お姉さまとわたし


「うそ…」



仕事の関係で高崎に来ていた。順調に事が進んで、少し時間が空いたから、市内をドライブ中。

快晴、青空。こんな気持ちの良い日にダーリンに会えたら最高だろうなぁ、なんて期待して。



国道沿いのカフェに寄ったとき、駐車場で、目を疑った。まさか、本当に、会えるなんて。大好きな彼の車を、見間違えるはずがない。


「カフェに、ダーリンいるのかな」


店内に入って人探し、なんて、少し恥ずかしいから、ダーリンの近くに自分のFDを停めて、外に出て様子を見ることにした。


「うわ…やっぱりカッコイイ…」


そっと、指で触れたボンネット。










「うちの車に、何かご用?」

「ひゃっ!」




後ろから聞こえた声。振り向くと、黒髪ショートヘアの小柄な女の子が、カフェのショッパーを持って、にこりと、笑っていた。


「ふふっ、そんな脅かしたつもりはないんだけど」

「あっ、ご、ごめんなさい!勝手に触ってしまって…!」



丸い大きな瞳が、柔らかく細められた。


あ、れ…この感じ…


「あのっ!この車、高橋啓介っていう走り屋さんのFDにそっくりなんだけど…あなたの、なの…?」


ダーリンのファンで、同じFDを同じセッティングにしているのかもしれない。





「いいえ、私の車じゃないわ。さっき話したでしょ?うちの、って。正確には弟のFDよ」



え、じゃあ、この子って、




「高橋あきら。高橋啓介の姉よ。よろしくね、埼玉のFDさん」

「は、はいっ!え、と、わっわたし、岩瀬恭子といいます!」




う、う、うわぁぁあダーリンのお姉さんんん…!!!






……ん?






「こっ、こんなかわいくて小柄でちっちゃい人がダーリンのお姉さん!!!??」

「ちょっと、ちっちゃいは余計!」



っていうかダーリンにお姉さんがいるなんて聞いてないよ!(FCデートでも話してくれてない!)私さっきめちゃくちゃタメ口で話しちゃった…!!



「あのっ…お姉さんとは知らず、さっきから失礼なことばかりですみません!!」

「気にしないで、ちっちゃいって言われ慣れてるから」


あ…ちょっと気にしてるのかな…


……あれ?



「あの…どうして私がFD乗りって…?」

「熱心に弟のを見てたから、好きなのかなーって。ついでに自分もRXオーナーなのかなーって思ったの。そしたら近くに埼玉ナンバーが見えたから」


当たってる?、と小首を傾げてこちらを見るお姉さん。


「せ、正解です…。実は、以前、啓介さんとバトルしたことがあって。プロジェクトDで」

「へぇ!そうなの!?本格的に走りが好きなのね!」

「完敗でしたけど…すごく楽しく走ることができて…感謝してます、啓介さんに」

「ね、もしお時間良ければ、カフェに入らない?お話聞かせてくれないかしら?」

「わ、私は構いませんけど…お買い物の途中でお邪魔じゃないでしょうか…」

「だーいじょーぶ!これは単なる父のお使いだから!この後は何の予定もないのよ」


目をキラキラさせて、こちらを窺がう仕草が、正直、年上とは思えないほど愛らしかった。プロジェクトDのこと、家で全然話してくれないの、と少し寂しそうだったので、お誘いを受けることにした。


……緊張、するけど。好きな人のお姉さんと、ふたりで、なんて。







このコーヒーショップは、どうやら高橋家御用達らしい。院長を務めていらっしゃるお父様と、ご自宅用のために、定期的に豆を買いに来ているんだそうだ。ミルクとコーヒーのバランスが絶妙なの、と、お姉さんにオススメされたカフェオレを目の前に、窓際のソファ席へ座った。



向い合せで、改めて、お姉さんを見ると、だんだん、 ハッキリしてきた。さっき感じた柔らかい雰囲気は、そうだ、涼介さんに似てたんだ。あと、お顔の輪郭とか、口元とか、うん、やっぱり、どことなく、わかる。


本当に、お姉さん、なんだ。



「…恭子ちゃん、とお呼びしていいかしら?」

「っ…!はいっ!」


ぼーっと、失礼ながらお顔を拝見していたから、名前を呼ばれて驚いた。


「ふふ、さっきから緊張してるんじゃない?私は啓介じゃないんだから、そんなに固くならなくていいのに」

「すみません…やっぱり、似てらっしゃるなぁって、思って…」







「…好きなんでしょ、啓介」

「!!!!!!!????」






な、ななななな!!!






「あ、図星!わっかりやすいなぁ恭子ちゃん!」

「な、ななななっなにを急に言うんですかお姉さぁぁんん!!!!」

「かわいいなぁもー!!あ、私のことはあきらと呼んで!お義姉さんだなんて恥ずかしいわっ」

「字!字が違いますうぅぅ!!」







それから、太陽が綺麗な赤になるまで、お姉…あきらさんとお喋りした。プロジェクトDのことはもちろん、車のこと、お互いのチームのこと(あきらさんプロメカニックだなんて…)、仕事のこと。あきらさんからは、ダーリンのこととかダーリンのこととかダーリンのこととk

たくさん、楽しいお話ができた。小さい頃の思い出も聞けたしね。あと、連絡先も交換した。うわぁ…どうしよ、めちゃくちゃうれしい。





「ごめんなさいね、ずっと引き止めちゃって。気付いたら夕方だったなんてビックリだわ」

「いえ、私こそすみません。たくさんお話してたら楽しくって止まらなかったですよ」

「今度、一緒に走りましょうよ。エボ、峠用にセットしておくわ」

「わぁ、嬉しい!絶対ですよ!」

「啓介がいなくても?」


くすくす、と、今日何度も見せてくれた無邪気な笑顔で。


「ふふっ、もちろん!『あきらさんと』走りたいんで!」

「…いつか、本当に、恭子ちゃんのお義姉さんになれたらいいなぁ、私」





こんないい子、どうしてあの子は振ったのよ、馬鹿ね




溜息と一緒に、あきらさんはそう言うけれど、




「私、まだ諦めてませんから!絶対、お義姉さんになってください!」






でも、いつか来るかもしれない未来より、


今は、





『お友達として、よろしくお願いします!』












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一途な女の子はみんなかわいいです、とっても。FDカップル見てるとこっちはヤキモキでモヤモヤします。


「お前のこと、かわいいと思ってるよ」なんぞ言ってるんだから、D 終 わ っ た ら 付 き 合 っ ち ゃ え よ !
 



2012,09アップ