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>>2013/04/05 (Fri)
>>15:04
JJolly Joke, not Justice(高橋&藤原)

※任侠パロです。


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表向きは、人々の命を護る総合病院。

裏に繋がるその名前を、院内の誰が知っていることだろうか。



北関東を統べる、高橋組

院長である父は、組長。

ほとんど表へ出ている父の代行、大頭として、裏では兄の涼介がすべての責務をこなす。時折、父も行動を共にすることはあれど、組の大半は、後の長である涼介に任せ、すでに自分は隠居のようだと、先日父が呟いていた。放任ではない。涼介の判断を信頼しているからの、父の意志だった。たまに父の激が兄に降りかかることがあって、それはそれで親子らしくていいのだが、程度が過ぎるので、見ているこちらはあまり良い気分ではない。

一方、弟は。

組の若い、威勢のいい連中は、どうにも若頭である啓介に付きたがるらしい。いつぞや、入ったばかりの若い衆が啓介を『兄貴』と呼ぶものだから『アニキはこの世で一人だけだからオレのことは名前で呼べ』と、些か照れたように言い放った弟の頬が、少し朱になっていたのを思い出した。

冷静沈着な兄と、明朗快活な弟、よく、高橋の頭たちを『月と太陽』と比喩される。人を惹きつける魅力のある二人。彼らに命を捧げた連中は、北関東はおろか、全国に拡がっているという、真しやかな噂話。



大学の門構えに停められた、黒いセンチュリー。当たり前になってしまった送迎に、最近、小さく溜息をつくようになった。

「もう大人なんだし、迎えはいいって言ってるのに」

「そうは参りません。頭方のお言い付けは絶対ですからね」

「……過保護」

「お嬢、口をお慎み下さい。組の全員があなたを大切に思っているのですよ」

「…はあい。っていうかその口調やめようよ史浩くん、らしくない」

「分別をわきまえていますので」

「私がいいって言ってるの。普通にしてよ」

「……ったく、敵わないな、幾つになっても」

「えへへ、ありがとう」


大学から本家へ帰る道中、涼介お付きの史浩が車内で夕方からの予定を伝えてくれるのは毎日の恒例だった。



「今日は少し忙しくなるぞ」

「何か特別なことでも?」

「藤原が来る」

「ほんと!?」

「あちらの長が還暦を迎えられてな、親睦の深い高橋で盛大に祝おうと、組長と奥様が決められたことだ。聞いてなかったか?」

「ううん、全然聞いてない!藤原のおじ様とお会い出来るのね、うれしい!」

「それだけじゃないだろ?、お嬢」

「!」

「顔に書いてあるぜ」

「う、うるさいな!」




本家、屋敷に横付けされ、小石をひいた前庭を通り、門をくぐる。

「お帰りなさいやせ、お嬢」

「ご学業、お疲れ様です」

「ん、ただいま。下がっていいよ」


若い衆や古株まで、こぞって出迎えるこの習慣を、『恥ずかしいからどうしかして』と父と兄に持ちかけたら、『みんなお前の顔が見たいんだから、やりたいようにしてやれ』と返された。それ以来、もう諦めがついてしまった。


「今日、藤原様がいらっしゃるのでしょう?何かお手伝いするわ」

「いやそんな、お嬢自らお手を煩わすような…」


着ていたトレンチコートとバッグを付き人に託し、兄弟のいる奥間への縁側を歩くと、中庭では組の連中が宴会の支度を喜々として行っていた。思わずその光景に足を止め、見つめる。


「桜、満開ね」

「今日はとても暖かかったですから。一気に花が開きました」


中庭にある大木の桜は、曽祖父の代から咲き続ける高橋の守護樹である。毎年芽吹きの頃には、組を上げての宴会が習わしだ。それを、今年は藤原のために、と、父が考えたらしい。


「ただいま戻りました」


襖を開く手前で、ひと呼吸。家族であれど、上座に参る際の礼儀として教え込まれた。


「おかえりなさい」


静かに、襖を開けてくれたのは、


「た、拓海くん…!来てたの…?!」


会いたかった、逢いたかった、私の、大好きな


「こら、ご子息になんて言葉を遣うんだ」

「構いませんよ涼介さん。寧ろ普通に話してくれた方がオレは嬉しいな」

「あ…っ、ご、ごめんなさい、失礼なことを…!」

「ははっ、アネキ顔すっげェ真っ赤!かーわいいー」



それから暫くして、病院の業務を終えた両親が帰宅、藤原組の文太おじ様をお迎えし、夜桜の元、豪華絢爛な祝杯が挙げられた。


「花びら、」

「え?」

「ついてる」


『客人に酌を』という名目で、兄が気を遣ってくれたらしい、拓海の隣席。

舞い散った桜が、私の髪へと。

しかし、


「っ……!たくみ、くん…っ」

「ほんとは、別のところにキスしたいんだけど」


今は、ガマンするね


そう囁いた彼は、私の口唇に、ちょん、と触れた。


髪についた花弁を取ろうと伸ばした手で、そのまま優しく頭を引かれ、髪に感じた、柔らかさ。



夜桜に紛れ、ふたりだけが、知る。








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でもその様子をお兄ちゃんと弟はバッチリ見てるんだぜ!父ちゃんたちはまったく知らないんだぜ!


パロってすみません。あんまり任侠っぽくないですが。先日、清次にヒロインちゃんを『嬢ちゃん』と呼ばせたことが切欠で、『お嬢』と呼ばせたら任侠だなと思い立った次第です。意外にも楽しかった……!タイトルは「パロだから本気にしないでね」という意味合いで。