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「まま、はぶらし」

「はいはい」



お気に入りの猫のイラストが描かれた、赤色の歯ブラシを、リビングにいる母に手渡す。

毎夜、寝る前の歯磨きを母にしてもらっているあきら、3歳。

幼稚園で歯磨きの方法を教わっているのに、まだひとりで上手く磨けない。


「先生に教えてもらってるんでしょう?今日はひとりでやってみない?」

「…いたいもん…むずかしいよう…」


痛い、とは何のことだろうか。


「あきらちゃん、もしかして虫歯さんがあるの?」

「むし…?」

「ミルクやジュースを飲んだとき、歯が痛くならない?」

「うぅん、へいきだよ」


では、何が痛いのだろう。


「どこが痛くなるのか、ママに教えて?」

「んとね、ねこさんがね、かつんってあたって、いたいの」


…猫さん、あぁ、歯ブラシが歯に当たって痛いのね。


「わかったわ、まだ歯ブラシの使い方慣れてないものね。ママが磨いてあげる」

「ん、ありがとまま」





しゃこしゃこ、しゃこしゃこ







その頃、涼介はリビングで啓介と遊んでいた。

眠たくてだんだん目が重くなってきた啓介のことを母に伝えようと、洗面台へ向かう。


「おかあさん、啓介、ねむそうだよ」

「あらほんと?あきらちゃん、うがいして少し待っててくれる?啓ちゃんベッドに連れていくから」

「ん、こんどは、うえのは、だよ。まま」

「おかあさん、あきらのつづき、僕がやってもいい?」

「涼ちゃんお手伝いしてくれるの?じゃあお願いしようかしら。あきらちゃん、お兄ちゃんがしてくれるって」


柔らかい笑顔の母は、兄妹の頭を優しく撫で、啓介がいるリビングへ向かった。


「おにちゃ、おねがします」

「おねがいします、だよ、あきら。はい、くちあけてー」


あー、と兄に向って口を大きく開けた。

たった一年しか違わない兄妹だが、身長は明らかに差がついていた。

普段、あきらが洗面台に立つときに使っている踏み台を使って、ようやく涼介と同じ身長になるほどだった。

だが今の場合、ある程度あきらが低いほうが磨きやすいため、踏み台は使っていない。

首を上に傾け、目を瞑って大きく口を開けているあきらが、可愛くて仕方のない、涼介4歳。


「あきら、いっぱい歯でてきたね」

「ふぉんと?」

「うん、白くてちいさな歯だよ」

「おにちゃみひゃいな、おっひなはに、なりゅ?」

「なるよ、毎日ちゃんと歯磨きして、ごはんもぐもぐして食べればね」

「じゃ、あきら、がんがって、はみがき、すりゅ。ごひゃんもぐもぐすりゅ」


あきらの顎に手を添えて、柔らかい歯茎を傷つけないように、優しく磨いていく。

磨きながらの会話が楽しくて、つい、磨くことに夢中になってしまっていた。



「はいおしまい。ぶくぶくうがいしようね」

「ひゃーい」




「ありがとう涼ちゃん、終わった?」

「うん。あきら、ちっちゃい歯いっぱいあったよ」

「まま、あした、ひとりでみがく!」

「あら、お兄ちゃんに教えてもらったの?」

「ごはんもぐもぐして、おにちゃみたいな、はになるの!」

「そうね、たくさんもぐもぐして、丈夫な歯になるといいわね」







高橋家、約20年前のお話でした。










(歯磨きする度に思うんだが…)

(なにお兄ちゃん)

(…磨かせてくれないか?)

(殴っていい?)









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仕上げはおかーあさーん♪ならぬおにーいちゃーん、でした!!!フー!!ヽ(^o^)丿

N●Kおかあさんといっしょで、昔やってた歯磨きのコーナー。今もやってるのかな?小さい頃、番組を真似てやってもらいましたよ懐かしい。

リビングで仰向け&膝枕で磨くってのもいいかと思ったけど、さすがに涼介4歳児で出来ないよね! 



2012,11アップ