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>>2013/04/24 (Wed)
>>20:20
N呑み屋にて、中村賢太(隣席したお姉さん)

※少し長いです。
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たまには呑みに行くかと、スッゲェ久し振りに啓介さんに誘われてやってきた焼き鳥屋。日曜の夜だというのにかなり賑わっていた店内、オレたちはふたりでカウンターへ座る。

啓介さんと話すことと言えば、大抵車のこと、それか、涼介さんのことやお互いの大学のこと、酒が入っていても、話の内容はいつもとあまり変わらない。

摘まむ箸のスピードもゆっくりになってきた頃、時既に22時だろうか、オレたちより少し年上くらいの男女ふたり組が同じカウンター、オレたちの隣に掛けた。オレの左に彼女、彼氏、という並びだった。

ふと、テーブルの上には彼女のケータイ、そこに、オレたちが決して忘れることが出来ないだろう車のストラップが付いていた。

(ヘェ、このお姉さん、ハチロク好きなのかな)

啓介さんと話をしつつ、隣のカップルの話も気になって耳を立てる。ハチロクが好きな女性って、どんな人なのかやっぱ気になるし。

しかしどうやらこのふたりはカップルでなく兄妹らしく、度々聞こえる『兄ちゃん』という言葉、そして彼女、妹の話し方が関西弁で、旅行か帰省で群馬に来ているようだ。

その時だった。
酔いが回った啓介さんに肩をどつかれ、その拍子で持っていたグラスをひっくり返してしまい(グラスは割れなかったけど)隣の彼女の半身にすべてかかってしまう惨事になってしまった。

「っつめたッ!」

「やっべ…!すみません!大丈夫ですか?!」

何が大丈夫なもんかと思ったが、咄嗟に言ってしまった。

「うっそ…お兄さんナニこぼしはったん?!」

見ると、彼女の足元はナメ革のようなレザーのパンプス。おいケンタ何やってんだという啓介さんの言葉なんて、頭に入らなかった。

「し、焼酎の水割りですけど…」

「マジか…この靴な、やっすいけどめっちゃ大事にしてんやんか、シミになったらどないしよ…」

やべ、オレ、まじヤベェ……!

「あの!オレ、弁償しますんで、その、連絡先とか教えてくれませんか……!」

呑み屋の暗い照明でもわかる彼女の困った表情が、オレを更に慌てさせた。

「えっ、そんな弁償なんてエエよめんどいし。うち、遠方から来てるしな」

「でも大事な靴なんですよね?せめてクリーニング代とか」

「エエってお兄さん。それよか何か布巾くれへん?乾いたやつ」

慌てているのはオレだけで、彼女のお兄さん、そして啓介さんは落ち着いていて、既に店員に布巾を頼んでいたようで、オレが言う前に彼女に手渡していた。

「服は洗濯、もう帰って寝るだけやから。靴はまあ、気にしはるなや。フェイクやし、このレザー」

「でも何か、お詫びさせて下さい」

「そんな気ィ遣わんでホンマかまへんてお兄さん。ウチかてさっき強く言ってしまってゴメンな」

やり取りはここまでで、隣のお兄さんと再び酒を楽しむ彼女。だけどオレの気持ちはまだ治まらなくて、どうしたらと考えあぐねていたら、綺麗な色に塗られた彼女の手の先に、視線がいった。

「あの、すみません」

咄嗟だった。





「お待たせしましたー、杏露酒ソーダ割りでーす」

「え、兄ちゃん、いつの間に頼んでくれたん?」

「オレ頼んでねぇよ?」

「あのっ、今飲んでたヤツ、勝手に頼んじゃってすみません。どうしてもさっきのお詫びがしたくて…、その、これくらいしか、オレ、思いつかなくて」

すると彼女はお兄さんと目を合わせ、少し驚いたようだった。勝手なことして、怒られるかなと、内心ドキドキだ。

「おおきに、あ、ちゃうな。ありがとう、お兄さん」

彼女のグラスが空になったときに、咄嗟に思いついた。店員を呼んで、中身を訊いて、同じものを。

よかった。笑顔を向けてくれた。

「杏露酒めっちゃ好きやねんウチ。かんぱい」

「あ、はい!」

チン、とグラスの小気味いい音。隣のツンツンお兄さんもかんぱいー!と、啓介さんに掛ける声が、とても楽しそうで、ハラハラした一連の事件が漸く終わった。


帰り際にもう一度彼女に一言かけて、店を出た。

「やったじゃんケンタ、いい出会いになっかもよ」

「ええ…?そうっすかねぇ…」

この焼き鳥屋まで、行きは史浩さんに送ってもらった。帰りどうすっかなーと啓介さんと考えていたとき。

「ツンツンのお兄さん、忘れモンや」

カラカラと店の扉が引かれ、さっきの彼女が

「ハンカチ。ポッケから落としはったよ」

「おー、ワリ。ありがとなお姉さん。今日は悪かったな、コイツの失態許してやってくれ」

「ふふっ、許すも何もハナっから怒ってへんよウチ。…あ、そうだ」

何かを思いついたように、彼女はオレを見ながら。

「お兄さんたち、地元の走り屋さんやろ?さっきカウンターで話してんの聞こえてなぁ。もしな、金ホイールの黒いインプ見たら構ってやってくれへん?ウチの兄ちゃんやから、それ」

後ろから、「余計なこと言うなよお前」と咎める声が聞こえた。

「モチロンいいっすよ、ねぇ啓介さん!」

「ああ、覚えとくよ、楽しみにしてるぜ」

どうやらコッチの走り屋らしい彼女のお兄さんは、オレたちがどこの誰であるか気付いていたようで、「手柔らかに頼むよ」とはにかんでいた。

けれど、お姉さんは、帰っちゃう、のかな、大阪に

「また群馬に帰ってきたときに、兄ちゃんに乗せてもらうわ。峠で会えるといいね」

「お、オレも!楽しみにしてます!」


焼き鳥屋の前で、少し、話し込んで、バイバイと彼女は手を振った。

いつの間にか日付が変わっていた。

4月1日。

どうか、今の会話が、空想でありませんように。






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半分実話です。本当は関西弁を喋るのは実兄です。私は標準語。

3月末に遊びに行った大阪、兄ちゃんと入った焼き鳥屋さんで、まさに起こった出来事。お隣はカップルさんで、彼氏がケンタ、彼女が啓介な位置(笑)

酔っぱらった彼氏さんがグラスを倒して云々の流れはお話の通り。私だけじゃなくて兄ちゃんにも生中奢ってくれたよこのお兄さん…。帰り際に彼女さんがハンカチを忘れていって、渡してあげたら丁寧にお礼をされてちょっとびっくり(遊んでそうなギャルっぽい子だったので/偏見してごめんね)。走り屋云々は勝手に着色してみました。兄ちゃんはインプたんに乗ってません、妹の願望です(笑)

ID.にしたら長いお話。お付き合い下さりありがとうございます。