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『あきらに当てた32は、オレのアニキだ』
『二年前、アニキは婚約者を亡くしてる』
『その女、涼介と好き合ってたんだ』
(三年、か…)
豪に言われた言葉が、頭からなくなってくれない。
どんな事情があって三人の繋がりが生まれたのか、詳しくは聞けなかった。
豪のお兄さん・凛さんとお兄ちゃんは医学部の先輩後輩で、婚約者の女性も同じ医学生で。
凛さんとその女性が婚約したのが、三年前。
『三年前に何があったか』『涼介はお前を裏切っている』と、凜さんは私に言っていた。
何かが、ひっかかる
考えられることは、
(わたし、何も知らなかった)
お兄ちゃんに想いを告げた、三年前
(時間が重なっているのは、なぜ…?)
わたしの気持ち、受け取ってくれたよね
冗談、だったの
むずかしい恋だから、婚約者がいる女性を愛してしまったから
わたしを、からかっていたの
もしそうなら、わたしは
「…お兄ちゃん」
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当てられてすぐに発注したパーツが先週やっと届き、修理が終わったのは昨日のこと。
その間ひと月以上、群馬に帰っていない。季節は盛夏を迎えていた。
新しくしたボディ、足回りの相性を見るために、今、久しぶりに群馬へ向かっている。
(気が、重い)
本当は、帰りたくなかった。
シェイクダウンなら山々が豊富にある神奈川でも充分に可能ではないか。なのに監督ときたら『直ったんならいい加減帰れ』ですって。
小さな走行会も含めたら毎週のようにレースのあるこの夏、群馬に帰る時間も惜しんで作業するためにずっと研究所に泊まっていたのだが。
帰らなかった理由、まだ、あるんだ
(お兄ちゃんに、会いたくない、よ)
会ったら、いつも通りに、できる?
『今』は『今』だと、割り切ることができる?
(たぶん、ムリ…)
ずっと、小さいころから、生まれたときから、大事で、大切なひとで
(お兄ちゃんは、わたし、だけの)
恋人、です