きみの隣にいるということ


※お姉ちゃんと両想い











夕暮れ時



アネキの大学まで迎えに行ってみた。



「いいよー、迎えに来なくても。今日のラストは実習だから、定時で終わらないかもしれないし…」



今朝、アネキはオレにそう言ったけど、ホラ、なんだ、






……カノジョを迎えに行くって、カレシの特権じゃねーか。

驚くかな、とか、喜んでくれるかな、とか、考えるとワクワクすんだよ。




さて、どんな顔、してくれっかな、





あきら







―――――――――――――







お疲れ―



おつー



やっべー、オレ、レポート間に合わねー!



居残り頑張れよーじゃーなー!









某自動車工学大


各々の課程を選んで、その分野を極めんとする、未来の整備士たち。アネキはここの四年生だ。二年生のときに整備士免許を、三年生のときに一級整備士の資格を既に取得してしまったため、大学最後の一年間は殆ど自由だった。教授の手伝いだったり、車をバラしてイチから組み上げたり、オートサロンに参加したりと、毎日充実しているようだ。大学にいる間は学生生活を楽しめ、と、就職先?であるGTチームの監督から言われているようで、学業とメカニックとの両立も、うまくいっているらしい。



ただ、




「オレとアネキの休み、まるで合わないんだよな」





平日が大学なのは二人とも同じであるが、週末、あきらは泊りがけでチーム研究所のある神奈川へ行ってしまう。整備士として腕が上がるほどに、やらなくてはいけない仕事も増え、責任もついてくる。おまけにレースがあるときは、大学にも行かず、家にも帰らず、サーキットもしくは研究所に籠るため、まったくと言って良いほど、会えないのだ。








季節は十一月。

スーパーGTの大きなレースが終わり、あきらに時間の余裕ができた。

長い想いがやっとのことで伝わり、ようやく、大好きな姉と恋人になれたのだから、それらしく過ごしたい。

あきらも、そう、同じ気持ちであればいいと思う、啓介だった。

「あ…」



昇降口から、待ち人の姿。左手にいつものクレイサスのトートバッグを持ち、何やら小難しい顔で右手でケータイを弄っている。



「歩きながら弄ってるとコケっぞ…」



不安に思いながら見つめていると、そのまま電話をかけ始めた。バッグから手帳を取り出して、メモを取っているようだ。仕事の連絡だろうか、それとも、誰かと会う約束だろうか。



それとも、他の、男から、だろうか



浮かんだ嫌な思考を消すように、仕事の話であってほしいと強く思いながら様子を窺う。電話が終わり、オレが待っているとは知らない、入り口の門に向って歩き出した。



「………やっぱ、キレイ、だよな…」



弟の贔屓目でなくても、姉は整った顔立ちをしている。カワイイもキレイも、どちらの言葉も似合うが、キャンパス内の紅葉したイチョウ並木を歩く姿は、キレイ、と表現した方がしっくりきた。ノーカラーのブラックレザージャケットに、マスタードを基調としたフラワープリントのワンピース。足元はブラックタイツにカーキのショートブーツで、今日の装いは普段よりハードな印象だった。






「……誰だ、あの男」






歩いているあきらを、つなぎ姿の男性が呼び止めた。あきらが後ろを振り向いたため、オレの方向からは彼女の表情はわからない。けれど、相手の男の表情やあきらの身の振りから、楽しげに話しているんだとわかる。



「ちっ、なんだよ…」



風貌から見て、どうやら年上みたいだし、手には書類やファイルを持っているところからして、恐らく教師だろう。優しそうな表情に親しみが持てる。ただ、あきらをとても可愛がっているのか、頬に触れたり、頭を撫でたりと、スキンシップが目立つことを除いては。



「アイツ…!!」




あきらに触れんな…!!




FDから出てすぐに迎えに行きたい気持ちを抑え、その場を見送った。



ここで出て行ったらカッコ悪ィじゃん…

それに、相手は(たぶん)教師なんだし…



平常心を持ちながら再びあきらを窺うと、教師との会話が終わり、お互い手を振って離れていった。






「そのまま、真っすぐ来てくれ、アネキ」




早く、オレの元に









「あきらー!」



「ったく今度はなんだよ!」



そのまま、真っすぐこっちへ来てくれればいいのに。イチョウ並木を歩いているだけで、また呼び止められた。窓は開けているが、まだあきらとは距離がある。それでも聞こえるくらい、元気で明るい女の声。




「友達か?…しっかしすっげェはしゃいでんな」



自分や涼介も見たことがないくらいの、大きな笑顔。友達といるとき、あんな顔で笑うんだと初めて知った。



「ははっ、ガキみてェ」



友達と予定を立てているのか、先程の手帳をもう一度出して、何やら書いている。「じゃーねー!約束ねー!」と、また元気な声と共に、友達に手を振って別れていた。






あと、もう少し

もう少しで、あきらは門に来る

オレとFD見たら、どんな顔すっかな



…やべ、ちょっとキンチョーしてきた















「高橋先輩」




もう少しで、あきらの視界にFDが映るところだったのに




「お疲れ様です。少し、お時間頂けますか?」



「……谷、原くん…?」



「この間の返事、聞かせて下さい」



「…っ」






距離が近いから、開けている窓から二人の声が聞耳を立てずとも聞こえてくる。




ンだよ、返事って




つーか、この流れってゼッテェあれだろ、






「オレの気持ちは、あれからずっと変わりません。好きです、先輩」


「……谷原くん、私…」


「お付き合いしている方はいないと、以前お聞きしました。今もそうなら、オレの傍に居てほしい」


「あのね…、私、実は」










「コイツの場所はオレの傍なんだよ」


「!!!け、すけ…?!」


「じゃーな、諦めろ」








アネキを無理やりナビに乗せて、当てもなく走って、着いたのは赤城で、





彼女に覆いかぶさって、口を、塞いでいた






「ん…っ!っや、くる、しぃ…っんん…!」


「…は…っあきら…!」


「んむぅ…っ、けい、ちゃ…!」






ぐ、と胸を押されて、そこでようやく、気が付いた




「………あ……オレ…、ごめん、アネキ…」


「……謝るくらいならキスなんてしないでよ……なんなのよ、もう……」




あきらが、泣いていた





あー、オレ、最悪だ…










「ほんと、ごめん。嫉妬、してた」


「……谷原くんに?」


「迎えに行って、ビックリさせたかったんだよ。喜んでくれるかなって、思って。そしたら、あんなトコ、見ちまって」



なっさけねェな、オレ……









「あした、」


「…」


「明日、谷原くんに、ちゃんと言うから」


「…なにを」



情けなくて、アネキの顔を見られなくて、拗ねてたら、





「私には、年下の、生意気で、嫉妬しちゃう、かわいい彼氏がいますって」


「生意気…って、この…!」


「きゃっ!」










少し離れてた距離を、もう一度、ゼロにして



はにかんだ、かわいい笑みを湛えたアネキと



今度は、やさしい、キスをした







「……ふふっ」


「何だよ」


「『1コしか違わねェのに年上ヅラすんな』ってツンツンしてた頃が懐かしいな、って」


「今言うなよ…それ…」




だって、今は、







「もう、弟じゃなくて、恋人、だろ。ンな話、すんな」




「啓、ちゃ」




「ほら、名前」





鼻が触れ合う、ゼロ距離で、囁いた





「…啓介」







「好きだよ、あきら」

















帰りスタバ寄っていい?


中で休んでいくか?


ううん、テイクアウト。私とお兄ちゃんの分


…なんで、アニキの


さっきメールきてた


……オレも


苦いのあんまり飲まないのに?


……いじわるすんなよ


はいはい、啓ちゃんはカフェラテねー


…………





啓介



ちゅ、




っ?!


機嫌、なおして?


……ん



















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たまには甘いの書きたいわ、と思って考えた結果。さくせんはガンガンいこうぜ。職場の従業員出入り口で涼介さんがFCで待っててくれないかしらと私はいつも思っています。大真面目です。作中の谷原くんは家主の友人で最近R33→34に乗り換えた走り屋くん。




2012,11アップ