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>>2013/06/23 (Sun)
>>17:45
WWonder Women Wearing a Wig(涼介)
兄妹弟『ふわふわ』とリンク
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ストレートボブにウェーブをあてた髪に触れながら、以前は長い黒髪だったって史浩さんから聞きましたと拓海が言う。それを思い出した彼女にひとつ、悪戯心が芽生えた。


赤い流線型が、峠を駆ける。

ドライビングモニターを頼まれたんだがお前乗ってみるかと監督から一日だけ借りてきた、FT86。発売して間もないだけに、街を流しているときの視線は刺さるほどだった。おまけにボディカラーは、販促物等で良く見かける赤。『憧れの赤いスポーツカー』なる代名詞的な車に自分が乗ると、嬉しいような恥ずかしいような、むず痒さがあった。

せっかくなので見せに行こうと企てた、夜の赤城。でも、ただ見せるだけでは面白くないと思った彼女が思いついたことが、先の拓海の言葉だった。



プロジェクトD、プラクティス中。

スタッフ兼レッドサンズメンバーが数人、駐車場に停まる珍しい赤を見、どうするこうすると何やらこそこそ話している。


「あのグラサン取ってくんねェかなー、素顔見てみてェ…」

「絶対美人だよな!」

「長い黒髪でスタイルよくて、乗ってる車が新型ハチロクかよ…しかも赤っていいよなー…」

「おい!お前声かけてこいよ!」

「え、ちょ、まじか!?自信ねェって!」


FT86に凭れる黒髪の女性は、背中まである長いストレートを風に靡かせ、誰かを待っているようだった。白い開襟シャツを黒の細身パンツにインし、足元は赤いピンヒールのその姿は、魅惑的なボディラインを最大に醸し出している。夜なのに身に着けているサングラスが、彼女の謎めいた雰囲気をより強く感じさせた。


「誰だろうな、あの人」

「FT86なんて、この辺りじゃ見かけたことないですよね」


豆腐号とやんちゃ号がタイムアタックをしている最中、史浩と松本が例の彼女を見遣り、ふむ、と思った。


「何か、ライターっぽくないですか?プロジェクトDも終盤で、業界の知名度も上がってきてると聞きますし」

「そうか?だったらこっちに声かけて、アポ取るような行動するだろう。それとも様子を窺ってるのか…」

「どうした、二人して」

「ああ、涼介。あそこにいる女性なんだが…」


バンの中でひとり作業をしていた涼介も加わり、謎な女性についての史浩たちの見解を聞く。視線を彼女に向けた涼介は、何やら思慮深い目で彼女の全身を上から下へと見つめる。


「赤いスポーツカーに乗る謎の女性。なかなかミステリアスじゃないか」


史浩は思った。

また良からぬことをしでかすぞ。

そんな目をしていたという。



「失礼。どなたか人をお待ちかな?」


遠巻きで見ていた先程のメンバーたちが、「涼介さんさすが!」と声を殺して叫んでいる。


「こちらではなかなか見ない車なものでね、つい声をかけてしまったよ」

「…」

「神奈川ナンバー…。何も理由なくして、わざわざ群馬まで?」

「…」

「この赤城に、何か用があって来たのではないのかい?それとも…」


「……っ!」


「オレに、逢いに来たのかな?」


少し距離を置いて話していた涼介がその長い脚で一歩近づくだけで、彼女を掴み、抱き留めた。さらりと揺れる黒髪から漂ったのは、世界で最も愛して止まない甘い香り。掴んだ腕も、抱き留めた体も、自分にかかる心地良い重さも、全部、愛しいものだ。



「……くやしい」

「ははは」

「調子よくみんな騙せたと思ったのに」

「オレには無駄だったようだな」

「なんでわかったの?」

「そんなにボディラインを強調するからだ。かえってバレバレだぞ」

「…お兄ちゃんの変態」

「失礼な。日頃から妹を心配して見守る兄に対して変態はないだろ」

「〜〜〜〜!もう知らないっ!」


自分だと涼介にバレた妹は、サングラスを勢いよく外し、ふい、と顔を背ける。おそらく人工のものだろうが、地毛をすっぽりと覆うフルウィッグがさらりと靡いた。その一束を取りながら涼介は言う。


「懐かしいな、この髪」

「…ん、」

「今のふんわりした短いのも可愛いけど、昔の長い髪も、オレは好きだよ」

「…ありがと。ふふっ、なんか、照れちゃう」

「もう少しで、啓介と藤原が戻ってくる。驚かせてやろうぜ」

「うんっ」


その前に、と、妹がそれこそ高校生くらいのときに戻ったような長い黒髪をかき分け、「騙そうとしたお仕置きだ」と、額、頬へ軽く口づけ、最後に、小さく熟れた口唇に、ちゅっ、とリップノイズ。傍に停まる流線型のように真っ赤になった彼女が放った「お兄ちゃんのバカー!!」という照れた悲鳴に周囲が漸く正体に気付き、頃合い宜しく、ダブルエースが戻ってきた。

市販されても未だ見たことがなかったFT86と見慣れない姉の姿の相乗効果で興奮しまくる啓介をあしらいながら、さらさらの長い黒髪を撫でながら少し頬を染めて「オレ、こっちの方が好きかも…」と小さく呟いた拓海に、兄にされた口づけよりも顔が熱くなる、高橋家の真ん中でありました。


「たっ拓海くん!並んで写真撮ろうよ!新旧ハチロクで記念撮影!」

「いいですよ、あ、啓介さん撮ってくれます?オレたち二人のツーショット」

「え、え?えぇえ!?た、くみくん!?」

「テメェ藤原…最近調子乗ってんな…」





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年下パワー全開の拓海が好きです。

涼介さんには妹センサーが搭載されているので、どこにいようとどんな姿であろうと一発でわかります(^^)