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>>2014/10/24 (Fri)
>>22:59
Sweet!Sweet!Sister!!(高橋)

長月さまリクエスト
お相手:涼介、啓介
ヒロイン:真ん中ちゃん

FDに乗って、放課後デート。
ふたりの真ん中にいてよかったなと思うヒロインです。

長月さまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

高校までの学生生活で欠かせなかった、朝と夕方のホームルーム。クラスメイトたちは、朝のダルさでついあくびをしたり、早く帰って遊びに行きたいからと既に鞄の準備をしていたり。自分は、先生の話をしっかり聞いて、至って真面目だったと思う。

今なら、話を聞き流していた彼らの気持ちがわかる。ものすごく。


(大学にもなって、なんでホームルームがあるのよ。掲示板と同じ内容をただ言ってるだけじゃない)


専攻する学科の担当者が、諸々の連絡事項を話している。担任の先生のように生徒に付きっきりで…という存在ではなく、生徒の出欠や連絡伝達、謂わば事務員のような人だ。週に一度、長月所属科の生徒が一同に集まり、それこそホームルームが開かれる。だが長月は、この時間が嫌いだった。今日に限っては、特に。


(この一時間があれば、一体どれだけのことが出来ると思っているのかしら。週に一度くらいならやってもやらなくても変わらないわ)


掲示板を見れば済むこと。早く神奈川へ向かいたい。早く帰ってやり残した作業をしたい。早くエボをいじりたい。


(ふたりが、待ってるのに)


早く、大学を出たい。

さっきから、まわりの生徒がそわそわして窓を気にしているのを、もう、黙って見ているのも限界だった。


(どうしてFDで来るのよ、ばか)


お父さんのクルマ、空いてるんじゃなかったの。



昨晩。

明日の午後からオフだから出掛けるかと、常にお忙しい涼介からの嬉しいお誘い。喜んでいたら啓介がやってきてオレも行きたいと甘えてきた。


「久し振りに長月を連れて歩けると思ったのに。このやろう」

「へへ、ぬけがけ禁止ー」

「啓ちゃん、大学は?」

「休校!」

「本当だろうな」

「改装工事だってよ」


嘘だと思うなら見てみろと渡された学内メールで納得した。明日の外出は決定である。


「終わるの早そう?アネキ」

「授業は少ないけど、最後にホームルームがあるの。無駄に長いんだ…」

「終わる頃に迎えに行くから。その足で、まずは食事かな」

「じゃあ、明日は私、電車で登校するね。えへへ、楽しみ」

「やっりぃデートだ!」


広々とした父さんのセダンで行こうかと確か話していたはずだ。だがしかし、あの、校門に停まっている眩い黄色を、私が見間違えるはずがない。しっかりとRedSunsが貼られているし、何よりその傍らで寄りかかってタバコを吹かすその姿。紛うことなき我が弟。



「なあ、あれって高橋啓介だよな」

「うお、マジかよ。何でウチに来てんだ?」

「すっげー、やっぱFDかっこいいわ」


(ああ、もう…)


良くも悪くも、クルマとオーナーは目立ちすぎる。父のセダンを予想していた思考が、完全に裏切られた。ため息をついてもう一度見れば、さらに。


(っ、お兄ちゃんまで!)


がたっ、と椅子を鳴らしてしまった。FDの助手席から、ゆっくり降り立つその姿。紛うことなき我が兄であった。


「おーおー。揃ってダレをお迎えかな」

「井口…黙らっしゃい」

「長月まだか、とか話してんだろーぜ」

「ああもう、ふたりでFDで来るなんて」

「目立つよなー、アイツら。悔しいけど、画になるよ」

「…うん」

「顔真っ赤。照れてんのか」

「だって、こんなお迎え、まるで」


そりゃ、リアシートのあるFDだったら、三人で乗れる。たぶん、あの兄弟のことだ。


(恋人ヅラしたい…とか言うんだろうな。きっと)


自慢のスポーツカーで、愛する人を迎えに行く。いっぺんやってみたかったと、啓介は言うだろう。その横で、涼介は面白くない顔をしていそうだ。自分がFCで迎えに行くはずだったのに、なんてふてくされて。


(あと、10分)


隣に座る友人の井口がニヤニヤとからかう。実習のあとすぐのホームルームで、長月他生徒たちは学校指定のつなぎのまま。チャイムが鳴ったら速攻でロッカーへ向かわないと。せっかく、涼介が作ってくれた時間を大切に過ごしたいから、家から持ってきた服に着替えたい。久し振りに兄妹弟揃ってドライブだなんて嬉しすぎて、ついつい力を入れて選んできた一張羅に。


_______________



「つか、オレらここにいていいの」

「来客用なんだ、問題ない」


大学、校門に近い来客用駐車場に、際立つ黄色が停まっている。自分の授業が終わった生徒がちらちらと見ていくが、その視線は夜の峠と変わりないので涼介と啓介はさして気にしていない。知った仲…地元走り屋の生徒も何人かやってきては、ふたりに声を掛けていった。


「なあ、アニキ」

「ん?」

「アネキってさ、やっぱ、すげェのかな」

「どうした、急に」

「ココ通いながら、終わって速攻神奈川行って、チームのために研究してさ。あのちっこいからだですっげェよ」

「フットワークの軽さは、オレたち以上だな」

「今日、よかったのかな。神奈川、行かなくて」

「長月のことだ、ちゃんと先方に伝えてあるさ」


携帯灰皿にタバコを押し込み、うん、と腕を伸ばす。啓介は、キャンパスのイチョウを見上げた。


「いつかさー」

「いつか?」

「アネキにカレシが出来たらさ、三人でデートって、出来ねェな」

「…ああ」

「…アニキさ、アネキのこと、どうなんだよ」

「…啓介と同じ気持ちだよ」

「あ、逃げやがった」

「…ったく、言わせる気か?」

「だって、アニキはオレの永遠のライバルだし?」

「…愛してるよ、長月のこと。アイツに恋人なんて、考えたくもないさ」

「へへ、オレも!今日はぬけがけナシだからな!」


_______________



「廊下を走るな高橋!」

「ごめんなさい先生!小走りくらい許して!」


つなぎはとりあえずロッカーに押し込んだ(洗い替えは何枚もあるから気にしない)。汗の始末とメイク直しを念入りに。今日はとても気持ちがいい天気だから、クロゼットから選んできたのは秋空に似合いそうなウォームカラーの半袖ワンピース。赤とオレンジのチェック柄で、あたたかいフェルトのような圧縮ウール素材。ハイウエストの位置でベルトを通せば、クラシカルスタイルの完成。ブラックレザーのニーハイブーツをするりと履き、ロッカールームの姿見で一回転。


「…よし!」

「何がよしよ、可愛くオシャレしちゃってさ」

「嘉美、おつかれ」

「見たわよ校門で待つ王子様。あーもーうらやましい!」

「言葉通り待たせてるからもう行くね、じゃ!」


入れ違いでロッカーにやってきた友人と別れる。明日、事の始終を言えってせっつかれるだろうなと思いながら廊下を走っていたら、先生に咎められた。ブーツの踵を鳴らし、肩に羽織った白いニットカーディガンが揺らめく。昇降口を抜ければ、ふたりがこちらに気付いて手を振ってくれた。


「おかえりアネキ。そんなに慌てて転んでも知らねーぞ」

「はは、前髪くしゃくしゃだな」


啓介はネルシャツとブラックデニム、足元はレザーのエンジニア。涼介はカシミアニットにホワイトデニム、足元はキャンパスのスリッポン。同じデニムのスタイルなのに、まるで違う着こなし。普段のふたりから、少し気が抜けたようなラフさ。それでもサマになって見えるのは、さすが、素材がいいからだろうな。


(なーんてね、惚れた欲目?)


走ってふたりに近付いて、風に煽られた前髪を涼介が撫でる。そのまま涼介は髪に口付けて、さり気なくFDへエスコート。


「またとびきり可愛いな、似合ってるよ長月」

「待てよアニキ!エスコートはオレだろ?!ぬけがけナシって言ったばっか!」

「本当はFCで来たかったんだ。長月とふたりで楽しみたかったのに…これくらいいいだろ」

「あ、待ってお兄ちゃん、私、後ろでいいよ。助手席にはお兄ちゃんが乗って?」


涼介がはたと止まる。デートだというのに、この我が妹は何を言うのだろうか。


「…ナビシートは恋人の特権だろう?」

「だって、お兄ちゃんが後ろじゃ狭いじゃない。私なら全然問題ないよ」

「体格なんて問題じゃないんだ、男のミエというか…啓介、お前がリアだ」

「は?!誰が運転すんの!」

「オレ」

「っざけんなアニキ!オレのFDだぞ!」

「あーもーケンカだめ!私が後ろ!一緒のクルマに乗ってるんだからいいじゃない!それよりココ、校門!」


騒がしい啓介と冷静な涼介、真ん中に長月。放課後、下校する生徒がFDと兄妹弟を横目に過ぎていく。周りを気にして恥ずかしげに俯く長月は、そそくさとFDの後部座席に乗り込むのだった。




_______________



「どっか行きたいところある?」

「う…いま、おなかいっぱいでなにも考えられない…」

「ははっ、腹パンパンだな長月。ベルト緩めたらどうだ?」

「お兄ちゃんひどい…!」


肌寒いからあったかいもの食べたいね、と言えば、啓介が『任せろ!』と連れて行ってくれたのは中華料理店。メニュー全部が大皿でサーブされるため、仲良く取り分けて楽しめるのだとか。啓介はもちろん、涼介も細身ながら食が進むほうだ。どれも長月の舌に合い、満腹なのに杏仁豆腐も平らげてしまった。


「デザートは別腹、ねえ…」

「…なによ啓ちゃん」


食後の一服。すぐに発車せず、店の外にあるベンチでひと休み。たくさん食べて代謝も上がり、からだがぽかぽかしている。肌寒さが、今は心地いい。タバコを吹かしながら、啓介は長月の膨れた胃のあたりを見た。


「それが脂肪になんのか…はァ」

「ちょっとため息つかないでよ」

「なに、"運動"すればすぐに消化できるさ」


す、と涼介の腕が腰にまわる。長月のウエストをむに、と摘めば、ぺち、と頬を叩かれた。


「おーにーいーちゃーんー?」

「協力してあげようって言ってるんだけどな」

「オレも"別腹"、喰いたくなった!」


自分を挟み、啓介までもくっついてくる。まったくこの兄弟は。いつまで経っても、妹離れも姉離れもしないのだから。


(してもらっても、ちょっと、困る…)


ずっとふたりと居ていいのか不安になるたび、『長月がいればそれでいい』と言ってくれる兄弟。自分はずっと、ふたりの『特別』でいいのだと。


だったら、


「星、観にいこうよ」

「やっぱり締めは赤城だよな」

「でも長月、その恰好じゃさすがに寒いだろう?」

「平気だよ」


ニットのカーディガンだけじゃ、物足りないけど。


「くっついてるから」


ふたりの手を取って、立ち上がらせる。両腕を絡めて、長月はふたりの真ん中へ。ぎゅっと抱きつけば、コート以上のあたたかさ。


「お兄ちゃん、啓ちゃん、だあいすき」

「さっ誘ってんのかバーカ!アネキ、胸!」

「そんなに"運動"してェんだな。よし啓介、路線変更だ」

「やあだー、お兄ちゃんも啓ちゃんもえっちー!」


涼介と啓介が、自分を特別だと思ってくれている間は、ずっと、ここを動かない。

だって、ここは、自分だけの特権だもの。

大好きなふたりのとなりに居られる、自分だけの場所。


(絶対、離れるもんか)


お兄ちゃん
啓ちゃん

ずっとずっと、ふたりの『真ん中』に、いさせて下さい。

長月さま

長らくお待たせして申し訳ありません。この度は20000hitと1周年へのお言葉、ありがとうございます!約1年、経ってしまいました…あまりに遅くてもう宅へはお越し下さっていないかもしれませんが、お預かりしたお話ですのでしっかり書かせて頂きました。

宅と、真ん中へのお言葉、とっても嬉しかったです。主人のことにも触れて下さっていましたので、お話には少し、主人の自動車大学を入れてみました。お迎えに来てほしいのは私のほうです(真顔)いいですよね…兄弟が横付けして待っていてくれるんですよ…むしろ待たせたい←

恋するキュンキュンなお話とお預かりしましたので、放課後お迎えからの、兄妹弟デートでした。ふたりといつまでいられるのかな、とか、ヒロインに恋人ができたら、とか、ずっと兄妹弟でいられる保証はないという不安を抱えながら、でもずっと、一緒にいたい。三人が三人であるための自分の場所は、『真ん中』しかないとヒロインは思います。涼介と啓介も、『お前がそこにいるなら、オレたちはどこにもいかないよ』と。お互いでお互いの不安を打ち消しているのが、兄妹弟の愛なんだと、私は思っています。

20000hitでは、本当にたくさんの方がヒロインを真ん中でと指定下さいました。改めて、宅のヒロインは皆さまに支持されているんだと感激しています。長月さま、ありがとうございます。

2014,10,24りょうこ