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群馬県高崎市




「着いちゃった…」


いつもなら、仕事が終わったらすぐに帰りたいって思うのに。


「出来るなら家に居てほしくなかったな…」


ガレージのシャッターを開けたとき、王子を待つ白馬、ならぬ白いFC。

今日は啓介も在宅のようで、兄弟車が仲良く眠っていた。

直したばかりのエボの試運転は事無きを得て順調に終わる。


「どうせならどこか調子悪くなって、神奈川に戻りたかったよ」


『そんなこと言われても…』と、苦情が聞こえてきそうなほど素直に走ってくれた愛車を、ガレージの定位置『真ん中』に停め、眠りに就かせた。


あきらはしばらくそのまま、目を瞑ってシートに沈む。


頭を占めるものは、豪の言葉と、愛する人のことばかり。




…もしかしたら兄は史浩と一緒にどこかに出かけているかも。

考えついた期待に重い腰をようやく上げたけれど、玄関のドアを開けて並ぶ靴を見た瞬間に、それは打ち消された。