が弱いときに庭の鉢たちを避難させるんだと」
「一人じゃ無理だもの。二人が居てくれて助かるわあ」

外の天気とは真逆の明るい母。そろそろ行こうかと新聞を畳む父。部屋着のまま父を見送って、朝食を頂く。父が読んでいた新聞を次に兄が拡げ、階段の下から啓介を起こす母の声。

「お母さん、絶対聞こえてないよ啓ちゃん」
「赤城から帰ってきたのは3時頃だったか」
「その時はまだ雨が降ってなかったみたいだね」
「せっかくの休みなのに一日中これじゃ今日は走れないな」
「ん。たまにはゆっくりしてようよ。お兄ちゃんもさ」

涼介と同じコーヒーを飲みながら、今日のプランを考える。二階からは、ドタドタと喧しい音が聞こえてきた。

***************

>>2013/08/27 (Tue)
>>09:40

兄妹弟と藤原
『オムレツ』

盆が過ぎたとたん、朝晩の風が随分涼しくなった。虫の声も、空の雲も、感じる花も、秋に向かっているようだ。

「珍しいお客様だな。いらっしゃい藤原」

仕事を終え自宅の門が見えると同時、まだまだコイツと一緒にいますとにこやかに話していたハチロクが、主人を待って大人しく眠っていた。

Dの活動が終わって一年。今までずっと共に過ごしていた時間がウソのようになくなり、渋川と高崎はそんなに遠くないはずなのに、お互いの道が決まってからは本当に顔を合わせていなかった。およそサーキットで見掛けた藤原を啓介が連れて帰ったのだろうと思っていた涼介の耳に、藤原の声と一緒に可愛らしい声が届いた。

「おかえりなさい涼介さん。お久し振りです。えっと、お邪魔してます」
「ははっ、挨拶がいっぱいだな藤原。元気だったか」
「おかえりお兄ちゃん」
「ただいま。何やってたんだ?仲良くふたりして」

どうやらサーキットで見掛けたのは妹の方だったらしく、今夜の予定のないこのルーキーラリーストを夕飯に誘ったのだという。話を聞いていると、シャワー上がりの啓介がやってきた。

「あれ、アニキおかえり。すげェな、オレたちが揃うのって」
「久し振りに拓海くんに会えて嬉しくって。つい捕まえちゃったの」
「はい。捕まっちゃいました」

何だろうか。他の男が妹と話している姿は見るに堪えず面白くないというのに、藤原といるとその逆でなんとも微笑ましい画になる。まあ、藤原も既に家族同然だからだろうな。オレにとっては弟がひとり増えた感覚に近い。そのふたりの手元から美味しそうな香りがしてきたので覗きこんでみた。

「後ろに何もついていなくて、きつね色になっていたらひっくり返しますよ」
「む…意外と難しい」
「一旦お皿にあけて、今度は焼いてない方を下になるようにフライパンをかぶせて、お皿をひっくり返すんです」
「それってけっこう高度じゃね?藤原」
「フライ返しを使うより仕上がりがキレイなんですよ」
「おりゃっ!できたぁ!」
「「おぉ〜」」

ひっくり返したときに伝わる、バターとたまごの優しい香り。小さめのフライパンを使って、オムレツを作っているようだ。

「今日は塩コショウで味付けしましたけど、砂糖使ったらもっとふわふわで甘くて超美味いですよ」
「わ、それいい!今度やってみるね」
「なあ、コレ弱火でいいのか?」
「はい。あ、フタしといて下さい啓介さん。蒸し焼きにします」

リビングでジャケットとネクタイを外しながら妹と弟たちの会話を聞き、にこりと口角が上がる。どれ、自分も手伝おうかと向かった。

「お兄ちゃん、みんなのお皿出してくれる?オムレツが出来たらすぐごはんだよ」
「ああ。楽しみだな、そのオムレツ」

肉じゃがと、おからとひじきの和え物。豆腐とワカメのお味噌汁。そして、黄色くて真ん丸に焼き上がった、ケーキのようなオムレツ。四人揃って、いただきます。

「ものすごいふわふわだな、何入れたんだ?生クリームか」
「えへへ、何だと思う?」
「あ!オレわかっちゃったぜー」
「内緒ですよ啓介さん」

噛まなくても、ほろほろと溶ける柔らかさ。胡椒が少しだけピリリとして、バターの風味が鼻から抜ける。ほのかに、


「……豆腐」
「お、あたりです涼介さん。絹ごしです」
「拓海くんに教えてもらったの。すっごく美味しい!ありがとね!」

食欲の秋、一歩手前。賑やかな高崎家の食卓。


>>2013/09/19 (Thu)
>>12:54

兄妹
『street of fire』


「今週末の夜、空けておいてくれないか」

部屋でのんびりゴロゴロしていた初春のある日。陽射しが暖かくなり、柔らかいブランケットが恋人になりつつある、そんな時。

「週末…何かあったっけ…」

涼介からの問いにスケジュールを開く。開幕戦はまだ先で、研究所に特に用事もないオフな週末のようだ。

「やっと、これで始まる気がするよ」

予定がないと兄に伝える。そうかと呟いた彼は、何に対してか皆目わからない言葉を言う。その顔に、うれしい、という感情を素直に乗せて。

「お兄ちゃん、なんか楽しそう」
「誘ったオレの判断は間違いじゃなかった」

そう、確信、してもいいだろう。
アイツから、声をかけてくれたんだ。何かを決心したに違いない。

「忙しくなるぞ、春から」
「その日は赤城でいいの?」
「藤原が決めた場所だからな。見に来てくれるか?」
「もちろん!」

***************

>>2013/09/25 (Wed)
>>18:31

姉弟
『たまごのような』


なんだろう、同じ石鹸を使っているはずなのに。こんなにも甘い、鼻をくすぐる香りに感じるのは、姉の、女性特有のフェロモンのためかと啓介はひとり悶々と思っていた。

風呂の扉が開く音がして向かえば、バスタオルを身体に巻き、フェイスタオルで髪を包み、柔らかい湯気を纏わせた姉の姿。柔らかいのは湯気だけでなく、バスタオルの上からは姉のボディラインが柔らかな曲線を浮かべている。普段は幼く見える姉の魅惑的なギャップを知るのは、自分と、兄だけだ。

「やっば、今日日焼けしてる」

その姿のまま、ドレッシングルームの鏡を見ながら顔に触れる。陽射しを浴びて、どうやら鼻の頭が赤くなっているようだ。常備してある化粧水で、風呂上がりの潤いが逃げてしまわないよう塞ぎ込むため念入りにパッティングをしている。心地良いのか、目を閉じて深呼吸。

「アネキ、上がった?」
「あー、うん、もうちょっと待って」

あたかも今ここに来たように振る舞い、姉の様子を再び見つめる。と、

「……啓ちゃん、ずっとそこにいたでしょ」
「あれ、バレてた?」
「気配でわかるんだから」

身体に巻いたバスタオルを胸元へぐっと上げ、オレを睨むように牽制する。甘い香りにそそられ、火照った桃色の肌から見える胸元と細い脚線に喉がごくりと鳴る。無防備なすっぴんで、かわいく睨まれても、オレを煽るだけだぜ、アネキ。

「着ねェの?パジャマ」
「……うわ、部屋に置いてきちゃった…」

濡れて少し波打っている髪をいじりながら、しまったという顔。仕方がないのでバスタオルを巻いたまま階段を上がろうとすると。

「啓ちゃん上見ちゃダメ!絶対見ないで!っていうかなんで着いてくるの!?」
「や、だってオレも部屋に用あるし」
「あとから階段のぼってよ!やだっ、こっち見ないで!」

悩殺もいいところ。アネキに黙って上を見れば、丸くてかわいい小尻が恥ずかしそうに見え隠れ。ンなん見せられちゃ、張りのあるその肌に触れたくなるのは当然の衝動だ。

「おっじゃましまーす」
「だからなんで着いてくるの!」
「言ったじゃん、部屋に用あるって」
「それは自室のことでしょう!?早く行ってよう!」
「オレはオレの用済ませるから、アネキはどーぞ着替えでもなんでもしちゃってよ」
「ッ…!お兄ちゃぁあん!啓ちゃんがぁ!」
「いねェよアニキ。アネキが風呂んとき出てった」
「(くっ…頼みの綱が…!)」

クロゼットの扉に背を預け、未だ巻いているバスタオルをぎゅっと掴む。オレは、ふわふわのタオルの下にあるふわふわの肌に触れたくてたまらない。アニキに助けてもらおうとしたって無駄だぜ。こんなかわいい姿のアネキを見たら、絶対ェアニキもオレと一緒だって。

あー、もうダメ。

濡れた黒髪も色っぽいし、すっぴんかわいいし、怯えてる泳いだ目とか、恥ずかしそうな赤い頬とか、たまんねェってば。

「オレの用事、済ませちゃお」

ピンクに咲いた、風呂上がりのあったかい肌に触れたとき、ぱさり、ふわふわのバスタオルがいよいよ解かれた。

***************

>>2013/09/25 (Wed)
>>22:18

豪と真ん中
『どこが好きかと聞かれたら』


ふとしたときの手の仕草とか、身長差ゆえに見える伏せた瞳とか、聞こえる澄んだ声とか。

(深みに落ちる…そんな感じか)

富士の国際Bコースで開催されているアマチュア主催のお遊びレース。馴染みの連中が参加するというので自分も誘われ行ってみれば、想い焦がれる声がした。惚れた弱み、恋は盲目。自分は決してロマンチストではないはずだが、アイツを見るとまわりの轟音すらまるで聞こえず、可愛らしい声だけが際立ち耳に届く。

(ガキみてェだ…)

チームカラーの派手なメカニックスーツは今日は着ていない。普段用なのか、デニム地のスーツの上半身を腰で結び、黒い半袖インナーを着ている。暑い夏の間着ていたスーツが陽射しから肌を守っていたため、彼女の白肌が目に眩しい。自分から少し離れた、とあるグループと談笑中の彼女。自分以外の輩と楽しく話す様子に苛つく。たからものを奪われた子供のように。

(面白くねェ)

午前の役目を終え、まだ少し熱を持ったNSXに背中を預けて彼女を見ていた。今は午後までの繋ぎの時間でほとんどが休憩に出払っているが、熱心なヤツが多くまだコースを走る車が数台いる。

(昼飯どーすっかな。アイツ誘って、どっか行こうか)

コーヒー片手に、深紅をなぞる。

「考えすぎるのは柄に合わないんじゃないのか?北条弟」
「あら、来てたんですか皆川サン」
「ふん、白々しい」
「午前のトップ、おめでとうゴザイマス」
「随分仲が良さそうだな」
「…ああ、大宮サンのチームですよね、あれ」
「行かなくていいのか」
「行きますよ、取られちゃイヤですもん」
「もう遅かったりしてな」
「それマジ勘弁」

他人に言われて動くなんてと思われたらカッコ悪ィから言っておくが、別に皆川サンに言われたからじゃない。行こうとしたタイミングがそれと被っただけだ。後ろでにやりと笑う皆川サンに会釈代わりに手を上げて、オレは愛しのきみの元へ。

「昼飯、一緒に行かねェ?」

悪ィな、チーム246。先約があろうが無視だ。ほら、こっちを見上げたきみの瞳には、オレしか映ってない。

きみのどんな姿もどんなところも好きだけど、やっぱ、オレを見て笑ってくれるこの瞳が、一番好きだ。

***************

>>2013/10/15 (Tue)
>>16:41

真ん中と鉄板ファイブ
26000hit御礼『紅葉』

「もみじ狩り?」
『ああ、こっちへ来ないか?』
「ん…でも、観光のお客さんでいっぱいになりそう…」
『平日で、時間帯をズラせば大丈夫だ。夕方以降、客は随分少なくなるからな』
「地元の京一さんがそう仰るなら、間違いなさそうですね」
『迎えに行こうか』
「いえ、自分で行きますよ。夕方に行くなら、そのまま夜に走ることも出来ますよね?」
『ふっ、そういうことなら付き合うぞ。久し振りにオレと一戦やるか』
「う…ちゃんと手加減してくれます?京一さん」
『惚れた女は本気で落とす。それがオレの流儀だ』
「…ことばの使い方、なんか間違ってませんか…?」
『気を付けて来いよ。可愛がってやるから』

*****************

「きれーい…」
「足元、気を付けろよ」
「ふふっ、踏むと音がさくさく鳴るね」
「こんなに見頃になっているとは、知らなかったな」
「ね、お兄ちゃん!赤城神社!橋まで行こう?」
「ああ、こら、走ると滑るぞ。…言わんこっちゃねェな」
「……ったー…」
「落ち葉が重なってるところは乾いていない水分が溜まっているから滑りやすいんだ。ほら、手貸せよ」
「うぅ…擦りむいた…」
「どこ…ああ、ヒザか。ははっ、子供みたいだな」
「言わないでよ…自分がいちばんわかってるんだから」
「なら、『子供』のままでいろよ?…っと」
「わああ!おにいちゃん!わた、わたし今日ミニスカ!おーろーしーてー!」
「肌出してるから擦りむくんだ。一旦FCに戻るぞ。たっぷり消毒してやる」
「え…、ま、マキロン、やだよ。しみるもの…」
「…そんな脚を見せやがって…コッチの気も考えろ。舐めたくて仕方ねェんだよオレは」
「し、消毒、って、ちょ、お兄ちゃん…?!」

*****************

『おれんじ、きいろ、あか、みどり』
『ねーちゃ、どのいろがすきー?けいねー、けいねー、あか!』
『うん!わたしもあか!ねえね、あのはっぱ、けいちゃんのおててといっしょだね!ぱー、のかたちだね!』
『きれーだねー、ねーちゃ!』
『ねー!』

「……もうしわけ、ありませんでした。お姉さま」
「……ゆるさないもん」
「ふか、不可抗力です」
「そんなの、言い訳でしょ」
「だってよ…ッ!好きなオンナが自分の助手席に座ってるってだけで嬉しくて落ち着かなくて興奮すんのに、そんな、安心しきって寝顔なんて見せられたら誰だって襲いたくなっテェエエエ!!」
「……啓介、サイッテー」
「あ、アネキが可愛すぎんのが悪ィんだ!」
「もう一枚、『紅いもみじ』追加する?啓ちゃん、好きだよねェ?」
(やっべ、マジやべェ!!)

*****************

「ん……ご、う…?」
「起きたか?」
「……、ッッ!わたし、やだ…!」
「なんだよ、どうした?」
「…み、み……なぃ、で」
「どうしたんだよ、コッチ向けよ」
「だ、って…、その、えっ、と」
「(照れやがって…かわいい…)そのまま顔、上げてみな」
「え……、わあ!きれい…」
「群馬もいいけど、箱根の色付きもイイもんだろ?」
「すごーい…お部屋から紅葉なんて贅沢だよ…」
「…オレには、コッチのが贅沢、かな」
「んッ!や、ぁ…豪っ、んん…っ」
「きれいだよ、紅葉なんかより、お前の方が」

*****************

「うらやましすぎるんだけど」
「何がですか?」
「なんでこんなに伊香保が近いのよ拓海くんちって」
「はあ、なんでと言われても」
「もみじ狩りの名所・伊香保!名湯・伊香保!そこまで歩いて行けるのよ?しかも通学路ですって?『伊香保温泉で育ちました』って言ってみたいわ私も!」
「はあ」
「拓海くんのお肌、お豆腐のパワーだけじゃなくて温泉の恩恵もあるのよね、絶対」
「ああ…確かウチの湯、親父の知り合いんちの源泉から引っ張ってきてるらしくて」
「なんですってー!?ますますうやらましい!」
「……あの、」
「うん?」
「…え、っと、今から、ウチ、来ませんか…?」
「え、今から?」
「今日、涼介さんも啓介さんも、帰りが遅いって、言ってましたよね…?まだ、一緒に、いられるなら、その、えっと、ふ、風呂、入りませんか…?」
「お湯、お借りしていいの?でも、文太さんいらっしゃるんじゃ…?」
「親父、夕方から寄合で不在なんです。だから、その…い、いっしょに…一緒に、入って下さい…っ!」
「は、はいっ!」

**************

>>2013/10/26 (Sat)
>>19:01

豪と真ん中
『イタズラな風』

ふわ、

というより、

ぶわっ、

と突然の風が過ぎ去ったとき

「きゃっ…!」

鉄網の溝蓋から舞い上がる風でワンピースが捲れた女優のように。

と言えるくらいならまだかわいいものだ。

早朝に暴風域を過ぎた台風は、置き土産のように風を持って帰るのを忘れたらしい。曇り空から時折見える太陽の光。気を緩め、軽装で来たことを後悔した。台風の忘れ物は、まるで傘が受け皿のようにひっくり返るかの如く、私のスカートを捲り上げた。何故に私はサーキットへこんな恰好で来てしまったのか。いくらオフだからとは言え、動きにくく見た目重視のコーディネートにしたのには理由がある。

「『たまにはかわいい恰好で来い』って…アイツ絶対狙ってて言ったでしょー!」

GTは休みであるが、各イベント目白押しなFSWの週末。台風が過ぎてよかった、などの声が聞こえるゲート前で待ち人中。遊びに行こうぜと誘ってきたNA1のドライバーは、まだ到着していない。富士=つなぎ=かわいらしさ皆無、がお約束な自分。彼からの言葉にちょっと嬉しくなって、お洋服選びについ張り切ってしまったことは絶対に言ってやらない。

「……あーもー…どうしてくれんだよ」

ゲート手前でパーキングに入らずまごまごしているのはNA1、フォーミュラレッドのNSX。

そりゃあよ、かわいい恰好で、って言ったよ。確かに言ったさ。メールに履歴も残ってるよ。

「……くっそ、見ちまったよ、ばかやろ」

こんな日にスカート着てくるな、ホントばかだろお前。

「あー…やべ…、チェックかー…」

ばっちりしっかり見てしまった。今、顔が赤くてからだが熱くて治まらない。ひんやりした手で鎮めようと目のまわりを覆ったら、目蓋の裏には彼女の可愛くて丸いヒップがちらつく。

「……どうするよNSX、オレこのままフツーにできっかな…」

『とりあえず早くゲートくぐったら?』

ハザードを出して路肩に停めた愛車から、声が聞こえてきた気がした。

「富士でこの恰好は落ち着かないけど…なんか私おかしい?へん?」
「……いや、べつに、」
「さっきから豪、ちらちら見すぎ。なに?」
「…スカート、さ」
「うん」
「……やっぱいいや」
「はァ?」

***************

>>2013/11/03 (Sun)
>>02:09

『テンペスト』その後の高橋家


「おかえり、ふたりとも」
「あースッキリしたぜ」
「ただいまお兄ちゃん。解決してホッとしたよー」

いざ行かん定峰峠、と、ニセ者退治のため姉弟で乗り合わせたFDが眠りについたのは午前2時。あのあと埼玉で渉らと語っていたら結構な時間となっていて、それから群馬に向かったら帰宅は案の定この時刻。迎える兄は心配していたのか作業のためか起きていた。

「『穏便に』済んだんだろうな啓介」
「ち、疑ってんのかよアニキ。電話で史浩が言った通りだよ」
「私も居合わせたから間違いないよ、お兄ちゃん」
「つーかアネキのが酷いんじゃね?全然穏便じゃねェし」
「なんでよ!」
「アイツら絶対ェしばらく廃人だぜ」
「そこまで酷く言ってないでしょう?!」
「……何があった」
「ま、オレにしてみりゃ『啓ちゃん大好きっ!』って言われて超うれしかったけどな」
「…なんだと?」
「い、言ってない!」
「えっとなアニキ!アネキがー」
「けーちゃぁん!?」

『ところでそこのヒョロいの。アンタが私の弟ですって?バカにしてんの?』
『しっしてないです!むしろすっげェ尊敬して…!』
『はァ?尊敬してるヤツには見えないけど。人を騙してたんだもんね、ケイスケを名乗って一体どれだけ女の子を引っ掛けたのかしら。その子たちもかわいそうだわぁ、高橋啓介がこんなブサイクだなんてさぞや幻滅したでしょうね。オレってば超イケてんじゃん?とか有頂天になって楽しかった?ケイスケさん?』
『ぐッ…!』
『安っぽいのよアンタ。見た目も空気も全ッ然ダメ。存在感なんてありゃしないわ。啓介はね、いつもキラキラしてるの。そこにいるだけで仲間が集まってくるカリスマ性、まわりを引っ張る統率力、あの子の笑顔はみんなを明るくしてくれるし、そばにいるときはものすごく安心するの。女の子には一途だし、ずっと大事に想ってくれるわ。高橋啓介はそういう男よ。』

「って!オレ、アネキにそんなふうに想われてたんだぁってマジうれしくって!」
「やだもうなんで覚えてるのよ啓ちゃん!」
「(…ッち、どこかにオレのニセ者はいねェのかよ)」←面白くない

*****************

>>2013/11/13 (Wed)
>>13:02

『田宮模型にて』

※真ん中。お相手はラストまでナイショ


(さすがにない、っか…)

とは言っても、各社歴代の数々のマシンがショーケースで眠っている姿を見ると、どこかに潜んでいてまだ見つけていないだけなのではと思ってしまう。

「相棒見つかったか?」
「んーん…。ね、もうちょっとここにいていい?探してみる」
「いいぜ。オレは下のRCのところにいるな。あとでココ来るから」

田宮模型店プラモデルフロア。ショーケースに並ぶ小さな模型から自分の愛車の初代ランエボを探していたけれど、残念ながらどうやらなさそうだ。SUPER GTのライバルたち、もちろん自チームのマシンもあるのだが。

(あ、フィガロ見つけた…でもラピスグレイか、うーん…)

一時間ほどモデルたちを眺めていた。実際に動いている姿を何台も見ている車がこうしてかわいいサイズになると、気に入ったものを全部揃えてしまいたくなる。青みがかったラピスグレイのフィガロ。トパーズミストがないのが惜しい。

(わ、すごい、SAがある…でもFCとFDがないな…。トレノ前期と、渉くんレビン、皆川さん、凛さん、赤いZ…はロードスターか。京一さんがいるのにどうして初代がいないのよ、もう)

国内と海外ディーラーがそれぞれきれいに隔ててあるショーケースを順番に見る。もう一度、三菱を見てみたけれどやはりいないようだ。そうとわかれば次は自然と、みんなのマシンを探してしまう。

(あ…)

見つけた途端、やさしく目を細めふんわりと微笑む。至極、愛しい想いが膨らんだ。

いつもとなりに乗せてもらっている彼の相棒。おかしなもので、こんなに小さなプラモデルの助手席にあたかも自分が乗っているように錯覚する。改めて見れば、なんて秀逸なデザインなのだろうか。あ、黄色もある。ホンダの黄色って元気な色だなあと、目の前のコンバーチブル、タイプTを手に乗せた。

「それ違うじゃん。オレはこっち」

ぽん、と赤いタイプRと差し替えられた。

「なに、見惚れてんの」
「え?」
「コイツ見てたろ。ニヤニヤかわいい顔して」
「に、ニヤニヤは余計」
「もっといいやつ乗ってんじゃん、ホンモノ」
「あのやんちゃな暴れん坊?」
「オレには従順なの」
「……助手席」
「ん?」
「いつも乗せてくれてありがと」
「どうした、素直になって」
「素直になっちゃだめ?」
「いや、いいと思う」

「…」
「…」

「…なんで顔赤くなってるの」
「お前だって」

「…」
「…」

「…素直なキミにプレゼントがあります」
「なあに?」
「チームロータスF1のキャップ。しかもクラシックモデr「ありがとう豪だいすき!!!」……お前ねェ」

(来季絶対、応援なんかしてやんねェからな、ライコネンめ)

****************

>>2013/11/21 (Thu)
>>21:04

『騎士の白手袋の如く』

10月9日365『好きな色はなんですか?』続編、姉弟


「高橋さんこんにちはー!いらっしゃいませ!」
「こんにちは、お葉書ありがとうございます」

11月から12月にかけてブランドフェアを開催していますと、馴染みのショップから葉書が届いた。もうすぐクリスマス。次は年末年始。イベントが多いシーズンに合わせ、冬服を慎重しようとやってきた。

のだが。
つい先ほど。

「アネキ、出かけんの?」
「あ、う、うん。ちょっとね」

玄関で靴を選んでいたら、物音に気付いた啓介が覗いてきた。とある理由があって、ひとりで行こうとしていたのに。

「なぁんだよ久しぶりじゃね?そのワンピース。買い物?」
「なんでこのワンピースだと買い物になるの」
「だってアネキ、そのブランドの店行くときいっつもそこの服着るじゃん」

するどい。

「オレもいーこうっと。着替えてくるからFDんとこで待ってて」
「えっ!行くの?啓ちゃん」

ご機嫌な鼻歌と一緒に部屋へ向かう啓介。しょうがない、上手く誤魔化すかと諦めた。

「ワンピースがお好きな高橋さんに、見せたい新作があるんです」
「あ、オレ見たい見たい」
「もー、啓ちゃんたら」
「パーカの着こなしお上手ですね。さすが啓介さん!」

着替えてくると言った啓介は、どうやら服のブランドを私とお揃いにしたかったらしい。馬を駆る騎士のマークが胸元にあるカレッジパーカ。キャメルジャケットの襟元からそのフードを出し、ボトムはバーガンディレッドのチノパン。でも待って、そのジャケット、見覚えが。

「またお兄ちゃんの勝手に着たでしょ」
「だってオレここのジャケット持たねーもん」
「メンズに啓介さん好みの秋冬ジャケットの新作が届いてると思いますよ。あとで行ってみられてはいかがでしょう」

いつもお相手をしてくれる店長さんにワンピースを見せてもらいながら、お互いの着こなしや最近のことなどお話していた。うん、このままだと何事もなくお買い物が決まって、何事もなく家に帰れそう。

「赤とベージュ、どちらにしましょうか」
「えー!形がかわいいからどっちも迷う!」

胸下で切替のフィット&フレア。半袖キャップスリーブ。斜めに入ったお馴染みのチェック柄。自分のツボすぎて困ってしまった。

「どんな色でも着こなしお上手ですもんねー。このあいだ着てらしたマスタードのニットもすっごくお似合いでしたよ!」
「このあいだ?最近来たの、アネキ」

……まずい

「いつもご兄弟といらっしゃるのに、このあいだは別の方とご一緒で。あのあとスタッフたちと盛り上がってたんですよ、素敵な方だったからまさか彼氏さん!?て」「わあああ!て、店長さんっ、しーッ!」
「へー…?」

『いつもどこで服選んでんの?』
あの、初めてのデートのとき。お夕飯をどこにしようかと館内のフロアマップを見ていたら、豪が言った。ちょうどそこは馴染みのショップが入っている場所だったのでディナーの前に立ち寄り、これまたちょうど馴染みの店長さんがいらしたので一緒にお話をしていたのだ。(まだ恥ずかしくて、豪が恋人だとは言えなかったのだけど)

のが、いけなかった。
だから今日はひとりで買い物に行きたかったのに…!

「アネキ、赤、着てみてよ」
「う、うん!」

ちょっとたじたじになって、店長さんに試着室へ案内される。出過ぎてしまってすみませんと、店長さんの小さな声で耳打ちされた。大丈夫ですよと苦し紛れに応え、扉が閉められる。

(まだ、認めてくれないのかなあ、豪とのこと)

少し悲しくなりながら、啓介が選んだ赤に袖を通す。サイズぴったり。着丈もばっちり。

「着たよー」
「おー、いいじゃん」
「お似合いです!クリスマスも近いですし、やっぱり赤がいいかもしれませんね!」
「じゃ、これギフト包装でよろしく」
「え、啓ちゃん…?」
「いつもお仕事頑張ってらっしゃるお姉様へプレゼントですって!お包みの準備して参りますね!」

私が試着している間、外で何を話していたのだろう。店長さんがうきうきな笑顔で離れていった。

「なんで?え?クリスマスのプレゼントってこと?」
「そうじゃねェよ、それはまた別」

赤はアイツの色だろう。可愛らしく似合う赤を『オレが』贈ったと知ったら、アイツはどんな悔しい顔をするかな。

(これは牽制だぜ、北条豪。アネキとデートなんかさせっかよ!)

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>>2013/12/02 (Mon)
>>20:13

姉弟
『やけど』

今日は何の予定もない、完全にフリーの日だった。朝からゆったり自由に過ごしていたら、昼の番組で紹介しているレシピを観ながら弟が言った。

『アネキ、唐揚げ作って!』

外気温は下がり、庭に面した窓ガラスには結露のしずく。冬の装いになった私たち。リビングのホットカーペットの上でブランケットに包まった啓介。彼もまた、今日は何の予定のない日。

そうと決まれば買い物に行かなければ。今日は両親ともに夜勤のため先ほど病院へ出向いていった。兄も今は大学で夜には帰ってくる。食卓を彩る一品に決定だ。曇天の空、兄妹弟で柄違いの揃いで買ったフリースパーカを羽織り、FDが向かうはスーパーマーケット。鶏ムネ肉その他をカゴに入れ、事前に母に頼まれていた食材たちも買い込んだ。カートを引く啓介はふと、自分のとなりで真剣に物色している姉を見下ろす。

「…結婚したらこんなカンジなんかな」
「んー?なあに啓ちゃん」

なんでもないよと応えておいた。兄に内緒の小さな幸せは、自分だけのもの。

いつの間にカゴに入れたのか、レジで漸く気付いたトミカのチョコエッグを帰宅した直後に開封した啓介。パキパキと音を立てチョコをかじりながら、食材をキッチンに並べる姉のそばへ。

「なんだったの?」
「赤のエイト」
「あら、兄弟ね」

エプロンを巻いて、腕まくり。鶏肉の下拵えから始めよう。

「オレも手伝うー」
「啓ちゃんのリクエストだもん、手伝ってくれなきゃお姉ちゃん怒るよ」

ロングスリーブの袖を肘までたくしあげ、姉へにっこり笑いかける。揃ってキッチンへ並び、夕食の支度。その様子は、およそ姉弟とは見え難いほど仲睦まじい。

「アネキッ!」

さあ揚げるぞと肉を投入した際に揚げ鍋から油の攻撃を受けた。鶏肉の汁が跳ね上がり、油とケンカしたようだ。そのとばっちりが、火の番をしている姉の手の甲に直撃。すぐに鍋から遠ざかり、蛇口を開けた。

「ッつー…痛ぁ…」
「大丈夫かよ、ちょっと見せてみ」

水で冷やされた手の甲には、赤々とした斑点がいくつも。ヒリヒリと熱を持ち、姉は顔をしかめる。

「火は、ああ、止めたのか。続きはオレがやるから、アネキは休んでて」
「大丈夫だよ、これくらい」
「痛ェんだろ、軟膏とってくるから待ってな」
「でも…リクエストだし…」
「あーねき、オレに任せて」
「…ありがと、啓ちゃん」

一緒に過ごす冬の昼下がり。一緒に買い物したスーパーマーケット。一緒に並んだキッチン。食べたいメニューをリクエストして、ふたりで作る愛しい時間。

「…はやく、オレだけのものになってくんねェかな」

ぽそり溢した独り言。リビングの薬箱から丸いケースを取り出した啓介の表情は、慈しみに満ちていた。

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>>2013/12/06 (Fri)
>>20:29

『ポニーテール』

高橋姉弟と秋山兄妹


「いいなあ、ポニーテール」
「しないんですか?」
「上のほうで縛りたいんだけど、なかなかむずかしくて。ふわふわのしっぽみたいでかわいいよね、和美ちゃんの」
「ボブくらいなら出来ると思うけどなあ。結ってあげましょうか?」
「わあ本当に?私ポーチにヘアゴムとピンあるよ、じゃあお願いしようかな」

「あれ、和美どこ行った」
「アネキ連れてどっか行ったぜ。トイレじゃね?てか渉どんだけ盛ってんだよサラダ」
「モト取らねェとどーすんだ」
「啓ちゃん渉くん、みてみてー。和美ちゃんとお揃いにしてもらったのー」
「下で縛るより断然かわいいですって」
「ちっちぇェしっぽだな、ちょんまげみてェ」
「ひどッ!ちょんまげはないでしょう渉くん」
「アネキ、ちょっとこっち」
「なあに」
「襟足に後れ毛。ピン挿すから動くなよ」
「はーい」
「よし、いいぜ。せっかく結ってもらったんなら今日はずっとそれでいろよ、かわいいから」

(さり気なくシスコンかましやがった)
(どうしてもカップルにしか見えないんだけど)

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>>2013/12/10 (Tue)
>>17:55

『晴れたる青空、ただよう雲よ』

豪さん×真ん中、お付き合いしてます。GT年間スケジュールが終わった冬のデートにて。


「豪、何にする?ごちそうしてあげる」
「気前いいのな」
「車出してくれたお礼」
「そんじゃ、キャラメルマキアート。ホットのショート」
「それとソイラテのショート、ホットでお願いします」

クルーに赤いランプの下で、と言われた場所でしばし待つ、コーヒーショップ。行き先を決めず、何の予定も立てずにただ走らせた。研究所に程近い御殿場で豪に拾ってもらった赤いNSXは、併設パーキングの緑たちに囲まれて一際目立っている。

「クリスマスみたい」
「なにが」
「きみの相棒」
「アイツはソリかよ」
「じゃあ豪はサンタさんだ」
「どうせならオレはお前のサンタが見たい」
「…?」
「ふわふわのミニスカサンタ、『プレゼントは私』とかさ」
「〜〜ば…ッか豪!」
「よし、このあと買い物な。コスプレ衣装見に」
「御殿場へ帰して下さるかしら北条さん」
「GTが終わってようやくお前に逢えたんだ、簡単に帰すかよアホ」
「う…」
「今までお前に構ってもらえなかった分、甘えるからオレ」
「な、なにをしだすの」
「とりあえず本屋でガイドブック見るか。泊まりでどっか行こうぜ。…ふたりで、な?」

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>>2013/12/13 (Fri)
>>21:00

33333hitありがとうございます!

冬をテーマにプチお題


『北風と兄妹弟』

「さっぶい!風つよっ!」
「ふっ飛ばされんなよー」
「いくら私が小さくても飛ばされはしないわよ啓ちゃん」
「ははっ、風に飛ばされたら捕まえてやるさ」
「お兄ちゃん、風船みたいに言わないで…、そうだ!」
「うん?」
「どしたのアネキ、後ろに隠れて」
「す、スリップストリーム…」
「……ああ、空気抵抗か」
「ったく、オレたちを風よけにしやがって」
「…守ってくれないの?啓ちゃん…」←後ろからぎゅ&うるうる瞳&上目
「う…ッ」←たじたじ&赤面&ムラァ
「啓介はダメだ。くっつくならオレにしとけ」←眉間にシワ&前からぎゅ
「わっ、お兄ちゃん、これじゃ歩けないよ」
「あー!アニキずっり!独り占め反対!」
「ケンカするなら…、えいっ」
「…結局元通り、か」←独り占めしたかった
「やっぱアネキはココなんだよなー」←右腕が胸に当たってる&ムラムラ
「ふたりの真ん中じゃなきゃ落ち着かないみたい。ずっとココにいさせてね?」

******

『冷たい耳とあったかい手』

「悪い、遅くなった」
「ほんとにね」
「店ん中で待ってろって言ったのに」
「だって豪が私に気付かずに素通りするかもしれないでしょ?ひゃーあったかーい」
「…気付かないワケねぇじゃんばーか」
「何か言った?」
「なんでも。温度上げてやるよ」
「ごめんね、余計に燃費悪くしちゃうね」
「そんな真っ赤な耳を見せられちゃな。つっめてー」
「えへへ、豪の手あったかいね。両耳挟んでほしいな」
「……このままキス、してもいいならな」

*****

『かさかさお肌にうるおいを』

「お前、香水なんてつけていたか?」
「つけてませんよ?」
「さっきから甘い香りがする」
「あ、たぶんコレです。香り強かったですか?京一さん」
「ハンドクリームか。いや、嫌いじゃない」
「仕事柄、手洗いは常なので、つなぎのポケットにいつも入れてあるんです。特に冬は荒れやすいから」
「の割りに艶々してるじゃないか。細やかに気を配っている証拠だな」
「…だって、かさかさな手の女の子って、イヤでしょう?あかぎれとか、逆剥けとか」
「どんな手をしていても、お前はお前だ。イヤになることはないが…そうだな、艶があって滑らな手だと、ずっと触れていたくなる」
「…さっき、クリーム付けすぎちゃったんです。もらって、くれませんか?京一さん」
「…ああ、いくらでも」

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>>2013/12/25 (Wed)
>>10:50

『あわてんぼうの高橋家』

兄妹弟のクリスマス2013


「お兄ちゃーん、FCもうちょっと右に寄せてー」
「…よし、こんなもんか。フィガロ停められそうだな」
「アニキこっち来てくれ、ここのS字、繋がんねェんだけど」

昨年の群馬県は豪雪だったのに、今日はまるで正反対。空は雪のことを忘れてしまったのではないかと思うほどに澄み切った冬の空。高崎市へ注ぐ陽射しも柔らかく、高橋家のサンルームは暖気に満ちてあたたかい。

クリスマスの兄妹弟は、今年見事に三人の休日が揃った。夜には馴染みのレストランでディナーが待っている。はてさて日中はどうするのか。末弟が思いついたのはこれだった。

「そんなヘアピンは曲がれないぞ啓介。オレたちと違ってドリフト出来ないんだから」
「あ、やっぱり?」
「啓ちゃん、自分が走りたいコース作ったでしょう」
「バレた?ヤツらももっと操作できたらいいのになあ」

それはラジコンだ、と涼介は突っ込む。赤、青、白の三つのレーンが形になっていく。立体交差、バンク、S字、ストレート。自由自在に組み合わせることが出来る、室内用のサーキットコース。ああでもないこうでもないと言いながら、兄妹弟三人分の車を邪魔にならないよう寄せて外へ出した広いガレージ内に、声が響く。

「ッしゃ、コースできた!」
「すぐセッティングに入るぞ、夜に間に合わなくなる」
「ふふっ、お兄ちゃんが言うとプロジェクトDみたいだね」
「『コースに合わせてセッティングを変えて走る』ってのは同じだもんな、コイツらが小さいだけでさ」
「久し振りだからオレも楽しみだよ」
「うっわ懐かし!アニキまだそのピットボックス持ってたのかよ!」
「よーしがんばるぞー。FR乗りには負けないんだから」
「言うじゃんアネキ。実車で何乗ってるかなんてカンケーねぇよ!やっぱかっ飛ばさないとな、オレはレブ重視の超速ギアだぜー!」
「FD乗ってるヤツがコーナーでぶっ飛ばされんなよ」
「わ、お兄ちゃんスタビと大径ローラー?さすが!」
「コーナリングマシンに乗ってるからには華麗にこなすべきだろう?」
「でーきたっ!早く走らせよーぜ!」
「よーしカウントいくy、あ、間違えた。それじゃ!レディー…」
_______________

高崎市内のとあるホテルは、その最上階に高橋家馴染みのレストランを有している。予約した時間は18時だったはずだ。現在、17時。

「っだー!アネキ!もっかい!」
「ふふん、何度やったって私のマシンには敵わないよ啓ちゃーん」
「圧勝か。さすがクルマの構造をよくわかってるな」
「やった、お兄ちゃんに褒めてもらっちゃった。って時間!ヤバいんじゃない?!お片付けしなきゃ!」
「勝ち逃げかよアネキ!ちょ、コースこのままにして帰ったらまたやろーぜ!」
「ガレージ片付けないと父さんたちが入れないだろうが。ここはオレたちに任せて、お前は先に着替えてこいよ」
「え、お片付けやるよ私も」
「ドレスアップしたいんだろ?可愛く変身しておいで」
「ん…ありがとお兄ちゃん」
「…ったくホントにアネキに甘ェのなアニキ」
「お前もだろ」

ガレージを埋めていたコースは分解され、元々しまってあった大きな箱へ次々と入れていく。昔、高橋の祖父に買ってもらった田宮模型製のコースは、小さい頃に遊んだキズを残したままだった。次に遊ぶのはいつになるかと、涼介は少し、寂しく想う。

フィガロを外に残しFCとFDをガレージに収める。今日はこのフィガロで行こうと長女が思いついた。三人にアルコールが入ると、帰りは代行になる。FCは二人乗りだし、FDはまるで啓介仕様のため初めてハンドルを持つ人間は戸惑うだろう。ランエボは今日は神奈川で調整中、消去法で言っても、扱いやすいAT車のフィガロで向かうのが妥当だった。

「って言ってもやっぱり後ろは狭いのよね」
「オレたちはまず乗れないからアネキが乗るしかねーんだよな」
「なにその高身長で脚長宣言。その通りだから文句言う気にもならないけど」
「オレの膝の上、空いてるぜ」
「お兄ちゃん、わたしまだ警察署に行きたくないよ」

どうせホテルの室内は暑いからと、啓介はコットンのシャツにグレンチェックのジレ。バーミリオンレッドのゆるっとしたトラウザーパンツをスタイリッシュに着こなす弟はさすが、その身長が成せる技だと姉は思う。

兄は誰よりも青が似合うと妹は思う。キャメルのショールカラージャケットに合わせたリブタートルは、峠の夕空のようなミッドナイトブルー。ヒゲ加工されたビンテージブラックデニムの細いシルエットは、彼の長い脚を際立たせた。

「お待ちしておりました、お嬢様方」
「っふーギッリギリ!間に合ったな!」
「わ、5分前だよ。啓ちゃんさすがだね、運転」
「信号も調子よかったからな、路面も乾いてたし」
「御三方が揃ってのクリスマスになって本当に良かったです。さ、こちらへ」

昔から面倒を見てくれているホテルの支配人さんに続いてレストランヘ。向かう途中に通った中庭がライトアップされていた。ホテル内なのにまるで外を歩いているような造りの石畳に、履いているブーティのヒールが取られそうになる。

「ほら」
「手ェ貸して」

ほぼ同時。自分の両隣から差し出されたふたりの手。出した本人たちは、睨み合っていた。

「ありがとう!」

右手を涼介の左手へ。左手を啓介の右手へ。迷わず繋いだ、ふたつの大きな掌。ゆっくり歩く姿に幼少の兄妹弟を思い出し、支配人は微笑んだ。お預かりしましょう、と着ていたファーコートを脱いだとき、すかさず啓介がエスコートにまわる。ち、と頭の上あたりで舌打ちが聞こえた。

「あとで覚えてろよ啓介」
「えーオレ知ーらね」

アネキはココ、と真ん中の席へ通された。腰を下ろしたときにすかさず、今度は涼介が。

「今日はまた、一段と大人っぽいな」

背中を屈め、白い頬にキスをひとつ。
白のシフォンブラウスは腕を華奢に見せてくれる七分袖。ジャガード織りのタイトミニスカートは優しいベビーピンク。ブラウスとスカートのドッキングワンピースには、黒のヒールブーティで可愛らしさを引き締めた。胸元と指先にはもちろん、去年ふたりから贈られたジュエリーを。

「アニキずっり」
「エスコートを取りやがった仕返しだ」
「ふふっ、ケンカしないで」

シャンパンが注がれ、ふ、と照明がほのかに落とされる。街の星たちとピアノが奏でるクリスマスソングが、仲良し兄妹弟をやさしく包んだ。


ふたりの間でふんわり笑う彼女の笑顔が、兄弟への何よりの贈り物。

来年もまたいろんなことがあるけれど、オレたちなら大丈夫。

幸せになろうな。


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