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>>2014/01/29 (Wed)
>>02:30
Get to be a Good Girl !(渉)

お相手:渉
ヒロイン:レッスン生

前回ID.のA続編です。スポーツインストラクター渉先生は、きっと、いや、絶対いい身体をしている!という、わたしの妄想の産物です。

コチラからどうぞ。

このフィットネスプールに通って一年が経つ。会員証の更新月になったので、レッスンではない日の仕事帰りに立ち寄った。自宅はここから反対方向なのだけれど、こちら方面のレンタルショップにDVDを返しに行きたかったから、丁度いいついでだ。


(っていうのは、完全にタテマエだよね)


更新するには施設事務所の窓口へ行かなくてはならない。事務所…ということは、トレーナーさんたちの休憩室、でもあるワケで。レッスン日以外でも彼に会えるかもしれないと淡い期待、いや、大きな期待を持って、仕事帰りにわざわざ余計な理由までつけて寄ったのだ。スタッフパーキングをちゃっかり確認してきたから間違いない。あの、どことなく時代を感じさせるレトロで素敵なモノクロの車が、ちゃんと停まっていたもの。



「わたるせんせー!こんばんはー!」

「おー俊介、姉ちゃんの迎えか?いつもえらいなー」


窓口で書類に記入していたら、ボールペンの字がミミズになった。すみません修正液ありますかと訊いた声も、震えていたと思う。


(着いたそばからいきなりすぎるでしょー!)


こんなにすぐに会えて、声が聞けるなんてまったく考えていなかった。とりあえず更新書類に記入して、今が彼の勤務外で待機中だというトレーナースケジュールを掲示板で確認して、心落ち着いてから彼を探そうと思っていたのに。


「秋山先生、こんばんは。いつも俊介がお世話になっています」

「いいえ、こちらこそ。俊介くんの上達ぶりは見ていて楽しいですよ。この間、バタ足のタイムが速くなったんです。な、俊介」

「うん!ねえちゃんに負けないんだおれ!」


現在、夕方六時。今は小学校高学年のレッスン時間だった。たぶん、小さな彼は低学年だろうか。プールに面したガラス窓へ近付き、お姉さんの姿を探している。


「お待たせしました、修正テープでもいいですか?」

「あっ、は、はい、ありがとうございます」


秋山先生と小さな生徒さんとお母さんの様子が気になって仕方なかった。とにかく、さっさと手続きを済ませて、彼がどこかへ(『関係者以外立ち入り禁止』とか)行ってしまわないうちに、声をかけたい。ごめんなさい事務員さん、いつもはこんな雑な字じゃないの。もっと丁寧に書きたいけれど許してね。


「ねーわたるせんせー。こんど、おれときょうそうしようよ」

「お、バタ足でか?」

「ううん、くるーろ!」

「…っははは!俊介、くるーろじゃなくてクロールな!」

「もう、恥ずかしいんだからこの子は…でも俊介、まだ習っていないでしょう?」

「ねえちゃんにおふろでおしえてもらったんだ!だからおよげる!」

「へェ、なるほどなー。バタ足の次はいよいよクロールだもんな、予習したってコトか。感心感心」



小さな弟くんが秋山先生の長い脚にしがみつき、ねえねえと駄々っ子のように甘えていた。なんて羨ましくて、なんてかわいい光景だろう。あのときの、白と黒の車が秋山先生の愛車だと知ったときに見た、屈託のないやんちゃな少年のような笑顔で。私の心に『ギャップ萌え』という言葉を刻んだあの笑顔が、今、小さな弟くんだけに向けられている。小さな背丈に合わせてしゃがみ頭をポンポンと撫でていると、弟くんはすかざず後ろにまわり、秋山先生の背中にへばりついた。


「こら、離れろって」

「俊介、やめなさい」

「せんせいしんちょうすっげーたかいよな!おれ、せんせいみたいにかっこよくなりたい!」

「お、そーかそーか。じゃあまずはくるーろでオレに勝ってみろよ俊介」

「ちがうぜせんせい、くろーるだぜ!」


小さなライバルに気を良くしたのか、秋山先生はそのまま彼をおんぶした。水泳のお兄さんじゃなくてまるで歌のお兄さんに見えた私は、微笑ましくて口角が自然に上がる。せっかく会えたけれど、今日は小さな弟くんにこの場を譲ろう。あんなに楽しそうにしていては、割って入るのも申し訳ない。レッスン日はラクなスニーカーで歩くタイル敷きの施設にヒールの音が響いたときと、元気な声で「じゃあつぎのれんしゅうがおわったあと、しょうぶな!」と彼が挑戦状を叩きつけたときが重なって、


「あれ、吉本さん?」


もうすぐで外への自動ドアのマットを踏みそうだったとき


「お、お疲れさま、です」


後姿の私に気付いてくれた。というかいつもラフなジャージ(しかも派手)なのに全身黒(地味な通勤着)の私に気付いてくれた。振り向いた私は、それはそれは驚いて酷い顔だったに違いない。


「さっきさ、窓口にいたろ。横顔だけだと、最初誰だかわかんなかったぜ」

「あ、えと、今月、更新だったんです、会員証の」

「ああ、そっか、もうそんな時期か。一年だっけ、早いなあ」


こつん、とヒールの音が再び響いた。フィットネス施設のロゴTシャツに、フード付きのパーカ。ジャージパンツに、足元はスポーツサンダル。ちょっと髪が濡れていた。秋山先生の黒い髪は乾くととてもさらさらだ。触ったことはないけれど。


「手続きはもう終わったのか?」

「え、あ、はい、更新してきました。今年ももうちょっと、がんばろうかなって」

「それ以上痩せる必要ないと思うけどねェ。ウェイトダウンじゃなくて、筋力つけたいってんならいくらでも付き合うぜ」


インストラクターと生徒。そんな隔たりをなくしてくれる、秋山先生の話し方が好きだ。私の方が年下ってこともあるが、生徒である私に敬語を使わず、友達のように気さくに話してくれる。レッスン内容もわかりやすいし、楽しい。秋山先生が担当してくれて、本当によかった。

だから、まだ、ココにいたいと思った。本当はもう、目標体重には到達しているの。レッスンの度に付けているカルテにも、目標達成率は100%と書いてある。でも私は、まだ、彼の近くにいたいから。ココでしか、彼に会える場所はないから。週に二回の楽しみを、なくしたくないの。


「……オレさ、妹いるからなんとなくわかるんだけど」

「…なにが、ですか?」

「化粧って、やっぱすごいよな」

「は?」

「吉本さん、いつもすっぴんだろ。雰囲気全然違うからさ」

「……!!!!!」


そうだった……!!今日、仕事帰りだからばっちりメイクしてるんだった…!目、盛りすぎ?!チーク濃すぎ?!けばけばしく思われたらどうしよう…!


「さっき、横顔だけじゃわかんなかったの、そのせいかもな」

「な、ななな、なんのせいでしょうか!!」

「…めっちゃ顔赤いけど大丈夫か」

「だだだd、だいじょうぶです!」

「ちょっと火照ってねェ?デコ触るぞ」

「え、ちょ、えええあああきやま、せんせ…っ」


まずいよまずいよ!そんな、前髪上げちゃだめだって先生!しっかりアイブロー書いてるんだからっていうか、顔、近!プールの中だったら近くにいても全然平気なのに、なんで、こんなにドキドキするの…!


「…前髪、上げたほうがオレは好きかな」

「……は、い?」

「ホラ、水泳キャップ。いつもデコ出してるだろ。吉本さんのこのつるんとしたデコ、好きなんだよねーオレ」


な、な、な!!


「あともうちょい素朴な感じがいいかな、ちょーっと目ェ濃いかも」


なんということをこの人は言うのだろうか!


「それと、もう一年も一緒にレッスンしてんだから『秋山先生』ってのナシ。堅苦しいだろ?」

「……ああああの、それじゃなんて、呼べば…!」


とりあえずデコに置いた手を避けてくれませんか!こめかみがどくんどくん言ってるんですけど!


「渉でいいよ」


呼べません!!!


「吉本さん、トレーニングに熱心だからな。お互いもっと近づいて、信頼して取り組んだ方が効果が出ると思うぜ」

「だからって、そんな、お名前で呼ぶなんて…」

「なに恥ずかしがってんだよ」

「恥ずかしいですよ!」

「あ、そか、オレも呼ばないと公平じゃないよな。よろしくな沙織!」

「ギャー!せめて『さん』を付けてください渉先生!!」

「おー、言えたじゃん。よし、今年も一緒にがんばろうなー沙織」

「だーかーらー!」



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その後の私は、秋y…渉先生の更なる指導の下、無酸素運動のレッスンを相変わらず週二回受けている。変わったことと言えば、なんとか彼のことを名前で呼べるようになったこと(普通に呼んでいたあの少年が実は羨ましかった)、『沙織』と名前で呼ばれるのはまだ全然慣れないこと、体脂肪率がいくらか減って服のサイズダウンに成功したこと、体力と筋力がついて一度も夏バテをしなかったこと、それと、


「沙織、今日電車か?」

「あ、はい。天気がよかったから、駅からここまで歩いてきたんです」

「そっか、もうちょい待てる?ロッカー片付けてくるから、送ってってやるよ」


少年のようなやんちゃな笑顔を、ときどき白と黒のレトロカーの助手席から見るようになったこと。

次の目標は、…ナイショ。





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インストラクターって萌えませんか!前回Aの続きをずっと書きたかったんです。自分のためのダイエットだったのに、先生に会いたいっていう気持ちの方が強くなって、結果、恋する=通う=きれいになりたい=がんばる=先生に褒めてもらえる図式!続編、大体の中身はずっと考えていたんですけど、書くタイミングがなかなかなくてですね。いざ自分もフィットネスに通い始めたのでそれが執筆のキッカケになりました。ヒロインちゃんの次の目標はなんでしょうね、ナビの特等席化ですかね。皆さまのご想像にお任せします。はー渉楽しかった!