もしも1


※変換なしです




「いらっしゃ…、なんだ、お兄ちゃん」

「こら、妹の仕事振りを見に来たのになんだはないだろう」


つい、いつものクセで、反射的にお声掛けをしてしまうところだった。

地元百貨店の2階、ヤングアパレル売り場のとあるブランドの店長を務めている私は、今日も今日とて、接客に励んでいた。


「珍しいね、お兄ちゃんがこの時間に外にいるの」

「午後休でな。明日、医局の先輩宅にお邪魔するから手土産を買いに来たんだよ」


現在、夕方17時。

いつもの兄なら、まだ病院で白衣を着ている頃だ。


「改めて見るが、可愛い店だな。あきらに似合うものばかりだ」

「…仕事中にそんな恥ずかしいこと言わないでちょうだい…」

「今日の花柄も良く似合ってるよ」

「だからっ…!照れるから止めてってば…!」





そんな、いつも私に向ける優しい顔で言わないで



ほら、店のスタッフたちが釘付けになってるじゃない



お兄ちゃんの笑顔は、わたし、だけの、





「……先輩のお宅に行く、って、明日お兄ちゃんお休みなの?」

「いや、伺うのは仕事が終わってからだ。飲んで来るし、帰りは遅くなると思う」

「…そ、か」




最近、お互いの仕事の都合で、会えない時間が多く、すれ違ってばかりいた。

こうやって話すのも、なんだか、すごく、久しぶり、で





「……仕事、何時に上がるんだ?」

「え?定時は18時だけど…」

「今日は父さんと母さん揃って当直だし、啓介はチーム合宿で家にいない」

「…それがどうかした?」

「一緒に食事に行こうか。そのあと、ドライブでもどうだ?」

「…仕事中に、デートのお誘いでしょうか?お客様」

「1階のカフェで待ってる。終わったら電話してくれ」

「…随分、強引なお客様ですこと」

「店長はこのような客はお嫌いですか?」

「…いいえ、だいすきよ」

「じゃぁ、後でな」







ぐっ、と、肩を抱かれた。







「待ってる」







耳元で、なんて、






「…っ!……お兄ちゃんたら…」










お邪魔しました、と、スタッフに軽く会釈をして、店を離れた兄。

う…まわりの視線が痛い…


「ちょ、っと高橋店長!!!!!いぃぃいいいまの!!どちら様!!ですかっ!!!」

「ちょおぉぉぉイケメンなんですけど!!らっぶらぶじゃないですかぁぁ!!」


兄の姿が見えなくなった途端、コレだ。

副店長と販売スタッフ。

私より年下の二人は、信頼の置ける、心強い仲間。


「あ、そか、二人ともまだ会ったことなかったね、あれ、うちの兄。研修医なの」

「『あれ』!!あの美麗な方を『あれ』と仰った!!」

「いいなぁぁお医者様で超かっこいいお兄様だなんて羨ましすぎますぅう!!てか兄妹でらぶらぶなんて!あーやーしー!!」

「ちょ、きみたち、落ち着いて、今、営業ちゅ

「今度ちゃんとお兄様に会わせて下さいよ!!お話したいです!!」

「ズルいですわたしもー!!」

「わか、わかったから、静かに、ね、お客様の前で恥ずかしいでしょ…!」

「店長の定時までまだ時間ありますよね、お帰りまでお兄様のお話聞かせて下さいよ!」

「いや君たち仕事しようよ!」





後日、兄妹の一連を見ていた近隣ショップの販売員からも言及される、妹ちゃんなのでした。








(もう店に来ないでね、お兄ちゃん)

(どうした、疲れた顔して)

(…お兄ちゃんのせいだもん…)










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2012,10〜11拍手感謝文でした。


リアル職場です。

だんなさまを初めて売り場スタッフに紹介したとき、『優しそうな旦那様ですね』から始まり質問攻めにあったのでネタにしました←



2012,11加筆