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それは秋のある日。そうだ、確かケンタが『8月のプールの写真がやっと出来た』と言って、久し振りにDのメンバーが集まった自宅で見せてくれたあのときだ。
「拓海くんのお誕生日って5月だっけ」
「そうですよ」
「ぼけっとしてんのは生まれ月のせいか」
「どーいうことですか啓介さん」
「啓ちゃんは3月だし」
「啓介さんだってそのまんまじゃないですか」
「あんだよ」
「頭ん中は春爛漫…ぃてッ!」
「ふーじーわーらー」
遠征の息抜きと称して遊びに行った夏のプール。眩しい太陽がじりじりと肌を焼いたこの頃とは季節が変わり、全国各地の紅葉が見頃な10月を迎えていた。ケンタがプリントアウトしてくれた写真はどれもスマートフォンで撮ったもの。内臓カメラは画素、解像度ともにハイスペックで、プールサイドで自慢げに話していたことを思い出しながら、涼介は数枚を手に取った。ちなみにそれらはあきらが写っているものばかりである。
「…、てことは、うん、ぴったりかも」
「どうした?あきら」
「お兄ちゃん、今月末って忙しい?」
「ん?…教授の学会への付添い以外は特に大きな予定はないよ」
「史浩くん、松本くんと宮口くんは?」
「まだ凍結前だから、工場はそれほどでもないですよ」
「僕もです」
「何かあるのか?あきらちゃん」
「啓介とケンタはヒマでしょ?」
「おいアネキ」
「あきらさん…そりゃねェっス」
「拓海くん、シフトの確認お願いしたいんだけど…」
「はあ」
「ダブルエースの真ん中バースデーやろう!」
10月31日。青空に赤や黄色の紅葉が映える秋晴れの日。
高橋家の庭、ウッドデッキのテーブルセットには、カラフルで可愛らしいものがずらり。クラッカーにチーズやジャム、サーモンを乗せたカナッペ。半熟タマゴのシーザーサラダにお豆腐のサラダ。ローストチキンは丸ごと一羽で、お馴染みのパーティーバーレルも並ぶ。大好きなベーカリーで調達してきたバゲットとバターロールもスタンバイオーケーだ。
「ミルクをたっぷり おいしいスープ」
もうすぐで約束の時間。今朝早く作っておいたプリンも冷えて食べ頃だろう。
「タンポポいろした シンデレラのスープ」
ことこと、ことこと。ふたりを思って丁寧に丁寧に裏ごししたカボチャが、ミルクと一緒に甘く交ざり合う。
拓海くんの5月と、啓介の3月。ふたりの生まれ月から数えてちょうど重なった真ん中が今月、10月だった。Dの遠征中にきちんとお祝いしてあげられなかった彼らの誕生日。それも踏まえて、ずっと頑張ってきた拓海くんと啓介に何かしてあげたいと考えた私の企画。多少無理があったかなと懸念したけれど、みんな快諾してくれた。昨日から仕込んだお料理も上出来。あとは、みんなの感想を聞くだけだ。
「うん、いい塩梅かな」
『ばーちゃんちからカボチャもらってきたぜ』と啓介から受け取った大きなカボチャ。収穫祭、そして主役ふたりを祝うに相応しい大きさだった。半分はスープ、半分はプリンへ形を変え、お祝いの瞬間を待っている。
現在、11時50分。ドリンクが足りないことに気付いて買い出しに行ってくれた啓介もそろそろ帰ってくる。お兄ちゃんは史浩くんを迎えに行って、松本くんと宮口くん、ケンタからは『もうすぐ着きます』とメールが来た。
「…相変わらず、だな」
「それが藤原ですよ、涼介さん」
「連絡は来たんだろ?あきらちゃん」
「11時に家を出たって言ってたよ」
「ハラ減ったっスよ啓介さぁん」
「まさか事故ってねェよなぁ」
「あ、来たんじゃないですか?ほら、」
もうすっかり定位置になった、高橋家での駐車スペース。慣れた動作でピタとその場所に停め、遅れてやってきた彼を迎えに駆ける。
「いらっしゃい拓海くん!」
「遅れてすみません、あきらさん」
おつかれさま!
おめでとう!
ありがとう!
記念日に、乾杯!
「ところでこれ作ってみたんだけど、どうかな」
「!!!?…ふッ史浩くんのパンプキンケーキ!!?」
「…すげー…完成度ハンパないな史浩…」
「料理が上手いと思ってましたけど…ここまでとは思ってなかったです、オレ」
「いやー照れるなあ。ちなみにデコレーションも自分でやったんだぞ」
「……器用すぎるわ、史浩くん」
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改めまして、日頃よりのご訪問、皆さま本当にありがとうございます。
公私ともいろいろありすぎた一年でしたが、楽しく書き続けることが出来、嬉しく思っています。最近の私は、去年のお話を見返すと何やら恥ずかしいものが多いなあと赤面したり、まだまだ表現が足りないなあと落胆したりと過ごしております。
日々の精進を忘れずにDを愛していきますので、今後ともどうぞよしなにお願い申し上げます。あっ、ふーみんの手作りケーキはご自由に想像してお楽しみください!私はシャトレーゼのハロウィンケーキをイメージしています。
真ん中バースデーは『こどものおもちゃ』です。ご存じの方も多いかな?お誕生月は捏造ですよー。ちなみに涼介さんは4月です。二次創作におけるイメージって、拓海=春、啓介=夏、涼介=冬だと思いますが、このお話では↑こんな設定です。3月と5月なら真ん中は4月だとお思いの方、逆です。5、6、7…と、3、2、1…で、ぶつかったのが10月。無理があって申し訳ない。実際に涼介4月啓介3月だったら歳の差がおかしいことになるので、このお話のみとさせてくださいー。