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「ああ、わかったよ。夜には帰るから」


気象予報士が『熱中症に充分気を付けて』とTVで口うるさく何度も言っていた夏の日。大学は長い夏休みに入ったが、自主勉強のため師事する教授の研究室を訪れていた涼介は、テキストに集中しすぎて昼時をとうに超えた午後二時に、併設のカフェテリアで軽いランチをとっていた。


「珍しい時間にいるのね」


カフェの幾つもの大きな窓にはアコーディオンカーテン。強い陽射しを和らげ、空間を明るく照らしてくれる。一本の電話を受け了解の返事を済ませたとき、背中から聞こえた、柔らかい声。


「香織さんこそ、夏休みなのに白衣ですか」

「夏休みだからこそ、よ。となりで実習受けてたの」


となり、とは敷地内の大学附属病院のことだ。大学四年生である香織はいよいよ、臨床に特化した授業を受けている。