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>>2013/10/31 (Thu)
>>08:41
Become belief, beloved(中里)

さよるさまリクエスト
お相手:中里
ヒロイン:幼なじみ

甘さ控えめで不器用なふたり。

さよるさまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

親同士が同級生だったり長年の仲良しっていう家の子供は、大抵そうなる。他に挙げるなら、家が隣同士とか、自分たちが通ってきた学校が全部一緒で全部同じクラスとか。オレたちはそんな、マンガにありそうな設定に属することがない、風変りな『幼なじみ』だった。


「先生、こんにちは」

「あら毅ちゃん、こんにちは」


住宅地の一角に佇む、瓦屋根の純日本家屋。モダンな家が多い昨今、平屋造りが今となっては目新しい。幼稚園生の頃から通っている、書道教室だ。


「展覧会に出していたもの、取りに来たのね」

「ええ、早く欲しかったんです」





あれは、小学生の頃だったか。

市内の書道大会に出場したオレは、会場の緊張感に臆さずに渾身の一字を書き上げた。まわりの誰より上手く書けたと思った。絶対に金賞を取る自信があった。



『すごいやさよるちゃん!金のお花がふたつもついてるよ!』


わっ、と会場の一角で声が上がった。どこの教室生だろうか。オレに付いた花は、銀がふたつ。県知事と市長がそれぞれ一票ずつ持っている金と銀の花。たけしくんのキラキラしてかっこいいと友達に言われたが、ものすごく、納得がいかなかった。悔しくて、歯痒くて、むしゃくしゃした。二位なんて、オレには負け同然だ。


『おいおまえ!いい気になるなよ!』


大会で書いた一枚はしばらく展示することになっている。オレたちの手には、賞状と副賞。ひとり帰路に就こうとした彼女から、金と書かれた賞状を奪った。


『なにすんのよ!』


最悪の出会いだったと思う。

目の前で、その賞状を破ったのだから。

大泣きした彼女を放って、オレは走って帰った。


それ以降何度も、どんな大会、どんな発表会であっても、彼女の名前を見つけた。時にはオレが優位に立ち、次にはそれを彼女が覆す。お互い譲らない冷戦が何年も続いた。会場で姿を確認しても、話すことなど一度もなかった。あのときまでは。


「うっるさい車」


R32が鳴り止んだ、市民会館の駐車場。代わりに、彼女の声が鳴った。


「……なんだお前か」

「お前、って失礼じゃない?名前なんて子供の頃から知ってるくせに。そうでしょ毅」

「……何の用だ、さよる」

「先に観てきたわよ、今回の勝負」

「…ムカつく顔しやがって」


自分が優勢だったという顔のさよるは、グレーのパンツスーツに足元はキャメルのピンヒール。

改めてさよるを見る。もう何年も、会場で見かけても気付かぬ素振りをしていた。ずっと生意気な子供だと思っていた。こんなふうに、会話らしい会話をしたのは初めてだった。秋風に靡く髪が、彼女の筆跡のように美しかった。

少し切れ長の瞳。髪を押さえる細い指。ベビーピンク色のバッグをかけた、スーツを着ていてもわかる華奢な肩。大人の女性だった。


「……ばーか」


駐車場のイチョウが大きくざわめいた。さよるは一度オレに笑い、かかとを鳴らして離れていく。



_______________


「仲直り、まだしていなかったの?」

「…、え」

「その字。後藤先生のとこのさよるちゃんが昔に書いた字よね」

「…オレたちのこと、知ってたんですか」

「お習字は心で書くものよ。先生はもう何年、毅ちゃんを見ていると思っているの?」

「…はは、敵いませんね、先生」

「今度彼女を連れていらっしゃい。ふたりで、ウチでひとつ書いていきなさいね」


もう大人なんだから、ちゃんと話し合いなさい。

そう意味を取ったオレは、同じ書道仲間から彼女の連絡先を訊き、呼び出した。



「勝手に人の番号ゲットするなんて」

「…悪かったよ」

「しかも何で妙義山に来なきゃいけないの」

「…それも悪かった」


呼び出したまではいいが、指定する場所が咄嗟に思いつかず、結局いつもの妙義になってしまった。いや、これでよかったのかもしれない。霊峰のパワーがあるのなら、今、オレにそれをくれ。


「これ」

「なに」

「受け取ってくれないか」

「は?」


厚さ5cmほどの木箱。やや大きい長方形を差し出す。長年見慣れたその成りで、中身は何なのかさよるはすぐにわかった。開けた彼女が、目を細める。







「賞状、やぶってごめん」




ずっと謝りたかった。

でも、会えなかった。

勇気がなかった。

ずっと、小さいときから思っていた。

筆を滑らすたびに、きみのことを考えていた。

あのときと同じ、秋の書道大会で。

きみと同じ、字を書いた。




「紛らわしい顔、見せんじゃねェよ」

「は?いつそんな顔したっけ」

「この間。市民会館のだよ。さも自分が金賞取ったみたいな顔しやがって。てめェ銀じゃねェか」




『毅ちゃん、その字の意味、知っている?毅ちゃんの名前と、同じ意味があるのよ』





あのとき金賞を取ったさよるは、この字を中筆で書いていた。清く流れる川の如く、優しくて滑らかな筆跡だった。


「なに、あたしと張り合うつもりなの」


オレが書いた字には、金の花がふたつ。


「えっらそうに、大筆で書いちゃってさ」


さよると同じ字を書くと決め、それがキッカケになれればと思った。練習中に先生に言われた字の意味。大筆で、自分の名に恥じぬよう堂々と地に足をつけた様は、そう、さながら妙義山の如し。静かに雄大に、猛々しく。





「……ほんと、ばか」




「…好きなんだよ、さよるの書く字。昔から」




「…あたし、だって」



なんでそんなにきれいに書けるんだろう

こんなにむかつくヤツなのに



お互いが、そんなふうに思っていた。

意地を張って、認められないだけだった。



「あとさ、」

「ん、」

「渡したいもの、あるんだけど」


渡した木箱を大事そうに抱える仕草が、かわいいと思った。


「……ぷっ」

「ンだよ」

「に、似合わない…!ふふっ」

「言うな。恥ずかしいんだから」


リアシートから引っ張ってきたのは小さなブーケ。精一杯のオレの気持ちだ。


「受け取って、ああ、それ、邪魔だったな」

「ち、ちょっと待ってっ」


慌てて自分の車のドアを開けるが、木箱を仕舞う手は落ち着いた優しいものだった。オレへ振り返る瞬間、空になった彼女の腕を引き、抱き締めた。彼女が手を差し出してブーケを受け取ってくれる、その短い時間すら、待てなかった。



「字だけじゃないんだ。本当は」



仲直りするだけじゃないんだ。



「さよるが、好きなんだ」






筆を見れば、伝わってきた。

どうして彼がこの字を選んだのか。

どうして大筆なのか。

小さい頃から変わらない、繊細で丁寧な彼の筆跡。

展覧会で彼のそれを前にしたときに、もう全部わかっちゃったの。



「……ばーか」


意地を張るのは、やめようって。



見上げた毅は、笑っていた。ちょっと、額に汗をかいているのが気になったけど。


「コスモス、かわいいね」


小さい頃から知った仲=幼なじみ。けど自分たちは最悪な出会いだった。先生からは『子供の頃からのお友達は何があってもずっと仲良しでいるものよ』なんて言われたけれど、幼なじみだなんて思いたくなかった。マンガのような友好的な関係になんてなれるはずなかった。でも、

幼なじみが恋人になる

こんなマンガの世界だけのような結果が、自分たちにもやってきた。

幼なじみも、結構いいかもしれない。

さよるさま

この度は企画へご応募下さいまして、ありがとうございます。

中里の幼なじみ…ライバルのようなちょっと風変わりな関係にしてみました。くっついて当たり前な甘々幼なじみ設定って私苦手でして…すみません;;学校も違う、習い事の教室も違う、大会の会場でしか会えない(会わない)ふたり。存在だけを意識していて、会話すらしない。けど『どうしてこんな字がかけるの?』ってお互い気になって仕方がない。子供の頃から仲良しってだけが幼なじみじゃないよ、という甘さ控えめなお話でした。

中里=お習字、意外に思われたかもしれません。彼ってキレイな字を書きそうだなと思ったんです。プレッシャーに弱いと涼介さんに言われていましたが、いいんです弱くて。彼は繊細なんです。バトルはそうでも運転より長い経歴を持つお習字だったら彼は緊張なんてきっとしません。経験がものを言います(笑)『コイツの筆にはオーラを感じるぜ』なんて昔から言っていたんでしょうね。そしてお習字でも不敗伝説…にせず、金を勝ち取ってもらいました(笑)

大筆で『静』は実話です。私の幼なじみの女の子がずっと前に書いたものを参考にしました。書道の知識はまったくない私ですが、あれは感動しましたね。中里の書道経歴は彼女がモデル。幼稚園生からずっと筆を持っているんですよ。


甘さ控えめにしましたので、果たしてさよるさまを癒すことが出来ましたでしょうか…。どうかお気に召して下さいますように。


一周年へのお言葉、ありがとうございます!今後もどうぞよしなにお願いいたします!


10月31日、りょうこ