4
隼人が言っていた闇討ちのような車には、結局、一度も会うことはなかった。
場所、時間のズレがあったとしても、他の走り屋からの情報も入ってこない。
少なくとも箱根では、誰も、姿を見なかった。
件の噂が段々薄れていく頃。肌へ注ぐ陽射しが徐々に強くなり、青々とした空に蝉が飛び交う季節となった。
「聞いたよ、次から神奈川だって?」
『情報の出所は啓介か?』
「ふふ、あたり。啓ちゃん、目つきがますます凛々しくなってきたね」
次から神奈川遠征なんだと啓介からメールをもらってすぐ、涼介に電話をかけた。
こちらのスケジュールもパンパンで、あきらは暫く群馬に帰ることが出来ずにいる。
メールに添付されていた写真で啓介とFDが変わらず元気でいることが窺え、戦歴共々順調でいることに安心した。
『正念場だからな、いよいよ』
「気を付けてね。こっちのみんな、手強いよ」
『承知してるさ。だから応援よろしくなあきら』
「週末、出来るだけ夜は空けておくよ。見に行けたらいいなあ」
折角こちらへ来るというのだから、是が非でも会いたい。
声だけじゃ、足りないよ
車を飛ばして会いに行く時間も、今は惜しいくらいに忙しい。
涼介も、チームも、どちらも大事。
目の前の、自分が籍を置く場所を優先し専念するとあきらは判断したが、やはり寂しいものは寂しくて。
啓介からメールがきたとき、これを理由に涼介の声が聞けると思った。
会えない分、本当はもっとたくさん電話したいのだけれど。
未来のお医者様も相当お忙しいから、どうしても気が引けてしまう。
『あきら、』
「なに?」
『寂しいのは、あきらだけだと思うなよ』
「……お兄ちゃん」
『いつもより声に元気がないからな、すぐに気付いた』
「……さすが、お兄様は良くわかってらっしゃるのね」
『オレも逢いたいよ、あきらに』
「ん…、」
『好きだよ』
「わたしも、だいすき」
群馬と神奈川の、少し離れたこの距離と。
会えない時間は、一生のうちにすると、ほんの少しだけれど。
二人にとっては、とてもとても、長いものに思えた。