J


>>2014/06/01 (Sun)
>>00:20
Jolly Jolly JOKE!!(京一寄り)

●ご注意ください●R18
私欲たっぷりな、任侠パロDです。シリアスでちょい甘。豪×ヒロインの無理矢理な表現があるため、パスを付けました。Dに馴染みのある言葉の英訳ですので、お調べ頂くとすぐにわかるかと思います。どうしてもわからない方はお問い合わせ下さい。

お話の登場人物

ぐんま
高橋父(存在のみ)…高橋組組長
涼介…大頭
啓介…若頭
史浩…涼介お付き
拓海…藤原の若頭

とちぎ
京一…日光の皇帝、須藤組組長
清次…特攻隊長のような

さいたま
渉、延彦…埼玉二枚看板

かながわ
凛…北条組、頭
豪…ポジションなし(でも組の衆は豪に付きたがる)

ヒロインは真ん中ちゃん。
このお話のみ、彼女と豪さんは同じ大学に通っています。また、今回は豪さんの扱いが酷いです。優しい彼がお好きな方はご注意を。

大丈夫ですか?『おどけたジョーク』=本気にしないで下さいね。
コチラよりどうぞ

広大な敷地を有する、北関東最大とも言われる一派、高橋組。

表向きは、人々を癒し命を助ける総合病院。組の長であり院長でもある高橋父は表の病院に重きを置き、組はすべて、大頭を務める長男涼介に一任している。裏世界とは言うものの、闇取引や売買など悪意ある行為は一切しないのが高橋の方針だった。反対にそのような悪事を警察からはわからない裏の目から見つけ、彼らと連携し取締る。警察署からも認められた謂わばクリーンなヤクザ衆である。権力、知力、体力、そして信頼。群馬はおろか、北関東全域に名を拡げる高橋に、どんな者も刃向わなかった。

あのときまでは。


_______________



「客人がお見えです。帰ったら奥間に顔を出せと、頭方からお言付けが」

「変ね、昨日までそんな予定はなかったはずよ?」

「大頭のお知り合いです。久方振りにお会いするとかで、急遽招かれたそうですよ」

「ふーん…」


とっくに成人したのだから朝と夕の送迎は止してと言っているのに、兄たちを始め家の者たちがそう許してくれない。予定があると嘘を付いて放課後に遊びに行ってもどうしてか必ずバレるので、この義務的送迎は半ば諦めてしまっていた。今日も史浩が運転する黒いセンチュリーが、大学横にスタンバイ。帰途につくその間は、夕方からのスケジュールを確認する大事な時間だ。


「お帰りなさい、お嬢」

「お手荷物をこちらへ」

「ただいま、ありがとう」


高橋組、本家。その門構えには荘厳で美しい木彫りの装飾が施され、来るものを威圧する。

高橋家長女、あきら。両親、兄と弟に愛された可憐な彼女は、組の衆からも同様に可愛がられ、大人の女性へと育った。門を潜り、出迎えるべく並び頭を下げた組の衆たちに声をかけ、笑顔を見せる。


「いつもお出迎えありがとう。もう下がって結構よ」

「はい!お嬢!」

「あきら嬢、お客人が奥間に」

「着替えてすぐ参ります。啓介は?」

「大頭のお側にいらっしゃいます」


_______________


「ただいま戻りました」


襖を開ける手前で、膝をつく。家族であっても、昔からこの奥間に上がる際は礼儀を重んじるようにと教えられてきた。


「入りなさい」

「失礼致します」


通学に着ていた普段着から一変、薄桃色の訪問着で奥間に上がる。正座で一礼をし、兄の涼介、隣の啓介へ顔を向けた。


「お兄様、啓介」

「おかえりアネキ」

「お帰り。紹介するよ、神奈川の北条組、若頭の凛氏と弟君の豪氏だ。凛氏はオレの先輩でね、大学時代とてもお世話になったんだ」

「初めまして、北条凛です」

「あきらと申します。初めまして凛様…豪様」


兄の客人に、にこりと笑みを向ける。だが、凛の隣…豪の顔に、彼女は見覚えがあった。それも、ごく近いところで。それも、あまり良くない噂話と一緒に。


「今年の新茶が届いていますの。凛様、豪様、是非飲んでいらして」


準備のために一度退室した彼女は、縁側を進む歩みを止め、思案を浮かべた。


「……北条、か」


大学で聞いた噂が本当なら。

北関東が、大きく動くかもしれない。

栃木は、埼玉は、今のところ何ともないだろうか。


「文太おじ様、拓海くん…」


同じ群馬で、高橋が絶対の信頼を置く藤原組。知らせた方がいいだろうか。自分の憶測が杞憂で終わればいいのだが…


_______________



北条が訪れる数日前。


普通の大学生活を送りたいあきらは、自分の家系を公言していない。周囲には、独り暮らしをしている女子大生、そう答えるようにしていた。


「あきら、今日買い物付き合ってくんない?セールのDM来たんだけどさ」

「いいよ、じゃあ終わったら昇降口で待ってるね」


史浩くんに言っておかないと、とすぐにスマートフォンを起動させた。夕飯までには連絡します。そう付け足して。


「…?」


誘われた友人とは別のゼミを取っているあきらが、次の講堂へ向かっているとき。一旦外へ出て中庭を横切ったときに、聞き慣れた言葉をキャッチした。


「豪さん本気ですか、そんな、凜さんに無断で」

「アニキは優しすぎんだよ。高橋涼介との友好的な関係を壊したくないから、今まで何度もあったチャンスを逃してきたんだろうが。ったく、それでも頭か」

(…なに…?お兄ちゃんの、こと?)

「組長には何とお話をすれば…勝手に動いたらさすがに大目玉ですよ!」

「事後報告でいいだろ。平気だって、絶対ェうまくいくから。北条が崩れることはねェよ」

(北、条…?)



「将を射んと欲すればなんとやらだ。とりあえず埼玉な」

「あんまり気が乗らないんですけど…しゃーなしにお供しますよ。オレら組の衆は北条と豪さんに身を捧げてんで」

「言うようになったじゃねェか。栃木にも手ェ回す準備しとけよ」

「了解です」




「潰すぞ、高橋」




_______________



「あきら、あきらってば!」

「あ、ご、めん。ぼうっとしてた」

「それ持ったまま出るの?万引きの友人になりたくないんですけど」

「え、ひゃ!わたしったら!」


繁華街のとあるショップ。大学帰りに友人と訪れたあきらは、先の言葉がずっと頭を占拠していて目の前に集中出来ていなかった。既に目当ての会計を済ませた友人と店を出ようとしたら、手に持っている未会計の商品に気付かず、慌ててキャッシャーへ並んだ。


「ねえ、ウチの学校にさ、北条くんている?」

「え?あのセレブ坊ちゃん?」

「はい?」

「独語科の三年でしょ、北条豪。おうちが病院なんだって、神奈川の。だからセレブ坊ちゃん。何だかあきらんトコと似てるね」

「ふーん」

「なに、あきら興味あんの?割といいカオしてるもんねー彼」

「そうじゃなくて!勝手に話を発展させないで!」


星マークのコーヒースタンド。テラス席でつつく、フレーバーラテの氷。浮き沈みする動きを目で追った。


「いいカオはしてるけど、いいウワサは聞かないんだよね、実は」

「どういうこと?」

「彼にはお兄さんがいるの。だから次期院長ってそのお兄さんになるでしょ。次男の自分は、背負うものがないからやりたい放題遊び放題なワケよ。けっこういろんな方面に繋がってるってウワサ」

「たとえば?」

「まあ、裏とか。あと、手が早いって話も」

「裏、ね…」



_______________



北条の兄弟が訪れてから数日。特に、近隣で目立った動きは見られない。それとも、とても深いところで既に動いているのか。ウチと良く似た境遇…表が病院で、裏は…


「高橋に来たのは、私たちを安心させるため…顔を見せて、信頼関係を示すためだとしたら」


そんな画策をしているのは弟だけで、あの優しそうな兄君は本当に顔を見せに来ただけなのかもしれない。いや、そう油断させておいて、虚を突かれるかもしれない。


「だめ、憶測ばかりで、頭が痛い」

「どうした、困った顔をして」

「…お兄ちゃん」

「史浩があきらに、ってさ。風が涼しいから縁側で頂こうか」

「わあっ、あんみつ?うれしい!」


日の入りが少し遅くなった初夏。青色と茜色が交ざり始めた夕暮れ時。肩肘張らず楽な着流しを羽織った涼介が、小さな丸い盆に小鉢を乗せてやってきた。ガラスの器に盛られたあんみつが、夕陽に反射してきらきらと輝いている。とろりとした黒蜜が、あきらの顔をとろけさせた。


「悩んでいるなら力になるぞ、あきら」

「もー、過保護なんだから。もう大人よ?大抵のことは自分で出来るわ」

「過保護だろうがなんだろうが、送迎だけはさせてもらうからな。絶対にひとりでは出歩かせん」

「…わかってます」


友人らと遊んで別れたあとも、必ず家に連絡して迎えに来てもらう。『高橋の娘』がひとりで居れば、それは恰好の獲物だから。


「そうだ、この前来ていた北条氏。弟の豪氏はお前と同じ大学だそうだ。高橋と北条は付き合いが良い。構内で彼に会ったら、一度話してみるといいさ」

「この間見たよ、中庭で。移動教室だったから、お話はしなかったけど」



この数日後、その大学が発端となることなど知らず、今となっては遅いことだが涼介は頭を抱え込んだ。

『英語科四年の、高橋あきらサンですよね?』

振り返ったそこには、高橋の奥間で見たときよりもっと、にこりと笑う、北条豪がいた。



自分の読みが、当たっていたと。

ふ、と意識を失くしたあきらの脳裏には、兄妹弟三人で笑う、愛しい姿が映っていた。


_______________



『アニキか?!埼玉のヤツら惨敗だぜ…!なんとか食い止めたけどよ、ったくひっでェ有様だ!』

「お前は無事なのか啓介。延彦、渉、そこに居るか」

『すみません涼介さん、手薄にしていたところ、見事に突かれましたよ…。啓介さんが来てくれたおかげで、全滅は免れましたが…。渉もオレも無事です』

「そうか…わかった。啓介、落ち着くまでそっちにいろ。抜かるなよ」

『おっけーアニキ』


神奈川からの突然の奇襲だった。すぐに啓介を向かわせ、高橋傘下の援護をさせたが、致命傷を負った連中もいる。涼介は悔やみ、報告を聞いた電話を切って深く息を吐いた。


「どこの輩だ…高橋に楯突くなど」


狙われたのは、埼玉で同盟を組む秋山だった。栃木との県境を拠点としながら、埼玉全域を統べる大御所だ。秋山がどこに属しているか、業界で知らぬものなど居りはしないだろうに。狙いは、将であると。涼介は勘ぐった。


「涼介」


次はきっと栃木だろうと読み、急ぎ連絡を取ろうとした矢先だった。恐らくこの大頭と対等で肩を並べられる人物はひとりしかいないと、北関東の誰もが思う。付き人を連れず、単身やってきたのか。襖を開けたのは、日光の皇帝、須藤京一。


「清次を置いてきた。埼玉の二の舞にはさせん」

「さすが情報が早いな。いいのか、岩城ひとりで。お前が抜けた日光を守れるのか」

「アイツは馬鹿だが、腕は誰より強い。心配するな。それより、本隊が混乱していると思ってな。手助けに来てやったんだ」

「ふっ、そうか」


只でさえ慌ただしく騒がしい屋敷に突如、史浩の声、いや、叫びが響いた。普段の彼ならば、敬意を表して絶対に呼ばない名前で。幼馴染が取り乱し自分を呼んでいるところへ、涼介、そして京一は駆けた。



_______________



「こんな簡単に済むなんてな」

「ハナっからこうすりゃ良かったんじゃねーか」

「だよなァ、そしたらもっと早く豪さんの株も上がって、組長も喜ばれるってモンだ」

「凛さんもお人が善いからなー、自分じゃこんな手荒なコトしねェし」



(ん…)


いくつかの笑い声が聞こえ、ぼんやりと目を開ける。灯りがなく、視界が慣れるまで何度かまばたきをした。


「え…、ん、ぐ…っ!」


口に触れた柔らかいなにか。布だろうか。かなり強く巻かれていて、口を動かして喋ることがままならない。目が慣れたので身体を動かしてみた。腕が背中に回り、ぎち、と手首からイヤな音がした。足はどうやら束ねられていないようなので、何とか腰を起こし、今の状況を理解しようと辺りを見回した。


(くるま、の中…?ここ、外…?)


ワゴンか、バンか。大きな車の荷室。バックドアガラスにはどうやらスモークが貼られていて外の景色は曖昧だったが、月の光だけはハッキリと見えた。


(なんで、どうしてこんな、一体誰が)


あのとき。大学で呼ばれて振り返った瞬間からの記憶が薄い。頭が割れるようにガンガンと鳴る。くらりと眩暈がして、再び上体が倒れてしまった。


「お目覚め?お姫サマ」

(だ、れ…)


外灯と、月の光。バックドアが開かれ、朦朧とぼやけた耳で聞き取る。薄ら開けた半目で見えた顔は、ニヤリとこちらを見下ろしていた。


「スキだらけだな、お前。セキュリティ万全の大学だからって安心してたんだろ。甘ェんだよ」

(ほう、じょう、くん…?)

「つーかもっと早く気付くべきだったよな、まさか同じ大学に居るとか何で三年間も放っといたんだろオレ。この前アニキに連れ添ってお前んちに行って正解だったわ」

(…っ、まさか…っ)

「北条を拡げるために、こんな手っ取り早い方法はねェよ。なあ?高橋のご令嬢、あきらサマ」

「ッ!んー!」

「はっ、それじゃ喋らんねェよな。カワイソウだから解いてやんよ」


ぐ、と強引に前髪を引っ張られ、後頭部で縛ってあった布が解かれる。口から一気に空気が流れ、けほ、と咳き込んだ。


「北条くん!あなた、高橋に何するつもりよ!」

「おーこわ。連れねェじゃん、屋敷で会ったときは『豪様』って優しかったのに」

「ふざけないで!私ひとり攫ったって、高橋は決して崩れないわ!」

「知らねェの?さっき埼玉落としたんだぜ。次は栃木…群馬を攻めるのも、そう遅くないハナシさ」

「何てことを…!兄が黙っていないわよ!」

「ふーん…ナマイキ。でも、そういうオンナ、そそられんだよね」

「え…ッ、きゃああ!」

「…酷くされたくなきゃ、黙ってな。あきら」



_______________



「涼介さん」

「藤原か!」


『あきら嬢が攫われた』
『北条の手の者に』
『大学を出られた形跡がないそうだ』


高橋に名を連ねる各組が襲われている最中。今はまだ平穏でいる渋川の藤原が、涼介を訪ねやってきた。屋敷では、奇襲とあきらの捜索に総動員で駆け回っている。父に組を任されている涼介は自らが離れ敵地へ赴くことを父より許されておらず、また、若頭である啓介は埼玉に居るため、身動きが出来ず考えあぐねいていた。


「お話は聞きました。ウチはまだ大丈夫ですし、手が必要でしょうからお手伝いしますよ」

「すまん…だが、渋川も時間の問題だろうが」

「親父がいます。秋名の連中もいますし、なんとか打開するでしょう。それより、あきらさんです」

「ああ…クソッ、オレが甘かったんだ…もっと護衛を付けてやれば…学内で狙れるなど思いもしなかった。北条先輩は、本当に信頼ある人なんだ。まさか…こんなことに…」

「弟があきらと同じ大学だと、元よりお前は知っていたのか、涼介」

「先輩が弟を連れて以前屋敷に来た際に聞いたよ。あきらにもそれを伝えたさ。だが、北条と高橋がぶつかる理由も、あきらを攫う意味も、今のオレには理解出来ん…」

「それを今考えたって無駄でしょう。オレが行きます。あきらさんのGPS、教えてください。涼介さん」

「藤原、お前は高橋に残れ。もし渋川に攻め込まれたら、群馬県内、少しでも近くに居た方が戻りも早いだろう。あきらの足跡は、オレが辿る」

「京一」

「京一さん」

「啓介が不在で、高橋も手薄だ。涼介を守れよ、藤原」


_______________



「ん…ッ、や、あ…ッ」

「は…、やっぱ、箱入りってヤツ?男慣れしてねーんだな」


バックドアが再び閉められ、完全に密室。背中で拘束されていた手首は解かれたが、直ぐにまた、今度は頭上でひとつにされた。細い、レザーベルトだった。バックルだろうか、金属部分が手首に触れ、冷たかった。トップスをたくし上げられ、露わになる胸元。柔肌に手を這わせ感触を楽しむ豪が、ぴん、とバタフライナイフを開く。


「な、なに…するの」

「じっとしてろ」


ブラの中心。ワイヤー芯が通っているソコへ、刃が宛がわれた。


「や…だ…おに、ちゃ…!」

「教えてやるよ、オトコってモンを」


止まない、甲高い悲鳴。ガラスにスモークが貼られた、漆黒のハイエース。ときどきギシリと音を出す車体の周りには、見張りの男たちが数人。静かな場所…光源は、月と少しの外灯しかない、とある山奥。北条の傘下が高橋を攻め落としている今この時に、自分はその高橋の姫…あきらを手籠めにしている。相手の弱点を奪い意のままに啼かす快感を、豪は組み敷いたあきらの胸に吸い付きながら味わっていた。


「あ、や、だ…ぁ!」

「…名前、呼べよ、オレの」

「たすけ…っ、おにい、ちゃ…」

「呼べっつってんだろ、酷くされてェの?」

「ふ…うう…っ、ひゃ、ぁ!」


スカートのジップが下げられ、ショーツに指がかかる。間髪入れずに脱がした豪は、は、と嘲笑った。


「無理矢理ヤられても、女ってちゃんと濡れんだよな。傷付かないように、だっけか?」

「し、らない…っ、やだ、もう、」

「…呼べよ、あきら」


つ、と秘部に指を沿わす。しっとり密を纏って、豪に絡む。


「ほう、じょうくん…っ、いやあッ!」

「違ェよ」


いきなり突き立てた指を、中でくちゅりと曲げた。アツくて狭いソコに、豪はまた笑う。


「…へェ、マジでお前、バージンか。ははっ、いいモン見つけたわ」

「い、た、痛い、よ…!や、だ…ご、豪、くん…っ」

「言えんじゃん、お姫サマ。さーて高橋はどう動くかな、一人娘が北条に寝取られたなんて知ったら」


『返してほしけりゃ北関東全部、北条に寄越せ』


まるでどこかのガキ大将のようだ。だが、弱点を付いて相手を弱らせることなど、昔から勝負事の常套手段ではないか。優しすぎる兄にはここまで出来ないだろう。悪事をやってこそ、ヤクザだろうが。自分の方が、この役が似合うんだ。


(テメェは真面目に病院継ぎやがれ。裏稼業なんざ、向いてねんだよアニキ)



…ぽろ、


(あ?)


「ひ、く、ふう…っ、」


ぽろ、ぽろ


「…あきら」

「や、だぁ…っ、く、うぅ…」


豪は息を呑んだ。

固く目を瞑り、こちらをまったく見ていないあきらの瞳から、ほろほろと止まらない涙。頬を流れ、ぽとりとシートに落ちる。悲痛な感情からかあきらの身体は縮こまって震え上がり、涙に触れようとした豪を拒絶した。弱々しい彼女の姿に庇護の思いを感じた豪は瞬間、あきらを犯す手を引いた。


「あきら、おい、あきら!」

「も、怖い、よぉ…!」


呼吸が荒く、身体はガチガチに硬い。


「ちッ、マズいな…!あきら落ち着け、ゆっくり息を吐くんだ!あきら!」

「くる、し、おに、ちゃ…けい、す」



ズ、ガァア……ン!



「!!??」


着ていたシャツをあきらに掛け、ハイエースのバックドアを開けた豪の先に。


「貴様か、北条の倅は」

「テメェ、何モンだ」


轟音を上げたのは、たったひとりで場に立つ、頭にバンダナを巻いたブラックスーツ姿の男。傍らには、彼と同じ漆黒の、荒馬のような車。


「高橋の名代で来た。あきら嬢を返してもらうぞ」

「は、遅かったな。あきらはもうオレのモンなんだよ。テメェひとりでどうするつもりだ」

「周りを見て言え小僧。あとはお前だけだ」


ハイエースを取り囲んていた見張り衆は皆、地に伏していた。どういうことだ、物音ひとつ立てず、この人数を潰したというのか。


(たった、ひとりで…!)

「あきらを渡せ。高橋に敵対するなら、こちらとて手加減せん」

「手加減、ねぇ…この状況をまだ手加減してるっつーのかよ」


敵わねェ。直感だった。


「まだ、『全部』頂いてねェよ。どっかの誰かのためにとっといてやったぜ」

「ふん、口達者な小僧だ」


参ったと、豪は地に膝をついて頭を垂れる。息が落ち着きそのまま意識を失くしたあきらを、京一は自分のジャケットで包み至極優しく抱き上げた。豪のシャツをその場に捨て、愛車のエンジンに火を灯す。


「オレも舐められたものだ、随分と貧弱な部下を寄越してきやがって。『手応えがない』とオレの組が嘆いていた」

「栃木ナンバー…、そうか、アンタ」

「勝手に動いて、埼玉を潰したそうだな。貴様の兄上が御冠だ。見せしめに切腹でもしたらどうだ」

「ふっるい考え」

「…あきらに手を出したこと、高橋涼介が黙っておらんぞ。相当の覚悟を持って、早急に謝罪に来るんだな」

「…了解、皇帝サン」



_______________



「ん…」

「アネキ!」

「あきら」


今度は、見知らぬ場所ではなかった。天井の模様、照明の灯り、お気に入りのお香の匂い、両手に繋がれた、大好きな、大きな手。


「気分は?」

「お兄、ちゃん」

「あー、すっげェ安心した!よかったー目ェ開けてくれて!」

「…啓ちゃん」


高橋家、母屋の自室。やっと焦点が合った目を二度三度とまばたきをして、上体をゆっくり起こす。す、と涼介が背中を支えてくれた。


「大丈夫か、起きても。吐き気や頭痛はないか?」

「ん、平気…少し、お水をちょうだい」


啓介に手を添えられ、グラスの水を嚥下した。冷水が喉を通る感覚に、頭がすうっと目覚めていく。


「…私の不注意で、ごめんなさい」

「謝るなあきら。すべてはオレのミスだ」

「お兄ちゃん、でも」

「誰のせいでもないですよ涼介さん。無事で何よりです、あきらさん」


きゅ、とあきらの手を握り、安堵の息を吐くは藤原拓海。あきらを姉のように慕い、つい甘えてしまう弟分だ。


「ありがとう拓海くん、来てくれたのね。渋川は、大丈夫だったの?」

「ウチには親父を置いてきましたから、心配しないでください。あきらさんがいなくなったって聞いて、飛んできちゃいました」

「まあ、拓海くんたら」


近いうちにおじ様へご挨拶に行かなくちゃと、にこやかな空気に包まれる。それが面白くなかった実弟が、ずい、とふたりの間に割って入った。啓介を見ればずいぶん、顔に生傷が多い。姉の腰に腕を回し、猫のようにゴロゴロと甘えだす。


「オレもがんばったんだぜあねきー」

「そうだった!お兄ちゃん、埼玉は、」

「啓介のおかげでな、何人か致命傷を負ったが全員無事だ。延彦と渉も元気だよ」

「そ、か…。お疲れさま啓ちゃん。よくがんばったね」

「えっへへ、アネキに褒められんの、オレ好きー」


低く頭を垂れてきたので、あきらは啓介の髪を撫でてやる。父も涼介も、ここ一番に頼りにしているのは、啓介の身体能力と、組の衆を虜にするほどのカリスマ性だった。明るい性格は人を惹きつけ、啓介の周りではいつも笑いが起きている。組を率いて出向くときはそれはもう眼光鋭き般若の如く荒れ狂うが、決して命を取らない。それは、高橋の鉄の掟だから。その逸話が県内外に拡がったのはずいぶん前であるのに、啓介に憧れ門を叩く若者は今も後を絶たなかった。今回の埼玉での一戦で、また組内が賑やかになりそうだと、今は甘えん坊の可愛い弟を撫でながら、姉は微笑んだ。



_______________




「須藤様」

「…歩いて平気なのか」


屋敷がやっと落ち着き、拓海も渋川へ帰るというので見送ったあと。中庭を挟み、母屋の反対側にある客間の縁側に腰掛けるバンダナ姿を見た。浴衣を着ているその背中は、厳格だけれどどこか優しい、須藤京一のもの。


「兄と、拓海く…拓海様から伺いました。北条から救って下さったのは、須藤様だと」

「…余計なことを」

「余計ではありません。その…私の『からだ』を、守って下さったと」


こほ、と京一が一度咳き込んだ。吹き出す紫煙が、そのときだけふわり大きく膨らむ。


「どうして、私の居場所が?気付いたときには、私のスマートフォンが見当たらなくて…GPSがないのに…」

「ネックレス。涼介からの贈り物だそうだな」

「え?ええ…」

「GPSはそれだ。どんなときも、アイツはあきらを守ってやりたいんだろう」

「お兄ちゃん…」


それなら、今まで嘘をついて遊びに行った放課後に突然迎えがやってきたことに合点がいく。涼介が父から組を任されたときに贈られた、一粒のダイヤモンド。『いつでも守ってあげられるように』と言われた言葉を思い出す。自分の手の届く範囲は自分が守ってやりたい。その兄の想いが、あきらを見つける鍵になった。


「過保護だなんて、私、お兄ちゃんに酷いことを言ったわ」

「酷いことを言った分、もっと甘えてやれ。あきらを溺愛しているからな、涼介は」

「ふふっ、はい」


陽が落ち、少し肌寒さが残る初夏の宵。腰を上げた京一が、そろそろ暇だとあきらに告げた。


「須藤様、あきらは何度感謝を申し上げれば良いか…何か、お礼をさせて下さいませ。でないと心が落ち着きませんわ」

「…そうか、なら」

「ッ!須ど、」

「……京一と、呼んでくれ」


自分を見上げた無垢な瞳を、京一は胸に仕舞い込んだ。涼介の妹は自分にとっても妹であり、守らねばならぬ存在だった。だが、豪の元へ向かい抱き上げた彼女の重さに、京一は妹以上の愛しさを感じていた。遥か歳下の彼女に恋慕など、兄に言えば『高橋から出て行け』と勘当されることは容易に考え付く。だから今は、今だけは、この小さな身体を抱き締めることで感情を抑えよう。

いつか伝える、その日まで。




**************

思い切りパロってすみませんでした!いろいろ見せ場を作りたかったんですが、ちょっとこれが精一杯です。もっとみんな出したかったー!結局、鉄板メンバー…やっぱり書きやすいのかな。豪さんの扱いが酷くなってすみません。そして予期せぬR18でこれまたすみません!えっちぃ場面を書いたの、(もう消しましたが)以前365で書いた以来だったのでもう緊張して…!パス&温い表現で申し訳ないです…お付き合い下さったお嬢様は女神様です。


おまけ


「この度の愚弟の不始末、深くお詫び申し上げる」

「…さて、どうしてくれましょうかね先輩」

「高橋潰して、どーするつもりだったんだよテメェ」

「け、自分の陣地を拡げようとして何が悪い」

「戦国時代じゃねンだぞ弟、反省してんのかよ!」

「啓介、言葉を慎みなさい」

「アネキ…っ!ンなヤツに優しくするこたねェだろ!第一、アネキ被害者…」

「お兄様、ここは私が。…凛様、お顔をお上げ下さいませ」

「あきら嬢…」

「まずは埼玉へ謝罪を。治療中の者たちをすべて、貴院で看て頂けませんか?お父様は、良い腕のお医者様だと伺っております。生憎当院は、啓介の部下の治療で手一杯ですの。お力をお借り出来れば、助かりますわ」


背筋を伸ばし、しゃんと話すあきらの力強い言葉。その姿に『可憐』や『可愛らしさ』などはなく、その場に居る誰もが『美しい』と思ったという。


「喜んで受けましょう。しかし貴女への償いがまだ…」

「…それではひとつだけ、お願いがございます。豪様」

「…ンだよ」

「少しでも悪いとお気持ちがおありなら…大学で、私を守って下さいませんか」

「北条次男のオレにSPになれっての」

「豪、止さないか」

「…お家の事情を隠しながら過ごす学生生活が、少し窮屈になってきたの。話の通じる人が構内に居てくれたらって、ずっと思ってたんだ。だめ?豪くん」

「……いいけど」

「ありがとう!」


その笑みが、あまりに綺麗だったから。

自分の野望のために、手籠めにし落とそうと酷いことをした彼女に、今度は自分が堕ちてしまうなんて。瞳を逸らし、豪は照れくささをひた隠した。




おそまつでした!
(すみませんやっぱり豪さんに甘い私です)

2014,6月アップ