フィガロ


「絶対に黄色」

「白だ」


家に帰ると、リビングで兄と弟が何やら話し合っていた。


「アネキはハデな色が似合うんだよ」

「清楚なあきらには白が一番だ」

「…何なのよ二人して」

「アネキのフィガロだよ」

「オレたちがあきらにぴったりのボディカラーを見つけてやる」

「だからさっきから黄色だの白だの言ってるの?でもそれ、」

「「オレと同じだな」」


…呆れた。

ガレージに、自分と同じ色を並べたいのだ、この兄弟は。




あきらはフィガロに憧れていた。

数年前、涼介とのドライブの最中にすれ違い、一目で気に入ってしまった。

1991年に日産が発売した、2万台限定の2WD、フィガロ。

モーツァルト『フィガロの結婚』と同名で、『恋人のデート』をイメージして作られたそれは、マーチの原型。丸いボディやテールランプは、今のマーチが受け継いでいる。

限定車なため、手に入れるのは中々困難であるが、涼介の繋がりによって、手に入ることになったのだ。

だが、その中で、妹は何色のボディカラーを選ぶのか。兄と弟は気になって仕方がない。

自分のRX-7と同じ色を選んでほしい。

同じ色を、傍に置いておきたい。

愛するあきらに、自分と同じ色を選んでもらうため、 推しに推した説得をしているのだ。



「アネキってビビッドカラー好きじゃん?クローゼットん中もハデだしよ」

(見たのか)

「近い将来、あきらに似合う白いドレスを選びたい。その練習を今からさせてくれないか?」

(それウェディングだよね何か間違ってるよね)

「あのね二人とも、盛り上がってるところ悪いんだけど」

「アネキのフィガロ、オレたちも楽しみなんだよ」

「だから協力させてくれないか?あきらの大事なフィガロのために」

「お兄ちゃん、啓ちゃん…」

…嬉しいけど




「ごめん、二人の気持ちには応えられないの」

「…ッ!」

「…理由を聞かせてくれるか?」

(う…めんどくさい…)


「…啓ちゃん、フィガロに黄色はないのよ」

「…え、そ、うなのか…?」

「お兄ちゃんの白もないけど、元より私は白い車に乗る気はないわ」

「オレと同じは嫌か?」

「目立つのよ」

「…?」

「大事な大事な車が、汚れたりキズでもついたら白が一番目立つじゃない。お兄ちゃんのFC見ててお手入れが大変そうなの知ってるもの」

「手入れくらい、オレも手伝ってやr「白い彗星さんの妹が同じ白色の車に乗ってみなさいよ、からかわれるだけだわ!」…くッ…!」

「だから黄色に」

「ないってばしつこいわね!」

「塗れよ!」

「イヤよ!フィガロのかわいいパステルカラーを汚す気!?」

「けが…ッ」

(哀れ啓介)

「それに、私、憧れの色があるの」




フィガロにはオリジナルカラーが4色

紫のラピスグレイ

青のペールアクア

緑のエメラルド


「トパーズミスト。ミルクティみたいな優しい色よ」

「…ちぇっ、もう決めてたのかよ」

「オレたちが決められるハナシではなかったな」

「実はもう発注してあるの。ごめんね、黙ってて。納車には二人も立ち会ってくれる?」

「もちろん」

「ヤだっつっても行くつもりだったけどな」





数日後、高橋邸のガレージには、父のクラウンの隣にRX-7が2台、兄弟に守られるように、真ん中に可愛らしいフィガロが並んでいた。










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実話。

だんなさまとドライブ中に見かけたフィガロがかわいくて、憧れてもう何年経ったやら。今の愛車はブラウンのR2です。高橋父の車は夢書きさんで諸説ありますが(原作出てました、っけ…?)、宅ではクラウンで。レクサスISと迷った。