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※ヒロイン大卒→D始動前の春
見事、暦通りに季節が移っている最近の気象状況に驚かされた。
三月になり途端に気温が二桁に昇り、だんだんと装いが軽くなると予想された頃。
「春服、見に行かねェ?」
切欠は、啓介の一言
「花柄のワンピース欲しいなー」
それに、真ん中が乗っかり
「じゃあ、三人乗り合わせて一台で行くか」
兄が話をまとめ、行先は、軽井沢
仲良し兄妹弟一緒に、おでかけです。
(色々と出会うと面倒なので)下道で行かず、無難に高速道路で向かうこと小一時間、丁度いいドライブになった。快晴の平日、目立ちすぎる弟の黄色を避けて、これまた無難に兄の白で。それはそれで、同じ類の連中からすれば目立つのだが。
平野部が暖かくなっても、ゲレンデが併設されたこのリゾートはまだ冬のまま。青空の中で悠然と佇む浅間山は、白粉(おしろい)をかけたようだった。
空の青と雪の白、僅かに見える春の緑。FCを降り、少しの身震いを。
キルティングのダウンジャケットに、ポップなドット柄のボタンダウンシャツ。ダメージ加工のブラックデニムを、最近気に入っているらしいショートエンジニアのレザーブーツにインして。
「今日はデートな、アネキ」
隣を歩くあきらの左手を握った啓介は、はてと、少し違和感を覚えた。
立てた襟の裏にあるブランドを象徴する歴史あるチェック柄をちらりと見せ、凛と着こなすブラックのPコートには、センタープレスされたキャメルのチノパンを合わせた。いつもの白いドライビングシューズではなく、ややカジュアルな印象のヌバックレザースニーカーは、実は妹のお気に入りブランドのもの。
「バッグ、貸してごらん」
自分が持って、空いた妹の右手は自らの左手と繋いだ涼介も、啓介同様、何か違うと思った。
真っ白なカシミアのコートは、ふんわりと裾が拡がる可愛らしいトッパーシルエット。ショート丈のそれに合わせたブルーのチェック柄ミニスカートは、涼介のPコートと同ブランドで。
「ありがと、お兄ちゃん」
見上げた兄が、何か言いたそうな表情をしていた。
「ふふふ、気付いた?」
アウトレット中心に位置する湖のほとり、ウッドデッキを歩く三人が、あきらの足元に目をやった。
「いつの間に買ったんだよアネキ」
「随分と高くないか?」
「大丈夫だよ、見た目より安定するの」
ころんと丸いラウンドトゥのパンプスは、やさしいピンクと柔らかいグレイのバイカラー。甲に翼飾りのあるウィングチップ。高いヒールだけれど、爪先にある厚みのおかげで歩き易い。
「さっき手ェ繋いだときに、あれって思ったんだ。今日ちょっと背高いよな」
「いつもより目線が近いから驚いたよ」
「えへへ、ヒールで誤魔化しちゃった」
卸したばかりのヒールは、普段好んで使うものより少し高いものを選んだ。
自分の目線と、兄弟の目線。頭ひとつほどの身長差を、ほんのちょっと、縮めてみたかった。
ふたりの世界を、私も見てみたかったの。
もう少し暖かくなったら始まる、大きなプロジェクト。
ふたりが見つめるその先を、ふたりが考える結末を、同じ目線で見てみたい。
大学を卒業した今春、私は私で忙しくなるから、こうして揃って出かけることも、なくなるかもしれない。
そう思ったら、今はせめて、同じ目線で、同じ風景を見ていたかった。
ふたりが目指す、高い空を。
「転ぶなよアネキ」
「離れるな、あきら」
繋がれた手は、硬くて、やさしい
群馬から少し遠い、軽井沢の青空に
越冬を終えた燕が翔んでいた
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早くあったかくなりませんかね、北日本の皆さまの安否が心配です。
軽井沢プリンスから見える浅間山は本当に素晴らしいですね!ゲレンデ&アウトレット&新幹線&浅間山、この組み合わせは何なんですかね、一度に見られる贅沢な景色に脱帽です。
兄妹弟のファッション描写が書きたくてお話を考えていたのですが、あれ、なんかシリアス気味…。Dが始まることが少し寂しくなるヒロインちゃん。でも自分も忙しくなるから、ふたりに会えなくても実際はそこまで寂しくならないという←ちょっと面白くない兄弟。
啓介はどんなデザインも似合いそうなので考えて楽しかったです。リーバイスのブラックデニム細身!足元はレッドウィングのショートエンジニア白なんてどうですか。
涼介さんは、あの、皆さまご存じでしょうが着こなしがアレなので(一番似合うのはやっぱ青シャツ)、悩みました、ええ、とても。三月の軽井沢でトレンチはまだ薄いだろうと思ってバーバリーのPコートで。グレンチェックのパンツにしようと考えたけれどPコートとそれじゃ可愛いすぎて(笑)、無地キャメルで。ヌバックレザーシューズはポールスミス!!
ヒロインちゃんのイメージはバーバリーブルーレーベルです。高橋家はバーバリー御用達な気がしてなりません(ニセD事件のTシャツとか)
2013,3アップ