チューリップ


社会現象にもなるほどの歌であれば、いくら世情に疎い自分でも一度くらいは聞いたことがある。商店街で夕飯の買い物をしていた拓海は、花屋の店先に並んだいろんな花を見ていた。まるであの歌通りの行動で、少し咳払い。


「あら拓ちゃん。今日のお夕飯は何にするのかしら?」

「こんばんはおばさん。白菜、安かったから、豚バラと蒸し焼きにしようかなって」

「あら、あのCMのやつね!おいしかったら感想聞かせてね」


商店街で育った自分には、この辺りの店はみんな馴染みだ。オレンジ色の西陽を受けて、花屋の店先の花たちはどれもきれいに光っていた。その中で、春の代表とも言える花に拓海は目をとめた。まだ咲いていない、色付いたつぼみの状態だった。


「早いですね、もう並ぶんだ」

「球根は真冬から植えるのよ。これからいよいよ咲き始めね」


家で飾っていれば、しばらくのうちに花開くという。小学校の頃に学校で育てたときは確か赤色だったなと、思い出した。

冬のあいだの小さなつぼみは、まるで外敵から守られている彼女のようだと、頭を過る。でも、春になり、彼女が大舞台に立ち、プロとして開花するその姿が。ひとり凛と、背筋を伸ばしまっすぐに咲く様が、似ていると思った。ちょうど明日は、高崎で勉強会がある。いつも会うたびに優しくしてくれる歳上のあの人に贈ってもいいかなと、照れながら思った。


「誰を思っているの?拓ちゃん、いい人がいるのかしら」

「えっ!あ、いやその、ちょっと…」


嬉しいとき、いつもほんのりピンク色に染めて見せてくれるあの笑顔。涼介や啓介ばかりが占領しているかわいい瞳を、自分に向けてくれたら。


「おばさん、ピンクって、今ある?」


つぼみが開くころは、彼女も自分も、走り始める季節になる。誇らしげに胸を張って。応援してます、負けないで。オレも、誰にも負けないから。


「びっくりするかな、あきらさん」


ラッピングしてもらった一輪を、壊さないように受け取った。あきらに会って渡したときの、文字どおり花綻ぶかわいい笑顔を期待して、拓海は明日までの過ごし方を考えながら、家路へ就く。



ピンクのチューリップ=【誠実な愛】



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庶民派の彼からは春の代表格チューリップを。地元の県花です。『チューリップ公園』なるチューリップだけの植物園があるくらい、品種改良や栽培に力を入れています。毎年GWにはチューリップフェアが開かれるんですよ。トヨタとかマツダって名前の品種もあります(^^)

お相手がダブルエースのお話は少し雰囲気を似せて書いてみました。テーマはもちろんあの歌です。

2014,3,15