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隼人が言っていた闇討ちのような車には、結局、一度も会うことはなかった。

場所、時間のズレがあったとしても、他の走り屋からの情報も入ってこない。

少なくとも箱根では、誰も、姿を見なかった。



件の噂が段々薄れていく頃。肌へ注ぐ陽射しが徐々に強くなり、青々とした空に蝉が飛び交う季節となった。



「聞いたよ、次から神奈川だって?」

『情報の出所は啓介か?』

「ふふ、あたり。啓ちゃん、目つきがますます凛々しくなってきたね」


次から神奈川遠征なんだと啓介からメールをもらってすぐ、涼介に電話をかけた。

こちらのスケジュールもパンパンで、あきらは暫く群馬に帰ることが出来ずにいる。

メールに添付されていた写真で啓介とFDが変わらず元気でいることが窺え、戦歴共々順調でいることに安心した。


『正念場だからな、いよいよ』

「気を付けてね。こっちのみんな、手強いよ」

『承知してるさ。だから応援よろしくなあきら』

「週末、出来るだけ夜は空けておくよ。見に行けたらいいなあ」


折角こちらへ来るというのだから、是が非でも会いたい。



声だけじゃ、足りないよ


車を飛ばして会いに行く時間も、今は惜しいくらいに忙しい。

涼介も、チームも、どちらも大事。

目の前の、自分が籍を置く場所を優先し専念するとあきらは判断したが、やはり寂しいものは寂しくて。

啓介からメールがきたとき、これを理由に涼介の声が聞けると思った。

会えない分、本当はもっとたくさん電話したいのだけれど。

未来のお医者様も相当お忙しいから、どうしても気が引けてしまう。


『あきら、』

「なに?」

『寂しいのは、あきらだけだと思うなよ』

「……お兄ちゃん」

『いつもより声に元気がないからな、すぐに気付いた』

「……さすが、お兄様は良くわかってらっしゃるのね」

『オレも逢いたいよ、あきらに』

「ん…、」

『好きだよ』

「わたしも、だいすき」




群馬と神奈川の、少し離れたこの距離と。

会えない時間は、一生のうちにすると、ほんの少しだけれど。

二人にとっては、とてもとても、長いものに思えた。