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>>2014/05/01 (Thu)
>>16:20
I慈しみと労りと愛しさと(啓介)

※notリクエスト
お相手:啓介
ヒロイン:恋人

春にご結婚を迎えられる瑠璃さまへ、ささやかですがお話をお贈りいたします。いつもご訪問下さっている御礼も兼ねまして、先様のお好きな啓介で書かせて頂きました。

瑠璃さまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

「覚えてる啓介、初めて来たとき、ココに何て書いてあった?」

「え、ンなのいちいち覚えてねーんだけど。奥の景色がスゴすぎて、エントランスのことまで見てなかった」

「もー、あのときパークの記念年だったんだよ?!それに、初めてふたりで来た年でもあるのに!」


ハロウィンが終わり、年間でもっとも盛り上がるクリスマスを早くも楽しめるよう、きらきら光るデコレーションが成された11月のある日。啓介が突然、「予定空けておけ」と言ってきた。朝早く高崎を出発してどこへ向かうのかと思えば、私の大好きな場所。地球儀を抜けた先に拡がるのは、大きな大きな海の景色。雄々しい火山が青空にそびえ、轟音を鳴らして出迎えてくれた。クリスマスイベントが始まってまだ間もない今、ちょうど今季の内容が気になっていたところだ。知らずに、行きたそうなオーラを出していたのだろうか。


「瑠璃が行きたくなる時期かなと思ってさ」

「啓介さん最高です!ありがとう連れてきてくれて!」


ショップが並ぶレンガ敷きの通りを抜け、アトラクション情報が記載された掲示板をチェックして。本日は学校も会社もウィークデーのため、ゲスト数はわずか。


「掲示板、見るまでもないな、今日」

「よかった、ゆっくり回れそうだね」


もう何年、何回、瑠璃とココへ来ただろうか。この場所は、この空気は、瑠璃を、オレにはとうてい出来ないとびっきりの笑顔にしてくれる。

その力を、その魔法を、今日、借りにきたんだ。


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天気が良いから車窓から景色が見たいとのリクエストで、古き良きニューヨークの街から発着している汽車に乗る。朝早くから運転してきたことと相まって、のどかな景色にあくびが出た。


「啓介、コレ、つけて」

「ん、ああ、持ってきてたのか。こないだ買ったやつだろ」


バッグから取り出した、小さなピンクのリボンがついた真っ白いふわふわのネコの耳。留めやすいピンになっていて、啓介はバランスを見ながら瑠璃の髪に付けてやる。


「…オレも、どっかで買おっかな」

「えっ、啓介、ネコさんになるの?!…似合いそうだけど」

「…おい瑠璃、ヘンな想像すんなよ。お揃い以外で何か選びにいこーぜ」


汽車を降りた場所は、ニューヨークから時代を超えた未来の港。そこから歩いてすぐのワゴンで、たくさんのヘッドアクセサリーを見つけた。定番デザインのもの、季節限定のもの、ちょっとおかしな遊び心のあるもの、髪留め以外にファンキャップ、カチューシャ…見ているだけで楽しいグッズだ。既に持っている瑠璃も、新しく欲しくなってしまうほど。


「なにが似合うかな…啓介はねー、うーん…大型犬?」

「え、イヌとネコだとケンカにならねェ?」

「いいんじゃない?ケンカしょっちゅうじゃない、私たち」

「ほー、ここへ連れてきたオレにそんなこと言う」

「あはは!ごめんごめん!私たち仲良しだもんねー啓ちゃん!」

「啓ちゃん言うな!あ、こら、頭撫でるな!」


些細で、いつも通りの何気ない会話。冗談言って、笑い合って。それすらも、今は少し、いつもと違って、落ち着かない。


「…これ、どっかで見たことあんな」

「お弟子さんの帽子?ほら、たぶん、夜のショーだと思う。真ん中の海で見たことあるよ」


師匠の魔力が込められた帽子を勝手に借りた主人公が、その力を使って自由に魔法を操る。そんなストーリーだった。強大なパワーを見事に使いこなす主人公は、器用というか、さすがだと、思った。啓介の掌には、小さな青い三角帽子。これに、果たしてその力があるのかどうか。啓介は賭けに出た。


「瑠璃、つけて」

「ん、ちょっとかがんでちょうだい。はい、痛くない?」

「だいじょぶ。似合う?」

「うん、かわいい。でもそれ、ネズミさん…」

「ネコとネズミはケンカ仲でも、『オレたち』は仲良し、だろ。それにコイツはココのヒーローじゃねェか、ヒーローなら、オレにぴったりじゃね?」

「うわ、私の愛するヒーローを自分に重ねるなんて!」

「オレのこと愛してくれてねーのかよ瑠璃!ショックだぜ…」


お互い髪留めを頭につけて、再び歩き出す。この場所は、本当に不思議だ。はしゃいで、大胆になって、普段言えないことも、恥ずかし気もなくさらりと言えてしまいそう。


(さらっと言っちまったら、ダメなんだけどな)


勝負は、夜に。

一生解けない魔法を、きらきら輝く夜空にかけるよ。


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「わ、もう夕方だったんだ!冬が近いと時間経つのが早い気がするー」


屋内アトラクションを終えたあと、外へ出たら景色がすっかり変わって、夜の港街へ。オレンジの街明かりがやさしく灯り、夕焼けの黄昏時との絶妙な風景が拡がっていた。海に面し、パーク一体型のホテルが一枚画として眺められる高台に居るときに、啓介は、繋いでいた瑠璃の手を一度、強く握った。


「あのさ、瑠璃」

「んー?」

「晩飯、なんだけど」

「あ、そうだった、遊んでばっかりで決めてなかったね!そっか、そろそろお夕飯か、えっと地図「予約、してあっから」……え?」


こっち、と握った手をそのままに、啓介は瑠璃の前を歩く。いつも、パークへ来るときは瑠璃が先陣を切り、好きな場所へふたり並んで歩いて回っていた。どちらかと言えば、瑠璃の方がパークに興味があって、また慣れていて土地勘もある。啓介が自ら率先して歩くことは、過去に数回、あっただろうか。突然の啓介の企てに、胸が高鳴らないワケがない。


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キャストに通されたレストランは、海のシンボルである大きなスチームシップの中。白を基調とした店内に、グランドピアノが一台。


「憧れだったんだろ、船の中でディナーって」

「啓介…?」

「……とことん、喜ばせてやりたかったんだ、瑠璃のこと」

「わた、し」

「ほら、早くいこーぜ。オレ腹減ってんだ」


窓際のテーブルでって頼んである、と肩に触れてエスコートしてくれた啓介の言うとおり、デッキに面した窓からは夜の港街が見える。景色と、啓介のサプライズに、胸がうるさくてなかなか鳴り止まなかった。


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「なんかね、」

「ん?」

「不思議。もう、何度も見た景色なのに、今日は全然違って見える」

「クリスマスだからじゃねーの?」

「ううん、そうじゃ、ない気がする」


11月の海風は、もう真冬のように冷たい。ディナーと一緒に楽しんだカクテルは、クリスマスにちなんだ特別メニューを選んだ。酔い覚ましを兼ね、スチームシップ3階の甲板へ。憧れの場所で啓介と過ごす特別な時間が、瑠璃にきらきらと降り注ぐ。閉園まで、あと、わずか。もうすぐ群馬へ帰らなきゃと思うと、切なくなってくる。もっと、景色と空気に浸っていたい。船の縁に腕を置き、ぼんやりと港街を眺めていた。


「瑠璃、あぶねェ」

「…だいじょぶだよ、啓介が守ってくれるでしょう?」


縁に寄りかかるちょっと危なげな瑠璃を、うしろから抱き寄せた。細い腰に、啓介の力強い腕が添えられる。


「…いつかさ、」

「うん」

「子供ができたら、もっかい来たいな、パークに」

「うん、そうだね、きっと小さい子が一緒だともっと楽しくなりそうね」

「……」

「…啓介?」

「……あのさ」

「うん」

「…プロポーズのつもりだったんだけど」

「……え!?」


驚き振り返れば、勘弁してくれと呆気にとられた啓介の落ち込んだ顔。沈んだように腰を落とし、はあ、と溜息をひとつ。


「ご、ごめん啓介!ワザとじゃないの!」

「ああもー緊張して損したぜー!お前ってヤツはー!」

「いい、いひゃい、はな、つままないで…!」


瑠璃とはもう、長い付き合いだった。いつか言おうと思っていた言葉は、キッカケもなく、いつまで経っても啓介の口からなかなか出てこなかった。今年こそはと思い立ち、瑠璃を一番の笑顔にしてくれるこのパークをその場所と決めた。ココなら、自分にも力が湧いてくるかもしれない。そう思って、髪留めを魔法の三角帽子にした啓介だった。


「オレにもさ、使えるみたいなんだわ」

「なにが?」

「魔法」

「ふふっ、うそだ」

「マジだって。オレの師匠からとっときの魔法、教えてもらったもん」

「啓介のお師匠さまって…、もしかして涼介さん?」

「そうそう。『啓介、こういうときはだな、この魔法を使え』」

「あはは、全然にてなーい!」

「るせー。ほら瑠璃、目、つぶって。合図するまで、開けるなよ」



腕時計の秒針を見た。19時59分、50秒。


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「結婚してくれ、瑠璃」


目蓋にキスをされ、目を開けた。


あたりはまっくらな暗闇。大きな海の真ん中に、ぽつんと小さな光だけ。それががどんどん大きくなり、いつの間にか海上に立っていたピラミッド型の立体スクリーン頂上には、パークを代表する、かのヒーローが。啓介と同じ、青い三角帽子をかぶっていた。


「オレはさ、残念ながらアイツほどデカい魔法は使えねェけど」


三角帽子の弟子は、光と水と炎を操り、次々に魔法を繰り出している。まわりのゲストからの歓声が沸いた。


「たくさんの人を笑顔にする、アイツほどのチカラは持ってねェけど」


瑠璃を見れば、瞳はまっすぐ正面へ。花火や水の光で照らされた顔は、泣いていた。




「瑠璃を幸せにする魔法だけは、使えるんだ」




ひとつのまばたき。大粒のしずくは、啓介の親指に救われる。きれいな涙を落としてなるものかと。




「瑠璃を笑顔にするチカラだけは、持ってるんだぜ」




「け、す」

「瑠璃」



壮大な水上ショーが終わっても、瑠璃は海を見つめたまま。デッキの縁に置く手が少し、ふるふると震えていた。後ろから抱きしめた啓介は手を重ね、持ち上げた左手にそっとキスを。


「こっち向いて」

「…ッ、ひ、っく」

「ぷはっ、ぶっさいくなネコだな!」

「うぅ、うるさ、いぃ…!」

「うっそ。かわいい。最ッ高にかわいい、オレだけの子ネコだよ、瑠璃」


冬前の寒さか泣いたせいか、鼻頭を真っ赤にした瑠璃が啓介を睨む。たまらなく愛しい彼女を胸にすっぽり抱き締めた啓介はもう一度、ゆっくり、想いを込めて伝える。



「結婚しよう、瑠璃」




_______________



言葉と一緒に、薬指に通されたダイヤモンド。そのときは、どきどきして、なにも考えられなくて、ただ、啓介からの告白が嬉しくて、幸せいっぱいだったから、啓介にぎゅって抱きつくことしか出来なかったけど。


(『オレだけの子ネコ』だなんて…恥ずかしすぎるんだから…)


帰りのFDの中。ひと仕事を終えた啓介は上機嫌で鼻歌なんか口ずさんでいた。つい先程の言葉を思い出しては恥ずかしくなる、を繰り返している瑠璃は、そこでようやく、落ち着いて左薬指のリングを見た。


「……え?」


一粒の大きなダイヤのまわりには、可愛らしいリボンの装飾。ぴん、と立った小さな耳と顔の輪郭。まるで、ダイヤをボールのように転がして遊んでいるようなデザイン。瑠璃の大好きな、アリストキャットだった。


「気付いた?」

「どうして、これ」

「子供っぽいかなって、最初思ったんだけど、やっぱ、瑠璃が好きなもん、あげたくてさ」


軽快に夜の高速道路を飛ばすFDは、少し、速度を上げた。シフトレバーに置いていた左手を、未だ瑠璃の頭に乗っている白い耳へ。


「似合ってるぜ」


横目で瑠璃を見る啓介は、『これから』の自信に満ちた、男の顔だった。切れ長の瞳を細め、ししっと笑う口元。やんちゃで、優しくて、ときどきイジワルで。


(最ッ高にかっこいいよ、わたしの、ヒーロー)





結婚式は、満開の花で彩られた祝福の春の海で。

永遠に解けない幸せの魔法を、満開の笑顔のきみにかけよう。


瑠璃さまへ

たいへん、ご無沙汰しております!ID.リクエストとは別に、番外編としてお贈りいたします。

ご結婚、本当におめでとうございます!以前お話をお伺いしましたTDSでのプロポーズをお話に書き下ろさせて頂きました。瑠璃さまの大好きな啓介と疑似デートをして頂ければと思い、私も行ってきたばかりのTDSを思い出しながらパークの風景を文章に起こしてみたのですが…夢の国なので如何せん表現が難しく;;うまく瑠璃さまに伝わるといいのですがドキドキ。

啓介のパッチン留め、お気付きかと思います。瑠璃さまが訪れられた時期の夜ショーは『FANTASMIC』かな…と思い、ファンタジアのお弟子さんの帽子に決めました。啓介の魔法に、かかってくださいませ(*^^)v

ところでマリーちゃんのパッチンはあっても、ベルリオーズとトゥルーズ兄弟のパッチンはないんですねパーク…。私が4月中旬にインした際はもうお話の組み立てをしていた最中だったので、参考にしようとイロイロ模索していたのですが…マリーちゃんしか、ないよ…

ご結婚は5月だと伺っております。きっと今頃はバッタバタで、心身ともにお疲れのことと思います。最後の追い込み、お身体を最優先なさって、最ッ高に幸せな結婚式をお迎えください!心よりお祝いとお慶びを申し上げます!


2014,5,1りょうこ