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>>2014/08/23 (Sat)
>>00:23
Pretty of Paddock(高橋)

和泉詩姫さまリクエスト
お相手:涼介、啓介
ヒロイン:真ん中ちゃん

ギャグ→甘です。
雑誌(捏造)に載った真ん中ちゃんの記事を読んだ兄弟の反応は…?


和泉さまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

「おはようござ……なに、これ」

さあ今日も張り切ってタイム削るわよと、練習走行に宛がわれたチームパドックへ到着すれば、クルマとは無関係のケーブルやらライトの機材と、『撮影』の腕章を付けた見知らぬスタッフが数人。ガレージ奥では、監督が何やら話をしている。


「おはよう詩姫ちゃん。監督のインタビューが終わったら次は詩姫ちゃんだからね」

「ハヤトおはよう。ごめん、もう一回言って?」


_______________



GTジャーナル、9月号。スーパーGT第6戦直前特集。

---高橋詩姫、23歳。群馬県高崎市出身。TRFレーシング、チーフメカニック。同県の自動車工大在学中より現在のチームに所属。その年齢からは想像し難い卓越した思考と、手際の良い技術に定評がある。若々しくハツラツとした人柄や愛らしい見目で、GT戦以外でも顔が広い。現在、恋人なし。とあるドライバーとの熱愛もウワサされるが…?---今号"パドックの華"へ続く


「けしからーん!!!」

「涼介落ち着け!!」

「いつの間にこんな写真を撮ったんだ!お兄ちゃんは詩姫が雑誌に載るなんて聞いていないぞ!」


それは、赤城でのプロジェクトDミーティングのときだった。涼介さーんこれー!とケンタが持ってきた一冊。妹が携わるカテゴリーだから、雑誌の存在はもちろん涼介は既知だ。だが、


「な・ん・で!こんなにTRFが大きく載っているんだ!」

「今追い上げが凄いからじゃないのか?」

「前半は苦戦してましたもんね」

「電気系トラブルは、もう改善されたみたいですね。よかったですね、詩姫さん」

「表紙にまで詩姫が載っているんだ!大問題だぞ宮口!」


出版社に抗議しようとスマートフォンを取り出した涼介を、大人気ないことをするなと史浩は必死に食い止める。詩姫のことになると、妹想い…もとい度が過ぎた兄バカになるこのリーダーは、イメージチェンジをした髪型が乱れていることも気にせず、暴れている。


「ンだよアニキ、なんかあったのかよ」

「ちょ、どうしたんですか涼介さん!?」


神奈川最終戦に向けてそれぞれに乗せた強化パーツの感触をつかむテスト走行から帰って来たふたりが、どよめくメンバーたちを怪訝に思う。原因は涼介なのか。啓介と拓海は史浩から状況を聞いた。


「はああ?!GTじゃーなるぅ?!」

「わあ、詩姫さん、仕事中もかわいいですねー」

「呑気だなあ藤原。それが原因でさっきから涼介が再起不能なんだよ」


詩姫ちゃんのことになるとこれだからなあと、史浩は困り果てた。その間、啓介と拓海は渡された雑誌をどんどん捲っていく。


「あーこのアネキくっそかわいい…オイ誰だよこの男」

「チームのドライバーさんじゃないですか?いいですねコレ、勝ったときですかねー詩姫さん嬉しそう」

「は?ドライバーの分際でなんでアネキに抱きついてんだよコラしばくぞ」


"パドックの華"と称されたとあるコーナー。各チームのガールズたちは、彼女らの専用誌があるので主にそちらに載っている。このコーナーでは、編集者が各サーキットやチームで出会ったクルマに携わる女性スタッフや女性レーサーを紹介していた。


「で、今回が詩姫さんだと」

「これさ、もしかして詩姫ちゃん、涼介たちに言わなかったんじゃなくて『言えなかった』んじゃないのかな」

「有り得ますね、涼介さんも啓介さんも、詩姫さん溺愛してますから。載るって言えば、許さないと思いますよ」


_______________



(言えない、なあ…これは)


「はい、次はクルマと一緒に撮りますんで、ちょっと触れてもらっていいですか?」


自分の目の前には、大きな一眼レフを持ったカメラマン。更にその後ろには、監督を筆頭にチームメンバーがニヤニヤと詩姫を見ている。言いたいことがあるなら何か言えと、詩姫の笑顔は、不自然極まりない。


「詩姫ちゃん、ほら、笑って」

「だってみんながそこでニヤニヤしてるから集中できないんだもん」

「これはアレだな、七五三の撮影を見守る親のような気分だな」

「怒りますよ監督」


さっきまでのインタビュー中も、会話の様子を撮影された。次はエントリーカーと一緒に、目線はカメラへとのリクエスト。雑誌の撮影はこれが初めてではないのだが、以前はチームを主体に撮られていたので裏方である自分はほんの少ししか載らなかった。自分がこうモデルになってとなると、恥ずかしさが勝っていい笑顔になれない。


「うーん、ちょっと硬いなあ。リーダーさん、彼女、どんなときにいい笑顔します?可愛いお方だから、せっかくなら最高の笑顔を撮ってあげたいんですけど」

「よかったね詩姫ちゃん!かわいいって!」

「ハヤトうるさい」

「もー連れないなあ…いい笑顔、いい笑顔……あ、涼介くんたちと一緒のとき、いっつも笑ってるよね」

「そうかなあ、意識してないんだけど」

「うん。もうね、すっごく笑ってるよ。家族通り越して、涼介くんと啓介くんを恋人みたいに見てるしね」

「え…」

「へ〜、ご家族と仲が良いんですね!どんなところがお好きなんですか?」


_______________



ひと月後、それは鈴鹿戦に合わせて発売された。表紙を飾るのは、TRFエントリーカーを囲ったメンバーの集合写真。中心にはかのチーム監督、両隣をふたりのドライバーが。リーダーのハヤトはファースト、詩姫はセカンドドライバーのとなりに居る。チーム幹部が前列に揃い、鈴鹿戦への熱意が伝わる凛々しい表紙だった。


「いい顔してるじゃないか、詩姫ちゃん」

「…そうだな」


表紙をめくれば、今までのTRFの戦歴、マシン解説、まずは監督のインタビュー、続いてドライバー、チームリーダーの記事が載っている。


「さすがですねぇ、涼介さんが詩姫さんを自慢したくなるのわかりますよ」

「ふっ、当然だ松本。詩姫はオレにもったいないくらい良く出来た妹だ。どこへ嫁に出しても恥ずかしくない器量良しだからな。………嫁、だと…?」


松本に詩姫を褒められてにこやかな涼介の顔が一瞬にして、般若になった。オレ地雷踏んだかなと史浩を見た松本は、首を横に振る史浩から『離れろ』とアイコンタクトを送られ、面倒になる前に涼介からじりじりと遠ざかった。


「詩姫は…詩姫は誰にもやらんぞ!一生オレと啓介から離れちゃいけないんだ、そうだろう史浩。どれだけの男が詩姫に近付いてきても、オレと啓介以外の男なんて詩姫にはいらないんだ。ああ藤原勘違いしないでくれ、お前は詩姫の大事な友人だ、お前やDの仲間は別格だぞ。オレたちはいつも詩姫を守ってやらねばならんのだ。それなのにあの神奈川の!箱根の連中は野獣だ!詩姫をいやらしい目で見やがって…!なあ啓介!」

「お、おう!そうだぜアニキ!」

(啓介さん真面目に答えてる…)

「オレは仕事中の詩姫を見る機会がなかなかないからこういう記事は本当は嬉しいさ。だがな!こんなかわいい笑顔はオレだけに見せてくれればいいんだよ!全国のカスどもに見せていい笑顔じゃないんだ!それこそオレの部屋のベッドで優しく耳元で囁いてゆっくり寝かせてつなぎを脱がs「涼介さんストオオオオップ!!」…邪魔をするのか藤原、兄であるオレの詩姫への愛を!」

「落ち着いて、涼介さんお願いですから落ち着いて下さいオレが憧れてる涼介さんはこんな兄バカじゃないですもっと『頼れるお兄ちゃん』でなくてはダメなんですとりあえず記事の続き読んで下さいお願いします!!!」

(藤原…兄バカ涼介を初めて見たのか…)


自分の発言から自分で勝手に発狂して周りを巻き込む涼介は、ただの傍迷惑でしかない。史浩始めDのメンバーがやれやれと呆れ、そんな度が過ぎた涼介を見たくなかった拓海は、詩姫の記事を涼介の前にずいっと差し出した。



---メカニックになるキッカケは?
『私にクルマを教えてくれたのは、兄なんです。構造を覚えていくうちに、走ることより作ることに興味がわいて…中学生の頃だったかな』

---その若さでこの業界にいることが大変そうに見えますが?
『大変です。もう毎日が勉強ですよ。でも、知らなかったことがわかる、一番の環境です。知識はあっても、物事は経験がすべてなんだなぁといつも思いますね』

---大学時代から今のチームに参戦しておられたと?
『大学入学のときに、ご縁があってしばらくチームで修業していました。一級整備士免許を取ってから、本格的に整備に携わっています。若輩者だから足を引っ張ってばかりで…』

---いやいや、いつも頑張ってると監督も褒めておられましたよ
『ほんとですか?うっそだー(笑)』

---高橋チーフにクルマを教えたのはお兄様だと、先程伺いましたが
『はい』

---どんなお兄様なんですか?
『うーん…ひとことで言えば、道標、ですね。兄は、私と弟…あ、ひとつ歳下の弟がいるんですが、私たちにとって、絶対なんです。整備士になると決めたときも、『女の子なんだから』と両親には反対されましたが、兄は応援してくれました。それからはもっと、私に知識を教えてくれたんです。以来兄には逆らえません、怖くて(笑)』

---怖いんですか(笑)
『いえ、普段はやさしいですよ(笑)私が言うのもおかしいですが、やさしくてかっこよくて、自慢の兄なんです」

---それは是非お会いしたいですね!
『今プライベートがとても忙しいから…時間があれば、弟とサーキットにも走りに行くんですけど』

---もしかして、ご兄弟は走り屋ですか?
『はい、もう相当の。一日中クルマのことばかり考えてますよ。私も揃ったときは、たまにですけど夜にドライブにも行きますね』

---お三方とっても仲良しなんですね!さてプライベートの話題はこのへんで。最後に、これからのTRFと、鈴鹿への想いをお願いします!
『マシンの状態が不安定だったため、前半戦はファンの皆さんに残念なお知らせしか出来ませんでしたが、調整を重ねた結果、先日の富士で今のマシンに手応えを感じました。鈴鹿は逆転を狙います!表彰台への応援、よろしくお願いします!』

---ありがとうございました!今号127ページ"パドックの華"では高橋詩姫チーフにスポット!ファンは要チェック!



…ちら、と藤原は目だけを動かした。となりの彼は、微動だにしない。涼介さん、そう声をかけようと見上げたら。


(……まじかよ!!)

「う…っ詩姫…!そんなにお兄ちゃんのことを想って……ッ!」


鼻をすすりながら、きらきらと美しい涙を流す、拓海の尊敬の念が少し傾いた涼介が居た。

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(ンだよ、アニキのことばっか…)


オレが買ったやつなのにー!と騒ぐケンタから借りた(奪った)雑誌を持ち帰った啓介は、鈴鹿戦が終わるまで帰らない詩姫の部屋にそっと入った。勝手に入らないでといつもなら怒る姉は、涼介に似て几帳面だ。整った部屋のベッドに雑誌を放り、寝転がる。ふわふわした良い香りが走り疲れたからだに沁み込んで、あくびをひとつ。


(オレのこと、全然言ってくれてねェじゃん)


"パドックの華"は、スポットが充てられたスタッフのある日のスケジュールを写真と共に追うような記事になっている。出勤からミーティング、マシン調整、タイムアタックなどの業務以外に、オフショットも多く掲載されていた。愛車のランエボやフィガロの紹介はもちろん、詩姫の持ち物や愛用している工具類、ランチタイムの風景、ドライバーや監督と仲の良い様子など、まるでファッション誌のモデルさながらの扱いだった。魅力あるスタッフがサーキットにいると読者に伝え、そこでどんな仕事をしているのか。やり甲斐はあるのか。モータースポーツの裏側を見せることで、読者に興味を持ってもらう。クルマをいじる詩姫の写真が、モータースポーツは楽しいんだと言っているようだった。


「…あ、これ」


オフショットのひとつ。『お守りなんです』とコメントしている写真のネックレスに、啓介は笑った。


『数年前のクリスマスに弟が贈ってくれました。仕事中にも付けられるようにって。いつもつなぎの下に隠してあるんですよ』


三位一体のゴールドトップがついたネックレス。贈った当時より、少し、くすんでいるだろうか。


『休日は、時間があるときは必ずドライブに行きます。地元群馬の山だったり、箱根周辺だったり。ランエボかフィガロかは、そのときの気分なんですが…。レースが近いときは、絶対ランエボですね。エントリーカーと同じ排気量なので、音を聞いているとイメージトレーニングになるから』


エントリーカーと共にドライバーふたりと話している写真には、『小さいけど頼りにしてる』『ある意味マスコットだよな(笑)』『どういうことよ』と、楽しそうに笑う詩姫が。一方で、ウォールスタンドに座る監督とともにレースを見つめ次回ピットインへの対策を練っているのか、その写真には可愛らしさなどまったくない、鋭い視線が撮られていた。


「…ほんと、好きでやんの。クルマも、チームも」


啓介は嫉妬した。自分が知らないところで過ごす詩姫の顔に。大好きな詩姫のことを、自分は全部知っていると思っていた。それにチームワークが好調であることは元より知っていたが、こんなにも、メンバーから愛されていること、メカニックとして頼りにされていることを、第三者から聞くことはなかったから。先程の涼介ではないが、『詩姫のかわいい笑顔はオレにだけ見せてくれればいい』 と、同様の気持ちが啓介にもあった。だが。


「…っ、まじ、かよアネキ…ッ」


記事をどんどん読んでいくと、嬉しくも恥ずかしい…そう思うのはきっと自分だけであろうが、啓介は照れ笑いが止まらない。かあっと赤面し、詩姫のベッドにぽすっと顔を埋めた。


『私の弟は、近い将来、必ずプロレーサーになります。いつか、同じレースで戦うときがきたら…姉として、情けない姿は見せられませんね。弟だろうが、容赦はしません。ただ…レースが終わって、ふっと肩の力が抜けたとき…そのときは一番に駆け寄って、お疲れ様って抱き締めてあげたい。大好きなんです、弟のこと』


とある場所にぽつんと書かれた、自分だけに向けた一文。想像すると、これは表彰台に上ることより嬉しいかもしれない。勝っても負けても、頑張った褒美に詩姫のハグが待っているのなら。それだけでプロになってもいいかもなといささか不純に思う啓介だった。


「こんな、雑誌で言うなよンなこと…っばーか!アネキの、ばか!」



『詩姫ちゃん、こうしようよ。みんなを涼介くんと啓介くんだと思って笑ってごらん』

『え、出来ないよそんなの。お兄ちゃんたちよりカッコいい人いないから』

『ちょーっとそれは傷付くなあ、ほら、出来ないじゃなくてやる!チーフでしょ!』

『えー!ハヤト無茶ぶり!せめて白と黄色のセブンくらい持ってきてよ!それなら笑うかr『そんな時間ありません』…ちっ』



見開き2ページに渡る"パドックの華"…見出しに使われた、特に目を惹くピンショット。チームカラーのつなぎをしっかりと着込み、エントリーカーのサイドに凭れるようにからだを預けて。そよぐ夏の風になびく黒髪に触れながら。少し照れて綻ぶ、大きな瞳が緩やかにカーブして相手…読者を見つめている。詩姫は、涼介と啓介だけが知る、世界で一番可愛い、満面の笑顔を向けていた。





おまけ


(……くっそ、オレを殺す気かよアイツ!)


その頃。お馴染み、大観山では。


「豪さん、さっきからどうしたんですかね。百面相というか、頭抱えてぶつぶつ言ってますけど」

「雑誌のアイドルが自分だけに笑うてくれとると錯覚してはるアホな大将は放っとこ。さ、やることやって早よ帰るでー」

「はあ、社長がそう仰るなら」

和泉詩姫さま

昨年10月にお受けしたリクエスト、大変お待たせいたしました…お時間頂きまして申し訳ありません、りょうこです。

改めまして、20000hitリクエストへのご参加ありがとうございます。お相手兄弟のギャグ、ヒロイン指定がございませんでしたので、宅の真ん中で書いてみました。ギャグはあまり書いたことがなくてやや試練…;;笑いが…取れていたらいいのですが;;ずっとギャグ路線で書くのも単調かな?と思いましたので、前半涼介でギャグ、後半啓介で甘く…という少し二部構成のような組み立てにしてみました。真ん中が大好きなシスコン兄弟、お気に召して下さるとうれしいです。

雑誌GTジャーナルは捏造です。真ん中が雑誌に掲載されるというお話をいつか書いてみたかったんです。かわいい衣装の華やかなガールズだけじゃなくて、モータースポーツを支える女性スタッフたちのコーナーもあったらいいんじゃないかなと思って考えてみました。真ん中が載ったらそりゃあね、大騒動ですよ。彼女は雑誌のことを誰にも話していませんので、きっと他にもどこかの走り屋が偶然見つけて騒いでいることと思います。栃木とか、栃木とか、栃g(ry

もっと笑わせて!などご要望ございましたら、お気軽に仰ってくださいね。ギャグの勉強もっとします(笑)この度は本当に、ありがとうございました(^^)/

2014,8,22りょうこ