C


>>2013/11/03 (Sun)
>>20:05
Cキュート×クリエイト×クリスマス(高橋&北条)

愛弓さまリクエスト
お相手:高橋&北条
ヒロイン:真ん中ちゃん

両兄弟がdo it yourselfするお話。

愛弓さまへ改めてのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ

充実した一年が、そろそろ終わりに向かうとき。ぐっと冷え込んだ高崎の街。兄妹弟三人でウインドウショッピングをしていた際、百貨店壁面のディスプレイに視線を奪われた。


「あ…」

「早いな、もうか」

「来月なんだなー」


ゴールド、シルバー、ブルー、レッド。きらきら光るオーナメントでいっぱいの、クリスマスツリー。


「今年はいつ出そうか愛弓。うちのツリー」

「うーん、そうだなぁ…今日は夜に拓海くんに会うし…」

「あれ重くてひとりじゃ無理だろ、やっぱ三人一緒のときがいいよな」

「それなんだよね、ひとりで持てたら、時間あるときにひょいって出せるんだけど…」


うーんうーんと悩む愛弓。ふわふわした真っ白のニットポンチョの裾を弄りながら、兄妹弟三人予定の合う日を考えていた。



_______________



「ふんふんふん、ふんふーん、is you〜♪」

プロジェクトDが終焉の後。月に一度か都合の悪いときは少し延ばすこともあるが、共に戦った同志として箱根勢力が一堂に集まるときがある。気持ちよく晴れた青空の元、富士の裾野、国際Bコースを借りてお遊びレース。毎回何故か私も呼ばれ、そしてコース借用名義は何故か私。『顔が知れてるんだから処理が早いだろう』と言ったのは凛さん。それを言うならカタギリだって同じじゃないと思ったがまあ突っ込まないでおいた。陽射しがぽかぽか、気温も快適。自身のランエボも調子よくきびきび走ってくれて好調だ。その気分が、声になって出てしまったらしい。


「どうした、ご機嫌だな」


先日、エボにつけたスタビライザー。純正より少し硬いものに変えたおかげで、荷重移動がしやすくなった。タイヤの具合をチェックしていたところに現れたのは、勝手に借用名義を書いた凛さんである。


「え、そうですか?」

「鼻歌唄っている不機嫌なヤツなんているのか?」


逆に訊き返された。


「マライアか」

「?」

「歌だよ」

「…ぁ、」

「少し気が早いんじゃないか?今は紅葉が見頃だぞ」

「うぅ〜…無意識、でした…」


知らずに歌ってたらしいクリスマスの定番。声にした理由はきっとコレだろうなと、先日高崎の街で兄妹弟で話していたことを伝えた。



「愛弓お前タイム見た?めっちゃ上がってんぞ」

「うそ!うれしい!セッティング変えて正解!」


自分のアタックを終えた豪がやってきた。表示された電光パネルを見る。豪にはまだ追いつきそうにないが、自己ベストを更新していた。ちなみに現在のトップは凛さん。豪と皆川さんが同率で並んでいる。


「んだよ、どこ弄った」

「スタビ。バラストもちょっとだけ増やしたよ」

「へー、最近丸くなったと思ったんだよな、ココとか」

「ちょっ…!どこ触ってんの!」

「尻の肉付きがいいとオレも思っていた。食欲の秋、か」

「凛さんまで!」


凜さんと豪の三人で話していると、居心地がいい。嬉しいことに、凜さんは私をよく気にかけてくれる。少しの変化に気付いてくれたり、頭をポンてしてくれたり。お兄ちゃんがもうひとりいるみたいだ。歳が近い豪は、弟だったり友達のようで、一緒にいてすごく落ち着く。会話が途切れることがないって、知り合いの男の子じゃ豪だけかも。


「クリスマス?もうそんな話してんの」

「あっという間よ、来月なんて」

「高橋家はいつもどんなクリスマスを過ごすんだ?」

「予定は必ず空けておくんです。毎年、定番のレストランで家族で食事かな」

「春から涼介は研修一年生だろう。忙しいんじゃないのか」

「そうなんです…実は私も今年はイベントが重なって難しそうで…。せめてツリーくらい、出したいなぁ…」


兄妹弟三人の合う日どころかふたりでだって難しそうだと、スケジュールを調整したときに溜息をついた。


「愛弓さーん!次!オレとタイムアタックしてくださーい!」

「ぁ、カイくん。いいよー!ちょっと待っててー給油してくるねー!」


北条兄弟はちゃんと見ていた。クリスマスの前に、彼女の曇った今の笑顔を晴れやかにしてやりたいと。またあとで、と会釈した愛弓。凛と豪は、カイの元へゆっくり進むランエボのテールを見送った。



_______________



「珍しいですね、啓介さんがウチの工場に来るの」

「よ、松本。アニキが頼んだやつ取りに来たんだ」

「届いていますよ。何かの補修でしたら手伝いましょうか?」


あとこれも、と渡してくれたのは、ホールケーキが入りそうな大きさの箱。中を確認すると、希望通りのものが入っていた。


「ちょーっと、変わったもの作りたくてさ」

「?ワイヤーでですか?たしかにこれは柔らかい品番だから、工作には扱いやすいと思いますけど…」


一体なにを作るというのだ、と松本は気になる。箱の中にある歯車の数々の行く末も、同様。


「出来たら写真見せっから。サンキューな!」

「何だかよくわかりませんけど、どういたしまして」




一方、神奈川では。


「最近よく見かけますね、松ぼっくり」


椿ライン。足元にあったひとつを拾って形を見ていたら、信司がそばにやってきた。


「こないだ気付かずに踏んだとき、倒れそうになりました。硬かったから、バランス崩して」

「抜けてんなァ信司」

「集めてるんですか?豪さん」

「まあ、そういうワケじゃねェんだけど。ちょっとな」


家から持ってきた小さめのトートバッグに、選んだひとつを入れる。小振りなもの、やや大きいもの。このくらいの数でいいだろう。さっき届いたアニキからのメールには、『病院の花屋で発注した。納期は一週間』とあった。その頃には、最後の一戦が予定されている。渡すには好都合だ。



_______________



GT戦特別枠、三日間で行われる富士スプリントカップ。やや曇り空で迎えた初日の予戦。公式練習で得た情報を読み込みセットを組んだのだが、アクシデントに巻き込まれ決勝は中盤からのスタート。私たちは第二レースに出場するので、二日目の今日は待機。第一レースの観戦に来た。本日は晴れ。しかし風が冷たく、路面温度が温まらず苦戦しそうな決勝だった。


(明日の天気も、確か晴れ…。ハードやめとこ、最初ソフトで、深溝かなあ)


メインスタンドに座り、スマートフォンで明日の天気予報の詳細を見る。三時間毎の気温の変化を見ても、一日を通してなんら変わらない天候のようだ。晴れのち曇り、湿度が少々高くなるらしい。


(あ、LINE…。豪だ。え、啓介も?)


『めっちゃ早とちりなサンタとさっき会った。愛弓に渡してくれって頼まれたんだけどどうすりゃいい?』と豪。

『玄関開けたらすっげェもん置いてあった!くっそ早ェサンタからアネキ宛だぜ!カードも付いてたから部屋に入れとくなー』と啓介。


(今FSWにいます。出るとき連絡するからどこかで会おうか、っと。今日はずっと神奈川だから、明日帰って必ず見るね、と)


ところで『早いサンタ』とは一体どういうことだろうか。よくわからないが何か楽しいことが起こりそうな気がする。オペラグラスを覗きながら、愛弓は第一レースの分析を再開した。



_______________



神奈川で過ごすようになって知ったのだが、ここは夜景で有名なスポットらしい。豪にLINEを返したはずが返答は凛さんからで、寄ってくれと指定された場所がここ、冬になるとイルミネーションが灯される大きな公園だった。園内を流れる川にきらきらと電飾が映り込み、鏡のように輝いている。富士から研究所に戻る道中にあるので寄り易かった。


「凛さん、豪」

「ああ、来たか」


公園も広ければ、併設の駐車場も広い。いかにもカップルで来ましたという車から離れたところに、平らな赤い一台。その隣にエボを停める。ふたりで乗り合わせて来たのかな。


「ね、なあに?サンタさんて。面白くて笑っちゃったよ」

「明日、決勝だったな、愛弓」

「ええ、そうですよ。去年よりグリッドは落ちちゃったけど、まだ巻き返せますから」

「て、ことで明日がんばれの意味を込めて、『オレたち』から。はい、どーぞ」


後ろ手で持っていたらしい。豪が前に差し出したもの。テディベアと、リースだった。


「優勝したときのさ、月桂冠みたいだろ」

「え…、これ、」

「実際使ってるんだ、月桂樹。プリザーブドだから、緑がくすむことはないさ」

「…サンタさん、?」

「ってーのはウソだよ。ほら、前に富士で言ってたじゃん愛弓。クリスマスに仕事の予定があるって」

「スケジュールまったく無視したサンタクロースからの贈り物だと思ってくれ。下手なりに作ってみたんだが、気に入ってくれたか?」

「リースはオレだからな、ちなみに松ぼっくりは椿で拾った」

「……え、えぇッ!ふたりが、つ、つ、作った、って…!わたしの、ため、に…?」

「楽しみにしてんだろ、クリスマス」

「ちょっとでも愛弓が喜んでくれたら嬉しいんだがな」


月桂樹、ヒイラギを敷き詰めたリースには、小さくて赤いペッパーベリーと松ぼっくり、ゴールドの丸いオーナメント。青とシルバーのリボンが編み込んである。


「オレ、けっこう細かい作業好きかもしれないわ。意外に楽しかったし、作るの」

「……ごぅ、」


両手で包み込める大きさのテディベア。ブラウン色のふんわりとした手触りで、優しい表情が愛らしい。耳にはリースと同じ青とシルバーのリボンがついていた。


「病院で、手の空いているときに裁縫してたんだ。ときどき看護師に教えてもらってさ。ちょっと恥ずかしかったかな」

「…ふふっ、凜さんたら…」


ふたりからの手作りクリスマス。壊れないように、大事にそうっとふたつを抱き締めた。目が、熱い。


「…っあした、がんばるね、わたし」

「あーもー、すぐ泣く」

「だあってー、っ、うれ、うれしぃんだも…っ」

「家のツリー、出せなかったらコイツを飾ってやってくれ」

「は、い…、ありがとう、凜さん、えへへ、豪」


帰る前。もらったリースが本当に冠のように頭に置かれたと思ったら、


「決勝、うまくいきますように」


凛さんは額へ、豪は頬へ。

いつもの私なら、そんなことされちゃ照れてわたわた落ち着かなくて仕方ないのに。今日はなんだか、ふたりからのキスが、すごく、うれしかった。



_______________



スプリントカップ三日目、第二レース決勝。中盤からの追い上げがわずかに届かず、結果は三位。しかしオーバーテイクの回数はどのチームより優れていて、天候、ドライバーコンディション、セッティングすべてが噛み合って成すことが出来た結果だった。例に見ない追い上げだったと、ライバルたちから称賛される。表彰台に上がるチームドライバーからのシャンパンを浴びながら、来年また頑張らなきゃと心に決めた。

片付けが終わり、打ち上げはまた後日ということで解散となったチームTRF。まだ日付を超えていない深夜、スタッフパーキングへ車を取りに行く。昨日、凛と豪からもらったプレゼントは、ちょこんと助手席に座っている。


「ただいま、くまちゃん。一緒に群馬へ帰ろうね」


昨日の啓介からのLINEが気になる。北条といいウチといい、一体なんなのだろうか。




快調に飛ばした高速道路、高崎で降りたら、もうすぐ実家だ。今日はふたりともいるのかな。お兄ちゃんは大学かな。啓ちゃんは…たぶん、凍結前の走り込みかも。


「わ、こっちもけっこう寒いや…」


オートオープンでガレージのシャッターを開けたらやはりというか、二台とも不在。最近乗ってなくてごめんねと眠るフィガロに呟いた。定位置にエボを停めて外へ出ると、冬前の空気に少し驚く。市街地も随分冷え込んでいるなと、玄関へ急いだ。

スプリントカップ三日間の荷物を片付け、洗濯物を回し、風呂に湯を準備して自室へ向かう。


「え……なに…?」




高さは、自分の膝丈ほどだろうか。青白い電飾に色取られている、シルバー製のもの。



「これ、ツリー…?」


部屋の電気は自分が出かけたときのまま、消されている。電飾が、部屋の壁に反射してまばゆい。柔らかい特性を使って、枝も、葉も、一番星もすべて、ワイヤーでできたクリスマスツリーだ。


「だれが、いったい…。?」


ガラスのローテーブルに置いてあるカードを手にした。そう言えば届いていると啓介が言っていたっけ。


「………ばーか」





『かなり早いけど、メリークリスマス!アニキとオレですっげェの作ったんだぜ!』

『普通のツリーはもうあるからな。ちょっと珍しいものを作ってみたんだ。なかなかだろ?』

『絶対、ぜーったい今年も一緒にツリー出そうなアネキ。それまでコイツで我慢しててくれよ』

『クリスマスは必ず予定を空ける。オレたちの約束だもんな、愛弓』




「ありがとう、お兄ちゃん、啓ちゃん。……だぁいすき」



よく見ると、オーナメントに使われているのは大きさが様々な軽量の歯車、ギアとピニオンだった。ワイヤーの使い方ももちろんだが、仕事柄頻繁に目にするパーツの小洒落た作りに笑みがこぼれる。なんだか、自分を意識してくれているようで。

さてどこに置こうかと、悩むのも楽しい。迷っているときに、湯が溜まった音楽が鳴った。とりあえず、凛と豪からもらったテディベアとリースは柔らかいベッドの上に。涼介と啓介からのツリーはそのままの場所にしておいた。

バスミルクを入れた湯に浸かり、昨日と今日の出来事を振り返る。夜の公園でもらったときのうれしさ、スプリントカップの好成績、部屋にあった幸せなサプライズ。どきどきが治まらない。

来月のクリスマス本番は、絶対に予定を空けよう。サーキットのクリスマスイベントはイブか当日のどちらかだけ参加して、凛さんと豪に逢いに行こう。それで、夜にはお兄ちゃんと啓介、出来たらお父さんたちともお出かけしたいな、今年は何を着て出かけようか…


まだ一ヶ月先のことだけれど、楽しみでたまらない。今夜は眠れそうにないかも。



愛弓さまへ

いつもお越し下さってありがとうございます愛弓さま。お待たせいたしました。

…ちょーっと早い気もしたのですが、クリスマスなお話を書かせて頂きました。キッカケは11月になったそばから職場に飾られたクリスマスツリーです。早い…。しかしまったくのクリスマスはお話ではなくて、当日をもっと楽しんでもらうための準備というか、ヒロインちゃん(真ん中ちゃんにさせて頂きました)を笑顔にさせたくて、両兄弟に作ってもらいましたクリスマスDIYです。

北条にもツリーを、と考えていたのですが、神奈川→群馬に持ち帰ることを踏まえるとツリーは車に乗せにくいなあと思いまして、かわいいリースとクリスマスベアに挑戦です。凛さんがお裁縫…書いているこちらも笑ってしまいました。その光景を看護師になって見てみたい。きっと凛さん不器用ですよ(笑)豪さん、とっても器用そうです。リースもセンスよく作ってくれると思います。凛さんベアはベッドサイド、豪さんリースは自室の扉に飾るのでしょうね…ニヤニヤ(´ω`)

高橋のワイヤーツリー、雑貨屋さんで見かけたものを参考にしています。細いものと太いものを絡ませて枝を表現したり、電飾やオーナメントもすべてシルバーで統一した大人っぽいものでした。賑やかで華やかなツリーは高橋家にすでにあると思うので、シンプルでオシャレなツリーを(お兄ちゃんのセンスは…笑)高橋で作ってもらいました。兄弟ふたりのスケジュールを合わせて作るっていうのは中々ないので、『今日オレここまで作った』と写真添付→『じゃあ続きはオレが』という感じで作成。オーナメントの歯車は、時計に使われているような薄いものをイメージしています。光に反射してきらきらしそうです。

『高橋&北条でDIYな一日』というご要望、イメージを拡げすぎたかな?と思っているのですがいかがでしょう…もっとこうして等の追加のご希望がございましたら、ご遠慮なくどうぞ!

一周年へのお言葉、そして仕事への励まし、本当に愛弓さまには感謝が尽きません。今後もお付き合い頂けると嬉しいです。


PS
先日教えて下さった『ふしぎ遊戯』なお話、いつかID.で登場する予定です。お待ちください!(^^)/


11月3日、りょうこ