K


>>2014/06/05 (Thu)
>>02:03
Kカイとカノジョとカートゲーム

のぞみさまリクエスト
お相手:カイ
ヒロイン:恋人

カイのことが好きでたまらない彼女。ちょっと大人っぽい甘さで仕上げてみました。皆川さんもご出演。カイは某レーシングゲーム好き。

のぞみさまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

あれは、そうだ、確か大雪だったんだ。こんな日に合コンなんてするんかよと抗議したのに、主催のダチが『集まるのはみんな地元のヤツばっかだから』とかイマイチ理由になっていないことを言って敢行されたんだっけ。


「ごめん、遅れちゃった」


案の定、開始時間から遅れたヤツがひとり。この雪だってのに、足元が高いヒールだった。細いピンヒールの音を店内のフローリングにうるさく響かないように配慮して歩く。その所作は決して不恰好ではなく、ヒールが自身の一部のように扱い慣れた姿だった。大人だな、そう思った。


それから、2年。


世界的有名なTVゲームのキャラクターが繰り広げるレーシングゲーム。シリーズを通してプレイしている本作も、今年で8作目だというのだから驚きだ。


「へへっ、私の勝ちねカイ!約束だからねー、ドーナツ!」


地元のゲームセンター。アーケード版は専用バケットに座ってハンドルを切る。初代の家庭用ソフトが発売されてからずっと、シリーズをやり込んで誰にも負けたことはなかった。家に遊びに来た友人にも『カイ強すぎ、手加減しろよ』なんて言われることは茶飯事だし、ゲーセンの割り込み対戦だって勝ってきた。


『ね、今の着メロ、もしかして』


2年前の合コンで出会った彼女…のぞみが気付いた、当時のオレのメール着信音。初代のそのソフトの、オープニング曲。そこで一気に話が盛り上がって、お互いの共通点が見えた。


(知的で、大人で…クールな印象だった、のは最初だけか)


めっちゃ強い。コイツ速い。なんだってんだよそのペダルワーク。つーかそのボタン操作なんだよ神か。明らかな差を付けられて、今日もオレはのぞみに負けた。専用バケットから身を乗り出し、オレに向かって勝利のVサイン。かわいい顔で笑いやがってコノヤロウ、どこがクールだ。


(配管工のオヤジがオレらのキューピットとか有り得ねェ)


勝ったらドーナツ奢ってね、のぞみご指名のドーナツ専門店へ。上機嫌な彼女を連れて、リアルレーシングカーMR-Sは駆けだした。


_______________



夏限定のフレーバー、マンゴークリーム。カウンターで真っ先に頼んでいたのぞみに、オレは聞いた。


「確信犯だろ」

「なにがー?」

「絶対ェ勝つって」

「しーらない」


カイに勝つ自信があるから連れてってもらおう、そういう顔でプレイしてたんだぞお前。だまされるか。


「カイ」

「ん?」

「キャラメル、ついてるよ」


のぞみはマンゴー、オレはキャラメル。グレージングされたキャラメルのひと欠けが口端についていたらしい。夏らしい青いネイルの指先で、ちょん、とつままれた。


「ふふっ、かわいいねカイは」

「なんでだよ、嬉しくねェよそんなん言われたって」

「硬派に見えるのに甘党、って、けっこう女の子をくすぐるポイント高いよ」

「知らねーよ」

「…あ、負けて悔しーんだ」

「悔しいに決まってんだろアホ」


つまんだキャラメルはそのままのぞみの口へ。くすくす笑う目はかわいいのに、指の仕草が色っぽい。それだって、男をくすぐるポイント高ェよ。


「よし、家で特訓しようか。コースとマシンの徹底分析だよ」


トレイを持って立ち上がるのぞみ。シンプルな真っ白いTシャツに、ゴールドのワントップネックレス。ブラウンのネルシャツをウエストに巻き、ピーコックブルーのクロップドパンツ。


「最近、ヒール履いてねェんじゃねーの?」

「カイと遊ぶときって必ずゲーセンに寄るじゃない。レースするのにヒールは邪魔だもの」


コンバースの白いワンスター。大人っぽくてかっこいい服のスタイルを、足元のスニーカーで着崩す。オレより10cmほど背が低いのぞみは、ヒールを履くと目線が揃うが、今日みたいに低いスニーカーだと良い感じに身長差が出る。ゲームで勝てないオレが、こんなところで少しのぞみに優越感を感じているなんて知ったら、怒るだろうな。まあ、ヒールでレース=ハンデを付けられても、オレは嬉しくないけど。どうせ勝つなら、本気ののぞみに勝ちたいし。



「カイ、今週末は?」

「あー、ちょっと無理。長尾に用事が」

「例の群馬から来るってヤツ?」

「あれ、のぞみに言ったっけ、オレ」

「ううん、皆川さん」


MRーSの助手席、ドアのアームレストに肘をつき、外を見ながら答えるのぞみ。…観に来る気満々なんだろう、横顔の口元が、笑っていたから。



_______________




「こんばんは、皆川さん」

「来ると思っていたぞ、のぞみ」


長尾峠、ダウンヒルスタート地点。今しがた飛び出していったカイを見送ったのぞみは、バトルを教えてくれた皆川へ声を掛ける。気難しく、時に厳しい意見を言う皆川だが、のぞみとは波長が合うらしくカイが間にいなくてもよく会話している仲だった。それは峠だったりサーキットだったり、場所を選ばない。


「仕事だったんだろう、間に合ってよかったな」

「早番で上がってきました。ココ、県境だから来るのに時間かかると思って」


カタギリのメンバーに便乗して停めさせてもらった、愛車のビート。『ゲームみたいなオープンカーに乗りたいな、小さいやつで』というのぞみの希望を叶えるにはうってつけだと、カイが提案した。素早く動き、よく走る。


「調子いいか、アイツは」

「ええ、小回りが利くので、山道は助かりました」

「ほお…なら、今度オレも乗せてもらおうかな」

「ふふっ、皆川さんを隣に乗せたら、カイが怒りますよ」


あまり表情を崩さない皆川の口元がほのかに上がる。今頃、カレシは因縁の決着のため必死に走っているのに。メンバーの電話からカイの状況が流れた。


「…いい、走りをしてるみたいですね」

「安心か?」

「いいえ、まだこれからでしょう?」


信じて待つその横顔を、皆川は見つめる。レーサー目当てでサーキットに来る若い女性とは、のぞみの目つきは違っていた。


「勝負事に、うるさいですから。カイは」

「信じているんだな」

「『ホンモノ』のレースで、カイより速い人はいませんよ」


小柏と同年だが、大人びた知的な印象をのぞみに感じた皆川。話し方や、初対面での接し方、のぞみ自身のスタイルやセンス。それは一緒に居る小柏が見劣りするくらいだった。だが、彼女は皆川やチーム関係の人間と居るとき、真っ先に、小柏を立てる。自分を預けた男を信じ、誇りに思っているのぞみの姿勢に、皆川は惹かれた。


「慕っているんだな、アイツを」

「あら、違いますよ」

「…まさか、嫌っているのか?」

「そうでなくて。私が慕っているのは皆川さんです。私は、誰よりも愛しているんです。カイのこと」


『笑うと一気に可愛いんですよー、オレの彼女』


いつかノロケを聞かされたな、と皆川は思い出した。カイを想って笑うのぞみ。皆川は、ほんの少しだけ、『負ければいいのに』と思ってしまった。


「愛しているからと言って何もアイツと同じミッドシップに乗ることはなかっただろうに。お前の希望するオープンカーなら、もっと他にあるんじゃないのか」

「それはね、皆川さん」


ふふ、と愛らしく笑うのぞみが告げたその言葉に、皆川はため息しか出てこなかった。そろそろダウンヒルも終盤だと連絡が入り、皆川はスープラの元へ歩き出す。


_______________



プロジェクトDの戦いがすべて終わり、公道ランナーたちにとって永遠の伝説となった初秋のある日。実家の近く…中禅寺湖周辺のモミジはまだ夏のままで、カイは湖のほとりで戯れるのぞみに、少し大きな声で言った。


「対戦、していかねェか」


今年発売されたばかりの最新版。専用のハンドルにコントローラーを埋めて、電源を入れた。カイの部屋、ペアソファに座るのぞみに、ハンドルをひとつ渡す。


「勝ったら何してもらおうかなー」

「150ccな」


不敵な、自信たっぷりな顔でのぞみはカイを見る。いつも通りの排気量を選び、のぞみはオープンホイール、カイは慣れ親しんだスタンダードカート。グリッドに並び、グリーンシグナルがレッドになる少し前。アクセルを吹かし、ロケットスタート。CPUも相当速く走る中、カイとのぞみのトップ争いが、ラップを重ねるごとにヒートアップしていった。


「……やっぱ速ェな、のぞみ」

「あったり前!」


チェッカーを切る。ふう、と息をついたカイが、ペアソファに凭れた。妙に、すっきりした顔だった。


「上には上が居るものよ」

「……何のことだよ」

「このあいだの、長尾」

「…うん」

「カイ、」

「…ん?」

「追い越さなきゃいけない相手がいるって、幸せなことだと思うの。だって、自分をどんどん、成長させてくれるから」


カイとってそれは、皆川でありサーキットの連中であり、そして、秋名のハチロク。


「カイは、速いよ。がんばってるもの」


TV画面のレース結果を見る。トップに立つのぞみのキャラクターが、トロフィーを持ってにこやかに手を振っていた。2位のカイとは、ほんの、コンマ1秒差。


「ゲームだって。ここまでぴったり付かれたの、初めてだったし。いつもと同じ条件なのにね。私ヒヤヒヤしちゃった」


おつかれさま、カイ。


逆立てた前髪に触れようと伸ばしたら、手首を引かれて胸元にダイブ。カイのTシャツから、柔軟剤の柔らかい香りと、少しだけタバコのにおい。

ふんわり笑うその目が、カイにはやさしすぎた。



「やっぱ、のぞみにゃ敵わねェわ。あーくそ、なんで負けんだよー」

「ふふっ、甘えたさんなの?」

「うん。くやしいから…いい?」


『ミッドシップは、私の大好きなゲームのカートと一緒だって、カイが選んでくれたんです』

オープンカーであり、小さなボディであり、真ん中エンジンのミッドシップ。ゲームとホンモノとじゃ扱い方が全然違うものだが、のぞみならきっと乗りこなす。ビートは、彼女の希望に応えてやりたいがためのカイの選択だった。それをのぞみから聞いた皆川は後日、溺愛も程々にしてレースに集中しやがれとカイに喝を入れたらしい。


「のぞみって、皆川さんの前だと大人っぽくて出来るオンナって感じになるよな、なんで?」

「だって、カイの先輩じゃない。失礼のないように振る舞っているのよ」

「うん、かわいいのは、オレだけに見して。…今みたいに、な」


相"想"相愛。カイとのぞみの真ん中には常に、想い合って愛する心が存在する。ソファに埋もれ、カイのやさしいキスを感じながら、TVから流れてきた、カイが以前設定していたあの懐かしい着メロと同じ曲に、のぞみは少しだけ意識を傾けた。


ときどき大人っぽくて、かっこいいのぞみも好きだけどさ。

オレの前では、かわいく甘えてほしいんだ。

オレも、のぞみに甘えるから。

でも、ゲームに甘えは必要ねェからな。

いつか絶対、追い越してやるよ、のぞみ。

のぞみさまへ

昨年10月にご応募下さったリクエスト、大変お待たせいたしました。改めまして、1周年と20000hitへのお言葉、ありがとうございます。

カイのお話、ずっとあたためていたんです。が、タイトルの頭文字は絶対にKを使いたかったので、それまでのぞみさまにお待ち頂くことになってしまいました。本当に、遅くなって申し訳ありません…。

カイを好きすぎるヒロインちゃん、ということで、皆川さんも登場しつつ、可愛らしく甘く仕上げてみました。一見、大人で知的かと思いきや、好きな人の前では可愛らしく甘えてしまう…カイに心を許しているから見せる姿なのかなと。恋人の前では女の子は可愛く振る舞いたいですもんね(私には遠い過去のこと)。でもときどき背伸びして大人っぽく見せたいときもあるんです。そこに男はドキリとするんですよねー。彼より一枚上手なヒロインちゃんになりました。お気に召して下さると嬉しいです。

元ネタを。
もうお気付きですね、マリオカートです。宅のmainで『小柏カイはアーケード好きで得意なものはマリオカート』という設定をそのまま使いました。イメージはwiiUの最新作マリオカート8(任天堂さんコチラ※PC推奨)です。マシンセレクトが楽しくてですね、タイヤまで選べて自分好みにマシンをカスタマイズ出来るので、とってもやり込み甲斐のあるゲームです。アーケードも楽しいですよ。よろしければのぞみさまも遊んでみてください(*^^*)

実は全リクエストの中で、カイをご指定下さった方はのぞみさまおひとりだったんです。久し振りにカイのお話が書けて楽しかったです!良い機会を下さって、ありがとうございますのぞみさま!またいつでも、遊びにいらして下さいね。ご訪問、お待ちしております!

2014,6,5りょうこ