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>>2014/07/14 (Mon)
>>01:47
No cross, No crown(神奈川)
お相手:大宮、皆川、池田、凜
ヒロイン:真ん中ちゃん
神奈川トニセン(平均30代/推測)によるオムニバス。お兄さんたちに癒されたい方にオススメです。当初Nは涼介さんリクエストの予定でしたが、急きょ変更致しました。完全に私得なお話ですが、よろしければご覧下さいませ。
タイトルは【十字架なければ栄冠なし=苦難を乗り越え大成される】
コチラよりどうぞ。
7月11日、21時
「…大宮さん、抱き締めてもらって、いいですか?」
「…おい誰だ、あきらに変なこと吹き込んだのは」
ロードスターのそばへ、たたたと掛けてきたあきらは、大宮の前で申し訳なさそうに呟いた。眉を下げ、瞳もふにゃりと垂れ、いつもの元気な笑顔がない。小早川あたりが余計なことでも言ったのだろうか。
「違うんです。誰のせいでもなくて、その…なんというか…人恋しいというか…」
「…まあ、構わんが。オレの腕でいいのなら」
あきらが笑ってくれるのなら、お安い御用だ。
「おいで、あきら」
「はい…」
(…こんなに、小さかったっけか)
触れて思う、彼女の儚さ。小さなからだに大きな責任を背負って、激動の世界で踏ん張っているんだ。オレから見ればまだ年端もない若者なのに、その役職からか周りから信頼され、気を休めることもせず走り回っている。きっと、疲れだって相当のモンだ。
ぽん、ぽん、
「おおみや、さん?」
「今日は群馬に帰らなくていいのか?」
「…弱々しいとこ、恥ずかしいから、見せたくなくて」
「…それって、オレにはいいってこと?」
自分の胸にあるあきらの頭を、そっと撫でてやった。ふわふわの髪が指に絡む質感が心地いい。背中をぽんぽんとあやしていると、あきらはぽそりと呟いた。
「大宮さんが、居てくれてよかった」
「こら、そんなこと言うと勘違いするだろうが」
「えへへ、だって、安心するんですもん」
胸元から見上げてきたあきらの目が、力なく笑った。あの兄弟には見せられない姿を、オレに見せてくれる素直で純粋な彼女。慕ってくれているのは、安心するからだけ、なのだろうか。
「あきら」
「ん…」
「そういう可愛いところは、あまり他に見せるんじゃないぞ」
「はーい…」
もぞりと動き、またオレの胸元に顔を埋める。すう、と息を吸い込んで静かになったと思ったら、立ったまま器用に眠っていやがった。
「これはまた、甘えん坊の眠り姫だ」
ロードスターのリクライニングを目いっぱい倒し、出来るだけフラットに近付けた助手席。彼女には大きすぎるそのバケットシートは、やさしく包み込む揺り籠のようだった。
「おやすみあきら。いい夢を」
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7月13日、10時。
「待たせたか、高橋」
「いいえ、私が早く着いちゃっただけなので…」
以前少しだけ話に上がっていたのだけれど、皆川さんは意外に買い物好きらしい。静岡と神奈川の県境がホームコースであるから余計なのか、御殿場市内にはとても詳しい人だった。かくいう自チームも富士を拠点としながら、でもそう言えばこっちで買い物ってあまりしていないかもと話したことが、今日この日に繋がった。
待ち合わせは、お馴染みの富士スピードウェイ。
「どちらのクルマで行きますか?」
「高橋が手入れしている自慢のエボ…と言いたいところだが、ここはオレに任せてもらおうか」
誘ったのはオレだからなと、皆川さんは言う。その顔に、一瞬、見惚れてしまった。
「あ、あの、じゃあわたし、エボ、スタッフパーキングに停めてきますっ」
「ああ、気を付けてな」
(…なんか、新鮮…)
実際、皆川さんのスープラに乗ったのはこれが初めてだった。どっしりとした6気筒、3リッターもの大排気量エンジン。自分のランエボが、小さく思えた。操舵する皆川さんの姿を見ていても、それは同じ。
(うちのドライバーとも、全然、違う。オーラというか、皆川さんが、大きいんだ)
「どうした?」
「えっ」
「窓の外を見ていると思ったら、今度はオレが気になるか」
「そ、そんなことは、えっと」
「高橋」
「は、はいっ」
「緊張するなよ。ハンドルが鈍る」
(あ…)
左手が、髪へ。ヘアスタイルが、くしゃりとやさしく崩された。
「小柏が、な」
「?」
「『あきらさんに元気がない』と、言っていたんだ」
「いつ…わたし、そんな顔してました?」
「アイツは見ていないようでちゃんと周りを見ているぞ」
「…カイくん」
「…まあ、小柏に先に気付かれたのは癪だが」
「え…?」
「アイツがなにか、お前のためにしてやりたいと言っていたんだ。…先を越される前に、な」
「それで、ですか?今日…」
「いけなかったか?」
「いいえ…ふふっ、皆川さん、カイくんに嫉妬ですか?」
未だ頭に置かれている皆川さんの手。それを外し、両手でそっと包んだ。
「皆川さんとこうして出かけるの、初めてだからうれしいな。折角ですもんね、たくさん、お話したいです」
「オレも。そうだな…とりあえず、名前で、呼んでくれないか?」
「…ふふっ」
「小柏だけ不公平だろう」
「はい、わかりました。じゃあ、私のこともあきらと呼んで下さいね、英雄さん」
言うと彼は、左手を包んでいた私の両手を解き、そのまま頭を撫でてくれた。威厳のある彼から想像しにくいほどの、やさしい手。微笑み隣を見れば、英雄さんは、頬を染めていた。
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7月17日、22時。
「少しは甘えたらどうだ。何をそんなに、がむしゃらになる」
「がむしゃらにならなきゃ、勝てませんから。何のために、私がいるんです。監督が、リーダーが動きやすいように後ろで動くのが私です。ドライバーに安心して思いっきり走ってもらえるよう、支えてあげるのが私たち技術者なんです。甘えてなんて、いられません」
GT戦の公式テストで思うようにタイムが伸びず苦戦していたあきらは、富士SWからほど近い箱根湯本、七曲りへと訪れた。新しく乗せたパーツがチームエントリーカーに合っていないのか、同じシャーシで組んである自身のランエボに同様のパーツをくっつけ、何度も何度もテスト走行を重ねている。これで少しでもいい結果が出れば、チームのマシンに再度乗せても幾分か改善出来るはずだと信じて。チームのテストドライバーが走っていった先を見つめていたら、池田にそう言われてしまった。
「チーフメカニックなのはわかるが、お前はまだ若いんだ。もっと経験豊富な先人が周りにたくさんいるだろう。頼って、学ぶことの方が多いはずだぞ」
「確かに、それはわかっています。学んで、実践して、挫けて、人は成長します。でも、今はそんなこと言っていられません。目先にあるものに、挑まなきゃいけないから」
(…なんと、強い瞳だろうか)
「池田さんの仰ることは、常日頃から考えていることなんです。若いからと、舐められたくない。それを理由に、いい加減な仕事もしたくない。どうして監督が私をメカニックに指名してくれたのか。その答えは、レースでしか証明出来ません」
(この小さなからだで、一体どれだけの重圧を抱えているのか)
「…でも、ときどき、」
「うん?」
「『私』って、メカニックじゃなかったら何になっていたかなって思うんです。たとえば普通のOLさんだったら、今、私の年齢だったら何をしているんだろう。毎日きちんとお化粧して、ネイルや髪もぴかぴかにして、休日には買い物やランチを楽しんで、素敵な人と恋もして…まったく、クルマとはかけ離れた世界にいるとしたら。そう、考えたら、今、なんて幸せなことをしているんだろうって。疲れたり悩んだりしていられないくらい、元気になれるんです」
「『好きを仕事に』、ということか」
「もちろん、世のOLさんたちだって自分の仕事を天職だと思って責任持って就いていると思います。でも、それは私じゃない。やっぱり、クルマがあって、『私』なんです。好きなことだけをやり続けることは、実はとっても難しいこと。世の中にはそれが叶わなかった人がたくさんいます。それが出来ている幸せ。だったら、目いっぱい今を頑張らなきゃって思うんです」
(この娘は、本当に、)
「好きですもん、この仕事。監督もリーダーも、チームメンバーみんなのことが大好き。目標に向かっているときはそりゃ苦しいです。達成したときの笑顔のために、みんなで笑うための努力なら、私は惜しまず、どれだけ苦しくたってやりますよ」
にこりと笑う瞳に、迷いなどない。無邪気、純粋。クルマを愛し、走らすことへ自分のすべてを捧げる忠誠心。
(なんと、強い娘だろうか)
「池田、さん?」
「あきらは、偉いな」
「…あの、わたし、汗くさい、かも…っ」
たまらず、細く小さな肩を抱き締めた。あの兄弟と戦ったときも思ったが、この兄妹弟はなんと芯が強く、真っ直ぐな心を持っているのだろうか。だが、
「オレが、お前の支えになってはいけないか?」
「え…」
「チームはお前が支えている。だが、誰があきらを支えてやれるんだ」
「わたし、は、」
「がむしゃらなお前を守りたい。オレには、甘えてほしいんだ」
妹のように見守っていた感情は、くるりと方向を変える。兄ではなく、ひとりの男として、あきらを支えてやりたい。キャップに書かれたTRFのチームロゴが、池田にとって今は少々煩わしく、抱き締めた彼女からすっと取り去った。そのとき吹いた夜風にふわりとあきらの黒髪が舞う。
「わ…っ、風…!」
「あきら、好きだ」
舞い上がった髪を抑えるあきらの手。それに自分の手を重ねて告げた。柔らかく滑る髪を、池田は益々愛おしく思う。
_______________
7月25日、14時
「う〜…頭が、いたい…」
「はは、慌てて食べるとそうなるぞ。小学生でも知っている」
「凛さん、さらっと馬鹿にしましたね…」
群馬まで出てきているから少し会えないかと、珍しい人から連絡を貰った。暑さにダラけて実家でゴロゴロしていただけだったので、またとない良い誘いに断ることはしなかった。
「今日のお昼、館林で全国トップの気温を観測したらしいですよ」
「毎年凄まじいな」
「凛さん、髪、暑くないです?」
「この時期はいつも結い上げているから平気だよ」
昔からある、川沿いの老舗の甘味処。せせらぎのそばのウッドベンチに並んで座る。木陰が暑さを和らげ、川の流れがまた涼やかだ。極めつけに、いちごシロップをたっぷりかけた、しゃりしゃりのかき氷。トッピングにバニラアイスを添えれば、完璧すぎる夏のスイーツ。
「ここ、母の実家からすごく近くて。小さい頃からよく来ていました」
「ほう…あきらの甘党は昔からか」
「おばあちゃんちに持ち帰るために、早くしないと溶けちゃうって啓介が力いっぱい走っていって。私とお兄ちゃんは、そのあとをゆっくり、かき氷をつつきながら歩いていたんです」
透明な小鉢にこんもりと乗る氷は、少しずつ溶け始めていた。いちごシロップとバニラアイスの色が交ざり、可愛らしいピンク色になっていく。
「…オレも、豪とそんな思い出があるよ。夏祭りとか、花火とか、海とかな」
「そちらは海に面していますもんね。いいなー、私たち、近くて新潟でしたから…」
「なら、今度行くか」
「…まさか、ふたりで、なんて」
「だとしたらあきら、どうする?」
「う…、緊張、します」
しゃくしゃくと耳に心地いい音を立て、スプーンですくって口へ運ぶ。量が多かったのか、また神経を刺激したらしい。
「ったく、懲りないなあきらは」
「うう〜…」
こめかみを押さえて悶える彼女。痛がっているその小さな頭を、よしよしと撫でてやった。さっきまで陽の光に晒していた黒髪は、熱を吸ってやや熱い。せせらぎからやってくる冷気が程よく冷やしてくれるよう、凜はあきらの髪に空気を含ませ、ふんわりと靡かせた。
「凛さん」
「ん?」
「…みんなで、楽しくやりたいです」
「言うと思った。豪にも言って、話つけてみるよ」
「はい!」
凛の手元には、渋みのある宇治抹茶。口の中がいちごで甘くなったあきらにはちょうどいい苦味なのか、スプーンですくって食べさせてやるとにっこり良い笑顔を見せてくれた。
「でも、ちょっと残念」
「どうしてです?」
「だってズルいだろう、涼介と啓介ばかり、あきらの水着姿を見ているなんて。全員で行く前に、やっぱりふたりだけで行かないか?」
「凛さん、鼻息で氷溶けてますよ」
お気付きかもしれませんが、すべてのパートに「髪に触れる」動作を入れています。私が撫でられたいがために!\(^O^)/
大宮>>
神奈川でも年長(推測)なので、大宮さんがいると真ん中ちゃんは安心します。おおらかで優しい彼に、ふっと力を抜いて甘えたくなりました。小早川が羨ましがって見ているんですよきっと。胸板に抱き着きたい!私が!
皆川>>
365の小話『彼女が髪を切ったなら』にて、皆川さんからのお誘いと少しだけリンクしました。行き先は御殿場アウトレットだと思ってください。運転しながら左手で髪をくしゃってされる仕草に萌え、ませんか?気難しそうな人がふと見せるドギマギした表情にキュンときます。今まで皆川さんのお話では、彼は真ん中ちゃんを苗字で呼んでいて、敢えて壁というか近寄りがたいイメージで書いていたのですが、今回ちょっとお近づきになりました。
池田>>
リアルに自分の仕事に対して励ましてもらいたいがための完全に私得な池田さんでした。私は彼女のようなチーフではないですが、店長が動きやすいように立ち回る副店長(サブ)の位置にいます。ただ最近は、自分はここにいていいのかとか、本当にサブで役に立っているのかと葛藤が絶えず、かつ店長が転機を迎えられるので余計に頭がグルングルンして困っていました。だけど、辞めたい、離れたいという気持ちはまったくなくて、『他にどんな仕事に就いていたかな』と考えても(学生時代は声優になりたくて勉強していましたが)、今は、接客業しか思い付かない。悩んでいても、仕事が好きなんです。タイトルの意味はこのお話と今の自分に投影しています。がむしゃらにならなきゃ、予算、取れませんからー!!
凛>>
ラストはほのぼのしたゆるーいお話にしたかったので、気が抜けるような、本当、流して呼んで下さっていいですよレベルの内容です。7月25日はかき氷の日らしいですよ。モデルのお店はリアルに祖母宅の近くにある甘味処。かき氷もそうですが、モナカアイスがめちゃくちゃ美味しいんです。職場からもとても近いので、帰りについつい寄ってしまいます。太る。
思いついた言葉をパッと書いたものばかりなので、推敲が甘く文章が支離滅裂になっているかもしれません。ちょっとしたお遊びだと思って、大目に見て下さいませ…。
7/14、りょうこ