ばら


医学、遺伝子レベルの話になると、耳を立て目を開き、頭をフル回転させてしまうのは昔からのクセかもしれない。生物学、しかしこの場合は人体ではなく、植物の遺伝子についてだ。生ける個体すべてが持つ遺伝子。なぜ、自分の範疇外である植物の分野にこだわっているのか。それは目の前の光景が物語っている。


「あんまり見られると手元狂うんだけど」

「すまん。楽しそうだからつい」

「そう見える?」

「職人技に感服だ」


とあるパティスリーに勤める友人は、昔から取り分けチョコレートに魅せられショコラティエになった。小中高がすべて自分と同じ学校の彼女は、高校を卒業後製菓へ進み、手に職をつけて早五年か。女性らしい細くて繊細な指先が巧みに動き、手元の小さな作品が完成へと近付く。


「本物はここまで鮮やかに色が出ないんだろ?」

「遺伝子組み換えで生まれた人工的な色だからね、理想通りの発色は難しいわよ。絵に描いたような青は誰もが憧れるわ」

「自然界に逆らって生み出すその行為はあまり好まないんだがな、オレは」

「だから本物じゃなくてコッチを選んだの?」

「うん、それもあるけど」


甘いものが大好きな、愛する彼女へ。

彼女が大切に大切にしている車と同じ青を、贈ろうと思った。


「元気?あきらちゃん」

「跳ねっ返りで困るよ。危ないことばかりしやがる」

「それを教えたのはお兄ちゃんでしょう」

「オレのそばから離れなければ、それでいい」

「ホント好きね、あきらちゃんのコト」


小さな小さなキャンパス。そっと乗せられた青い薔薇を象るチョコレート。忙しいこの時期に無理を承知で頼んだショコラティエの手腕が振るわれた。


「ラッピングのリボンはもちろん青ね?」

「ああ、ありがとう」


喜んでくれるかな

びっくりするかな

同じ色を選んだこと、気付いてくれるかな

柄にもなく、どきどきと高鳴った。これから妹が乗る予定の助手席に、パティスリーの袋をそっと置く。

迎えに行こう。日本で誰よりも速いマシンを作るため邁進している、きみのもとへ。オレへの笑顔を、期待して。


青い薔薇=【奇蹟・夢叶う】




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お花を贈ろう第一段、涼介さんでした。

お花とチョコを一緒にして、真ん中ちゃんへバレンタインプレゼント。ブルーローズはまさに『奇蹟の薔薇』なので、いつか歌ネタで書いてみたかったんです。『例え何を失ってもこの腕を離さない』、たまりません。ショコラティエさんのイメージは某ドラマです。

2014,2,14