V
>>2015/06/12 (Fri)
>>23:54
Victor-the vibrant vehicle-(豪)
もぐもぐさまリクエスト
お相手:豪
ヒロイン:FD乗りさん
愛車自慢会。幼馴染みヒロインさんです。最終型イノセントブルーマイカに乗ってます。
もぐもぐさまへのご挨拶はあとがきにて。
コチラよりどうぞ。
誰だって、自分の愛車が一番だ。納車されたばかりのわくわくした気持ち、片時も離れたくないほど愛しい気持ち、初めてハンドルを握りアクセルを踏んだうきうきした気持ち。愛車と過ごす時間は一期一会、忘れられないことばかりだ。この子がいるから自分がいる。自分にはこの子が必要だ。この子のために生きている。
「人車一体とは上手い言葉を作ったものねー」
「ちょっと意味違うんじゃね」
今週はずっと天候が良い。とわかれば、愛車のトリートメントに取り掛かった。水を撒いたときに弾ける水滴が、自慢のボディカラーと相まってきらきらしていた。
「エラく大事にしてんだな」
「あったりまえでしょ。この子は、あたし自身!自分を磨くのは当然のことよ」
比喩するなら、洗顔が終わって今はスキンケアか。UVコート剤は日焼け止めで、ホイールとタイヤのワックスは靴磨き。そういう例えは嫌いじゃないと、豪は言う。
「なんでFDなんだよ」
「目があったから」
「お前ずっとオープンカーがいいって」
「理想と現実の違いっていうの?気付かないだけで、運命のお相手は身近なところにいるのよね」
当初、キビキビ走れるオープンカーがいいともぐもぐは言っていた。じゃあクルマ選びに付き合ってやる、と知り合いの業者を一緒にまわり数ヶ月。同じホンダ車を薦めたら『S2は予算外!』と一瞥され、豪の"かすかな望み"は打ち消された。そうしたら突然、自分の管轄外だった業者で見つけた青いFDに恋をしたと言ってきた。オレが選んでやりたかったのにと、豪はもぐもぐの愛車を見るたびに思う。
「なあ」
「なーに」
「VTEC乗ってみないか。NSX貸すぜ?」
「えー」
「違うエンジンの勉強も大事だぞ」
「まだロータリーの"ロ"もわかってない私にバリアブルなんとかの話をされても困る」
「おにぎりばっか食ってると飽きるぞ」
「主食は飽きないもーん」
こんなに大事にされて、正直、うらやましいのだ。しかも、豪にとっては記憶に苦いFDである。型式が違うだけ、まだマシだろうか。
「なあに、S2にしなかったことまだ恨んでる?」
「うん、ちょっと」
「だってお高いんだもの、さすがに手は出せなかったよ」
「はあ…なんでお前FDなんだよ」
「きれいでしょ、海みたいに鮮やかな青。豪のNSXと反対色だね」
最終型のFDは、電気制御もついているため安全性が向上した。自分の初めてのクルマにスポーツタイプを選んだもぐもぐにとって、乗りやすい型式だった。生産終了から10年は経っているが、パーツの手に入りやすさも最終型の魅力のひとつだろう。
「よし。ワックスおしまーい」
「おーおー、イケメンになって」
「ふふ、でしょ。さーて豪くん、イケメンを汚したくないからNSXを出したまえ。ランチいこ?」
「お前なぁ!」
「洗車待っててくれたお礼におごるから!」
幼馴染みとは、遠慮のない関係だ。心地よくもあり、心苦しくもある。
__________
「豪さ、なんであの子にしたの?」
「NSX?」
「凜さんが日産だから、R33かZにするかと思ってた」
「そこまで兄弟にしなくてもね」
「ふーん。で、どうして?」
「あー…なんだっけなぁ。アニキの紹介ってのもあったけど、やっぱ試乗かな」
「学生の頃からNSXとかホンットお坊ちゃんよね」
「値段にゃオレだって驚いたよ。でもクルマってさ、フィーリングじゃん」
「ほら、豪だって一緒」
「なにが」
「あたしとFDの出会いと」
ランチのあと、気持ち良い気候に踊らされて海岸線まで走らせた。もぐもぐは助手席で、豪が運転して。エアコンは入れずに、窓を開けた。海風を受けてふわり、もぐもぐの髪も踊る。
「ヒトメボレ、大事」
「そうだな、似てたなオレたち」
「でしょ?」
ふふ、と笑う幼幼馴染みは、目いっぱい開けた窓枠に肘をついて海を見た。何を思って見ているのやら…と豪はすぐ結論に至る。
「『愛しのFDと一緒に来たかったなー』だろ」
「わあ、大正解!みてみて、海の色、あの子にそっくり!」
「見らんねーよオレ運転中だっつの」
「じゃあどこかに停めて、少し歩こう?ランチからずっと運転してるから、豪もこの子も休憩ね」
海水浴場の駐車場にNSXを休ませた。午後3時。初夏の太陽が少し傾いているが、まだ空は青く明るい。施錠した豪は、すぐ近くからの視線が気になった。
「なんだよ、そんなに見るな」
「これがGT-Rだったら、似合わなかったかも」
「なにが」
「うしろ、見てごらんよ」
駐車場の向こうに、海が広がる。波は穏やかで、ずっと奥に水平線が走る。
「赤いスポーツカーと海って、誰も勝てない組み合わせね。山で育ったNSXなのにこんなに海が似合うなんて反則だわ」
「…そうか」
「こればっかりは、あたしのFDでも勝てないかな。それに、」
停めた場所は、砂浜から少し高台にある。そこから海を眺めるもぐもぐの横顔が、やけに綺麗だった。
「豪にはやっぱり、NSXなんだね」
「なんだよやっぱりって」
「ヒトメボレは間違ってないってこと」
「ほー、オレのセンスを認めたってことか」
「うん、まあね」
「なんだよ、もぐもぐが素直だと気持ち悪いぜ」
「だって改めて思ったけど、すっごい乗り心地よかったんだもん。あたしむり。FDでも、豪みたいな運転出来るかな…」
よほど機嫌がいいのだろう。FDが大事で溺愛しているもぐもぐが、豪のNSXを褒めている。ランチの間も、ここへ来るまでも、あの青いFDのことを嫌ほど聞かされた。まあ、クルマが好きな身としては本心から嫌な話ではなかったが。
「なあ」
「んー」
「ちょっと砂浜歩くか」
自慢の相棒が自分に似合うと言われて、嬉しくないはずがない。それに、自分の運転まで、心地いいと言われては。機嫌がいいのは、豪も同じ。
「小さいときさ、海来たよね」
「あー、おじさんとおばさんに連れてってもらったなー」
「ねー、なつかしいね」
さくり、さくりと進む。いつの間にかもぐもぐは靴を脱ぎ、素足で楽しんでいた。波打ち際に行こうとするもぐもぐを、豪は危ないと手をつなぐ。
「えー、いいじゃん、波」
「転んで濡れてもらっちゃ困るっての」
「そんなマヌケじゃないし」
「ほら、ちょっと座ろうぜ」
洗車の際に着ていた格好は、ランチには不向きで。出掛けに着替えたワンピースは、この海によく似合っていた。もぐもぐは裾をなびかせ、豪のとなりに座る。
「…NSXはさ、憧れだったんだよ」
夏でもない、中天でもない太陽の光は、そんなに熱くない。座って話をするにはぴったりの、気持ちのいい光だった。
「アニキのR32より、強くて速いクルマがほしかったんだ」
「あはは、子供っぽい!」
「るせー。技術はアニキに適いっこないから、せめてクルマで勝ちたかったんだって最初は!」
「なに、最初って!あーおっかしー!」
「まだ18のガキだったんだから仕方ねーだろ、そんなに笑うな!」
「それで、買うなら赤いスポーツカーってこと?あははっ」
「NSXだったらいいのがあるってアニキが紹介してくれたのがアイツで、乗ったらもう一瞬だった。こいつしかないって思った」
「あの子おっきいのにすごくよく走るよね、軽快っていうか、走りすぎて逆に扱いにくそう」
「だから最初はサーキットでたくさん練習したさ。思いっきり走りたいから、出来るだけ危険を避けてな」
思い出していた。凛と一緒に、凛の後ろを離れないように走った富士スピードウェイを。今の自分なら、アニキを超えられるかな、なんて思っていた。
「あたしが言うのもなんだけどさ、目立つよね」
「男の憧れだろ、赤いスポーツカー」
「スポーツカーならあたしのFDも負けてないもん」
「トルクのなさで既に負けてんだろ」
「高回転まで伸びるあの音がいーの。トルクがどうこうじゃないの」
「おっ一丁前にロータリーサウンド語ってんの。知ってるか、セブンて昔プアマンズポルシェって言われてたんだぜ」
「ポルシェと並んで称されるなんて褒め言葉よ。そういうならNSXの純国産ってとこ、お高くとまってて豪にぴったり」
「オールアルミでエンジン手組みだぞ、日本の職人バカにすんなよ」
我が子自慢は尽きない。売り言葉に買い言葉。お互い笑って、少し怒りながら、少し、貶して。いいところも悪いところもすべて含めて、愛車は愛しい。気付けば、もうすぐ日没だ。
「なあ、もぐもぐ」
「なーに」
「サンセット、このまま見ていこうぜ」
「うん」
ざざん、と波が打ちつける。少し、海風が冷えたように感じた。
「赤いねー、NSXみたい」
「そういう海も、FDみたいだ」
青い海に、赤い夕陽が近付く。
「なあ、もぐもぐ」
「んー」
「今度ドライブ行くか。FDとNSXで」
どっちの愛車が勝ってるかなんて、勝負にならない問題だ。オーナーにとって相棒は絶対的な存在。相棒が気持ちよく走ってくれたらオーナーは嬉しいし、オーナーが嬉しいと相棒もそれに応えてくれる。これこそ、人車一体ってコトだろ。愛車自慢ってのは、どっちのクルマが勝ってるかってことじゃない。単なる、愛車…恋人のノロケ話だ。
「もぐもぐがS2に乗らなかったのはまあ、忘れてやる」
「なにそれやっぱ根に持ってんじゃん」
「まあ聞けよ。オレさ、お前がクルマ買ったら、やりたかったコトあるんだよ」
「…それよりちょっと、腰の手、なに」
「…ご自慢の愛車と一緒に、ダブルデート。しませんか?」
「で、でーと…ってちょっと豪、近…っ」
FDの話をするもぐもぐは、恋する女の子の目をしていた。それが、おもしろくなかった。だったら、その恋敵を巻き込んで、連れ出してしまおうと思った。
「もっと運転うまくなって、FDに相応しくなりたくないの」
「な、なりたい」
「教えてやるよ、オレとNSXで」
自慢話も、ほどほどに。
もぐもぐさま
たいへん長らくお待たせいたしました。1周年と20000打記念へのリクエスト、ありがとうございます。
豪さん…ええ、彼はいったい何なんでしょうね、高橋に引けをとらない高スペック、あのツンデレ、ミラクルボーイやらナチュラルやら平気と出てくる語彙力、久保をいいように使いまわす女王サマ気質。まだまだありますが語りつくせないのでこのへんで。そのくせ、啓介よりも甘えただと思うんです。啓介にはグレたときもずっとそばに兄ちゃんがいてくれたけど、自分は兄ちゃんと疎遠だった。クルマのこともチームのことも学校のことも、凛にたくさん話したかったでしょうね。最終戦の豪さんのモノローグにはなんとなくそんな想いがあったら…いいな…ほら…今さらなんだってんだよ、アニキ…!とか言ってますし…急に戻ってきて素直になんてなれませんよー。でもきっと最終戦後は素直に甘えて飲みにいっていることと思います。うふふ。
幼馴染みヒロインさんです。お話は、あれから1年くらい経った初夏です。北条家も元通り。昔から何でも話せる存在がきっと近くにいたんじゃないかなーと思って書いてみました。友達とも恋人とも違う、家族同然のお付き合い。そんな彼女が選んだクルマがFDで、豪さんとっても複雑。悔しいから、ときどきFD留守番させてNSXだけでお出かけしそう↓
「FDおいてけってどーいうことよ」
「駐車場そんなにないんだよあのカフェ。2台で行ったら迷惑になんだろ。それとも行くのやめる?」
「…いく」
豪さんご満悦です。…あら、このままだと幼馴染みじゃなくなりそうですね。時間の問題かもしれません。
お付き合い下さってありがとうございます。またいつでも遊びにいらしてくださいね。
2015,6,12りょうこ