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>>2014/08/03 (Sun)
>>00:10
Oおまえのものはおれのもの(涼介)

亜樹さまリクエスト
お相手:涼介
ヒロイン:レッドサンズチームメイト

サブタイトルは『涼介の嫉妬と苦悩と葛藤と束縛』←長い。みんなに好かれるヒロインさんを落とすため、涼介さんはがんばります。

※登場車種の時期とレッドサンズ発足とにズレがあります。どうかお許しを…。

亜樹さまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

束縛されるのもするのも嫌いなのは昔からだ。自分には自分の時間が必要だし、ひとりになりたいときは必ずある。ただここ最近、自分の頭を占める言葉があった。とあるマンガのガキ大将が唱えている、彼のエゴであり寧ろ代名詞とも言える言葉だ。


「…オレはジャイアンだと思うか?史浩」

「は?」


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レッドサンズになくてはならない存在が、高橋兄弟以外にもうひとりいる。


「おー、今日は早かったな、亜樹」

「遅刻常習犯みたいに言わないで啓介。ちゃんと参加しないとナンバー2の名前が泣くからねー」

「2番手はオレだっつってんだろ」

「上りが私より遅いくせによく言うわ」


現行モデルに乗りたがらないのは、彼女のこだわりらしい。手に入れる前、ディーラーに話を持ち込めば『Z34の方が…』と言われたのだとか。こっちの希望に応えもしないで現行を薦めるなんて顧客満足度が下がるわよと文句を呟いていた。


「調子いいか、Zは」

「涼介さん、いらしてたんですね」

「まあ、忙しいからと言ってリーダーがいつも不在じゃ、発足した意味がないからな」

「松本くんのおかげで、毎日とってもいい子ですよ」

「それはよかった。あとで見せてもらおうか」

「中だったら、お断りです」


貴婦人の名を冠した四代目、Z32。現行にはない魅力に惹かれた彼女、亜樹は、『もうどうしようもないくらい探しても見つからないのなら諦める』と言い必死に探していた。ついに、自分の力では無理なのかもと半ば諦めていたとき、『オレの新チームで走ってくれるなら力を貸すぞ』と赤城で名のある彗星様に声を掛けられた。それまで亜樹は、自ら走ることよりスポーツカー自体が好きで、各マシンのスペックや歴史、レース戦績を調べることが何より楽しいと思っていた。『クルマに詳しい知り合いが居るから連れてきていいか』と史浩に言われて涼介が出会った彼女は今、力を貸してくれた涼介と、ようやく出会えた相棒とともに走っている。


「松本だけが見ているなんて、不公平だろう?」

「あら、だって彼はこの子のお医者様だもの。見て当然ですよ」

「オレだってお医者様だけど?」

「タマゴ、ですよね?」


史浩が連れてきた亜樹は、ギャラリーに居るミーハーな女性とは比較対象にならないくらい、言い方は酷いが冷めている。色目の使いどころが兄弟ではなく『兄弟車』のほうで、既に専門知識を持つ彼女へ涼介が更に教えてやると、それは嬉しそうに笑っていた。知らなかったことを知ることが出来る環境に亜樹が加わってしばらくの後、赤城レッドサンズは誕生する。


「…男に媚びるってコト、本当にしないんだもんな」

「なんか言いました?涼介さん」

「いいや。亜樹と居ると気が楽だって思っただけ」


だからだろうな。一軍に止まらず、二軍にまで亜樹の名前が広いのは。ドロドロした男女の関係がなく、純粋にクルマだけを介して触れ合える。知識もあり、口も達者で(ときどき毒舌だが)会話が絶えない。そんな亜樹の、Z32の助手席を狙う連中は、自分を含め如何ほどだろうか。涼介の中にあのガキ大将の言葉が浮かんだのは、このときだった。


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「ちょっと出てくるわアニキ。帰りまだわかんねーけど」

「早起きしてどうした啓介、女か?遊びは止めたんじゃなかったのか」

「遊びじゃねーもん、マジだから」


ドレッシングルームの横を通れば、鏡に向かって鼻歌をこぼす啓介が一所懸命にワックスで髪をいじっていた。眠気を飛ばしたくて顔を洗いにきた涼介は、鏡越しに不敵に笑う啓介に少し違和感を持つ。


「亜樹を誘ったら珍しくノッてくれたんだ!今まで一度もオッケーしてくんなかったのに。脈あんのかなーオレ!」

「…お前、亜樹が好きなのか?」

「…いっとくけど、こればっかりはナンバー2じゃいられねぇから」


待ち合わせあっからオレ行くわ!と言葉を捨てて慌ただしく出て行った啓介は、意図的にFDの鍵を持っていかなかった。玄関の定位置に残された啓介のキーケースを握った涼介に、ざわりと胸騒ぎが起こる。


「独占欲なんて…醜いだけだ」


口ではそう言っても、心のざわめきは落ち着かない。背反する頭と心に、涼介は戸惑っていた。自分よりひとつ歳下のくせに妙に大人ぶって、素っ気ないと思ったらどんな相手に対しても気さくで、良いところを褒める。人との付き合いが上手い女性だと、常に思う。ときどき毒を吐くこともあるが、それは亜樹の可愛らしい一面だ。そう思うのは、惚れた欲目なのか。『恋は盲目』と、先人は達者な言葉を残していったものだ。


「『亜樹に褒められると自然にタイムが上がる』、か…。チームにはオレ以上に必要な存在かもしれんな」


実際、啓介やケンタのタイムの伸びが良くなったのは亜樹が加入してからだ。チーム代表として亜樹をそばに置いておきたい。そう伝えることは簡単だろう。だが、男としては。


「お前をオレのものに、か。もっと早くそう出来ていたら、今頃啓介と出かけてなんかいないだろうに」


本気にならなければ、たとえ弟だろうが負けてしまう。自分は常に、ナンバー1であらねばならない。


「欲しいものは手に入れる。それが難しいほど、オレは燃えるんだ」


啓介とどんな話をして、どこにいるのか。たとえ亜樹が啓介に堕ちてしまったとしても、奪えばいい。口説く術は、いくらでもある。


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「亜樹さんは人気者ですね」

「そうは思ってないけどね」


エアコンが効いていないガレージで唯一涼やかな冷風機の風を受けながら、松本は亜樹の到着を待っていた。『良くも悪くも旧車なんだから定期検査は必ず受けること』と念を押され、律儀にひと月毎の検査を受けている。健康診断というか、本当にお医者様のようだねと、亜樹は告げた。


「この間啓介さんから添付メールがきましたよ。長野の方までZでドライブに行ったと」

「ああ、あれ。あっついからどこか涼みに行きたいなーってぼそっと言っただけなのに、啓介がね」

「亜樹さんが好きだからですよ。小さな呟きも逃さないくらい、亜樹さんのことを見てるんです」


Z32最終型、ツインターボの2シーター。劣化や維持費で頭を悩ますオーナーも多く、手離す話も少なくない。ただこの最終型に至ってはまだそのようなマイナス面が少なく、何より涼介から紹介された松本が見つけてくれたのだからと、絶対の信頼を寄せて印鑑を押した。先日のドライブにZで行こうと言ったのは啓介だった。


「啓介が私を好き?有り得ないでしょ」

「亜樹さんを好きな男はレッドサンズ内に相当いると思いますけどねぇ。啓介さん、デートのこと自慢してるんじゃないですか?」

「…啓介以外にも、何度か、誘われたことはあるけど」

「ほらね」

「乗り気がしないというか」

「じゃあなんで啓介さんと?」

「行きたいと思ったらたまたま啓介が乗ってくれたのよ。それだけ」

「はあ…亜樹さん、男泣かせですねぇ」

「どういうことよ松本くん」

「それはまたあとでお話しましょうか。ちょっとココ、見て下さい」


エンジンルームを覗きながら亜樹と話していた松本は、気になるところを見つけたらしい。


「あ、今日言おうと思ってたの。エンジンから巻くような音がしてたのよね。タイベル?」

「じゃなくて、スプリングです。この間の車検でタイベルは交換しましたし、異常はないですよ。長野まで走って、少しズレましたかね」


直しておきますねと、リフトで上がったZ32を、真剣な顔で修理していく。


「…ねえ、」

「はい」

「涼介さんも、たまに来るんでしょ」

「ええ、オレが見ていますからね」

「楽しい?FC見るの」

「そりゃ。あの高橋涼介ですから」

「ふーん…」

「…へぇ、亜樹さん」

「なによ」

「FC、じゃなくて、涼介さんのことでしょう?聞きたいことは」

「…え」

「百戦錬磨の涼介さんには珍しく悩んでいましたから。何かと伺えば亜樹さんのことで、オレも納得しましたよ」


からんからん、と足元に空缶が転がる。何事かと、少し離れた場所でクリーパーにて作業中だった宮口が驚いてガラガラと飛び出してきた。頭をシャーシで打ったのか、擦りながら身体を起こす。目を開いて松本から焦点をズラさず、コーヒーの空缶を落として茫然と立つ亜樹を宮口は見た。


「亜樹さんがあまりに男に興味がなさそうだから、どうやって口説こうかうんうん唸っていましたよ。楽しみですねぇ、両想いですか」

「ま、つ、ちょ…ッ!」

「啓介さんやケンタさんは残念ですが、涼介さんには敵いませんよねぇ、走りもそうですし」

「ちょ、っと!ストップ!」

「…図星、でしょ?亜樹さん。お顔、コイツと一緒の色ですよ」


チームメンバーは、みんな好き。涼介と啓介の目もあって、悪さをするようなヤツなんていない。レッドサンズはクリーンな走り屋チームだ。そんなメンバーに慕われて嫌な気持ちになんてなるわけがない。慕ってくれるのなら、応えてあげるのが流儀だ。走り屋じゃなかった自分が突然走り屋に転向してかつ旧車で次々に既存メンバーを抜かしていったら、面白くないと思う輩もいるはずなのに。それでも、連中は慕ってくれた。啓介も涼介も、褒めてくれた。


「…この前、涼介さんにZの調子を訊かれて」

「はい」

「中、見たいって言われたの」

「ええ」

「…もう!どうして私って素っ気なくなるんだろう!素直に見せてあげればよかったのに!」

「…ああ、亜樹さん、所謂アレですか、ツンd「じゃないもん!」…それをツンデレと言うんです」


啓介やケンタや他のメンバーには至って普通。たまに毒ついたり茶化したり、ふざけたりもする。でも、涼介には。大人ぶって誤魔化して、それこそ誘われたことだってあるのに『それじゃまた』ってあしらって。態度が違うって怪しまれちゃいけないと、他のみんなと同じように涼介にもわざとふざけてみるけれど。いつもいつも、そのあとで後悔していた。


「涼介さんに出会う前、クルマの知識は人一倍あると自負していた私より更に詳しい人がいるって史浩から聞いて、会えるのを楽しみにしていたわ。涼介さんと啓介のセブンが素晴らしすぎて、本当にふたりに出会えてよかったと思っているの。私、オーナーよりクルマに恋することが多かったから、ギャラリーの彼女たちみたいにふたりのことをそんな目で見ていなかった。男の人に惹かれるってことが全然なかったの。それなのに、あの、涼介さんときたら!いつもあんな目で見られちゃ、たまらないわよ!」


松本は思った。時間の問題だから、このまま放っておいても上手くいきそうだ、と。涼介の相談役を請け負っていた松本の悩みは、どうやら取り越し苦労だったようだ。あんな目とはどういう目なのか大体は想像がつくが、ふたりの未来を祈って、再び赤いZのエンジンルームを覗くのだった。

_______________



「たまにはオレと走るか、亜樹」

「いいですけど。無条件なら」


次の週末、レッドサンズの走行会。今日はいつも以上にギャラリーが出ているなと、亜樹はまわりを見渡した。チーム内でバトル形式でタイムアタックをする予定だからか、あちこちからのエンジン音がけたたましい。気合入ってるなー、とZのサイドに凭れて呑気に見ていたら、涼介に肩を叩かれた。


「無条件?どういうことだ」

「だって、なにか企んでそうな目なんですもの」


肩を叩いた涼介は、そのまま亜樹の肩を抱く。その程度のスキンシップは常なので慣れてはいるのだが、松本から聞いたことが本当なら…と考えると、この手が何だか、亜樹には熱く感じた。


「この前、啓介とどこへ行ってきたんだ?」

「どこでもいいじゃないですか、ただのドライブです」

「嬉しそうに、啓介が帰ってきたんだ。そんなに楽しかったのなら、オレも亜樹とドライブしたいなって思ってね」

「じゃあ、今度行きますか。FC?Z?」

「…Z、かな。借りて、運転の具合を見てみたかったんだ、ずっと前からね」

「…涼、介さん?」

「そのままずっと、亜樹も借りられたら、嬉しいんだけど」

「…っ、どう、いう」

「こういうこと」


車高の低いZだから、もしかしたらまわりから見られていたかもしれない。サイドルーフに片腕をついて亜樹に覆いかぶさる涼介は、ひと時の息も逃すまいと、深く深く、亜樹に口付けた。


「ん…ッ、んん、ふ、っ…、」

「亜樹…、オレの、オレだけのものだ…ッ」


苦しそうに、切なそうに、吐息とともに囁かれる涼介の言葉。いつもいつも、自分を見る涼介の目が熱っぽいと感じていたことは自惚れじゃなかった。松本が言っていたことはウソじゃなかった。ただ、自分が素直になっていれば、もっと早く、こうなれていたかもしれなかったけれど。どうにも男の人に慣れていないのだからそれは仕方のないことだった。ひとしきり呼吸を奪った涼介は、とろんと気が抜けた亜樹の腰を支え、ともにZへ凭れかかる。


「…ああもう!涼介さんのばか!どうしてこうさらっとキスなんて出来るの!順番あるでしょう!」

「だって亜樹が啓介や誰かに取られると思ったから。まだ取られてなくてよかったけど」

「そういうことじゃなくて!」

「なんだ、亜樹はオレが好きじゃない?見当違いだったかな」

「好きに決まってr…!〜〜〜〜計りましたね!」

「オレの前では大人っぽくならずに、そのままでいろよ?素っ気ない亜樹もいいけど、今の亜樹がそれよりずっとかわいいから」

「……この、色男」

「欲しいものは手に入れる。それがオレのやり方さ」


嫌われていないことは明らかだ。いつもの素っ気ない態度が、単なる照れ隠しであると仮定して。自分に都合の良い仮定だが、それなら少し強引にいっても、困りはするだろうが亜樹はきっとオレを拒まないはずだ。もしそれでも拒んだら、砂糖のように甘すぎる言葉を囁いてとろとろに溶かしたあと、オレしか見えないようにする自信があった。…その必要は、結果的になかったがな。

あのマンガのガキ大将は、手に入れたものをとことん自分のものにして束縛していた。小さい頃に読んだときは『なんてひどいヤツなんだ』と思っていたけれど。ときには利己的に、わがままにならなくては、欲しいものは逃げていく。そう、教えてくれたのかもしれない。


「好きだよ、亜樹。男にやさしくするのも仲良くするのも、オレだけだからな」

「え、それじゃ啓介は…」

「だめ」

「え、松本くん」

「松本と宮口と史浩は許す」

「…ケンタ」

「以下レッドサンズ全員却下」

「…わたし、みんなに嫌われそう…」

「じゃあ、亜樹を嫌わないようにって、オレから言おうか」

(おれさまルール発言だ…)

亜樹さまへ

この度は20000hitリクエストへのご参加、ありがとうございます。昨年の出来事を今になってお届けする不甲斐の無さ、どうかお叱り下さい…。

改めまして、1周年と宅の真ん中へのお言葉、大変嬉しかったです。ありがとうございます亜樹さま。涼介さんをジャイアンにしてしまってすみません。束縛と嫉妬…ジャイアンしか思いつかなかった私です。とほほ〜…。お話の中で彼の名言を少しだけ拝借しましたが、数ある剛田節(ジャイアニズム)の中で私が子供の頃からすごく、すごーく印象に残っている言葉が、『おれがいつ返さなかった。えいきゅうに借りておくだけだぞ』というまさに利己的発言。涼介さんが言ったら史浩くんは胃潰瘍どころじゃないですね。ただ、私も涼介が好きなので、彼にこんなこと言われたらと思うと『バッチこおおい!』な気分になるのは、やはり涼介だからですよね。旦那に言われたらちょっと引きます←

その他、松本をキーパーソンにしてみました。私、松本と真ん中を絡ませるのが好きでして、今回亜樹さまのヒロインさんにも絡んでもらいました。侮れません、松本修一。なんてったって涼介さんと秘密のターンパイクの男ですから。

束縛…『そいつのすべてが欲しくなる』と言うくらいですから、束縛しがちなのはきっと啓介の方ですね。ですが、昔から啓介を自由にさせて自分は少しガマン…というお兄ちゃんであれば、いつか自分が本当に欲しいと思うものに出会ったときは何が何でも手に入れたいって爆発すると思うんです。それが、拓海であったり、ヒロインなのかな、と。この先ヒロインさんはDにも参加すると思います。涼介さんのサポートに尽力するんだろうな。

お話、何か手直しが必要であれば、いつでも仰って下さいね。お気軽にご意見ご感想をお寄せ下さい(^^)/もっと束縛されたい!などなどご注文もお受けします。またぜひいらして下さいね。亜樹さまとお近付きになれてとっても嬉しく思っています!(北陸繋がりですね!)

2014,8,2りょうこ