M
>>2014/07/05 (Sat)
>>23:48
M右頬に見えるは六連星(涼介)
蝶さまリクエスト
お相手:涼介
ヒロイン:京一従妹(苗字が須藤さんです)
季節は夏〜秋、京一さんリベンジの2nd。シルバーのランエボW乗りヒロインさん。エンペラーにもレッドサンズにも属していないです。涼介さんとお付き合いしています。ベタ甘。後半ちょっとシリアス気味。
蝶さまへのご挨拶はあとがきにて。
コチラからどうぞ。
(ウソでしょ…!こんな日に限って、どうして!)
何も、寝不足が続いて肌荒れが酷いときに現れなくたっていいじゃない、神様のイジワル。
高校の同級生だった彼と再会したのは、お互いが二十歳だった三年前。私が飛び乗った車両に、見目麗しい彼が小さな文庫本を片手に窓側に立っていた。高橋くん相変わらずかっこいいいなあ、真っ白いジャケットがこれほど似合う人はそう居ないよなあ、などと呑気に思っていたら、ふと自分の今の姿を思い出し、即座に立ち去りたい気分だった。
「て、思ってたのよ。あのとき」
「すまん、まったく覚えてない」
「学校の憧れだった高橋くんを前に、ロクでもない私服で居たなんて恥ずかしくって!」
「オレは別にファッションにこだわりはないから気にしなかったと思うけど」
「いやむしろこだわってください。じゃなくて!女の子にしてみたらそういうときってこの上なく『やっちゃった』感が満載なの!おまけに私、当時すっごく肌荒れが酷かったのよね」
「じゃあ今こんなに肌に艶があるのは、オレと付き合ってるおかげってこと?」
「…なんか、言い方がやーらしー…涼介のエッチ」
「うん、否定しないから」
「ばかっ」
高校三年間だけ、蝶は群馬に住んでいた。卒業後は地元栃木に戻って県内の大学へ進学。所用のため群馬に向かっていた電車での偶然から三年が経って、季節は初夏。歩くと少し汗ばむ街の空気に、夏の息吹を感じていた。あの電車の中で交わしたひと言ふた言の短い会話が今は長くなり、それが当たり前のようになったのも、今年で三年。恋のキッカケとは突然現れるものなのかもしれない。
「あ、ごめん。そろそろ行かなきゃ」
「なんだ、もうそんな時間?」
「言ってたでしょ、今日親戚が集まるから夕方には帰るって」
「残念。このまま夜まで一緒に居て、赤城に連れていこうと思ってたのにな」
「…赤城の『麓』の間違いじゃないの」
「バレた?」
「怒るよ涼介」
学生時代はもっとクールな印象だった高橋涼介。それも恋のパワーなのか、付き合った途端に甘い男に変貌した。見た目にはわからないが、一緒に居るときの所作や声がまさにフェミニスト。申し分ないほど大事にされていると伝わるから文句も言えない。ときどき、セクシーすぎて砕けるけど。
「次はいつ逢える?蝶」
「涼介の都合に合わせるよ、忙しいでしょう?私の方が融通が利くから」
「大事なレディに気を遣わすワケにはいかないな。スケジュール教えてくれ、逢いに行くから」
高崎市内の沿道のカフェ。待ち合わせをしてからランチを頂いて、今日はここでカフェデート。併設パーキングに仲良く並んだ、白とシルバーのスポーツカー。ひとつは一見ノーマル仕様だが内部は計算し尽くした白いモンスターマシン。もうひとつは『これはお父さんの趣味なのよ!』と頑なに言い張っているシルバーのセダン。こちらは白…涼介のFCと反するような、見た目からしてチューニングマシン。カーボン製ボンネットには大きなダクト、空気抵抗を減らすために角調したナンバープレート、そして、このグレードの特徴とも言える、埋め込みの丸いフォグランプ。
「…涼介はどうして、そう、」
「うん?」
「…なっ、なんでもない!」
彼女、蝶の愛車。ランサーエボリューションW。シートに座って、エンジンをスタートさせて、涼介にひと言話して帰ろうと窓を全開に下ろしたとき。あの、溶かされるような瞳で『逢いに行く』なんて言われたら。
「顔真っ赤だぞ」
「誰のせいよ」
「うん、オレだね。治してあげるから、こっち向いて」
向いて、というか無理矢理向かされた顔は、窓から覗きこんだ涼介のせいで、もっと、熱く真っ赤になった。
「栃木まで、気を付けて。他の男に余所見なんてするなよ」
「〜〜〜〜ッ店先でキス、するなんて!」
「蝶が可愛いから。ついな」
拉致があかない。これ以上ほだされていたら身が持たないと、顔が赤いまま発車させ、手を振る涼介に別れを告げた。
_______________
「調子はどうだ」
「うーん、順調、かな」
それは一体、どちらの調子のことなのだろうか。私なのか『この子』なのか。彼にとっては、多分、両方なのだろう。
「この前までは車高、落としてなかったよな」
「あー…お父さんが勝手に…」
「まったく、叔父さんもよくやるよ。まあ、これで蝶が速くなるならオレは反論せんがな」
元々クルマには興味があった。いざ自分の一台を選ぶときに、蝶をクルマ好きにさせた張本人…父がしゃしゃり出てきて『これがいいんじゃないか』と薦めてきたのが今のランエボWだった。
「速くて強い。頑丈なボディはWRCで充分に実証されている。安全性も高いから、叔父さんは蝶にと選んだんだろうよ」
「それってすっごく美化してるよ、本当は違うの。清次くんなの」
「清次が?」
従兄がリーダーとして走っているチームを見てみたいと父娘で以前訪れた、いろは坂。圧巻すぎるワンメイクチームの中で、特に父の印象に強く残ったのが清次のマシンだったらしい。
「スポーツカーって若い頃から憧れだったんだって。で、あわよくば自分も乗りたいからって、お父さんが一番カッコいいと思った清次くんのエボWを薦めてきたの」
「お前が乗るにはいささか強面だと思うがな…」
「でも、とってもいい子だよ。もっともっと、上手くなりたいって思う」
もっともっと、速くなりたい。後ろをついて行くだけじゃ、嫌だ。彼と並んで走っていたいから。
「京ちゃん」
「ん?」
「今度はいつ、いろはに連れてってくれる?」
「すっかり走り屋だな、蝶は。叔父さんがいいと言えば、いつでもいいぜ」
七夕の時期に合わせて催される、地元の奉納祭。親戚が一同に集まるので、本家の家系である彼も必然にそこに居た。須藤京一。父同士が兄弟で、弟が蝶の父親だ。一人っ子の蝶に従兄の京一は至極優しく、蝶もまた、歳の離れた京一を大層慕っていた。従妹がクルマに興味を持ち、とかく走りに目覚めたのであればと、蝶の父からドラテクの一切を託された京一は、丁寧に時には厳しく蝶を扱いている。
(京ちゃんのおかげ、だもんね)
「何か言ったか蝶」
「ううん、なにも。ね、京ちゃんまだお酒飲んでないよね、エボVでちょっとドライブ行こうよ!」
『クルマに興味があったんだな。なら、走り屋って知ってる?』
涼介と付き合って間もない頃。ドライブに行こうと誘われたクルマを見て思わず呟いてしまった『FC?』という言葉。セブンと言わず型式で言うとは涼介も意外だったのか目を丸くしていたのを覚えている。コテコテのクルマ好きで自分も乗っていると知られたら引かれると思って、蝶は言えずにいたのだが。
『ごめん、こんなにキレイなFC、初めて見たから』
『それは嬉しいな。隠さなくてもよかったんだぜ?蝶のこと、オレは全部知りたいよ』
その出来事がキッカケで、涼介とはもっともっと近くなれた気がする。共通の趣味が、元々あったふたりの繋がりを更に強くしてくれた。クルマが好きでよかったなと、エボVの助手席で蝶は思っていた。
「なんだ、嬉しそうだな蝶」
「京ちゃんのおかげだよ」
あまり遅くならないようにねと家族に言われた京一と蝶は、スムーズに流れる夜の国道をひた走る。
夏が過ぎ、少しずつ秋めいてきた北関東の山々に、複数の騒動が起きた。その発端人が京一となることなど、今は笑顔でエボVに乗る蝶には知らぬ未来のことだった。
_______________
「お前さー、ランエボやめたら?」
「なによ急に」
「だってよー、ズリぃじゃんか。強ェし速ェし」
「だったらそれ以上にお前が上手くなればいいことだろう啓介」
「う…っ」
また始まったと、三人のやりとりを見た史浩は思う。啓介の四駆嫌いは昔からで、ランエボに至っては『峠で速いのは当たり前だからズルい』とまで言っている。だが乗り手…涼介の大事な恋人の愛車となれば、それも強くは言えない。
「あっれ、蝶、ココどしたの」
「ん?どこ?」
「ココ。ちょうど、右のホクロの上くらい。ぽつんってデキモノ」
「わ、また…最近夜更かししてるからかな、大人ニキビかも」
「ん…?ちょっと待てよ、なあアニキ、蝶の頬っぺたおもしれーことになってる」
「どうした啓介…ああ、もしかして、コレか?」
(う…イイ顔の男がふたり揃ってこんな至近距離…!)
秋深まる十月の頃。紅葉を見に赤城に訪れていた蝶を、涼介はそのまま夜の走行会へと誘っていた。ランエボは嫌いでも蝶自身のことは気に入っている啓介は、事ある毎に『FFかFRにしろよ』と言ってくる。仲良しの兄弟は蝶の頬に何やら気になるものを見付けたようで、ぺたぺたと触れていた。微笑ましく傍観していた史浩宛てに一報の連絡が入ると途端、涼介と啓介の顔が引き締まる。
「エンペラーが碓氷に来たらしい。シルエイティの彼女たちが勝ったそうだ」
「マジか!やるじゃんあの姉ちゃんたち!」
「…妙義の次は碓氷か。直接赤城を攻めず周囲から仕掛けるとはな。やり方が厭らしいぜ」
「涼介、エンペラーって…」
「…栃木の走り屋チームだよ」
蝶はひとつの考えに至った。
群馬で白いFCに乗った同級生と付き合っていると京一に言ったとき。
栃木でランエボWに乗って従兄と一緒にいろは坂で走っていると涼介に言ったとき。
ふたりは、似たような表情をしていた。
(京ちゃんに、聞かなきゃ)
涼介と別れ赤城を後にした蝶は翌日、京一に会いにいろは坂を訪れた。
______________
「高橋涼介って、京ちゃんのライバルなの?」
「…どうした、蝶」
話がしたいからふたりにしてほしいと頼んだら、京一の一声で場に居たメンバー全員が走り込みに向かって行った。二台のランエボが唸るエンジン音だけが、明智平に残された。
「言ったじゃない。私の彼氏、群馬で白のFCに乗ってるって。名前を言ったら、あのとき京ちゃん、険しい顔になったもの」
「…」
「でも、そのあと何も言わなかったよね。それに私の走りが上手くなったとき、『彼にも教えてもらってる』って言っても京ちゃんは『よかったな』ってだけだった」
「…」
「エンペラーって、京ちゃんのチームのこと、でしょう?昨日、赤城で涼す、きゃッ!」
馴染んで柔らかくなったレザージャケットが突然、頬に触れた。背中に回る腕の力強さ、逞しさ。何度も抱き締めてくれた涼介とは違う、従兄の胸元に包まれた。
「お前が涼介のことを話す度に、苛ついていたよ。別れろと、何度言おうとしたか」
「京、ちゃ」
「ちょうど、一年前になるのか。いろは坂で、オレは涼介に負けている」
「え…それ、」
「蝶には、言っていないバトルだ。そのとき既に、お前は涼介と付き合っていたからな。清次には蝶にも言えとせっつかれたが、オレが嫌だったんだ」
「知らない、そんな、バトル」
「どっちが勝っても負けても、お前は良い顔をしてくれないだろう?その頃からか…涼介との付き合いに、何も言わないでおこうと決めたのは」
「京ちゃん、」
「笑っていてほしかった。楽しそうにエボに乗るお前の笑顔を、なくしたくなかったんだ。だから今回の群馬侵略も、蝶には言わずにいたが…『今回』ばかりは、上手くいかなかったようだな」
フォー…ンと、聞き慣れた遠吠えが鳴った気がした。それは、先程離れて行ったメンバーとは逆の、第二いろは坂…上りの方から聞こえてくる。京一はそれに気付き、隠すように片腕で蝶の肩を抱いていた。
「奪いに来たのか」
「ああ」
涼介、と呼んでも笑ってくれなかった。いつもとなりで微笑んでくれるやさしい彼ではない。冷たく、感情を見せてくれない。初めて見た恋人に、蝶は少し、怖くなった。
「蝶に、話がある。実家を訪ねればエボは不在。だとしたらココしかないと思った。だから、来たんだ」
「…っ、」
「おいで、蝶」
「おい、怖がらせるな」
「りょう、す」
ぴりりとした空気。きゅ、とジャケットを握れば、京一はそっと頭を撫でてくれた。それが、涼介の癪に障ったらしい。ち、と舌打ちをする彼など、蝶は知らない。
「どうして京一に抱かれているの?蝶の居場所はオレだろう?」
「涼、介、」
「その顔はよせ。蝶が怖がっていては何も話せないだろう」
「…話すよ、涼介。でも、私も、涼介に聞きたいことがあるの」
だいじょうぶ、と京一のそばを離れた蝶は、涼介にきちんと向かって、話し始めた。
「ふたりがライバルだったなんて、知らなかった」
「…」
「私が栃木のいろは坂で走ってるって言ったとき、涼介、ちょっと難しい顔をしてたのよ。今思えば、そのとき気付いていたの?京ちゃんと、同じ苗字だから」
「…勘ぐってはいけないと、セーブしていた。いろは坂を走るランエボ、名前が須藤とくれば、良からぬ考えをしてしまった」
「涼介…」
「須藤京一と親しい関係で、栃木でエボのテクニックを教わっているのもヤツからだと思うと、面白くもなんともなかったよ。だけど、オレは蝶の笑顔が好きなんだ。上手くなったと褒めたときに笑ってくれるお前が好きなんだ。オレのとなりに、いてほしいんだ」
「…」
「蝶を、傷つけたくない。ずっとそればかり思って、京一との因縁を話せずにいた。だが、エンペラーが動き出したと知ったあの赤城で、確かにお前は動揺していた。もう、隠すのはお終いにしようと思った。京一、今度は蝶の前で、ハッキリさせようか」
「当然だ涼介。一年前のオレとは違うってことを見せてやる。勝負は今週末、赤城でだ」
そこまで言うと涼介は蝶を抱き寄せ、深く深く、息をついた。体温を確かめるように、蝶の首元に顔を埋めて。
「涼介、ごめんなさい」
「蝶、バトルが終わっても、オレのそばにいてくれるか?」
「涼介が京ちゃんに負けたら、離れちゃうかも」
「いつでも帰ってこい、蝶」
「オレは絶対に負けん、京一」
見上げた涼介は、多少苛々はしていても先程までとは大違いの顔をしていた。ライバルを前にした、精悍な一介のレーサーの顔だった。蝶が見つめていることに気付いた涼介は、氷が解けたやさしい笑みで、頬を撫でてくれた。
「むつらぼし」
「え…?」
「蝶のほっぺた。まるで六連星(むつらぼし)のようだ」
「むつ…?」
「このあいだ、啓介が蝶の頬に触れて話していただろう、面白いことになってるって」
「え、うん、あれ、なんだったの?」
「六連星は、昴とも言うんだ。ランエボに乗ってる蝶の頬に、スバルの星。なんだか、四駆の申し子みたいだな」
どうにも気になったので、ランエボのサイドミラーで自分の顔を覗いてみた。笑って話す涼介に『そういうことか』と納得したはいいが、それは肌荒れのおかげじゃないかといささか面白くはなかった。
「右頬に小さなホクロが五つ。それに加えて、お前は昔から頬にニキビが出やすかったもんな」
「京ちゃん、そんなこと覚えてたの?うー…やっぱりしばらく夜に走るの止めようかな…」
「その分、オレに逢いにおいで。肌荒れ、治してあげるから」
「…よくもオレの前でいけしゃあしゃあと言えるな涼介」
頬を撫でる涼介の指は、そのまま蝶の口唇へ触れた。『治してあげる』の意味を彼の声色で読み取った京一は愛する従妹を憎らしい男から守るため、その逞しい腕でもってふたりを離し、蝶を再び胸元へ抱き留めたのだった。
蝶さまへ
ツイッターでは日々お世話になっております。りょうこです。改めまして、1周年と20000hitへのお言葉ありがとうございます。
蝶さま(サイトでは"さま"と呼ばせて下さい^^)、実はリクエスト一番乗りでした。リクエストを募った昨年8月、サイトにご案内を載せたその直後だったんです。思わず『はやっ!』と叫んでしまったことを覚えていますよ。嬉しかったです。よく、ご覧になって下さっているんだなあと…。
えっと、お話!お待たせしてすみません!蝶さまの愛車ムサシちゃん、使わせて頂きました。装備品も少し拝借しておりますが、もし表現がマズかったら仰って下さいね。チューニングはお父様のご趣味という点も少々頂いております。いやー、羨ましいお父様です!まるで文太さんのよう!ウチの父は詳しいのですが自分で弄らないのでまるで祐一さんのようです。
京一さんと会っているところを涼介さんに見られて…というお話。ヒロインをエンペラーのチームメンバーにしようかと書いていたのですが、私の語彙力不足でややこしくなって参りまして…須藤家の一員となって頂きました。京一さんに手解きを受けたいのは私です(キリッ)。最後の六連星。最初ヒロインをスバル乗りにしようと思っていたんです。でも蝶さまのツイートを見て、折角エボWに乗っておられるのならと、ムサシちゃん、登場です。お名前までは載せておりませんが、愛車を思い浮かべながらお話を楽しんで下されば嬉しいです。ちなみにタイトルには私の好きな坂本真綾さんの『右ほっぺのニキビ』という歌をもじっています。歌詞は真綾さんの実体験だそうで、電車で会った同級生は今は立派なお医者様になっておられるそうです。まんま涼介さんだなあと思っていつも聴いています。楽しい曲ですよー。
本当、日々くだらないTLですみません;;またよかったらお付き合いくださいませ。この度はリクエスト、本当にありがとうございます!楽しかったです!
2014,7,5りょうこ