ガーベラ


恥を捨てようと意を決した。誰が何と言おうとも、どこの誰に見られようとも、構うもんか。

ホテルの展望台とかラウンジとか、夜景を見ながら自分のとなりにはきみ…なんてシチュエーション、考えたらニヤけてしまう。しかし、あの兄弟がとっくに実践していそうだからそれは敢えて避けた。それならオレは、絶対に誰もしない、やりたがらない方法で攻めてやる。だから、恥なんて関係ねェ。

いつかの春に、かわいいと言っていた花。揃いの色のリボンで結った一輪を手に、オレはいつも通りを装って連中が集まる富士に来た。

小早川がそわそわとウザい。大宮サンはそれを止めるけど自分も何か落ち着きがなさそうだ。皆川サンはまるで興味ない顔だけど目はしっかりアイツを追って、小柏なんか堂々とねだってやがる。奥山はからかって遊んでるし池田サンは本当に興味がないらしい。

白く化粧した霊峰の麓、寒いけど澄んだ青空、陽の光が凍結を和らげた。自分の心臓は喧しいままで、まったく和らいでくれないけどな。


「あきら!」

いい加減、コッチ向け

「オレと、」

そうじゃなきゃ、



「付き合ってくれ!」



我慢出来なくて、さらっちまうよ





「……ぇ、え…?」




(…あー、こめかみうるせェ…頼むから、なんか、喋れ。腰めっちゃ曲げてんだぞオレ、辛ェっての)





「ぁ、の、豪…?」

「…ンだよ」

「……ぉ、」

「お?」




「お、おともだちから、なら…」





「……は?」



いやいや今までオレたち友達ですらなかったのかよ、とツッコみたくて思わず顔を上げてしまった。そしたら、



「……その顔、頼むからやめてくれ」



俯いた顔はものすごい真っ赤で、ついでに寒さで鼻も真っ赤で、目がちらちらと泳ぎ、ときどき、ちらとこちらをみるその仕草。おい、ンなこと兄弟の前でもやってんじゃないだろうな、かわいすぎんだろアホ!

オレはその顔をここにいるヤツらに見せたくなくて、直角(たぶん)に曲げた腰と同時に差し出した一輪のガーベラを、あきらの顔に付き出してやった。


「わっ、なに、なんなの!」

「うるせー、オレの気持ちだ。受け取っとけ」


彼女との物理的に少しだけ離れた距離を、半歩進んで詰めた。勢いで突き出したガーベラへ、いささか反射的に出されたあきらの手。渡した瞬間、ひんやりした指先が重なった。

かっ、と、自分の顔が熱くなって、たまらず



「好きだ」



言いたくて言いたくて仕方なかったんだ。誰にも渡したくねェもん、あきらがそばにいてくれるなら、あきらのための恥なんて、いくらでも捨ててやる。



赤いガーベラ=【燃える神秘の愛・前進】






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シックな深い赤のガーベラを見たとき、豪だなあと直感で思いました。花言葉もすごく前向きな意味合いが多かったので、真ん中ちゃんへのプレゼントに。ガーベラは私も好きなお花です。




(この人たち忘れちゃいませんよ)おまけ



(えええええ!!?ちょ、大宮さん大宮さん!あれ!)

(なに小柏くん…、…あらまー、今どき花を添えて告白とはねぇ)

(は?マジで何やってンの弟。つーか直角かアレ、ダッサくね?)

(広やん、弟クンに抜け駆けされて悔しいんでっしょ、あきらちゃん好きだもんねー)

(あんまりいじってやるな小早川。ウチの広也は嫉妬深いから)

(……)

((ショックか、皆川)いい返事がもらえるといいな、豪)



最後は凛お兄ちゃん。にっこにこ。今更ですがスパイラルは名前呼びがいいなと思っています。謙虚な坂本くんは苗字呼び(^^)

2014.3.7