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>>2014/12/06 (Sat)
>>21:25
T友達の友達の高橋くん(啓介)

瑠璃さまリクエスト
お相手:啓介
ヒロイン:同期生

二輪時代、高校生啓介です。クラスが違う、吹奏楽部ヒロインさんとのお話。クリスマス仕様。オリキャラありです。ご注意ください。

瑠璃さまへのご挨拶はあとがきにて。

コチラよりどうぞ。

勢いよく視界に飛び込んできたのは、たぶん、金色。たぶん、ていうのは、突然自分を取り囲んだバイクのライトが反射して、はっきりと色の判断が出来なかったから。金属製の大きなマフラーから抜ける轟音がひっきりなしに鳴り響く夜道の一角で、彼は、たった今殴った相手をぽいっと手放し、この光景にはあまりにミスマッチなやさしい目で、声を掛けてくれた。



「なにやってたの、夜にひとりでさ」


大丈夫かと労ってくれた金髪の彼は、私のことを学校で見覚えがあったからと助けてくれたらしい。高橋啓介くん。同じ高校の、それも同学年だった。でも、私は彼を校内で見かけたことがない。それを言うと、少し、気まずそうにしていた。


「塾の、帰りで。いつもは家族が迎えに来てくれるんだけど、今日は都合があわなくて」

「歩いて帰るって?」

「うん」

「ばっか、のどかな群馬でもなァ、夜は物騒なんだぜ」


その原因はきみたちのことじゃないのかと思ったが、助けてくれた手前、言葉は呑み込んで代わりに苦笑いを返しておいた。「啓介さん、オレらそのへん走ってきます」と、彼以外のバイクが離れていった。彼のバイク一台だけが残り、エンジンが切られる。やっと、辺りが静かになった。二学期半ばの、風がひんやりした夜だった。


「さっきの、ナンパかなにか?」

「…しつこかったの。ストーカーみたいに、何度も」

「迎えってさ、もしかしてアレ対策?」

「帰る時間になるといつも塾の前にいて…。この前、自転車で帰ろうとしたらその人が近づいてきて、それで、」

「はいストップ、いいよ、言わなくて。ンな辛そうに話すんなよ」


バイクのシートが開き、ほら、と小ぶりのヘルメットを渡された。従妹が乗せてくれってウルセーから常備してやってんだ、と、また、やさしい目で言う。


「送ってく。タンデムだから、うしろ乗れよ」

「高橋くん、でも、」

「あの現場見て、じゃあなってひとり放っとけるかっての。道案内してな、えっと、」

「関。関瑠璃だよ。3Bの」

「オッケー、瑠璃。じゃあ行くぜ!」



_______________



「高橋啓介?知ってるよ。っていうか、有名すぎて知らない生徒はいないと思ってた」


知らない生徒こんな近くにいたよ希少だわー、と、購買で買ったプリンの蓋を開ける。昼休み、昨日の塾での出来事を、瑠璃は友人に話していた。


「何組なの?高橋くんて」

「Dじゃなかったっけ、普通科のはず」

「学校、来てないの?同じ教室棟なのに、全然知らなかった」

「極まれに、なんじゃない?留年しない程度には来てるとかさ」

「ふーん」

「…あ、気になるんだ」

「え?」

「ストーカーから守ってくれたんでしょ?ちょっと王子様みたいって思ってない?」

「感謝はしてるけどそんなんじゃないよ」

「…瑠璃、優しさに、甘えちゃだめだからね」

「…うん」


酷い恋を、経験した。

助けてくれて、あのときも感謝していた。

優しい人だと思った。笑いかけてくれた。本当に、王子様みたいな人だったのに。

人は急変する。まざまざと、それを感じた、夏だった。

『同じ場所』で出会った、彼。でも、知らないうちから相手を決めつけるのは…高橋くんを悪い人だとは、思えなかった。


_______________



せめて朝くらいは顔を出せと教師に言われ、出席確認を取ったそばから教室を出て行った啓介は、肌寒く、だが天気の良い秋晴れの陽射しを求めて屋上へ上った。


「ッチ、先客かよ」

「はよ啓介」

「箱投げてマコト」


サボりの定番、給水塔。ひょっこり顔を見せた先客は、啓介のバイク仲間のマコト。無造作にセットしたマコトのブラウンの髪が風でふわふわ揺れている。隠し持っていたシガレットケースを啓介に投げた。


「きいたよー、女のコひとり守ったって?グループLINEですっごい盛り上がってた。さすが、総長」

「あ?オレ見てねーけどそのLINE」

「バイパス走ってた帰りっしょ?どっかの塾生の子」

「おい話飛ばすなよ」

「関瑠璃ちゃん」

「ッけほ…っ!」

「オレもBだからさ、実はクラスメイト♪LINEで繋がってんだー。ほらこれ」


履歴から、マコトは先日の日付を呼び出した。ストーカーに襲われたと、瑠璃がアップしたLINEだった。


『暴走族みたいで怖かったけど、すっごく優しくていい人だったの。同じ学年の高橋くんっていうのよ、マコトくん知ってる?』


「『いい人』…」

「『怖かった』っての、なかったことにしてない?啓介」

「…」

「啓介?」


_______________



あれは、夏休みだったか。

進級に必要な日数しか登校していない自分にはほぼ毎日が休日のようなものだが、優良学生には嬉しい楽しい長期休暇のある日。補講が終わる頃に迎えに来てほしいと従妹の緒美が言うので、特にやることもなく暇だった啓介はバイクを走らせた。中高一貫校であるため、敷地面積が広く、それぞれに広大なグラウンドを有している。中等部に向かうときに必ず横切るのが、高等部のグラウンドだった。啓介はそこで一度、足をついた。


「うっわ、かったり」


何故、文化部の彼らが炎天下で活動しているのだろうか。重量は各自違いはあれど、こんな灼熱の外で楽器を持ち、しかも直立で演奏する理由は何なのか。


「甲子園、か?」


聞こえてくるメロディは定番の応援歌。県大会を勝ちゆくための、励ましの演奏だった。吹奏楽部は例年、夏休みを返上して応援に向かう。暑さに勝てる体力をつけなければ、吹奏楽部ではやっていけない。


「あれ、あいつどしたの」


体育館の日陰には、ひとりのトランペッターが。コンクリート敷きにしゃがみ、地面に置いた楽譜をじっと見ている。と思ったら、体育館の壁に背中をつけ、空を仰いで深呼吸しているようだった。ひとつに結った黒髪のポニーテールが、揺れ動く。


「熱射病でもくらったんかな」


液晶を見れば緒美との約束の時間。啓介は足を浮かし、中等部へ向かう。


それから、ずっと気になっていたトランペッターの彼女。吹奏楽部の部室とも言える音楽室にわざわざ向かうことは避け、外練習…中庭やグラウンド練習のときに、少し離れた場所から様子を見ていた。夏が過ぎ、秋になった。長かった彼女の髪は、短くなっていた。

 
(失恋でも、したんかな)


どうしてこうまで、彼女が気になるのか。果たしてこれを、恋と呼んでいいものだろうか。今まで、それこそ今もだが、啓介の周囲には女性が絶えたことはない。総長の肩書き、見目、明朗な性格、走り、そしてオンナの扱い…。わずか18歳にして誰もが羨み惚れ込む要素を持ったこの男が、胸を痛めていた。


_______________



「恋だね、その目は」

「…るせ」

「しっかしよくわかったね、瑠璃ちゃんの通ってる塾」

「実家の、近くだった」

「なんたる偶然!それで見つけて助けたっての?こんなうまい話ってオレ聞いたことないよ」

「…あーっ、くそ!連絡先聞いときゃよかった!ニケツしただけとかめっちゃもったいねェ!」

「そーだね、夏から追っかけてようやくお近付きになれたのにね。塾のお迎えは?あれからしてあげてんの?」

「同じ時間に向かったら、親が迎えにきてた」

「あらら、王子様は出遅れか」

「…マコトぉ」

「あーはいはいそんな目で見ないでよ総長、んとにお前は甘え上手だね」


友人で、バイク仲間で、チームメンバーのマコト。恋する総長のため、彼はスマートフォンのアプリを起動させた。


_______________



「外練、寒くね?」

「大丈夫だよ、腹式呼吸してると、けっこうからだポカポカしてくるの」


『瑠璃ちゃん、高橋啓介が瑠璃ちゃんのID知りたいって。オレ教えていい?』


予想通り、マコトくんは高橋くんを知っていた。一緒に走りに行くバイクのツーリング仲間だってわかったし、マコトくんがいいヤツだって言うんだから安心していた。いいよと返事をすれば、しばらくして画面に上がった見知らぬID。かわいいスタンプのおまけつきで。


「高橋くん、いっつも外練習のときだけ来るよね。音楽室にも来ればいいのに」

「オレがいるとみんなびっくりすんだろ」

「なんで?」

「なんでって…あー…」


LINEの会話は、教え合った日から途絶えていない。高橋くんはたまにしか学校には来ないから、今彼がどこで何してるかとか、今この曲練習してるとか、何でもない普通のことを話すことが、とっても楽しかった。彼と、もっとたくさん話してみたい。部活の、短い時間だけじゃなくて、学校の昼休みとか、何もない休日にどこかで会って、とか。


「…オレ、あんまりイイ子じゃないから」

「…高橋くんはやさしい人なのに」

「瑠璃だけ、そう思ってくれればいいよ」

「それじゃだめだよ、みんな、高橋くんのこと悪く思いすぎなんだよ」

「悪いコトしてたから、自業自得。言ったろ、瑠璃だけわかっててくれればいいんだって」


外練習はまず、自主練から始まる。そのあとでパートで集まり、最後に全体練習。自主練とパート練との間には小休憩があり、啓介はいつも、その時間まで瑠璃と会っていた。


「関せんぱーい!トラ隊やりましょー!」

「はーい」

「いってらっしゃい瑠璃」

「うん。あっ、お話したいことがあるの!あとでLINE送るね!」

「それなら、部活終わるまで待ってっから。今日は塾ねェんだろ?」

「え、う、うん…でも、遅くなるよ」

「いーよ、そのへん走ってる」

「ありがとう、高橋くん。いってくるね」



_______________



季節は巡り、12月。

初霜が降り、気温もぐんと下がった。今年の走り納めを11月末に済ませた啓介は、珍しく電車に乗っている。



『定期演奏会、来てほしいの』


あの秋の日。一緒に帰った、木枯らしの吹く夕暮れ。話があると言われ、最初は柄にもなく胸が高鳴った。瑠璃の部活が終わるまで周辺を走って時間を潰していたが、どこをどう走っていたかなんて、動揺していた啓介は覚えていない。まさか告白?最近のオレら、友達にしては仲良すぎじゃねって思ってたし…まさか、まさか瑠璃も…?


『毎年クリスマスにね、駅裏のホールで開催するの。高橋くん、いつも私にがんばれって言ってくれたから…その集大成、見てほしいな』

『なんだ、そーいうことか…』

『?なあに?』

『あ、いや、なんでもない!』

『それとも、もう予定ある?』

『ないって!クリスマス、どーせチームで忘年会とかだし』

『え、ちゃんと予定あるんじゃない!だめだよ、そっち行かなきゃ』

『いいって、チームの連中とはいつでも集まれっし。瑠璃のクリスマスコンサートは一度だけだろ?行くよ』

『うん…ありがとう、高橋くん』


車窓から街を眺める。日の入りが早い冬の宵、高崎の街が灯りできらきらと光っている。開場は18時。ホールへは余裕で間に合いそうだ。 トレンチコートの内ポケットに忍ばせた、瑠璃からもらった大事なチケット。一般と違う"招待券"の文字。それだけで啓介は頬がにやけた。


「よー啓介」

「……なんで、テメェがここにいる」

「おしゃれしてきた?やっぱモトがいいからサマになるね啓介」

「答えやがれマコト」


招待客の予約席。チケット記載のシートを探せば、見慣れたブラウンの髪。ジャケットにタートルニットを合わせ、トラッドシューズを合わせた脚を組み替えたマコトは、やってきた啓介に向かって手を振った。


「瑠璃ちゃんがオレにもくれたんだよ。ほら、あっちにクラスの女の子も」

「…っち」

「なーんだよ、自分だけ特別だって思った?」

「うっせ」

「あはは、かわいいなあ啓介」


ホール入り口で脱いだトレンチコートを腕に引っ掛けた啓介は、チケット記載…マコトのとなりに座る。駅裏のホールは客席が5階まであり、収容キャパシティと音響設備は県内トップの会場だ。空調も丁度よく、着てきた薄いカシミアニットで充分な温かさだった。スマートフォンの電源を落とす前に、啓介は瑠璃へひと言送る。練習を頑張っていたことは、ずっと瑠璃を見てきたから知っている。だから敢えて、その言葉は使わなかった。


「…無難すぎる」

「見るなよ!」

「そこはさあ、"オレがついてるから安心しろよ"とか"成功したらあとでちゅーしてやる"とかでしょ」

「言えっか!」




『瑠璃のトランペット、楽しみにしてる』



衣装に着替え、楽屋で最後のミーティングを終えた。心の準備…5分間の休憩のとき、ちかちかと光る着信ランプに気が付いた。


「ありがとう、高橋くん」


部活のように、『いってきます』と返した。不思議と、緊張しなかった。



_______________



定番のクリスマスソングで組まれた第一部が終わり、休憩時間。静かな会場が賑わい始めた。となりのマコトが、うんと腕を伸ばす。


「なんだ?」

「あー、野球部だ」


啓介たちの座席は3階だ。その更に上の階が、急に騒ぎ出した。見れば、坊主頭の集団が。


「クリスマスに不似合いな連中だな」

「暑苦しいって言いたいのね」


啓介やマコトも知った顔がチラチラと見えた。お互いに気付き、手を振り交わす。『なんで高橋が来てんだよ』『うるせーそりゃこっちのセリフだ』そう、会話するように。



休憩が終わり、静かさが戻った。照明が落とされ、ステージ上に部員が揃う。が、人数が少ないようだ。


「3年生だけ、みたいだね」


こそりとマコトが呟いた。衣装も先程までとは違う。男子は黒の燕尾服、女子は、赤いロングドレス。考えてみれば、今は二学期の終わり。優良な生徒なら、受験を間近に控えている。3年間頑張ってきた部活の、集大成。3年生だけの、ステージ。厳粛な空気。指揮者はおらず、コンサートマスターの男子が、一度だけ腕を振った。


わ、っと音が届いた。全メンバーではない、3年生10数名の少数舞台。少数だからこそ、ひとりひとりの音が、はっきりわかる。音楽に疎い啓介でも、どれだけ深いか、それだけ澄んでいるか、どれだけ重みのある音か、耳に、心に届いていた。そのとき、突然上の階から名前を呼ぶ大きな声が。と思ったら、ステージで演奏しているトロンボーンの男子生徒が立ちあがり、ソロ演奏を始めた。


「野球部、こういうことか」

「そうみたいだね」


ソロが終わり、拍手喝采。続けてひとりひとり、野太い声に名を呼ばれ、ソロ演奏を始めた。


「甲子園の、お礼じゃないかな。暑いスタジアムで、自分たちのために演奏してくれたから」

「へえ…いいやつらじゃん」

「次、瑠璃ちゃんだよ」


黒いショートヘアに、深紅のドレスが際立った。す、と音もなく立ち、瑠璃の名が高らかに呼ばれる。


(瑠璃)


トランペットの高らかな音、柔らかいムーディーな音、力強いフォルテシモ…最後に、やさしい、やさしいハイノート。背筋を伸ばし、スポットに当たる彼女は、最高の笑顔で演奏していた。



_______________



「高橋くん!」


招待客だろうとも楽屋には立ち入ることは出来ないらしく、啓介は裏口で瑠璃を待っていた。邪魔しちゃ悪いねと、マコトは先に帰っていった。瑠璃は白いピーコートに赤いチェックのマフラーをぐるぐる巻いて、もこもこのミトンの右手では大活躍の愛器を持ち、左手では大きな花束を。


「すげェな、大荷物」

「ふふっ、後輩たちからのサプライズだよ」


どっちか持つよと手を貸せば、愛器の入ったレザーケースを差し出した。瑠璃にはどちらも大事なものだが、今は後輩からの親愛を噛みしめたいらしい。


「仲間と解散したのか?打ち上げは?」

「もう夜だし、打ち上げはいつも後日なの。解散したから、このまま直帰」


ぎゅ、と花束を抱き締め、照れるように笑う瑠璃が、愛しかった。あのね、と彼女が続ける。


「高橋くん、その、このあと、時間ある?」

「ん?いいけど。今日はコンサート以外に予定ないし」

「バイクチームの、忘年会は?」

「あれは気にすんなって。いつでも会える連中だから」

「じゃあ…ちょっと、甘えます。あのね、お話が、あるの」



_______________



ここへ来るまで、瑠璃はひとことも話さなかった。ホールの近くにある小さな公園。同じく駅裏に立地しているため駅のホームが間近にあり、列車の乗り入れが公園から眺められる。星空の下、ベンチに座る。


「ありがとう、今日、観に来てくれて」

「ん、来てよかった。オレ、音楽さっぱりだけど、いいもんだな」

「本当?」

「瑠璃、めっちゃかっこよかった」

「よかったぁ…」


花束をベンチにそっと置き、ミトンで顔を覆う。安堵したため息が、空気を白くさせた。


「…夏、練習でしんどそうにしてたからさ、実は心配してたんだぜ、オレ。ステージで倒れるんじゃないかって」

「夏…?」

「甲子園の練習してたとき、かな。日陰で辛そうにしてた」

「…え、」

「……それから、ずっと、見てた。瑠璃のこと」


クリスマスの夜。なにか悩みがあるような潤んだ瞳で話があると言われ、またもや胸が高鳴った。もし見当違いの話をされても、ふたりきりのこのチャンスを逃したくない。本当は男の自分が、自分から、瑠璃を誘いたかったけど。


「高橋くん、その…、話、聞いてくれる?」

「ん」

「秋に、塾の前で助けてくれたでしょう?あのときの、あの人…元カレなの」

「…ストーカーって、言ってなかったか」

「私より年上で、今は大学生…去年、塾で知り合った人なの。志望大学が同じだったから、それで意気投合して…先に行ってるからお前も必ず受かれよって、一緒に勉強して、仲良くなって、恋人になった、けど」

「瑠璃、言いにくかったら」

「ううん、言わせて」


口唇を締めた。ミトンを握り、啓介の目を見て、瑠璃は話す。高橋くんは、だいじょうぶ。…信じて、いいんだ。


「優しくされて、幸せだった。難関校だってわかってて選んだから、勉強の量も膨大で…。でも、彼が励みになってたの。彼が待っててくれるなら、どれだけでも耐えられるって。いつも私を気にかけてくれて、元気づけてくれて…夏の判定、合格ラインだったんだ。でもね、」

「…泣くな、瑠璃」

「浮気、されてた。判定を、直接言いたくて、塾のない日に、大学へ行ったら、知らない人と、一緒で」

「…」

「やさしいから、わたしだけに、わたしだけを、見てくれてたから、だから、がんばれたのに…っ」

「瑠璃、」

「彼と、その人、ペアリングしててっ、どうしてって問いかけたら、冷たく『消えろ』って…ッ!」

「ンな男のことで泣くな!」

「高橋っ、くん」


少しだけ、タバコの香り。ぎゅうっと抱き締められる。彼の声が、直接胸に響くようだった。


「瑠璃を捨てた男が、なんで今さら現れんだよ、まったくもって迷惑なハナシじゃねーか。大方オンナに振られて、また瑠璃とヨリを戻そうってんだろ。都合のいいヤローだぜ」

「…っ、こわ、かった、ひんぱんに、来るから、なに、されるのかって…っ!だから高橋くんがきてくれて、本当に、嬉しくて…!その、わたし…っ高橋くんが、忘れられなくて、っひ、く、たかはしくんが、好「なあ、瑠璃」

「……ッ…?」

「オレ、瑠璃のヒーローになりたい。つーか、ならせて?」

「たかはし、くん?」

「絶対ェ、守る。塾の送り迎えとか、どんなときも。あと、学校でも」

「え…学校…?」

「真面目に、行くよ。つっても、もう二学期も終わりだけど。せめて三学期くらい、瑠璃と学生生活しよっかなって」

「…ほんと?」

「ほんとほんと。あと、これも、ほんと」


抱き締めた腕を緩め、瑠璃を見つめて目蓋にキスを。そのまま、こつん、と額を合わせた。


「瑠璃が好きだ」




________________




「オンナ遊びをやめただけでビックリなのに、族も卒業?まあいい顔になったね啓介」

「うっせマコト」

「あーあ、啓介の特攻服もう見らんないのかぁ」


啓介の顔には、いくつもの青痣。繋がりがあった女性へ別れを告げた跡、卒業を哀しみまた祝うメンバーからの激励の跡である。


「なあ、マコト」

「んー」

「オレさ、大学行くわ」

「ふーん……、はァ?!今さら?!」

「別に現役で入るつもりねーし。1年浪人したって大したコトねーよ」


高校最後の三学期。その短い期間だけまともに勉強して間に合うほど、大学入試は簡単ではない。先送りにして、しっかり勉強して、彼女と同じキャンパスを歩きたい。堅実に大学へ進んだマコトとは、高校卒業後もかなりの頻度で会っていた。啓介、19歳の春。女性との軽い付き合いを止め、北関東をまとめていた特攻服を脱いだ。


「目標が、できたからさ」


今の自分に、必要なこと。

手当たり次第遊んでいた時間を、たったひとりの恋人のために。二輪で好き勝手暴れていた時間を、自らの四輪で諭してくれた兄のために。

そのためには、今までの自分を、変えなくては。


「けーすけっ!」


短かった黒髪が伸び、ふんわり揺れる瑠璃の緩やかなウェーブ。オープンテラスで啓介と春の陽気を過ごしていたマコトは、呼び出された挙句に結局『邪魔だから帰れ』と言われるんだろうなと、一体誰のおかげで今彼女とこうして付き合っていられるのかなんてすっかり忘れているだろう啓介に向かい、その腹いせに一銭も添えずレシートをテーブルにそっと据え置いて退席した。同じリングが光る左手を、幸せそうに振る啓介と瑠璃を横目で見ながら。

瑠璃さまへ

いつもあたたかいお言葉ありがとうございます瑠璃さまーーー!!愛してます!!

改めまして、20000hit、1周年、そして啓介祭や2周年…節目節目にメッセージを下さって、ありがとうございます。大変、たいっへん、お待たせいたしました!瑠璃さまはしっかりと妄想を伝えて下さるので、世界観がわかりやすく、またそれが『崩してはいけない』という私の試練でもありまして、とっても勉強になります。追記を頂いた『高橋くん』呼び、かわいいですよね!その場に涼介さんがいたら『アニキと混在するから名前で呼べよ』とか言われるでしょうけど(それはそれで照れる)。

押せ押せ啓介が一目惚れ…しかしちょっと弱気になりました。助けに行ったまではいいけど、それからアクションが起こせずに友達頼み。学校はあまり行ってなくても、交友関係は割とあるんじゃないかなと思います。が、深く話せるのはマコトくんだけ。オリキャラ、急にすみません。またまた私のリア友に登場してもらいました(笑)かわいらしい男友達なんです(*^^*)

リクエストにはなかった二輪時代を題材に。あの頃それはそれで啓介は充実していたはず。両親に見離されて、涼介さんだけが味方。だけどアニキも忙しくて構ってもらえない。バイクとチームが生き甲斐…でもやんちゃが過ぎて、問題児に。出会ったのはそんなとき。ヒロインちゃんとニケツしたバイクにも思い出はありますが、彼女のために、涼介さんのために真っ当に生きようと、二輪を卒業するのでした。浪人生にしちゃってごめんなさい。きっと公式では現役であると信じてます。

FDで走るようになって、助手席は彼女の特等席!お付き合いはずっと続きますよー!このあと、啓介祭でお預かりしたプロ啓介へ繋がります!リクエスト本当にありがとうございました!楽しかったです!そしてよいクリスマスを!

2014,12,6りょうこ